独断と偏見で選ぶカワカミー賞発表! [Alexandros]川上洋平、2022年のベストムービーやベストアクターを語る【映画連載:ポップコーン、バター多めで PART2】

2023.4.22
インタビュー
音楽
映画

ベスト助演女優賞:ドリー・デ・レオン(『逆転のトライアングル』)

『逆転のトライアングル』で一番印象に残った人がこの方でした。セレブを乗せた豪華客船のトイレの清掃員役ですね。その豪華客船が無人島に漂流して、魚を取ったり、料理ができるのが彼女しかいない、ということでいきなりメインキャラクターとして浮上してくる。そこでヒエラルキーが逆転するわけですけど、その展開にびっくりしました。イケメンのモデルを手玉に取り、性的にも従えていく様は見応えあったな。演技も良かったけど、インパクトがとにかく強かったです。

※『逆転のトライアングル』を取り上げた回はこちら

『逆転のトライアングル』より

べスト助演男優賞:セス・ローゲン(『フェイブルマンズ』)

『フェイブルマンズ』というと、アカデミー賞ではミシェル・ウィリアムズが主演女優賞、ジャド・ハーシュが助演男優賞にノミネートされてました。ただカワカミー賞はあくまでも個人的な独断と偏見で選んでいるので、受賞はセス・ローゲンです! 『無ケーカクの命中男/ノックトアップ』とか『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』とか、ブラックコメディ映画を作ったり出演したりしている印象が強いですが、『フェイブルマンズ』ではそのお調子者感が抑え目になっていて素敵でした。あの憂いのある雰囲気は、実はお互い想い合っているミシェル・ウィリアムズの演技力の功績もあるんでしょうけど、セス・ローゲンの新境地を知りました。スピルバーグのセンス抜群だな。キャスティングはしてないかもしれないけど。あと、単純に『フェイブルマンズ』は本当に良い映画でした。

『フェイブルマンズ』より

ベストアクトレス:アンドレア・ライズボロー(『To Leslie トゥ・レスリー』)

日本での公開は6月なんだけど、僕は海外行きの機内で観ました。わかりやすいぐらいの感動作ではありますが、「ここまで来たらもう感情委ねます」っていう気持ちになります。それぐらいストレートに泣かせる映画。アンドレア・ライズボローはアル中のシングルマザーの役で、這い上がり方さえもわからないほどボロボロな状態。アカデミー賞の主演女優賞にノミネートされてましたけど、この役のアンドレア・ライズボローは狂気じみていて本当にすごかった。今回のアカデミー賞は『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』が完全に主役で、主演のミシェル・ヨーが主演女優賞を取ったのも良いとは思うし、同じアジア人として誇らしかったですが、個人的なことを言うとアンドレア・ライズボローが一番良かった。でも『TAR/ター』はまだ観れてなくて、あのケイト・ブランシェットもすごそうだなって思ってます。
ちなみにアンドレア・ライズボローがノミネートされたことについて、アカデミー会員へ直接作品をプッシュしたことがルール違反なんじゃないかっていう声が上がっていて。僕としては、「キャンペーンに使う予算がないインディーズ映画がそういうことをやるのがそんなに悪いの? 別に良いんじゃないの?」って思ったりもしました。そんなちょっぴりいわくつきの作品ですが、本当に良い映画なのでいろんな人に観て欲しいですね。

『To Leslie トゥ・レスリー』より

ベストアクター:コリン・ファレル(『イニシェリン島の精霊』)

僕は昔からコリン・ファレルのことが好きなんですけど、10代の頃からアルコールと薬物に依存していて、所謂不良俳優だったんですよね。役としても『マイアミ・バイス』とか『S.W.A.T.』とか『フォーン・ブース』とか『リクルート』とか、悪そうな雰囲気を活かすような役柄が多かったんですが、ある時期干され気味で。その後、『ロブスター』とか『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』とかインディー系の映画に出るようになって、その数年後に『THE BATMAN-ザ・バットマン-』に特殊メイクをした悪役で出た。「主役じゃないところにいくんだ」っていう驚きがあった上での『イニシェリン島の精霊』っていう流れがあって、かつてのコリン・ファレルのイメージからしたら想像がつかないような作品に出るんだなと、驚きと嬉しさを持って見守っていました。

『イニシェリン島の精霊』より

『イニシェリン島の精霊』での彼も素晴らしかったです。それこそ昔のコリン・ファレルだったらできなかったんじゃないかなと思います。良いカムバックをした俳優のひとりですよね。同じくカムバック俳優のロバート・ダウニー・Jr.も薬物中毒でとんでもない不良で何度も逮捕されたけど、「このままだと本当にヤバいことになる」って気付いて薬物を断って。その後『アイアンマン』やら『アベンジャーズ』やらで子供たちのヒーローになったわけで、コリン・ファレルとはまた別の復活劇ですよね。今年のアカデミー賞の主演男優賞は『ザ・ホエール』のブレンダン・フレイザーが取って、あの演技も素晴らしかったのですが、あの受賞は役柄と彼のバックボーンが後押ししている部分もある気がしました。なのでちょっと物足りないなと思ったんですよね。まあ去年のアカデミー賞が平和じゃなさすぎたっていうのもありますけど、僕としては刺激を求めてしまいます。

『イニシェリン島の精霊』より

ベストムービー:『イニシェリン島の精霊』&『コンパートメントNo.6』

『イニシェリン島の精霊』は映画としても本当に良かった。ただ変わった映画ではあります。「結局何なの?」「何も起こらなかったじゃん」って思う人も多いと思うけど「どうなっていくんだろう?」っていう緊張感と不理屈のおかしみを楽しむ作品だなと。そういう意味では『コンパートメントNo.6』もラブストーリーとは言い難く、「このふたり、結局くっつくの? くっつかないの?」と終始曖昧な感じで大きな事件は起こらない。でも、はっきりとした理由がないっていう人間関係のおかしみと哀愁ってあると思うんですよね。そういうわかりにくいところを描いたこの2作品が僕としてはベストでした。だから、今回のカワカミー賞のベストムービーは、『イニシェリン島の精霊』と『コンパートメントNo.6』にあげたいです。『NOPE』みたいなある種エクストリームな「こんな映画観たことない!」っていうのとはまた違って、絶妙な感情をうまく突いてきた映画。『To Leslie』はとてもわかりやすい泣きのカテゴリーの映画だけど、『イニシェリン島の精霊』と『コンパートメントNo.6』は「このカテゴリー何だろう?」みたいなね。だからこそ新鮮でした。

『コンパートメント No.6』より

曲作りでも、人間の絶妙な感情を描きたいなあというのは常々思っていて。「これは赤です」っていう曲も存在するけど、例えば赤から緑になるグラデーションになってるところを描いているっていうか。何色か説明できない、むしろしなくてもいい、みたいなね。だから共感もできて、まさにかゆいところに手が届いたっていうか、「俺こんなところがかゆかったんだ?」っていう。自分でも知らなかったかゆいところに手を届けてくれた、「この感情を初めて言い当てられた!」みたいな。理由なくいきなり人を好きになることもあるし、理由なくいきなり人を嫌いになることもある。そして好きか好きじゃないかわからない、絶妙な感情を持つこともある。この2作品は、そんなはっきりとはわからないけど、日常に潜んでる感情を描いた作品になっています。味わい深いですね。

『イニシェリン島の精霊』より

偏愛特別賞:カレン・ギラン

過去2回は“特別賞”だったんですが、今回からよりわかりやすく“偏愛特別賞”にしました。もう仕方ない。タイプなんだもの。大好きですね。『ガンパウダー・ミルクシェイク』を観て虜になったのですが、最近だと『デュアル』も良かった。他にも『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』とかにも出演していて、東京で開催されたコミコンに出てましたね。行きたかったです。

『デュアル』より

2022年はちょうど100本観ました。上半期で50本いってなかったんですけど、100本は死守しようと思って頑張りました。今年こそ150本は観たいなと。ぐほほと。では引き続きいい映画人生を。

文=川上洋平 構成=小松香里
撮影=河本悠貴 ヘア&メイク=坂手マキ(vicca)
アレキ像制作=しげたまやこ

※本連載や取り上げている作品についての感想等を是非spice_info@eplus.co.jp へお送りください。川上洋平さん共々お待ちしています! 

映画情報

『バイオレント・ナイト』
監督:トミー・ウィルコラ/出演:デヴィッド・ハーバー、ジョン・レグイザモ、アレックス・ハッセル、アレクシス・ラウダー、ビヴァリー・ダンジェロ/ 配給:東宝東和
© 2022 Universal Studios. All Rights Reserved.
 
『コンパートメントNo.6』
監督・脚本:ユオ・クオスマネン/出演:セイディ・ハーラ、ユーリー・ボリソフ、ディナーラ・ドルカーロワ、ユリア・アウグ/絶賛公開中
© 2021 - Sami_Kuokkanen, AAMU FILM COMPANY
 
『呪詛』
監督・脚本:ケビン・コー/出演:ツァイ・ガンユエン、ホアン・シンティン、ガオ・インシュアン、ショーン・リン/Netflix映画『呪詛』独占配信中
 
『哭悲/THE SADNESS』
監督・脚本・編集:ロブ・ジャバズ/出演:レジーナ・レイ、ベラント・チュウ、ジョニー・ワン、アップル・チェン、ラン・ウエイホア
©2021 Machi Xcelsior Studios Ltd. All Rights Reserved.
 
『ナイトライド 時間は嗤う』
監督・脚本:スティーヴン・フィングルトン/出演:モー・ダンフォード、ジョアナ・リベイロ、ジェラルド・ジョーダン、スティーヴン・レイ
©2021 NIGHTRIDE SPV LTD
 
『NOPE/ノープ』
監督・脚本:ジョーダン・ピール/出演:ダニエル・カルーヤ、キキ・パーマー、スティーヴン・ユァン、マイケル・ウィンコット、ブランドン・ペレア他
 
『逆転のトライアングル』
監督・脚本:リューベン・オストルンド/出演:ハリス・ディキンソン、チャールビ・ディーン、ドリー・デ・レオン、ウディ・ハレルソン他/配給:ギャガ
Fredrik Wenzel © Plattform Produktion
 
『フェイブルマンズ』
監督・脚本:スティーヴン・スピルバーグ/出演:ガブリエル・ラベル、ミシェル・ウィリアムズ、ポール・ダノ、デイヴィッド・リンチ、セス・ローゲン、ジャド・ハーシュ他/配給:東宝東和/絶賛公開中
© Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.
 
『To Leslie トゥ・レスリー』
監督:マイケル・モリス/出演:アンドレア・ライズボロー、マーク・マロン、オーウェン・ティーグ、アリソン・ジャネイ/配給:KADOKAWA 2022/6月23日より全国公開予定
© 2022 To Leslie Productions, Inc. All rights reserved.
 
『イニシェリン島の精霊』
監督・脚本:マーティン・マクドナー/出演:コリン・ファレル、ブレンダン・グリーソン、ケリー・コンドン、バリー・コーガン他/配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2022 20th Century Studios. All Rights Reserved. 
 
『デュアル』
監督・脚本:ライリー・ステアンズ/出演:カレン・ギラン、アーロン・ポール、ビューラ・コアレ、テオ・ジェームズ/DVD発売中 税抜価格3,800円 発売元:ニューセレクト株式会社
©2021 Dual Productions, LLC All Rights Reserved.

アーティストプロフィール

川上洋平(Yoohei Kawakami)
ロックバンド[Alexandros]のボーカル・ギター担当。ほぼすべての楽曲の作詞・作曲を手がける。毎年映画を約130本以上鑑賞している。「My Blueberry Morning」や「Sleepless in Brooklyn」と、曲タイトル等に映画愛がちりばめられているのはファンの間では有名な話。

ツアー情報

[Alexandros]『THIS SUMMER FESTIVAL TOUR '23』
5月17日(水)神奈川 KT Zepp Yokohama w/SUPER BEAVER
5月18日(木)神奈川 KT Zepp Yokohama w/Vaundy
5月26日(金)北海道 Zepp Sapporo w/WurtS
6月14日(水)福岡 Zepp Fukuoka w/Creepy Nuts
6月15日(木)福岡 Zepp Fukuoka w/マキシマム ザ ホルモン
6月22日(木)大阪 Zepp Osaka Bayside w/yama
6月23日(金)大阪 Zepp Osaka Bayside w/WANIMA
6月29日(木)愛知 Zepp Nagoya w/WANIMA
6月30日(金)愛知 Zepp Nagoya w/go!go!vanillas
全会場 OPEN 17:30 / START 18:30
 
TOTAL INFO. 
Livemasters Inc. 03-6379-4744
 
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