ヒグチアイ × ハルカミライが運命の対バン、大阪『KOKOROMITAI』レポート

レポート
音楽
2023.4.25
ヒグチアイ×ハルカミライ

ヒグチアイ×ハルカミライ

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『KOKOROMITAI』2023.4.11(TUE)大阪・梅田CLUB QUATTRO

4月11日に梅田CLUB QUATTROでライブイベント『KOKOROMITAI』が開催。関西のコンサートイベンター・サウンドクリエーターが主催して、ヒグチアイとハルカミライという対バンブッキングで行われた。本番直前、第1回目という事もあり、サウンドクリエーター担当者が前説として、何故この2組をブッキングしたかなどを丁寧に話す。裏方なので人前で喋る事に慣れてないのは仕方ないのだが、緊張しながらも観客に一生懸命説明する姿は誠実でしか無かった。一見、ジャンルや客層が違う様に感じられる2組だけに、その説明を試みる姿は誠に重要だった。「KOKOROMITAI」=「試みたい」……このイベントを見事に言い当てた良きネーミングである。

ヒグチアイ

ヒグチアイ

ヒグチアイ

先行はヒグチアイ。無音の暗転の中で現れて、鍵盤の前に座ったヒグチは、ゆっくり左右の腕を絡ませて曲げて伸ばしている。首も静かに回して、まさしく戦闘態勢。静かな闘志を感じる。山本晃紀(Dr)、御供信弘(Ba)、ひぐちけい(Gt)というバンド編成であり、後方の山本を確認して、ドラムカウントから「やめるなら今」が厳かに始まる。

<わたしを信じてる おまえを信じてるから なんでも良い そのままで良いから 続けろ続けろ やめんなよ 続けようよ>

ヒグチの鍵盤にバンドがぴたっと寄り添った上での、この歌詞はとにかく刺さる。山本のドラムが叩きこまれ、「前線」へと続くが、バンドメンバーのサウンドからもビシバシと闘志が伝わってきた。照明も厳かであったり、鮮やかであったりと、その時々の音に合わせて輝き、より臨場感が増す。

「昔はよく(ハルカミライと)対バンしていたのに今は異種格闘技戦とか言われて。私は、初めてピアノの弾き語りで出たライブがHIP  HOPとHIP HOPに挟まれてたから、ジャンル分けの感覚が無くて、そういうものだと思っていたし。同じ音楽なのにまだ、そういう組み分けされるのかと思うけど、でも異種格闘技戦かもね」

我々聴き手、いや特に書き手は悪気なく気が付けば、異種格闘技戦なんていう言葉を使いたがる。もちろん同じ音楽なのは理解しているのだが、ジャンルや客層が少しでも違うだけで、ついつい異種格闘技戦と言ってしまう。でも、これは安易や短絡的ではなく、夢の戦であり、真っ向から闘志がぶつかり合う、真剣勝負を観れる喜びと興奮からの言葉でもある。本人も異種格闘技戦と踏まえた上で、「ハルカミライと再会できたのが嬉しい。その喜びを、みんなに知ってもらいたくて。みんなも楽しく聴いて下さい」と話しかけたのも素敵であった。普段ヒグチアイをよく観に来る観客も普段ハルカミライをよく観に来る観客も、良い意味で緊張感を持って見守っていただけに、このヒグチの導きは素晴らしかった。そして、改めて素晴らしき音楽の戦を観に来れたのだなと再認識できた。

静かに片手を挙げて、歌われた新曲「祈り」。彼女が常に聴き手を温かく鼓舞してくれている事がわかる歌詞であり、また多くの人に届くべき大衆的な歌であった。「ラジオ体操」では、泣きのギター、いや唸りのギターに痺れながら、ヒグチの情と念をしっかり受け止める。MCでは再度、ハルカミライとの関係性について話す。約10年前くらいに東京の八王子で一緒によくやっていて、凄く観客が少なかったにも関わらず、ハルカミライのライブは日本武道館でやるようになった今と何も変わらない事。観客が少ないなりのライブもある中、ハルカミライは観客が何千人もいるように感じるライブをしていた事。それが印象的であり、そういうバンドは他にいないと。だから今ハルカミライが武道館やアリーナでライブをしていても全くびっくりしないと。「直接言うのは恥ずかしいから、MCで言えて良かったです」と言った瞬間、舞台袖からハルカミライのメンバーであろう声で「ありがとうございます!」と元気な声でお礼の返事があったのも微笑ましくもあり美しくもあった。

「15年近くやっていると辞めていった人もたくさんいるし、辞める選択をする人も凄いと思っていて。でも、続ける事が正解であって欲しいと想っています。今日は幸せな日です」

辞める人を決して否定するつもりはない。でも辞めないで続けている人に陽の目が当たるならば、そんな幸せな事はない。なので、歌を歌う事への真っ直ぐ正しき執念が鍵盤のみで訴えかける様に歌われていく「備忘録」は、もう、ただただ聴くしかない……。浴びるしかない、凄みしかなかった。終わった後、自然に起きる拍手。初めてヒグチアイを聴く人々にも絶対に伝わったはずだ。残響の余韻に浸る。

ここで初めて座って鍵盤を弾いていた状態から立ち上がり、マイクを手に持ち、もう片方の手で音を表現しながら「悪魔の子」が歌われる。今まで以上に多くの人に聴かれるキッカケにもなった楽曲だけに、圧倒的な迫力で場を支配している事がわかる。ここからはラストスパート。ストレートでありテンポも少し速めの「まっさらな大地」。圧倒されて凝視するしか無かった観客たちの頭が少しづつ揺れている。確かなリズムを取っている。これぞライブの醍醐味であり、対バンの醍醐味。ラストナンバーを前に、ヒグチはハルカミライとまた何年後かに再会できたら嬉しいが、その歯車が合う瞬間は奇跡みたいな運命であるとも明かして、そういう奇跡みたいな運命みたいな日を、これからも大切に歌っていく事を誓った。

<誰も知らないメロディー うたい続けると誓うよ わたしのために>

「わたしはわたしのためのわたしでありたい」の歌詞がとてつもなく響く。わたしのために歌われた歌が多くの人に聴かれる拓けた歌になっている事が、目の前で確かめる事が出来たライブ。両手を挙げて観客に応えて小走りで去るヒグチ。輝かしき先攻であった。

ハルカミライ

ハルカミライ

ハルカミライ

静寂から何かが蠢き出す瞬間。そう感じさせる先攻ヒグチアイから後攻ハルカミライへのバトンタッチ。関大地(Gt)、小松謙太(Dr)、須藤俊(Ba)の3人が登場すると観客は大いに沸き、そこに橋本が登場すると、またもや観客は大いに沸く。真っ赤な短髪の橋本が体全体を大きく動かして踊る様に現れるだけで、ロックンロールの躍動を感じる。まだ音が鳴り始めていない中で、この躍動感を20代のバンドマンが醸し出せるのはドキドキとワクワクしかない。1曲目「君にしか」が勢い良すぎるカウントで始まり、「この町へ」と歌われるが、すぐ合間合間でメンバーが喋り出す。そして、また歌われるという瞬時の展開は観ていても凄く刺激的な緊迫感があった。

「よく来たね! この最高のツーマン観に来るなんてセンス良いよ!」

橋本の明るく楽しく的を得すぎたひとことで、なお一層この対バンが明るく楽しむ事が出来る。そして、いつの間にか曲は「ファイト!!」へと移り、関はスピーカーの上へと上り、橋本はマイクスタンドごと観客へと渡そうとしたりと劇的なひっちゃかめっちゃかに! 橋本は冒頭のサウンドクリエーター担当者の硬過ぎる前説をイジリ、その担当者にコール&レスポンスで威勢良く叫ばせて、「こういう感じでいきましょう!」と叫ぶ。関は凄い速さの助走をつけて下手から上手へギターを弾きながら前転したりと、とにかくめまぐるしい展開。でも、不思議なくらいに心地良い。

「初めて俺たちの事を観る人はおひきになってるかも! でも自分で言うけど、俺いい奴なんで、いい奴がやってる音楽はいい音楽!」

これまた端的に橋本が言葉で表現する。激しく楽しみ過ぎてスマホを落とした人がいれば、拾って持ち主を探して、観客に託して持ち主へと返す。持ち主にはスマホを渡してくれた観客への御礼も促す。それこそ橋本はいい奴であるし、ライブ前半を観ているだけでも伝わってきたが、当たり前の話ではあるものの、彼らは勿論シンプルに荒々しいだけではない。既に先述したが、喋りを挟んだり、カウントのみであったり、瞬時の曲繋がりは繊細緻密であるし、それを繊細緻密に一切感じさせないワイルドさが驚異的である。そして、「predawn」などメロディックなのも惹きつけられる要因であろう。「世界を終わらせて」など観客が一緒に歌えるという、つまりはシンガロング出来るのも、観客にとっては堪らないはずだ。橋本は初見の観客に対して、「USJのアトラクションだと思って楽しんで!」と言っていたが、この体感的ライブを、それもコロナ禍で通常通りライブが楽しめなかった長い期間を経た今楽しめるのは、待ち侘びた観客にとっては至福の時間である。

「俺ら金が無い時、打ち上げでピザを奢ってくれたのがヒグチアイで。ヒグチアイと呼ぶのは、イチローや大谷翔平と呼ぶのと一緒でさ。俺にとっては、そういう人です。あの人も言っていたけど、再会が嬉しい。コロナ禍でライブが出来なくて、ウジウジしていた時にヒグチアイを聴いていて……。その時によく聴いていた曲があって」

<ゴーストレート さよならじゃない>と歌い出す橋本。ヒグチアイの「まっすぐ」を、その通りまっすぐ歌い出す。ヒグチとハルカミライの関係性は、ヒグチのライブを観て重々理解していたが、ハルカミライのライブを観て、また重々理解できる。出逢って約10年で初めて対バン(ツーマン)が出来た喜びを打ち明けて、ヒグチの様に、またお互いの歯車があった時に対バンをやりたいと心から願って語る。「また歯車が合った時にピザ食おう!」という呼びかけも、茶目っ気があって可愛らしくて魅力的だった。

終盤に入っているのに、ヒグチへの想いが溢れだしてか、ヒグチの話が止まらない。久しぶりに逢ったら普通は「元気?」とか聴くはずが、ヒグチの場合は「メンバー間、ギスギスしてないの?」と聴いてきてやはり変わってるなと思ったなどと話しは続く。実際、メンバーからは、昔ギスギスしていた時に唯一メンバー間で交わした言葉が「ヒグチアイ新譜出た! 『全員優勝』だって!」だった事が振り返られる。心から懐かしがって楽しんで話しているから、聴いている身も思わずニコニコしてしまう。初めて聴いたヒグチアイのアルバム『三十万人』のジャケットイラストがかっこよくて、そこからハルカミライのアルバムは同じ人に描いてもらってる事など裏話も知る事が出来た。これだけ繋がってる二組は必ず歯車が合うに決まっている。もう次の対バンが観たくてどうしようもない。

ラストナンバーは、八王子でヒグチと一緒にやった時に歌われたという「ヨーロービル、朝」。当時を観ていたわけではないのに、何も知らないはずなのに、歌に耳を傾けていると、その時の情景が思い浮かんでくる気がした。ハルカミライのヒグチアイへの10年に渡る想いが、聴き手にも完全に伝わった……そんなライブ。

「ライブハウスで吸って吐く息が一番うめーよ!」

最後の橋本の言葉。誠にその通りでしかなかった。ヒグチアイとハルカミライ対バンのライブハウスで吸って吐く息が一番うまい。なので、また、この奇跡的な運命の対バンを是非とも試みて欲しい。

取材・文=鈴木淳史 撮影=日吉”JP”純平

イベント情報

『KOKOROMITAI』
日程:2023年4月11日(火)
会場:大阪・梅田CLUB QUATTRO
出演:ヒグチアイ、ハルカミライ

ツアー情報

ヒグチアイ
■『HIGUCHIAI band one-man live 2023』

・5月13日(土)名古屋 SPADEBOX
・5月19日(金)大阪 心斎橋 BIGCAT
・6月11日(日)東京 渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール

ツアー情報

ハルカミライ
■Zeppワンマンツアー「ヨーロー劇場2023 - FLOWER JOE -」
・4月30日(日) Zepp Fukuoka
・5月12日(金) Zepp Osaka Bayside
・5月13日(土) Zepp Osaka Bayside
・5月26日(金) Zepp Haneda
・5月27日(土) Zepp Haneda
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