「続けることに意味があるんじゃなくて、続けたら有利になるだけ」MOROHA、最新アルバム『MOROHA V』から紐解く、結成15年の成長と変化
MOROHA 撮影=大橋祐希
バンド結成15周年を飾る5thアルバム『MOROHA V』が完成した。今作は2018年のメジャーデビュー後、コロナ禍、日本武道館公演(※1)、そして現在までの道程を示したような1枚となっている。これまで唯我独尊を極める孤高のバンドとして、自分や他人に対してもファイティングポーズをとっていた2人は今、バラエティー番組で芸人や人気タレントと交じって、画面の中で見ることも多くなった。一体、どういう気づきや発見があって今の彼らがあるのか。楽曲をヒントに2人の内面的な成長と変化を追った。
「これまでナシだったことを、アリにしていく」
アフロ:『逢いたい、相対。』(※2018年からSPICEにてスタートした、アフロの連載企画)で、俺の話は聞き飽きてるでしょ?
UK:そろそろ嫌気がさしてるよね。
ーー毎回やり甲斐を感じながら、書かせていただいてます(笑)。
アフロ・UK:ハハハ!
アフロ:じゃあ、よかった。今日はお願いします。
ーー今、話に出た連載のことからお聞きしたいんですけど、永積崇さんと対談(※2)をされた時に「俺は今、これまでナシにしていたことをアリにしてる最中なんです」と言ってましたね。それって、例えばどんなことですか?
アフロ:バラエティー番組の出演もそうだし、もっと言えば芸人さんとのツアー(『無敵のダブルスツアー』)が実現したじゃない? そこでランジャタイとすごく仲良くなったし、たくさん話をするようになってさ。信頼に足る人たちだと思えたから、いただいた企画に対して、MOROHAの看板を預けられる関係を築けるようになった。それまではちょっと怖かったもんね?
UK:そうだね。
アフロ:向こうも、まだ俺たちのことをちゃんと知らない状態だから、ただただパッケージングとか音楽性だけで(MOROHAの看板を)お預けすると、俺らもどう扱われるのか分からない。そういう状況から、自分たちのやってきたことによって不安が払拭されて、ナシだったことが解消されて行った。「任せるから、煮るなり焼くなり好きにしていいよ」という信頼関係を築けたね。
ーーそれで言うと『ランジャタイのがんばれ地上波!』は新鮮でした。アフロさんが笑いを交えたエピソードトークを披露したこともそうですし、もっと新鮮だったのはUKさんがMOROHAの曲を演奏して、そこに芸人さんが替え歌を乗せたこと。特に替え歌はめちゃくちゃ良かったですよ。ただ、たとえ相手が好意的だとしても、自分たちの曲をいじる企画には違いなくて。それを受け入れたのも、ナシだったことをアリにする行為なのかなと。
UK:もともと、俺もアフロもポップな人間なんだよね。陽キャではないけど、どっちかと言えばそっちにいたい人たち。ああいう現場は、とにかく人として楽しいかが求められるというか。それに『ランジャタイのがんばれ地上波!』の企画は、MOROHAじゃないと多分無理だったし、MOROHAを軸に料理してくれたのが嬉しかった。そういう機会をたくさん増やせていけたらいいなと思ってる。変化の話をするなら、ライブでゲスト(招待客)を呼べるようになったことも、ナシをアリにした感じがする。今まで呼んでこなかったから、それも大きいかな。
ーー知り合いを招待するようになったのは、どういう心境の変化ですか?
アフロ:去年2月に武道館でワンマンをやった時、俺はライブに招待するリストの数が本当に少なくて。友達も数えるぐらいしか来てないし、同業者なんてもっと少なかった。振り返ると、池袋のBedで初めてレギュラーイベントを持った時に、最初の方は周りの友達みんな学生だったから、声をかけたら来てくれた。「俺らはお客を呼べるんだ」と思っていたんだけど、就職とかそれぞれの事情が入ってきてパタっと来れなくなるわけよ。そこで「お客を呼べていたわけじゃなくて、友達に来てもらっていただけだった」と思い知るんだ。それが結構凹む経験でさ、つまり全然プロじゃなかったんだよね。自分らの音楽に値段をつけて、お金を払いたい人たちが出てきてからが、ちゃんとしたプロなんだって気づいた。それが原体験になっていたから、友達に頼らず、純粋なお客に来てもらいたいという想いの結晶が、俺にとっては武道館だった。
ーー実際、自らMOROHAのを買った満員のお客さんの前でライブをされましたね。
アフロ:ライブを終えて帰ってる時に「プロとしてはよかったけど、果たして人間としては豊かな生き方なんだろうか」と思った。自分の晴れ舞台に、友達が全然来ない。そっちの角度から見た時に「もしかしたら寂しいことかもしれない」って。それで、ここからは自分を耕してみようと。そういう部分での幸せも追求しようって、俺は思った。UKはどんな感覚なの?
UK:それもあるけど、素直に呼びたいと思うようになったね。きっと武道館以降で心に余裕ができたのかな。ライブの自信が友達に繋がったのかもな、と思う。俺もそこが節目だったので、1つ角が丸くなって転がりやすくなった。
アフロ:ランジャタイの話とも繋がるかもね。頑張ってきたおかげで、別の道で頑張ってきた人と知り合えるようになった。そこの人と気心が知れると、仕事の方も相手に自分を預けられるようになってくる。そういう広がりを知ったから、友達に声をかけられるようになったし、いい意味で「仕事に繋がっていくんだな」という実感があるのかもしれないね。
「俺が俺を見て、人間的に思う素敵さじゃなかった」
ーーこれは「角が丸く」とは違うかもしれないですけど、平成ノブシコブシの徳井健太さんと対談(※3)された時に、アフロさんが「『Love music』に出て、Creepy Nutsと自分たちの見られ方が違うことに悔しさを覚えた」と言ってましたね。以前だったら、同業者に対して悔しいなんて言わなかった気がして。
アフロ:元を辿ると、『ニートtokyo』の俺が可愛くなかったんだよ。
ーーあの頃のアフロさんだったら、絶対言わなかったですよね。
アフロ:そうだよね。「好きなHIPHOPアーティストはいますか?」と聞かれて「いません。言ったら負けを認めたみたいじゃないですか」と言った自分を映像で観て「俺、こいつのこと全然好きじゃないな」と思ったんだよね。何かに囚われているな、と最初に気づいたのがそこだった。「自分は生まれながらのオリジナルで、いつだって唯一無二で無敵。何かに嫉妬したり影響を受けたりなんてしない」と言うのが本当か?と言ったら、楽曲では真逆のこと言ってるわけじゃん。だから自分の中で、憧れがあったんだと思うんだよ。そんな振る舞いを映像として観た時に、全然いいもんじゃなかった。『ニートtokyo』の映り方はエンタメとして見たら面白いけど、俺が俺を見て、人間的に思う素敵さじゃなかった。それが大きかったかも。そこを自分の中で解釈して、体現していくのに時間がかかったね。
ーーてっきり、アフロさんが「勝ち負けじゃないと思えるもの」を見つけたから、悔しさを口に出せるようになったんだと思いました。
アフロ:いや、むしろ勝つためにそこにいちゃダメだと思った。まだまだ勝ち負けの中にいるよ。いるけど、俺たちが勝利を手にするためには、あの鎧を脱がなきゃ勝てないと思った。
ーー鎧を脱いでみてどうでしたか。
アフロ:実験の結果、自分のことをどんどん好きになってる。で、周りにも好かれてる感じがする。だって、肯定的に考え始めてから、目に見えて仕事が増えてない?
UK:そうかもね。
アフロ:ハッキリとは分からないけど、なんとなくいい流れが生まれた気がする。
UK:俺はアフロといつもいるからアレだけど、一緒にいてもやりやすくはなったね。「それって、どうしても突っぱねるところ?」と思う場面も度々あったけど、そういうのが減ったなって感じることが多くなった。
ーーそれはどのタイミングで?
UK:やっぱり武道館後かな。もしかしたら、あそこで自分の受け取り方も変わったのかもしれない。アフロが言った通り、それ以降で仕事も増えたしね。
ーー武道館の話で言うと、アフロさんが涙を流す場面がありましたよね。あの瞬間、般若の面を取って鎧を脱いだように見えました。
アフロ:あぁ、そっか。でも、そういう象徴的な言葉だったね、あの時に発したことって。
ーーあの涙って、今になると何だったと思いますか?
アフロ:「俺が俺の芯を食ったな」と思ったからグッと来た。今まで言ってこなかったけど、これって俺が本当に思ってることだなと思えた時に、自分の心が震えた。これまでお客に対して「あんたらは友達でもないし、家族でもない人たちだ。俺らが頑張ってここに立てたことと、あんたらが達成感を感じるのは全く話が違う」「お前らはお前らで、俺たちは俺たち。(会場に来てくれた)みんなが友達だ、なんてウソくさいMCはしねえよ」と言ってるのと、武道館の「ここにいるのは俺たちのファンじゃなくて、自分のファンになりたい人だと思う。俺もそうだよ」って、同じことを言ってるんだよね。ただ、言い方が違うだけ。たまたま、俺のモード的に後者になった。それをなんとなく避けてたところは、確かにあったかもしれないね。でも、やってみたら悪くなくてさ。今もその感覚を継続して、人と向き合ってる。
<あなたの名前を呼びたくなる曲 それを略した言葉が名曲>というフレーズは、実はずっと温めていた
MOROHA アフロ
ーー覚えているのが、2019年に新宿のタワーレコードで『MOROHA IV』のリリースライブをした時、涙が交じったような声で「五文銭」を歌っているのを見て「この人はなぜ、こんなにも苦しいんだろう」と思って聴いていたんですよ。だからこそ、武道館公演で感涙した後の「六文銭」を聴いて、アフロさんが一つ救われたような感じがして嬉しかったというか。この人はついに報われたんだなって。
アフロ:その感覚をお客も持ってくれてるとしたら、嬉しいね。そういう関わり方をしたいと思って音楽をやってるから。
ーー「六文銭」を作ったことで、何より武道館であの曲を歌ったことで、自分の中で何かが完結した感じはありましたか?
アフロ:「二文銭」を作った時から「六文銭を作る時は武道館だな」と言ってたの。で、歌詞の中に「待たしたな 九段下 日本武道館」と書いて、本当に武道館で歌ったから、物語としてはすごく綺麗に終わったよね。文銭シリーズの物語としては。
ーーそうですね。
アフロ:「達成感みたいなものを感じたんじゃないか」と、みんなは思ってるでしょ? ただ、俺たちの音楽は続くし、続けていかなきゃ食いぶちの意味でも、生きがいの意味でもこれから大変だから。それを受けて俺がどんなアンサーをするかって、きっと次のアルバムとか楽曲の指針になっていくと思う。
ーーちなみに「文銭シリーズはこういう曲調」とか「こういう楽曲」というルールはありますか?
UK:その時の自分たちを歌う曲だから、各々のルールは多少あるかもしれないね。俺で言えば、自分の出来うる集大成を出す。毎回それを更新して行こうって気持ちでは作ってはいる。
ーーサウンド的な共通ルールは特に?
UK:うん、ないかな。「二文銭」からずっとストイックな曲調だったけど、別に優しい曲でもよかっただろうし。でも、そっちを選ばなかったのは、それをお互いに求めていただけで、決まっていたルールじゃないね。
アフロ:作詞では1つだけ許してることがあって。文銭シリーズに関して、俺たちの歴史を追っている人だけが分かるフレーズが入ってても、よしとする。それ以外は、全部ファーストアルバムだと思って作らないと、広く届かないと思ってるんだ。ラッパーは自分の歴史を歌いがちじゃない? でも、歴史を知らない人たちを無視することになりかねないという危機感が、俺は他の人と比べても結構強い方だと思っていて。
ーー文銭シリーズに関しては例外ということですね。
アフロ:うん。逆に「六文銭」を「THE FIRST TAKE」でやったのは、これまでついてきた人たちに対して「こういう場でギフトとして送るぜ」、初見の人に対しては「もっと遡ってイチから聴いたら、この曲の理解度がさらに深くなるよ」と掘り下げてほしい願いがあった。
ーー「あなたがいた だから名曲」というフレーズは、最初からこの言葉を入れるつもりだったのか、それとも書いていく中で出てきたのかだと、どうですか?
アフロ:「あなたの名前を呼びたくなる曲 それを略した言葉が名曲」というフレーズは、実はずっと温めていた。結構前からあったんだけど、それを肉付けするだけのリリックが書けなかったから、ここまで眠っていた。もっと言えば、実感が足りていなかったんだよね。
ーーその実感が「六文銭」で得られた。
アフロ:うん、武道館でやるタイミングで全部綺麗に出揃った。そういう意味では不思議だよね。自分たちでもそこに向かって行ってる感じがするし、導かれてる感じもするし。
ーー新曲「ネクター」のことも聞きたくて。これまで家族が登場する歌には「上京タワー」「遠郷タワー」さらに「恩学」があって。どれもが温かい家族の風景や言葉を歌われていました。特に「恩学」に関しては、「こんな家族だったら良かった」という理想を描いた歌ですよね。その点「ネクター」は、家族が崩壊していくドキュメントであり、それを歌うことはアフロさんにとって禁忌だと思っていました。
アフロ:じいちゃんが亡くなったったのは、でかかったね。生きてるうちは悪いなっていうのがあって。年齢的な意味合いでも35歳になったし、願いばっかり書いててもと思った。あったことをなかったことにするのって、俺は好きじゃない。あったことはちゃんと残したい。いる存在をいないものにするのと、同じような感覚なんだよ。だから描きたいとずっと思ってた。もしかしたら、親父が心を入れ替えて働き始める描写も、本当にそう思えるようになったから書けたわけで。完全に崩壊する様だったら、気持ちは別として、もっと前に書けたかもしれない。でも「ネクター」って崩壊だけではなくて、それを収束させようとする、みんなの健気な姿があるじゃない? それもちゃんと見届けて、曲に落とし込めるようになった状況や歌えるスキルも含めて、このタイミングだったのかもしれないね。
ーー「ネクター」を作っていた時のことは覚えていますか? どういう状況だったりとか、何を思ってこのメロディーにされたのかって。
UK:「これで行こう」と決まった瞬間は覚えてるけど、なんでこのメロディーが出たのかは分からないかな。いつものことだけど、煮詰まって煮詰まって「もう分かんねえや」となって、結局いいメロディーを探しても見つかんないなって諦める限界のところで、やっぱり出てくるんだよね。ずっとその繰り返し。でも、そこが組み合わせで化けることがあるから、その瞬間はよく覚えてるね。アフロのリリックが乗った時に「あ、こういう顔色になるんだ」と思った。
「感情から湧き出るメロディーなんてないんだ」と思った
MOROHA UK
ーーUKさんに聞きたかったことがあって。「チャンプロード」「0G」などのギターをかき鳴らす曲は、殺気や凄みというオーラを纏っている印象なんですね。それに対して「エリザベス」「花向」「主題歌」「ネクター」「俺が俺で俺だ」はテクニカルより、音だけでも物語性があるというか、情景が浮かぶ。バラードを作るときに、頭の中で何か映像が浮かんでいるのかとか、このメロディの源流は何かを聞いてみたいです。
UK:俺の中にある、本当の根源はhideなんだよ。いや、hideというよりもメタルだね。X JAPANとかの“泣きメロ”と言われるジャンルが好きだったから、いわゆる自分にとってバラードの根っこはそこにある。MOROHAの(バラードの)根源という意味で言うなら、2ndアルバム(『MOROHA Ⅱ』)の「ハダ色の日々」。あえて言うけど、アレを作る時に「よし、魂を売ろう」と思ったの。
ーー魂を売る?
UK:どういう意味かっていうと「感情から湧き出るメロディーなんてないんだ」と思ったんだ。もちろん、自分が作る曲に関しての話だよ。俺は「こういう感情を、こんなメロディーで表現したい」という内側からのアプローチが苦手で。だから、とにかくロジカルに作っていこうと。「いいメロディーとはこういうものだ」というのを徹底的に研究して、意識的に出していった。
ーーその1発目が「ハダ色の日々」。
UK:そう。そのスタイルをずっと続けてる。で、ブラッシュアップされて行って、自分のスキルもどんどん培われていった。表現の幅が広がったから「ネクター」とか「エリザベス」とか、ああいう曲を作るまでに成長できたって感じかな。
ーー今作は、メロディアスさが際立ったバラードが多い印象を受けるんですね。これも大きな変化だと思ったんですけど、それはたまたまですか?
UK:確かに、2人でも「優しい曲を立て続けに作ってるよね」みたいな話をしてたよ。それは、単純にそういうモードだったんだと思う。もしかしたら、状況もあるかもしれない。コロナも挟んでいたし、自分たちが今歌いたい曲とか作りたい曲っていうのが、優しい曲に偏って連チャンしたのはあったかもしれないね。でも「俺が俺で俺だ」とか「エリザベス」は、コロナよりも前の曲だからさ。たまたまそれが一緒のアルバムにパッケージされたから、そう聴こえるのかもしれないけど、根底はいつもと変わってない。「ハダ色の日々」の話もそうだけど、ロジカルに作る姿勢やマインドもずっと変わってないね。
ーー最近、出演されたラジオやテレビをチェックしていると「UKさんはクールな方で~」という紹介が多いですよね。それに対して「ちょっと待って」というのがあって。UKさんが作るバラードを聴いたら、どんだけ優しい心を持ち、人のことが分かる方かって、メロディーが一番物語ってるじゃないかと。
UK:……へえ(笑)。
ーーそういう予測も立てていましたけど、それは別の話なんですね。
UK:とはいえ、同じ人間から出ているからさ。何に影響されているか分からないけど、そこは意識はしてない。「優しく作ろう」とか「ドラマチックに作ろう」とか、それがスタートで始まってはいないね。いろんなメロディーを聴いて「こうするとこんな風に響く」みたいなのが、身について行った結果なんだよ。ただ、それをよしと判断できる人間性というのも、もちろんある。
アフロ:いいメロディーにある、本当に素敵なギミックを、UKは1曲の中で1回しか使わないんだよ。これ見よがしにいっぱい使いたくなるところをグッと我慢して、最後の最後で一番いい時に1回だけ使うのは昔からあるよね、ポリシーとして。
UK:うん、そうだね。
アフロ:UKの曲から感じ取った「人としての優しさ」も、そういうことかもしれない。今言った「メロディーが物語ってる」って、確かに分かる。音楽が好きな人間はそういうことを言いたがるのも分かるし、その捉え方は素敵なんだけど、危険なフレーズではあるよ。すごく漠然としたものを言葉でギュッとすることは、「それはロックだね」「ヒップホップだね」という大きな言葉で集約しようとするのと近い感覚で。今、インタビューでそれが解析されてるのが、俺は痛快で楽しかった。だけど、結局は物語らないんだよ。でも難しいよね? そこもインタビューの醍醐味だからさ。やっぱり記事にしちゃうと「メッセージ性のあるリリックだ」とか書くでしょ。そうじゃないのを、本当は俺たちも伝えたい。ここまでの話ができるのは、付き合いが長くなったからだよね。続けてきてよかったなと思うのは、こういう瞬間かも。
UK:最近思うのは、「自分がこうだから」と言ってはいるけど、でも自分のことよりもそれを見て・感じてる人の方が、自分の人間性を分かってるんじゃないかなって。さっきも言っていたけど、「自分がこうありたい」という理想の形を自分たちが喋ってるだけで、本来はそこじゃない部分なのかなって思うと、どうにもできなくなっちゃうというか。受け手にどう感じてもらおうが、「ありがとうございます」でしかないよね。本来の自分が本当の自分なのか、自分が思ってる自分なのか、真貝くんが思ってる俺なのかは正直分かんない。でも、音楽にそれを結びつけるんだったら、出てる音は裏切らない。俺がこう思って作ってるのはこれだし、聴き手が「こう思って作ったんだろうな」と思ってる曲がそれだから。そこが違ってもいいんじゃないかな。
アフロ:確かにね。そういう人を増やしていくのが音楽活動だもんね。立川談志さんの「世の中の評価は2通りしかない。悪い誤解をされるのと、いい誤解をされるのしかないんだ」という言葉があって。今は例え話として極論を言ってるけど、気持ち的にはそういうこと。いい誤解をされた時に「これは俺の中で真実かも」と思う時もあれば、悪い誤解に対してチキショーと思いつつ「でも、外れてはいないかもね」ってこともある。だからある種、どちらも誤解ではない。「いい真実」と「悪い真実」とも言い換えられるよね。この前さ、友達と喋っていたんだけど、岡村靖幸さんの曲をBase Ball Bearの方が作ったんだって。その曲が「岡村ちゃんよりも岡村ちゃんの曲だった」らしいの。今UKが言った話と一緒で、もしかしたら「俺らしさを出せるのは俺じゃない」可能性がある。俺のことを超好きな人が「MOROHAのアフロってこうだよな」とイメージを凝縮した音楽って、もしかしたら本物を超えてしまう可能性があるよね。
UK:どっちが真実かわかんないけど、いろんな側面あるね。
続けることに意味があるんじゃなくて、続けたら「有利になる」だけ
ーー曲を聴いて人間性と繋げて考えるのも、聴き手が「らしさ」を想像するのも、長年続けてきたからこそですね。
アフロ:続けることに意味があるんじゃなくて、続けたら「有利になる」だけ。「続けることに意味がある」なんて昔先輩に言われたんけど、よくわかんなくてさ。定型文を言いやがって!ぐらいに思ってたけど、今俺がその先輩と同じ年になって、実感するのは「続けることに意味があるる」じゃなくて「続けると有利」ってことだよ。俺達の情報がたくさんあるから、それを裏切ることもできるし、皆さんの理解度が広がっていたりもする。その有利さを上手に使っていきたいし、同時にその有利さに甘えないことも大事になるよね。
ーー有利を積み重ねた結果、MOROHAは音楽業界で周知の存在となって、大型フェスに声をかけられるようになっている。逆に、そこの有利がある上で、笑いが求められるバラエティー番組に出たら「MOROHA=ストイック」を裏切るようなギャップも見せている。
アフロ:的確だね、そうなんだよ。
ーー特に、テレビは自分たちがどういうアーティストなのかを、イチから説明する機会が多いですよね。結成15年目で新人の振る舞いをしている2人が、どこか楽しそうに見えるんですよ。
UK:昔は、MOROHAを全然知らない人に向かってやることが多かった。ただ、知らない人から収穫を得る快感みたいなのは、確かにここ最近はやっぱり少なくなってるね。そういう意味でも、楽しそうに映ってるのかも。
アフロ:前はテレビに1回出れば「これで世界が変わるんだ」って信じていた。でも、これまでの経験上、一発で何かが変わることってあんまないのよ。それでも大きな出来事はあったよ。ターニングポイントはあったけど、“結局地道さが勝つ”ってことを知ってるし、ここで自分たちに特別な何かが起こらなくてもライブがある。地道さとはすなわちライブ。そこで培ってきたものでしか、最終的には頼れないと知ってる。だから、あんまり期待しないでテレビに出てるかな。ゆえに素直に楽しんでるところがあるかも。もう期待してないよな?
UK:そうだね。例えば、テレビ(『バラエティ開拓バラエティ 日村がゆく』)に初めて出た崎山(蒼志)くんがドラマチックな人生になったとか、そういうのは稀にある。だけど、俺らが今の立ち位置で出てもああはならないから。
アフロ:別に、崎山くんもあの日は期待してなかったと思うんだ。普通に呼ばれて演奏して「うまくやれて嬉しいな」と思ったら、次の日にとんでもないことになってた。
ーー崎山さんも、テレビの反響は全く予想だにしない出来事で、このまま世の中に出て行って大丈夫なのか? という不安があったみたいですね。
アフロ:逆にこっちの意気込みが、そのまま比例するのがライブ。それはそっちで使えばいいし、テレビはある種自分たちの力だけじゃどうにもならない。もちろん気合を入れて楽しみには行くけれど、そこで得た収穫を全部自分たちの手柄だって思うこともできないし、自分たちのせいだと思わないしっていう場所だよね。あそこってね。
一緒に音を出したタイミングがMOROHAの結成じゃないのかもしれない
ーー今、理想の見られ方ってありますか? 音楽やテレビも総合して、MOROHAはこう見られたいっていうのは。
アフロ:最近は「この人にMOROHAは刺さらないな。でも飲んでて楽しい」みたいな、そういう友達もガンガン増えているのね。俺も、よしとできるようになってきてるの。そういう人もいるよねって。でも「人間として好きだから応援してるよ」と言われた時に、こういう人付き合いもできるようになったか、という喜びもあって。それは、他に好きでいてくれてる人がいることに対しての安心感かもしれない。テレビに出て「MOROHAは好きじゃないけど、喋っているのを見たらすごく楽しそう。思ってたよりも、いい兄ちゃんたちだな」と受け取ってもらったとしたら、ミュージシャンとしては悔しいけど、人として積み上げたものが間違ってなかったんだなって肯定でもある。それはそれで、ちゃんと評価として受け入れられる準備があるね。
ーー自分からそういう姿勢を示すと、相手の距離感も変わりますよね。
アフロ:そう! 俺がそういうスタンスでいるから、向こうも安心して「あ、別に音楽を好きにならなくても、人として好きになっていいんだ」となり、その後にMOROHAを聴いて「え、めっちゃ良くない」ってなるのが人間だよね。だから、どっちが先になっても大丈夫。
UK:相手は、その魅力を知らなかっただけだもんね。
アフロ:有利になるって、そういうことだよ。テレビに出ると有利になるのは、人間性を知った上で音楽を聴いてもらえる機会が増える。だから先に音楽から入らない人を、俺は否定しない。そもそも俺たちはさ、バンドを結成する前に町田駅の駅前で地べたに座って、通りかかる人の人生相談を始めたところがスタートなんだよ。人とのぶつかり合いというか、“肉体を伴った何か”を趣旨として始めているんだよね。もしかしたら、一緒に音を出したタイミングがMOROHAの結成じゃないのかもしれない。だから今、その趣旨にすごく合ったことをしてる。
UK:当時作った「二文銭」の「何かを成すためにやって来たんだ」って、きっとそこなんだよね。音楽じゃなかったとしても、「なんかやろうぜ」で始まってるから。そこに少しずつ近づいて行ってるんじゃないかな。よく言えば、音楽で結果をちょっとずつ出せてることが、1つの保険になってるのかもしれない。結果を残しているから、他で腕をぶん回せる余裕ができたのかもしれないね。
ーー最近はいろんなインタビューでアフロさんが「優しくなったよね」と言われることが多くなった、と言っていますが、UKさんもそう思いますか?
UK:俺は高校時代も、MOROHA結成前も結成後も知っていて。さっき真貝くんも言っていたように、MOROHAが始まってから武装してるところもやっぱりあった。そのイチ人間が鎧を着て「重いから、1回脱いでみよう」みたいな様子を見てるのは俺しかいなくて。そうやってずっと側で見てきて、今が一番いいんじゃないかなって。そう思えるのはいいよね。それでいて、明るいし、人が好き。あとまっすぐなところは、今も昔も変わらないね。
アフロ:今の「まっすぐ」という言葉も、気をつけなきゃいけなくて。「性格がいい」みたいな捉え方をされがちだけど、欲望にまっすぐってことも含まれているんだよ。「鎧を脱いでる」と言うけど、逆を言えばみんなに気づかれないように、俺は新しい鎧を着てるって解釈でもある。一見和やかに見せて、ギラギラと尖ったライブという武器で隙あらば刺す。だから、俺は欲望に忠実でまっすぐだなって自分で思うわけ。で、そっちの方が俺の人生を豊かにしてくれるし、結果的にすごく幸せな瞬間が多い。いきなり刀を出して人と向き合わなくなっただけ。つまりサヤを装着したって感覚よ。それで言ったら、また新しい鎧を着てるって意味でもあるよね。
気持ちの受け皿となる場所を、俺たちはもう知ってるんだ
ーー今、ラジオ、テレビ、雑誌で積極的にアルバムのプロモーションをされていますが、どんな手応えを感じていますか?
アフロ:俺たちの中で「絶対ここがスキルアップしたな」という実感がこのプロモーション期間にあったんだけど。ちょっとすごいライターが来たのよ。俺、思わずUKに目配せをしたからね。
ーーすごいって、そっちの意味ですね。
アフロ:取材が続いてハイだったのかもしれないけど、そこでも気持ちを切らさずに、アッパーに向き合ったのね。結果、ちょっと偉そうな言い方だけど、そのライターが育ってるのが見えたの。少し聞き方が間違ってるだけで、根っこには俺たちに対しても興味があったり、中には芯をくった質問もあった。聞き方があんまりよくないだけで、最終的にはよかったじゃん?
UK:ハハハ、そうだね。
アフロ:最後にはその子のことも好きになったし。続けると有利になるっていうのは、そういうことだと思う。プロモーションの中で「お、すごい人が来たな」は過去にもあるのよ。でも、その不躾さに腹立てて不貞腐れて仕事した後、どんな気分になるのか俺たちは知ってる。となった時に出た回答が、ちゃんと向き合ってどうにか相手のポテンシャルを引き出そうとすること。最終的には、向こうにもしっかり掘り下げてもらったしね。それ楽しいよな、俺の中ではすごいアハ体験だった。
ーー例えば見当違いな質問をしたとして「このライターは、こういう見方してるんだ。だったらこう答えるか……」と、インタビュイー側が真面目に答えることを諦める瞬間があると思うんですよ。でも、そこで見切りをつけずにお互いに補完し合って、いい記事に向かっていくのは一番綺麗というか。
アフロ:思うのが、もう1回メジャーデビューのタイミングからプロモーションをやり直したい。この状態で向き合ったらどうなっていたんだろう? 当時の頑なな俺らを知ってる人たちの中には「もう二度と会いたくない」と去って行った人もいただろうし。そういう人たちに、もう1回会えるようになりたい。別媒体の話で恐縮だけど『音楽と人』は15年間、俺たちの存在は知りつつ、「ずっと距離を置いていた」って話をしててさ。
ーーどうして交わることになったんですか?
アフロ:俺とライターさんの共通の友達が「なんでやらないの?」と言ったのがキッカケで、「いよいよMOROHAにインタビューするか」と腰を上げてくれた。この友達が言ってくれたのも、続けてきたから有利になるとってことなんだよ。俺は、今回のプロモーションが一番楽しいな。
UK:確かにストレスはそんな感じないね。
アフロ:横で尖り散らしてる奴もいないしね。
ーー人間としての受け皿が大きくなったことで、リリックにも影響は出てますか?
アフロ:曲の中ではマジで暗いことを書いたりしてるから、それも安心する。SNSとか見ていて、週末に俺が家でゆっくりしてる時にさ、Twitterのトレンドでフェスの名前が上がってくる。そうすると、絶対にそこに気持ちが向くわけ。それが本心なら曲にして書くべきだし、嫉妬を覚えてる自分にどこかで安心する。そして、その気持ちの受け皿となる場所を、俺たちはもう知ってるんだ。自分たちのライブで、目の前のお客に全部出し切ることによって、この気持ちが溶けていく瞬間を知ってる。だから、変に歪な落ち込み方をせずに済む。「ただの実力不足です。頑張ります」と、また前向きに頑張っていけるのよ。これは続けてきたから身についたマインドだと思う。それを感じた時に「あー有利だな!」って思うよ!
取材・文=真貝聡 撮影=大橋祐希
※3 MOROHAアフロ『逢いたい、相対。』平成ノブシコブシ・徳井健太と考える「芸の道」ーー己の芸を生業にする男たちの劣等感、覚悟、生き様 https://spice.eplus.jp/articles/309932
ライブ情報
『MOROHA自主企画「怒涛」第二十二回』