それぞれの思いが楽曲の翼に乗って飛び立つ 『sings ジブリ』コンサート第二弾開催~これからの人生を支えてくれる、音楽の力が紡ぎだす美しい光景があるはず

コラム
クラシック
2023.6.8


島本須美、井上あずみ、角野隼斗、菊池亮太による歌とピアノのスペシャルコンサート『sings ジブリ』が、2023年7月17日(月・祝)東京・東京国際フォーラム ホールAで開催される。

『sings ジブリ』コンサートは、スタジオジブリの設立者でもある宮崎駿監督のあまたある傑作映画を、心に深くしみこむ音楽で彩り、作品のテーマや世界観を提示しつづけてきた作曲家・久石譲の名曲の数々を、歌とピアノでお届けするコンサート企画。昨年2022年4月から6月にかけてコンサートツアーが初開催された(出演:島本須美、麻衣、角野隼斗、菊池亮太)。

『風の谷のナウシカ』の「ナウシカ・レクイエム」、『魔女の宅急便』の「海の見える街」、『天空の城ラピュタ』の「君をのせて」などなど、世界で愛され続けているジブリワールドを象徴するのはもちろんのこと、作品からある意味で一人立ちを果たし、スタンダードな名曲としても広く親しまれているジブリメロディーを、音楽として楽しもうという趣向のコンサートだ。

第二弾の開催を前に、2022年の模様を振り返り、その見どころをお伝えしよう。

島本須美/井上あずみ/角野隼斗/菊池亮太による歌とピアノのスペシャルコンサート「sings ジブリ」スペシャルゲスト 加藤登紀子 CM動画

音楽の力を信じた美しい構成

特に、2022年のコンサートツアーで感じたのは、こうした映画音楽を、オーケストラの生演奏で楽しもうという企画とは、ひと味違った歌とピアノのスペシャルコンサート 『sings ジブリ』の持つ、演奏者の顔と個性が、楽曲の素晴らしさと共に舞台に弾ける楽しさだ。

例えば、2022年のコンサート初日には、スクリーンに映像も映し出されていたが、ジブリ映画の名場面を次々と見せて、視覚からもその世界に誘おうという趣向ではなく、山々や、海と空といった自然の光景を象徴的に映し出すものだったのが印象深い。それによって、この音楽で思い出すのはこの場面ですよね、と敢えて特定しないからこその、聞く人それぞれの心のなかに広がるジブリ映画の場面や、さらに映画を観た時、音楽を聴いた時の、百万人なら百万通り、一千万人なら一千万通りあるその人だけが持つ思い出の情景にひたることを許してくれる、音楽の力を信じた構成が美しい。しかも、基本的にはピアノ二台で綴られる音楽が、時にはソロ、時には角野隼斗、菊池亮太の ”競演” と言いたいセッションによって奏でられることの、ピアノという楽器の可能性も感じさせてくれる。

【ルパン三世】カリオストロの城より/サンバ・テンペラード/大野雄二 Cateen×Ryota Kikuchi

「ナウシカ・レクイエム」では微かに遠くから響く繊細な音、一転して「もののけ姫」ではフルオーケストラの全ての楽器の音域を、実は1台でカバーできるピアノの特性を生かした、菊池渾身のアレンジによる大迫力の演奏が壮大なスケールで届けられる感動に心震えた。

『ハウルの動く城』の「人生のメリーゴーランド」では、角野がピアノの譜面台位置に置かれた鍵盤ハーモニカを用いて右手でメロディーを、左手ではピアノ鍵盤で伴奏をという、一人で二つの楽器をあやつって、楽曲に相応しい素朴な音色を際立たせたし、『魔女の宅急便』の「海の見える街」ではこのコンサートが初挑戦だったというボタンアコーディオンで粋にメロディーを奏でる角野と、菊池のピアノによる会話のような音の掛け合いが展開される。

更に2コーラス目からは角野もピアノの前に位置し、それぞれのピアノでの大競演に発展していく構成も発想も豊かそのもの。ピアノが弾ければアコーディオンは弾けるでしょう?と軽く言われることもかなりあるが、鍵盤が縦になっていることだけでもプレッシャーは大きい上に、両者は言うまでもなく全く違う楽器。そこに果敢に挑戦していくチャレンジ精神と、この楽曲を観客にどう届けたいか、を最大限に優先する姿勢が頼もしかった。

人の声と歌声が届ける温かさ

だからこそ、島本の歌声と、台詞の声を大切に、大切に扱っている姿勢もよくわかり、楽器としての「声」の素晴らしさを伝える楽曲の展開は見事だったし、島本がヒロイン役を声で演じていることを媒介にして、2幕冒頭に用意された『ルパン三世 カリオストロの城』からの「ルパン三世のテーマ~サンバ・テンペラ―ド」も全く自然にジブリコンサートのなかになじんでいく。

なんと島本と作品中で最も有名な会話を再現して見せた菊池が、大野雄二の名旋律を弾き、やがて角野との二台ピアノで、サンバのリズムで繰り広げられるセッションは切れ味鋭いこれぞ名手の掛け合い。椅子から立ち上がるようにして演奏する場面も、決して華やかに見せるだけの目的ではなく、そうすることによって鍵盤を走る指に自身の体重が乗って、更に音に力が増すことをわかっている二人による、グリッサンドを多用した音と音との自由な飛翔がヒートアップした様は忘れられない時間になった。この熱さがあるからこそ、島本の未だ透明感と少女性を失わない、清らかで温かい歌声をより高みへと飛翔していく感覚も心地よい限り。

「炎のたからもの」 島本須美/角野隼斗/石若駿(ワーナーミュージック・ジャパンより)

>NEXT 音楽の力が紡ぎ出す未来へ

シェア / 保存先を選択