ミン・ウヒョク、日本初上陸ミュージカル『ベン・ハー』は「特別な経験ができた作品」ーー『BRANDON LEE コンサート』インタビュー第2弾　

韓国で最も愛された創作ミュージカル『フランケンシュタイン』と『ベン・ハー』の楽曲を、出演俳優の歌声とともに堪能できるコンサート『BRANDON LEE ミュージカル シンフォニー コンサート』が、6月17日（土）に東京の文京シビックホール、6月19日（月）に大阪のフェスティバルホールにて開催される。出演キャストインタビュー第1回のパク・ミンソンに続き、第2回は東京公演に出演するミン・ウヒョクが登場。

今回インタビューに応えてくれたミン・ウヒョクは、長身で舞台映えするルックス、厚みのある歌声に演技力まで兼ね備え、数々の大作で主演を務める韓国ミュージカル界には欠かせない人気俳優だ。

近年その活動は舞台にとどまらず、人気歌番組で圧倒的な歌唱力を披露すれば、トークバラエティ番組では気さくな親しみやすい姿を見せお茶の間でも大好評。マルチタレントとしても大活躍中の彼だが、プロ野球選手から歌手、そしてミュージカル俳優になったという異色の経歴の持ち主なのだ。

「僕は元々プロ野球選手だったのですが、負傷して引退しました。野球の次に得意だったことが歌だったのです（笑）。僕が歌うと、周りの人たちがとても喜んでくれたんですよ。それで人々に楽しさを与える歌手になろうと思って活動していました。その時、偶然ミュージカルという新たな世界を知って出演を始めたら、単に歌うだけではなく、作品がもつメッセージを伝えるという職業だと分かったんです。そこに魅力を感じてミュージカル俳優として活動を続けてきました」

ミュージカル俳優としてデビューしたのが2013年、30歳のとき。劇場街、大学路（テハンノ）の小劇場作品などで経験を積み重ねていた彼にとって大きな転機となったのが、2015年に韓国キャスト版が再演された『レ・ミゼラブル』だった。マリウスと共に市民革命の先頭に立つアンジョルラスを堂々と単独キャストで演じきり、一気に俳優としての評価を上げたのだ。

「これまで出演したなかで一番印象に残っている作品はやはり『レ・ミゼラブル』です。僕はこの作品のテーマを、人が生きていく上での「希望」だと捉えています。最後にアンジョルラスが死ぬ前に、負けると分かっていてもバリケードの上で命賭けで旗を振るシーンがあるのですが、毎回毎回演じるときは鳥肌が立っていましたね」

『レ・ミゼラブル』出演後は、『ウィキッド』のフィエロ、『アイーダ』のラダメスと、ミュージカル俳優ならば一度は演じてみたいはずの大役に次々と抜擢。そして今回のコンサートで披露される『ベン・ハー』『フランケンシュタイン』に主演と、トップ俳優への道を一気に駆け上がっていった。

「『ベン・ハー』は一言で表現するならば復讐劇です。英雄譚をモチーフにした作品なので、勇壮かつ、ストーリー展開が早くて時間があっという間に過ぎてしまうような、緊張感がある作品です。2017年の初演ではメッサラを、2019年の再演ではベン・ハーを演じました。実は初演のとき、メッサラについてちょっと理解できない部分がありました。どれほどの野望や憎しみをもてば、大切にしなくてはならない親友に対して、自分の身分のために裏切れるのか？　そんな大きな野望を抱いた人物を演じなくてはならなかったんです。でも再演でベン・ハーを演じることになって、ようやくメッサラがなぜそこまでやらなくてはならなかったのかを理解できるようになりました。なので僕にとっては、とても特別な経験をすることができた作品です。メッサラを演じていたので、ベン・ハーを演じるときにとても助けになりました。両方ともとても魅力的なキャラクターだと思います」

今回のコンサートを率いる、作曲家BRANDON LEEことイ・ソンジュン音楽監督との初仕事が『ベン・ハー』だったという。

「イ・ソンジュン音楽監督の楽曲を初めて聴いたとき、作品についてまだよく知らない状態だったにもかかわらず、すべて分かったような感じがしました。場面ごとの曲の繋がりがとても自然で、展開されるエピソードが音楽でよく表現されているので、演じる上でも感情を維持するのにとても役立ちました。『ベン・ハー』はいかにもミュージカルらしい音楽が一番の魅力になっている作品だと思います」

一方、2018年、2021年と出演した『フランケンシュタイン』では、生命創造実験に没頭する科学者ビクター・フランケンシュタインを演じ、カリスマ性溢れるなかにジェントルな甘さも漂わせた彼ならではのビクターが評判となった。

「『フランケンシュタイン』の魅力は、「ブロマンス（熱い友情や強い絆で結ばれた男性同士の関係）」と言えると思います。ビクターの最も大切な友人であるアンリ・デュプレが亡くなり、彼を蘇らせるために、生命を創造する実験をしますよね。大切なものを守るためにやったことが、逆に呪いとなってしまうという物語です。人間の身勝手さや欲望など、演じながらとても多くの感情が湧き上がってきた作品でした」

イ・ソンジュン音楽監督が作曲した『フランケンシュタイン』の曲世界にもかなり魅了されたという。

「この作品への出演が、イ・ソンジュン音楽監督の音楽性を尊敬するきっかけになりました。生命の創造主（＝ビクター）が、大切な人たちを殺したりするシーンもあるので、そういうグロテスクな感じも巧妙に表現された曲になっているのです。それに悲しいシーンでは雨が降ったり、いろいろなシチュエーションがあるのですが、ミュージカルは舞台作品なので、どうしてもできることに限界があるんですね。それをイ・ソンジュンさんは音楽で、すべて表現する能力があると思います。僕たちが普段の生活で聴くようなノイズまでも、楽器を通して繊細に表現されるんです。シーンごとに登場人物たちの感情も音楽でうまく表現してくださるので、演じるときにもとても助かっています」

『フランケンシュタイン』も『ベン・ハー』も深い思い入れがあるだけに、作品世界を歌だけで披露するミュージカルコンサートでは、独自の工夫をしているそうだ。

「舞台では演技しながら、感情の動きを少しずつ積み重ねて起承転結のストーリーをお見せしていますが、ミュージカルコンサートは、劇中のハイライトシーンを披露するものだと思うので、そのシーンで見せなくてはいけないものをすべてその1曲に込められるよういつも努力しています。今回は尊敬するイ・ソンジュン音楽監督の作品で、とても愛着のある2作品の曲を歌わせてもらいます。そしてとても会いたくてもなかなか会えず、行くたびにとても素敵な思い出をくださる日本のファンの皆さんとの特別な時間になると思います」

彼の来日は、イ・ジフン、ソン・ジュノ、チョン・ドンソクとの4人で開催した『ファンタスティック・ミュージカルコンサート2018』以来、約5年ぶりとなる。

「あの時のコンサートでは、日本のファンの方々が、僕たちが歌う曲を一生懸命聴こうとしてくださる、その姿勢がとても印象的でした。コンサート中、僕たちが舞台から降りて客席を回りながらハグしたりしたんですが、ファンの皆さんの反応がとても面白かったし、ものすごく楽しかったという記憶が残っています。ただ歌を歌ってお見せするのではなく、僕ら俳優たちと、観客が一緒に楽しめた本当に良いコンサートでした。こういうコンサートもまた出来ればいいなと思っています」

今回、彼が出演する東京公演にはKAIとパク・ミンソン。大阪公演には前述の2人にユ・ジュンサンも出演と、2作品の主演俳優たちがズラリと揃っている。昨年10、11月に韓国で先行開催された同コンサートでも実現していない豪華共演だ。

「本当に大好きな俳優たちです。他の作品でも共演したので、何も言わなくても舞台で一緒に息の合った演技ができる方たちです。今回ご一緒するのは『フランケンシュタイン』と『ベン・ハー』の作品世界を最もうまく表現できて、素晴らしい歌声をお持ちの方ばかりなので、日本のみなさんは期待してくださって良いと思います。僕自身もとても期待しているんですよ。あとは僕さえしっかりやれば成功すると思います（笑）」

『フランケンシュタイン』日本版でアンリを演じた加藤和樹との共演を期待している方も多いだろう。

「まだ写真を見ただけですが、僕とちょっと雰囲気が似ていませんか（笑）？　加藤さんはアンリ役だったそうですが、ビクターを演じても似合うかもしれませんね。実は、僕は当初アンリ役にキャスティングされていたのです。オーディションを何度か受けていたなかで、演出家さんが「ビクターもイケるかもしれないね」とおっしゃって、ビクター役に変わったんですよ。それもあって加藤さんと日本でお会いできるのをとても楽しみにしています」

「日本に行くたびに良い思い出がたくさん残っています」というミン・ウヒョク。「これからもっと日本で公演ができるといいな」とも話していた。

「今回のコンサートはとても特別で、日本のファンの皆さんに感謝できる機会にもなると思うので、ワクワクしながら準備しています。特に『フランケンシュタイン』は日本版もとても好評ですよね。なので『フランケンシュタイン』と『ベン・ハー』を日本の方たちがさらに愛してくださるように頑張りたいと思っています！」

現在、韓国では出演ドラマ『医師チャ・ジョンスク』が大ヒット中。ミン・ウヒョク扮するアメリカ育ちのエリート医師ロイ・キムは、専業主婦から医師を目指して社会復帰しようと頑張るアラフィフのヒロイン、ジョンスクを常に優しくサポートする素敵な役柄。その究極の見守り男子ぶりが好評で、視聴者を虜にしているのだ。日本でもNetflixの配信を観てハマっているドラマファンは多いはず。今回のコンサートは、劇中でロイ・キム先生が披露していたような美声をじかに聴くことができる、またとないチャンスにもなるだろう。

文＝さいきいずみ（韓劇.com）　撮影＝オフィシャル提供