北村想作品を高橋恵の演出、“振り袖かを里”の講談でお届けする、《振り袖講談》最新作『続・怪人二十面相伝 〜青銅の魔人〜』が名古屋で
振り袖講談『怪人二十面相・伝』 2021年3月公演より
劇作家・北村想のプロデュースにより、2016年からスタートした《振り袖講談》。北村作品を劇作家・演出家の高橋恵(虚空旅団)が演出し、女優の船戸香里が講談師“振り袖かを里”として出演するシリーズで、その第5弾となる『続・怪人二十面相伝 ~青銅の魔人~』が、2023年2月19日(日)に名古屋・滝子の「アトリエ昭和薬局前」で上演される。
振り袖講談『続・怪人二十面相伝 〜青銅の魔人〜』チラシ表
《振り袖講談》が前回、当地・名古屋で上演されたのは2021年のこと。この年の4月、かつては北村想率いる〈プロジェクト・ナビ〉のアトリエ兼公演場所でもあった名古屋・天白の小劇場「ナビロフト」が、惜しまれつつ27年の歴史の幕を閉じることに。北村の教え子であった高橋は(戯曲塾「伊丹想流私塾」を卒塾し、8年間に渡って師範も務めた)、その報せを受けた際、奇しくも伊丹で《振り袖講談》の公演中だったため、急遽、船戸と共に同作を名古屋で上演することを申し出て、閉館数日前の「ナビロフト」で公演を行ったのだ。
この時上演した『怪人二十面相・伝』は、北村が著した同名小説を講談形式で台本化したもので、今作『続・怪人二十面相伝 ~青銅の魔人~』は、その続編である。前作の上演が好評を博したことから、北村から「続編をやりなさい。これは使命です」と言われた船戸と高橋は、続編の製作に着手。船戸の地元である姫路での公演(2022年10月)を経て、今回の名古屋公演を行う運びになったという。
敗戦の爪あとがいまだ生々しく残る東京。平吉は姿を消した師匠・丈吉のあとを次いで新たなる「二十面相」となることを決意する。単に財宝を盗むだけでなく、世間をアッといわせること。それが二十面相としての使命である。そのアイデアに四苦八苦していた平吉は、「時計を食べ物のように食う」青銅の怪人のアイデアを思いつく…
北村の原作をもとに、脚本と演出を高橋と船戸の両者で力を合わせて手掛けたという今作『続・怪人二十面相伝 ~青銅の魔人~』や、《振り袖講談》が誕生した経緯などについて、高橋恵に話を聞いた。
脚本・演出の高橋恵
── 『怪人二十面相・伝』は原作が小説ということで、長い作品をどのように講談の台本としてまとめられたのかなと。
もともと船戸さんが2005年に出演したひとり芝居『MONO語り 怪人二十面相・伝』(作:北村想)の台本が3時間ぐらいあるんですけど、それをなんとか2時間ぐらいにして。
── ひとり芝居で3時間はすごいですね!
小説から良いシーンを抜粋していったら、そりゃあそうなるなぁと。今回は想さんが「続編をやりなさい」と仰られて、小説そのものからまた自分たちでエピソードを選んで編集するという作業になったので、泣く泣く諦めたシーンもいっぱいあるんですよ。
── 編集作業は、船戸さんとお二人で?
はい、船戸さんと二人でですね。「時間的にこれくらいにするには、これは諦めないと…」みたいに相談しながら。
── 今回の上演は、どれくらいの時間になるのでしょう?
今回も2時間弱ぐらいですね。途中で休憩を入れて、50分/50分ぐらいになるかなと。
── 最初の一人芝居といい、船戸さんすごいですね。よく覚えられますね。
毎回思いますけど、そうですね、よく頑張って覚えますね(笑)。
── 船戸さんは元々、講談はやっていらっしゃったんですか?
想さんから《振り袖講談》をいただくまでは全く。
講談師“振り袖かを里”こと船戸香里
── 2016年に《振り袖講談》を開始された時に始められたんですね。
そうです。二人とも何もわからない状態で始めたんです。想さんは時々、ご自身が気に入った演出家だったり役者だったりがいると戯曲をプレゼントする、ということをされていて、そのうちのひとつが船戸さんにプレゼントされた《振り袖講談》の一作目『転がる星 ~The star who falls down~』だったんです。
── 〈虚空旅団〉の公演として2018年に名古屋でも上演された、『アトリエのある背中』も想さんから高橋さんへ贈られた戯曲でしたね。
そうですね。なので、最初の《振り袖講談》の時は右も左もわからなくて、まず講談そのものを私も船戸さんも見たことがなかったんです。その時は想さんが演出をされていたので、「伊丹想流私塾」で教えに来られた時に大阪にいらっしゃって稽古をする、みたいな感じだったんですけど、船戸さん自身がかなり苦戦していたんですね。台本の量と、一人語りそのものと、やっぱり話芸なので演劇とは勝手が全く違うというところで。私もお手伝いする中で、船戸さんがあまりに苦しんでいてちょっと挫けかけていたのでどうにかならないか、と思って。
それで、『寿歌Ⅳー火の粉のごとく星に生まれよー』で船戸さんとご一緒された落語家の桂九雀さんに(2013年に上演された北村作品のリーディング公演で、桂九雀、船戸香里、ごまのはえが出演)、落語と講談は違うかもしれないけど同じ話芸ではあるので、どういう練習をしたらいいかまず教えを乞おう、ともかくなんとか相談させていただこう、と言ったんです。そこから船戸さんが連絡をしたら時間を作ってくださることになって、落語のことは自分が言えるけれども講談のことは講談師が言った方がいいんじゃないか、と思ってくださって、大阪で活動している女性の講談師の方をご紹介いただいたんです。
── それはとても良かったですね。
新人賞など近年、幾つか賞も受賞されている五代目・旭堂小南陵さんという方で、稽古場にも一度わざわざ来ていただいたり、アドバイスをいただきました。
── やはりプロの講談師からのアドバイスは大きかったですか?
そうですね。恐らく本質的な助言は一緒なんですけど、演出家のダメ出しというよりは、演じ手の先輩としての助言ですね。そもそも正座があんなに長時間出来ないとか、そういうどうしようもないことが結構あるんですけど、「足が痺れない噺家はいない」みたいなことを言われると、それはそれで安心するんですよね。防ぎようはないけど、痺れる時間を遅らせる方法はあるとか、そういうちょっとした具体的なアドバイスとか(笑)。
── 声の出し方とか抑揚の付け方とか、発声に関することだったりも?
そういうのもやっぱり全然違いますね。具体的にどうこうというところは、時間もあまりなかったので一から教わったわけではなかったんですけども、小南陵さんも元々は女優さんだったらしいので、役者のことも理解していただいていた点も良かったと思います。
── 今回の上演場所は〈てんぷくプロ〉のアトリエということで、古い日本家屋の和室をそのまま生かした空間が、講談という上演スタイルにぴったりだな、と思いました。この会場はどういった経緯で決まったのでしょうか?
前回は「ナビロフト」が最後だからというので、無理を言って駆け込みで上演させていただいたんですけど、今回は「パート2を作れ」とお達しがあったので、じゃあ頑張ってやろう、と姫路でなんとかお披露目はしたんですね。ネタ下ろしはしたので、それをもう1回ブラッシュアップして名古屋に持っていって、想さんにまず観ていただかないと、ということで、どこでやるのよ? となって。
以前上演させていただいた場所もあったんですが、コロナ以降使えなくなっていてどこか場所を探さなければ、というので小熊ヒデジさん(〈てんぷくプロ〉に所属し、「ナビロフト」の劇場プロデューサーも務めた)に、「少人数でも雰囲気のあるところで、安くて、私たちが借りれそうなところはどこかありませんか?」と、ご相談したんです。そしたらその中のひとつとして、「〈てんぷくプロ〉の2階でリーディング公演をやっているし、貸し出しもしてますよ」と提案されて。以前、名古屋公演の時に泊めていただいたこともあるので、そういえばそうだなぁと思って上演させていただくことにしました。
── 高橋さんご自身もこの企画で初めて講談に携わられたということで、演出を担当されるにあたって最初、戸惑われたことなどありましたか?
最初は想さんが演出されていたので、サポートの気持ちでいたんですよ。何か言われたら動こう、という感じで。その時はショートショートだったので音響でシーンを繋ぐつもりだったんですけど、音響のセッティングにあまり向かない会場だったのと、スピーカーから流れる音ではなかなか船戸さんの意識の切り替えが出来なかったんです。バカバカしい話といえばバカバカしい話だったので、次の話、次の話と気持ちを切り替えたいというのがあって、何か楽器の生演奏をブリッジで入れて話を繋いだらどうですか? という提案をしたんです。
それで知り合いのピアノを弾ける子にお願いして生演奏してもらって。それがきっかけで最初の名古屋公演の時も、地元で音楽をやっている人とセッションする形でブリッジをやっていただくパターンが固まっていって、それが意外と楽しくて上手くいっている感じがありました。毎回音楽も違うし、演奏する人も違うし、かける話も違うので、土地ごとに違って面白かったです。
── 今回の演出としては、どんな感じにされるご予定ですか?
前回の『怪人二十面相・伝』の時は、船戸さんのひとり芝居の時に使っていた音響をですね、シーンを盛り上げるために音響効果として入れていたんですけど、今回はもう、語りだけでやろうと思っています。
── 音響効果もこれまでのような生演奏も無しで?
どちらかというと、やっぱり語りがメインではありますね。最初の『怪人二十面相・伝』を何箇所かで上演して、もしかしたら音楽無しでもいけるんじゃないか、と思って。お客さんの何人からもそういう声があったので、1回音響無しでやってみようかと。あとは、お客さんが2時間も耐えられる状況を作れるのかどうか、ですね(笑)。
── 《振り袖講談》シリーズは、今後も継続していかれるご予定ですよね。
はい、やめるつもりはないので今後もお題を見つけて続けていければ、と思います。想さんから、「プレゼントは第3弾までだ」と言われて『かたり寿歌』の台本をいただいたんですけど、今回の上演を頑張って喜んでいただいて、「また何かやれ」と言っていただけたら渡りに船だな、と(笑)。「じゃあ何か、ご褒美に書いていただけませんか?」みたいなことを言えたら嬉しいなあと思うんですけど、そんなに上手いこといくかどうかはわかりませんが(笑)。
振り袖講談『続・怪人二十面相伝 〜青銅の魔人〜』チラシ裏
取材・文=望月勝美
【演出/高橋恵 プロフィール】たかはし めぐみ◆大阪府生まれ。劇作家・演出家。「虚空旅団」主宰。北村想が塾長を務める伊丹想流私塾にて8年間師範を務める。2015年に『誰故草』で第22回OMS戯曲賞大賞を受賞。主な作品にアイホール+岩崎正裕共同製作『フローレンスの庭』、メイシアタープロデュース『人恋歌~晶子と鉄幹~』など。
【出演/船戸香里 プロフィール】女優。代表作に、ひとり芝居『MONO語り 怪人二十面相・伝』(作:北村想/05年)、『この恋や思いきるべきさくらんぼ』(作:北村想/04年初演・12年再演)。また、06年より自身のライフワークとして「大阪女優の会」に参加。16年には《振り袖講談》を開始し、“振り袖かを里”としても活動中。
作品情報
【振り袖講談 上演履歴】
★振り袖講談 vol.1『転がる星 ~The star who falls down~』2016年…1月・2月 アイホール(伊丹)初演、4月 のらまる食堂(神戸)、6月 P-act(京都)、12月 新代田POPO(東京) ★振り袖講談 vol.2『lullaby, everybody sleep tight. ~子守唄、すべてのひとに眠りを~』
2017年…4月 のらまる食堂(神戸)、6月 P-act(京都)、10月 ナビロフト(名古屋)、いたみホール(伊丹)、2018年…1月 揚輝荘(名古屋) ★振り袖講談・賛 ~かたり寿歌~
2018年…7月 のらまる食堂(神戸)、10月 揚輝荘(名古屋)、いたみホール(伊丹)、2021年…10月 此花千鳥亭(大阪) ★振り袖講談『怪人二十面相・伝』
2021年…3月 いたみホール(伊丹)、4月 ナビロフト(名古屋) ★振り袖講談『続・怪人二十面相伝 ~青銅の魔人~』
2022年…10月 七福座(姫路)
公演情報
■脚本・演出:船戸香里、高橋恵(虚空旅団)
■出演:振り袖かを里(船戸香里)
■会場:アトリエ昭和薬局前(てんぷくプロアトリエ/愛知県名古屋市昭和区滝子町22-10)
■木戸銭:2,000円
■アクセス:名古屋駅から地下鉄東山線で「伏見」駅下車、鶴舞線に乗り換え「荒畑」駅で下車、③番出口から南へ徒歩12分。または名古屋駅から地下鉄桜通線で「桜山」駅下車、⑦番出口から西へ徒歩14分
■問い合わせ:090-3922-1204(高橋) kokuuryodan@gmail.com
予約 https://WWW.quartet-online.net/ticket/20nagoya
■公式サイト:http://furisodekaori.com/