木村多江「終始ニヤニヤしていたかも」 東京国立博物館で開催中の特別展『東福寺』の見どころを語る
特別展『東福寺』音声ガイドナビゲーター・木村多江
京都にある禅寺・東福寺の寺宝約150件が公開される初の大規模展、特別展『東福寺』が、東京国立博物館 平成館で開催されている(5月7日まで)。東福寺の寺宝をまとめて紹介する初の機会となる本展では、伝説の絵仏師・明兆による記念碑的大作《五百羅漢図》現存全幅を修理後初公開するとともに、巨大伽藍にふさわしい特大サイズの仏像や書画類も一堂に会し、大陸との交流によって育まれた禅宗文化と東福寺の全容を紹介する内容となっている。
某日、本特別展のナビゲーターを務める女優の木村多江が展覧会場を訪れると聞き、SPICEではインタビューを実施。見どころはもちろん、木村流のアートの楽しみ方についても聞いてみた。
想像した以上にポップな展覧会
ーー今回の展示の中で、特に印象に残った展示があれば、理由とともに教えていただけますか?
東福寺は禅宗の寺院なので展示内容もちょっと堅いのかなと思っていたんですけど、実際に見てみると結構ポップだなという印象を受けました。例えば重要文化財の《五百羅漢図》の展示には4コマ漫画があわせて展示されていて、もう楽しくなっちゃいました。自分で想像するだけなく、こうしてストーリーを教えていただくと、見る方も余計に楽しいし、より想像が膨らみました。今の漫画やイラストに通じるものがあって、時代は違っても、可愛い・面白い・楽しいと思う気持ちは普遍的に一緒なんだなと思うと、また見る目が変わりますよね。
それから《虎 一大字》という書。見る人によって字に見えたり、絵に見えたりする作品なのですが、禅宗の「人の心次第だ」という教えを伝えようとしていたのかもしれないな……などと、いろいろな解釈ができるんです。その自由さが面白い。虎に見えたり見えなかったり、カメレオンのような違うものに見えたり、字にも見えたり……。想像するのが楽しい時間だったなと思います。
《二天王立像》も印象的でしたね。あんな大きな仏像を寄木でどうやって作ったんだろうと。今だったらデジタルできっとできてしまうことでしょうけど、当時はこんなに大きなものだから全体像も見られないわけじゃないですか。特に作っているときは、その彫っているものしか見られないはずでしょう? それをいざ組み立てたら、本当に生きてるみたいになった。話しかけてきそうな、上からちょっと怒られている感じもして……。どうやって全体を想像して彫っていくのだろうと、びっくりします。今よりデジタル化が進んでない、アナログの中で生み出されたすごさ。そういうことを想像すると、すごく興奮してしまいます。
ーー確かに想像していたよりもポップな展示が多かったかもしれませんね。
そうなんです、そのポップさが楽しいですよね。《五百羅漢図》は色彩の豊かさも見応えがあるのですが、それに漫画がついていて、しかも「虎の歯磨き」などの楽しいタイトルがついているので、ついつい読み込んでしまいました。
また、絵で描かれている方々のお顔がまるで近所にいる人のような身近な印象を受けましたし、彫刻の表情もとても豊かで。いわゆる普通の展覧会だと、仏像があって、書があって……ということを想像されると思うのですが、その想像を超える楽しいものがいっぱいあったので、ぜひ多くの方に見ていただきたいなと思いました。
冬の東福寺に感じた“強さ”
ーー木村さんはこの特別展に寄せて「東福寺の庭園も伝統的な枯山水でありながら、現代的な造形がとりいれられており、伝統と革新の精神を感じる場所です。冬に東福寺を訪れたとき、人が少ない境内に、新緑や紅葉の季節とは違う厳かさを感じ、自分の中にきゅっと筋がとおるような引き締まる気持ちになりました。その時の感覚から、冬の寒さや夏の暑さの中、3年以上もかけて大作《五百羅漢図》に挑んだ東福寺の画僧・明兆の姿を想うことができました」(展覧会公式サイトより)とコメントされていますね。東福寺を訪れた際のエピソードを教えてください。
ある冬の時期に、東福寺に行ってみようと思い立って、実際に訪れてみたことがあるんです。参拝客も少なかったし、靴を脱いであの通天橋を歩くと足がすごく冷たかったり、ちょっと寒々しかったり……。日も短いし、電気もない暗い中で、これだけのスケールのものをどうやって書いたのだろうと思いを馳せました。
春や秋にお庭を見ると、爽やかな市松模様でモダンな印象を受けるのですが、冬は空気が冷たく澄んでいて、石の冷たさが伝わってくるような感じがしたし、尖っているものは余計尖ってるように感じて。春や秋に思っていた“柔らかさ”ではなく、“強さ”が感じられたんです。「しっかり立って行きなさいよ、この寒さでも、困難があっても、進んで行きなさいよ」と悟されたような気持ちになって、気持ちがシャンとしました。
ーーそのご経験があられたからこそ、今回の特別展がより魅力的に、立体的に見えたのでしょうね。
そうですね。ああいう環境の中で、様々な書画が作られ、 飾られて、それを見て皆さんが修行されて……。当時の方たちが感じていたものを読み取ろうと想像が膨らみました。そういう作った方たちが身近に感じられるような展覧会だなと思いましたね。
ーー木村さんの音声ガイドもあわせて楽しみたいです。
皆さんの想像力を邪魔しないように、後ろからささやくように……やらせていただきました。
ーー木村さんはNHK BSプレミアム「美の壺」でもナレーションをされていて、いろいろな美術や工芸に造詣が深いと思います。木村さんのおすすめの鑑賞方法はありますか?
私は純粋に新しいことを知るのが楽しいと思っています。それに、こんなに素晴らしい職人の方たちがいて、世界に誇れる技術があることが誇らしいと思うんです。もちろん今の技術も素晴らしいですけれど、先人たちの技術の中には、今では再現できないような技術もあるんですね。現代の方がデジタル化も進んでるし、技術力が上がってるような感じはするんですけど、先人たちを超えられないところもあると思います。それに、植物などが変化して色が変わったり、使えるものが変わったりもしていますし。
それでも、世界に誇れるすごい職人さんたちがいて、そういう人たちの技術を発見できるのが私は楽しい。ぜひこんな素敵な人たちがいて、伝統を守りつつも革新的なことをされている人がいることを知ってほしいと思うんです。こんなにすごいものが日本にあるんだよと皆さんにも知ってほしいので、そういう好奇心を持ってぜひ見てみてほしいなと思います。
ーー作り手のことをイメージされるのですね。
そうですね。どうしてこんなことができるんだろうと思うんです。例えば、昔は電気がないわけでしょう? ろうそくの灯だけしかない暗闇の中で、どうしてこんなに細かいものが描けるのかしらと。それにきっと昔の方たちと今の方たちの時間の感覚の違いもあるでしょうね。……こんな風に、本当にいろいろな楽しみ方があると思います。
美術展や展覧会は「インプットの時間」
ーー木村さんはお仕事でもプライベートでも展覧会や美術展にも足を運ばれるのかなと思うのですが、木村さんにとって芸術や美術に触れる時間というのは、改めてどういう時間ですか?
お芝居をするときは、どちらかというとアウトプットのことが多いんですね。一方で、美術展や展覧会に行って、いろいろなアートを拝見すると、それらを作った方たちの精神や魂に触れるような気がして。それは私にとってはインプットの時間になっているんです。そして、芸術に触れることによって、自分を鼓舞する。自分は凡人だから、そんなことはできないけれども、ここまで見てる人の想像を膨らませることができるんだと思ったら、私もそうなりたいと思って、何か目指すものになったりするんですね。
それから色彩感覚。私は全く絵が描けないので、美しいものや綺麗なもの、 びっくりするようなもの見ると、刺激になって。また自分の中の活力になっている気がしますね。
ーー 今までご覧になったアートで、特に感動したものや記憶に残っているものはありますか?
それぞれ素敵なものがあるけれど……。昨年、丸の内の静嘉堂文庫美術館で国宝の「曜変天目」を見ました。小さな茶碗の中に、広い宇宙を感じて、心がうわっと震えるみたいな感覚になったことを覚えています。
ーー最後に今回の特別展がどんな方におすすめか、ぜひコメントをいただけますと幸いです。
私は今回の展示を見て、あらゆるイメージを覆されて、まるで背負い投げされたような気分になりました。それぐらい楽しかった。圧倒的だったし、いろいろなことを想像して、 終始ニヤニヤ笑っていたと思います。すごく楽しい気分にさせてくれる展覧会だなと思ったので、どの世代でも「楽しいことが好き」と思う方はいらしていただきたいなと思います。
文=五月女菜穂 写真=オフィシャル提供
展覧会情報
会期:3月7日(火)~ 5月7日(日)
※本展は事前予約不要です。混雑時は入場をお持ちいただく可能性がございます。
※本券で、会期中観覧日当日1回に限り、総合文化展もご覧になれます。
※詳細は、展覧会公式サイト情報のページでご確認ください。
主催:東京国立博物館、大本山東福寺、読売新聞社、NHK、
NHKプロモーション、文化庁
問合せ:050-5541-8600(ハローダイヤル)