OAU 新作『Tradition』を通して語られるバンドの現在地と、TOSHI-LOWの言葉の源泉とは
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――OAUの制作でバンド内の目安となるのは?
“絵本感”ですね。俺はOAUでは、小説でもなくマンガでもなく、絵本ぐらいの絵の情報量と言葉の量をキープしていて。それはMARTINのためだけでなく、子どもからお年寄りまで幅の広い層に聴き取ってもらえるという点においても重要で。いま俺が書いている物語は今年の物語かもしれないけど、例えば子どもが聴いてぼんやりと未来を想像してくれたり、おじいちゃんが聴いて自分の親を思い出してくれたら、その歌は100年200年300年もの壮大な物語になる可能性を秘める。どの世代にも、どの時代にもフィットするための隙間を“風合い”として残そうという意識もひとつの目安で。
――実際、OAUの音楽って、どんな生活環境にあっても「これは自分の歌かもしれない」と思えるポイントが必ずあって。
時代によっては、目的地を目指す手段も馬車か電車かと違ってくるでしょ。でもその手段を限定せずに目指す過程をどう描くかが俺の中ではすごく大事で。そもそも文明が進化したと言っても結局「生きて死ぬ。その繰り返し」という点で言えば、人の営みって変わらないじゃないですか。そこで自分の世代や自分が信じる科学や宗教しか見ないのはあまりに視野が狭い行為だと思うし。実際、そういう人も多いんだけど、仏教ひとつ取っても曼荼羅は宇宙や科学に通じているし、般若心経は量子力学の話だし、全ては繋がっている。自分たちの世代というか自分たちの身近なツールに縛られていると、本当に大事な物が見えなくなってしまう。自分の存在とはこの世の中の壮大な流れの中のひとつでしかない。そんな紛れもない事実に気付いていくことで紡ぎ出すメロディや物語が曲になって、そのどれかひとつでも聴く人が感じ入ってくれたら、俺はもうそれで万々歳というか。でも、そういうことってガキの頃にはやっぱり気付けない。
――まあTOSHI-LOWさん自身、20代の頃には後にOAUみたいな音楽を奏でるなんて想像もしていなかったでしょうし。
俺の初期設定は「シド・ヴィシャスと同じくらいの若さで死ぬ」だったからね(笑)。だから結構辛かった、ずっと(笑)。予想外の長さでずっと人生が続いてきたわけだから。自分のことで精一杯だったし、太く短くという生き方しか考えてなかったし、「自分一人でここまで来たんだ」と本気で思っていたし「何で生まれてきたんだ!?」という怒りもあった。いまはその真逆の考え方なので、そういう意味でもOAUがトラディショナルな方向性に向かっていくのは、俺のなかでは極めて自然な流れでもあって。10代から20代で見て聞いて体感したことって、自分の価値観の6~7割を占めるじゃないですか。残りの3~4割は大人になって得たことや覚えたやり方。でもその3~4割の時間の方が、実は人生においては長い時間であって。
――本当にそうですね。
そりゃ歳をくったら時間の流れが早く感じるよなって思うよ。夏休み目前の一日が「長えなあ」と感じた感覚はもう得られないから。
――TOSHI-LOWさんが若い頃に感動した日本語って何でしたか?
詩でした。昔からショート・ショートが好きで。俺、頭が悪かったから、小説が理解出来なくて。長文だと誰が何の役なのか分からなくなっちゃうし、同じ理由で映画も芝居も苦手だった。いまは大丈夫だけど、何時間も座っていられなかったし。唯一読めたのが散文詩だった。短いと理解も出来たから。萩原朔太郎が大好きで、その後に寺山修司を好きになって、『ポケットに名言を』(※寺山が映画や歌謡曲からの言葉を集め編んだ箴言集)とか読んで。いまでも中原中也の言葉に感動します。詩人は大体みんな短命で、その儚さもひっくるめた美しさにも惹かれましたね。自分もそうやって早く擦り切れて死にたいと思っていた。その辺りが源泉じゃないかな。
――では日本語の音楽では?
難しいな……誰のどれというよりも、人生における孤独を描いたものが好きで。ハードコアパンクもそうだったし。そこは今でも変わらない。「TOSHI-LOWはやさしい歌を書くようになったね」と言われても、人が生きて死ぬということから逃げたことは一度も無いし。ただ、昔はネガティブ一辺倒だった捉え方が、いまはポジティブでもネガティブでもない“事実”と捉えられる知恵と術が身に付いただけ。
――萩原朔太郎や中原中也だってもしもっと長生きしていたら、もっとやさしい詩を書いていたかもしれないし。
でも、それを若い頃の俺はきっと受け入れなかったと思う。いまは他人の死に意味を感じる行為にも相応の学びがあると思うけど、一方で、いずれは自分も死んでいくし、生きるということは死に向かうための練習であるという考え方も昔と全く変わっていない。昔感じたことと、いま感じることの両方を出していきたい。だってさ、いいおっさんになってまで盗んだバイクで走ったりはしないじゃない?(笑) 俺、結構、言われて。「TOSHI-LOW、昔と変わった」とか。
――そんな事を言われるんですか?
言われる。俺に限らず長くやっている人は皆さん経験しているんじゃない? みんな自分の青春時代を大事にしたいし「あの頃のほうが良かった」という人はいつの時代もたくさんいる。でも、そう言ってくる奴には「鏡、見てる? お前だって歳くってんだよ?」と言いたいよ。別に俺が正しいとかじゃなくて、自分の理想を押し付けて人に粉かけてくるのは筋違いだろ?と。俺は昔が良かったなんて全く思わないし、有り難いことにいまが一番楽しいから。
――今回のアルバムの曲を聴くと、いまTOSHI-LOWさんはソングライターとして非常に豊かな時期にいると思います。「セラヴィ -c'est la vie-」や「懐かしい未来」のような優しくて力強い歌は誰でも書けるものではないですからね。
ありがとう。素直にうれしい。いまだに「TOSHI-LOWって脳味噌も筋肉」とか「腕立てしながら歌書いてるらしい」と思ってる人もいるみたいだけど(笑)。俺は自分個人に対する評価にもソロ活動にも興味が無いけど、それでも例えば弾き語りのスタイルでイベントに参加する経験を経なかったら「懐かしい未来」は生まれなかったと思うし……夏って、みんな好きじゃないですか。俺も好きだし。でも収穫の季節って秋なわけで。何となくだけど、いまの自分が秋の入り口に入っているような気はしていて。
――コロナ禍に続いて戦争も始まった。TOSHI-LOWさんはこの時世をどう受け止めてきましたか?
自分の中にはこの数年が特別だという気持ちはそれほど無くて。人間が百年近く生きるようになったらそれだけ多くの事が目の前で起こるというだけで。海沿いに住んで94歳で亡くなったうちのばあちゃんも、生前、よく「人間、これだけ生きていたら三回は津波が来るから」「私の人生、前半は戦争に遭ったけど後半は無かったから平和だった」と言っていて。どの時代にも疫病はあったし、日本の大津波も少なくとも100年に一回は来ていたわけで。身近に感じるかどうかの違いだけで、戦争もずっと続いてきた。愚かさもまた人間というか、「そりゃこんなこと繰り返していたら滅びかけるよ」という感想しかない。もちろん自分なりに声を上げたいことはこれからも上げていくけど。
――「懐かしい未来」という曲のリリックにも、そうしたTOSHI-LOWさんの視点であり、いまの時世の反映が感じられます。
「懐かしい未来」は、以前、取材で岩手県大船渡市の越喜来という街を訪れた時の経験から生まれて。震災直後、子ども達に復興した未来の故郷を絵に描いてもらうための遊び場を作ったおじさんがいた。大人たちはみんな子供たちがドラえもんに出てくるような未来の街を描くと思っていたんだけど、彼らの多くが書いたのは、津波で流される前の故郷の姿で。「未来があるなら僕らはもう一度この街を作りたい」。子供たちはそう言っていたと。その話を聞いて、俺なりに曲にしてみようと。自分の書き方としてはめずらしく先にテーマがあった詞で。
――普段はテーマ優先ではなく曲優先の書き方ですか?
さっきの言葉の話と同じで、曲も生まれたらすでに必ず何らかの風景を宿しているので。何度も聴いて、自分の心象のどことフィットするのかを必死に読み解く。その心象が懐かしいものなら古めかしい曲になるし逆ならば新しい感じの曲になる。
――今年はツアーも控えています。ここからのOAUとリスナーの関係性について理想とするヴィジョンがあれば聞かせてもらえますか。
OAUの音楽って、ある意味、想像力が働く人にしか響かない音楽だと思っているので。それはドラマきっかけで「帰り道」を聴いてくれた人もそれ以外の入り口から聴いてくれた人も同じだと思う。OAUを聴く人には曲を自分の心と結びつける豊かな想像力を持った人たちがむちゃむちゃ多いし、今後もそういう人たちが増えてくれたらと願うだけ。どのみち耳で聴いた音楽を情報や記号のような良し悪しでしか捉えられない人たちには無理な音楽だから。そうしたものでは計れない人間の可笑しみ、悲しみ、体温を俺らは音楽に込めているつもり――記号じゃない人間の心が生み出す物語を感じ取りたい。そう思ってくれる人たちに聴いてもらえたらうれしい。
取材・文=内田正樹 撮影=西槇太一
リリース情報
発売中
■初回生産限定盤(CD+DVD) TFCC-81013~81014
¥4,000(税抜)
DVD収録「New Acoustic New Year 2023/Billboard LIVE TOKYO (2023/1/21)」
■初回仕様限定通常盤(CD) TFCC-81015
¥3,000(税抜)
■完全限定盤(LP2枚組) TFJC-38116~38117
¥5,000(税抜)
※各形態の初回生産分には”OAU Tour 2023「Tradition」
ー”封入
01. Old Road
02. セラヴィ -c'est la vie-
03. 夢の続きを
04. Time's a River
*New Acoustic Camp 2022 テーマ
05. 世界は変わる
*映画「追想ジャーニー」主題歌
06. Homeward Bound
07. Blackthorn's Jig
08. 月だけが
09. Whispers
10. Family Tree
11. Linden
12. This Song -Planxty Irwin-
13. Without You
14. 懐かしい未来
*J-WAVE「HEART TO HEART」テーマ
初回生産限定盤DVD 全18曲
●OAU「New Acoustic New Year 2023」Billboard LIVE TOKYO (2023/1/21)
1. Apple Pie Rag 2. Thank You 3. Hold Your Head Up High 4. Follow The Dream 5. 夢の跡 6. 世界は変わる 7. Peach Melba 8. Again 9. Time’ s a River 10. Making Time 11. This Song -Planxty Irwin- 12 .Change 13. 帰り道 全13曲
●OAU「New Acoustic Camp 2022」(2022/9/17)
1. Old Road 2. こころの花 3. Peach Melba 4. Making Time 5. Midnight Sun 全5曲
Side A 1. Old Road 2. セラヴィ -c'est la vie- 3. 夢の続きを
Side B 1. Time's a River 2. 世界は変わる 3. Homeward Bound
Side C 1. Blackthorn's Jig 2. 月だけが 3. Whispers 4. Family Tree
Side D 1. Linden 2. This Song -Planxty Irwin- 3. Without You 4. 懐かしい未来
*33 1/3rpm
ツアー情報
・6/3(土)北海道 札幌サンプラザホール
開場17:00/開演18:00
・6/7(水)大阪 サンケイホールブリーゼ
開場18:00/開演19:00
・6/9(金)岡山 ルネスホール
開場18:30/開演19:00
・6/14(水)愛知 名古屋市芸術創造センター
開場18:00/開演19:00
・6/23(金)宮城 トークネットホール仙台 小ホール
開場18:00/開演19:00
・6/30(金)福岡 電気ビルみらいホール
開場18:00/開演19:00
・7/5(水)新潟 新潟市音楽文化会館
開場18:00/開演19:00
・7/8(土)東京 昭和女子大学人見記念講堂
開場16:30/開演17:30