東京デスロック『再生』劇団+現地バージョン。5年ぶりの再演ツアーも、いよいよ愛知・長久手公演で見納めに

インタビュー
舞台
2023.2.24
 東京デスロック『再生』長久手Ver. 出演者。左から・田坂歩、太田竜次郎、岩田千鶴、高木里帆、福田健人、小川敦子、手代木花野

東京デスロック『再生』長久手Ver. 出演者。左から・田坂歩、太田竜次郎、岩田千鶴、高木里帆、福田健人、小川敦子、手代木花野

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2006年に発表され、“30分の同じ物語を3回繰り返す”特異な構造で大きな話題を呼んだ、〈東京デスロック〉の『再生』。劇作と演出を手がけた多田淳之介は、当時社会問題となっていた「集団自殺」をモチーフに、大音量で流れる音楽に合わせて歌い踊る登場人物たちの身体を通して、現実には決して再生することのない【時間】と、今ここにある【生】を克明に浮かび上がらせた。リピートされる【生】と【死】の光景、彼らが生きた時間や時代を象徴する流行歌の数々の強烈な印象が、観る者の心に大きなインパクトや余韻を残す名作だ。

〈東京デスロック〉主宰で作・演出の多田淳之介

〈東京デスロック〉主宰で作・演出の多田淳之介

これまでにも何度か上演が重ねられてきたこの作品。昨年2022年に5年ぶりとなる再演三都市ツアーが始まり、各地域のオーディションで選出した出演者と共に2週間の滞在制作で創る《現地Ver.》《劇団Ver.》を同時上演する形で、7月上旬に北九州公演、同月下旬に三重公演を終えた。そして現在、ツアー最終地となる愛知の「長久手市文化の家」で滞在制作が進められており、まもなく2023年2月25日(土)・26日(日)に公演が行われる。

東京デスロック『再生』劇団+長久手バージョン チラシ表

東京デスロック『再生』劇団+長久手バージョン チラシ表

本作の成り立ちや詳細については、三重公演の紹介記事(2022年7月21日)で多田淳之介のインタビューを通して触れているが、出演者が生きてきた時代背景や個々の体験エピソードなどが、会話や音楽、舞台美術などに反映されるこの作品は、多田いわく「同じグラウンドで違うチームが試合してる、みたいな感じですね」と。フォーマットは同じでも各組で仕上がりが変わり、観劇する側もそれぞれ異なる印象を受けたり、共感する部分が違ったりする点が面白いところだ。

例えば、今ツアーの三重公演《三重Ver.》では、出演者が“全員女性”というシリーズ初の座組が誕生したが、《長久手Ver.》では、37名の応募者の中から選抜された10代~40代までの男女混合7名が出演。

「オーディションによる参加者で創っていく作品としては、今までで最年少の17歳の出演者がいます。一番歳上は41歳で、20代もいるし30代もいるので、結構いい感じで世代がバラけているなぁと。名古屋の人もいますし、長久手出身で東京在住の人もいる。「愛知にゆかりはないけどオーディションを受けにきました」という人もいます」と、多田。

『再生』長久手Ver.  稽古風景より

『再生』長久手Ver. 稽古風景より

劇中音楽も《現地Ver.》では毎回、それぞれの出演者が挙げた多数の候補曲の中から、個々の幼少期や学生時代などのエピソードを多田が聞き出しながら決めていくため大きく変化する。その楽曲選びも楽しい作業のようで、

「なんとなく世代的に近いところの曲が挙がってはくるんですけど、やっぱりちょこちょこ、17歳なのになんでこんな古い曲選ぶんだろう? とか、そういう面白さがあります。お母さんが聴いていた曲だったり、今回も17歳と41歳の出演者が同じ曲を出してきたりして面白いですよ」とも。

『再生』長久手Ver.  稽古風景より

『再生』長久手Ver. 稽古風景より

さらに前述の舞台美術も注目すべき点で、登場人物達(出演者)の人生で実際に使われてきた物が点在していたり、上演地ゆかりのグッズなどが登場。今回の《長久手Ver.》では、2005年に愛知で開催された「愛・地球博」の公式キャラクターであるモリゾー&キッコロのぬいぐるみや、「小牧・長久手の戦い」を行ない、今期の大河ドラマでも話題の徳川家康にまつわるアイテムなども登場するそうなので、観劇しながら愛知ゆかりの品々を探してみるのも。

『再生』長久手Ver.  稽古風景より

『再生』長久手Ver. 稽古風景より

一方《劇団Ver.》は、夏目慎也佐山和泉原田つむぎ松﨑義邦(以上、東京デスロック)、岡田智代波佐谷聡田中美希恵の同じ顔ぶれ、同じ劇中曲で、ひとつの完成形として三都市を巡っている。

「《劇団Ver.》は作品としては完成しているので基本的には同じですが、単純に時事ネタが変わったりはします。北九州公演と三重公演から半年経っているので、例えば、当時はBTSのメンバーが兵役に行く前だったけど、今は兵役に行っているとか。その辺りのセリフをちょっと調整したり。長久手公演にあたって横浜で少し思い出し稽古をしてきましたけど、みんな想像以上に覚えていて良かったです(笑)」

東京デスロック『再生』劇団Ver. 出演者。上段左から・夏目慎也、佐山和泉、原田つむぎ、松﨑義邦 下段左から・岡田智代、波佐谷聡、田中美希恵

東京デスロック『再生』劇団Ver. 出演者。上段左から・夏目慎也、佐山和泉、原田つむぎ、松﨑義邦 下段左から・岡田智代、波佐谷聡、田中美希恵

また、今回の再演ツアーを経て感じたことなどを多田に尋ねてみると、

「5年前は5年前で、生き辛さだったり息苦しさというのがその時代なりにあって。5年前と今ではちょっと状況は違いますが、今の方が保守的なものが多少変わりつつあるかな、という気がします。変えないようにしてる人達もまだまだいっぱいいますけど、若い人達や立場の弱い人達のことを考える世の中に少しずつはなっているかな、と。5年前は良くなる兆しがなかったというか、世の中にボジティブな要素が少なかったと思うんですが、希望が出てきた気はしています」と回答。

【死】に向かおうとする人々の躍動する身体を通して、彼らが手放そうとしている【生】の輝きや命の尊さに触れ、改めて人が【生きる】ことを考えさせてくれるこの作品。今回の公演を観て、現在の自分が何を感じるのかはもちろん、時を経てまたいつかこの作品に遭遇した際、その時の自分はどのような思いを抱くのか…そんな未来の機会にも想いを馳せながら、いま体感しておきたい作品だ。

東京デスロック『再生』劇団+長久手バージョン チラシ裏

東京デスロック『再生』劇団+長久手バージョン チラシ裏

取材・文=望月勝美

作品情報

【長久手Ver. 出演者プロフィール】

岩田千鶴(gateau au fromage)
愛知県出身。大学で演劇部に入部して演劇を始める。名古屋演劇教室の初心者のための演劇ワークショップに参加し、修了後、フリーで役者や音響として活動。2017年に個人演劇ユニット、gateau au fromageを立ち上げ、演出としても活動開始。カミハマ演劇研究所第一期研修員。
太田竜次郎(劇団エンジン)
1982年生まれ。愛知県豊田市出身。高校時代に市民劇などに参加し、その後富良野塾(19期生)に入塾。卒塾後は地元に戻り役者・スタッフなどで活動。近年はとよた演劇祭(第1~3回)の企画・運営や長久手文化の家アートスクール「戯曲セミナー」(15~18年)で活動。小学校などで学芸会指導やワークショップを行う。
小川敦子
岡山県出身。大学時代に声楽を学び卒業後に演劇を始める。2018年よりソロユニット「堂々としたブスはほぼ美人」を始動。一年に一本は作品をつくるという目標を立てるもサボりがち。近年の出演は平泳ぎ本店『俳優の魂/贋作 不思議の国のニポン演劇盛衰史』、倉田翠『今ここから、あなたのことが見える/見えない』など。
高木梨帆
愛知県出身。中学卒業後、演技の勉強を始める。今回がはじめての舞台。趣味は食べること、大好物はあんこと塩にぎり。前髪を切ることが得意。「プライドを捨て、最後まで自分らしく精一杯挑んでいきます。全力でがんばります。」
田坂歩
愛知県出身。多摩美術大学在籍中。幼少より様々なダンス経験を積む。その後大学にて柴幸男(ままごと)ゼミに所属し演劇を修学。2020年より俳優業を開始。主な出演作にCHAiroiPLIN踊る戯曲「三文オペラ」(B・ブレヒト作/スズキ拓朗演出) 東京芸術劇場「カノン」(野田秀樹作/野上絹代演出)等がある。
手代木花野
宮城県出身。コンタクトインプロヴァイザー。長塚圭史、野田秀樹、ウォーリー木下、カンパニーデラシネラ、柴幸男、維新派、伊藤キム等の作品参加。愛知では「千と千尋の神隠し」(ジョン・ケアード演出)、「新・三人姉妹」(小池博史演出)出演やコンタクトのWSを行っている。都立総合芸術高校演劇専攻特別専門講師。
福田健人
2002年生まれ。大阪府出身。高校で演劇部に入部し、3年時には春季全国高校演劇大会に出場。2022年からはフリーで本格的な演劇活動を開始。主に役者として京都で活動をしている。演劇だけでなく、ダンスやアクロバットなどの身体表現も得意としている。

公演情報

北九州芸術劇場×三重県文化会館×長久手市文化の家
東京デスロック『再生』劇団+長久手バージョン
 
■作・演出:多田淳之介
■出演:【長久手Ver.】岩田千鶴(gateau au fromage)、太田竜次郎(劇団エンジン)、小川敦子、高木梨帆、田坂歩、手代木花野、福田健人/【劇団Ver.】夏目慎也、佐山和泉、原田つむぎ、松﨑義邦(以上、東京デスロック)、岡田智代、波佐谷聡、田中美希恵
■公演日程
北九州劇術劇場×三重県文化会館×長久手市文化の家
東京デスロック『再生』劇団+現地バージョンツアー
《北九州》 2022年7月9日(土)、10日(日) 北九州芸術劇場(公演終了)
《津》 2022年7月23日(土)、24 日(日) 三重県文化会館(公演終了)
《長久手》 2023年2月25日(土)、26日(日) 長久手市文化の家
《長久手》公演詳細
■日時:2023年2月25日(土)13:00(長久手Ver.)・17:00(劇団Ver.)、26日(日)13:00(長久手Ver.)・17:00(劇団Ver.)
■会場:長久手市文化の家(愛知県長久手市野田農201)
■料金:長久手Ver./一般2,000円 学生1,000円 劇団Ver./一般3,000円 学生1,500円 セット券/一般4,000円 学生2,000円
■アクセス:名古屋駅から地下鉄東山線で「藤が丘」駅下車、リニモで「はなみずき通」駅下車、1番出口から北へ徒歩7分
■問い合わせ:長久手市文化の家 0561-61-3411/専用 0561-61-2888(受付時間9:00~18:00)/インターネット予約 https://p-ticket.jp/nagakute
■公式サイト:
東京デスロック http://deathlock.specters.net

長久手市文化の家 https://bunkanoie.jp
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