眞島秀和インタビュー~舞台『My Boy Jack』で戦場に息子を送り出す父親役に挑む思い
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眞島秀和
2023年10月7日(土)~22日(日)紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて舞台『My Boy Jack』(マイ・ボーイ・ジャック)が上演される(その後、福岡・兵庫・愛知を巡演)。
本作は、『ジャングル・ブック』などで知られるノーベル文学賞受賞作家ラドヤード・キプリングが、第一次世界大戦中に書いた詩「My Boy Jack」を、イギリスの俳優デイヴィッド・ヘイグが戯曲化し、1997年にウェストエンドで上演。2007年にテレビ映画化された際には、息子役をダニエル・ラドクリフが演じたことも話題となった作品だ。
演出は、今年4~5月に新国立劇場小劇場で上演された『エンジェルス・イン・アメリカ』が記憶に新しい上村聡史。厳格で優しい父・ラドヤードを眞島秀和、ラドヤードの妻・キャリーを倉科カナ、息子・ジョン(ジャック)を前田旺志郎、ジョンの姉・エルシーを夏子が演じる。
今回、息子を戦場に送り出す父親という難しい役どころに挑む眞島秀和に、本作へ挑む思いを聞いた。
当時の人たちの密度の濃さや骨太さを稽古の中で身につけたい
ーー最初に台本を読んだ感想を教えてください。
まずは「またやりがいがあって難しいお話をいただけたな」という印象が強かったですね。セリフのボリュームもあるし、出演者の人数もそんなに多くないので、それぞれのパートがかなり分厚くなると思うので「頑張らないとな、これは」というような気持ちになりました。
眞島秀和
ーーご自身が演じるラドヤードについて、現段階ではどのようなキャラクターとして捉えていますか。
台本を読んだ段階では、相当堅物といいますか、その時代の一家の長としての父親像という印象だったのですが、テレビ映画化されたものを見たときに、愛国心も持っているし、家の名誉を重んじる人なんだけど、ちゃんと息子に対する愛情も持っていることが感じられて、彼の持つ厳格なところというのは、時代がそうさせた部分があるのかな、と思いました。自分が演じるにあたって、あの時代の人たちは今の時代に生きてる人よりも密度が濃いというか骨太さがあるというか、そういったところを稽古を重ねていく中で身につけたいなと思いました。
ーーおっしゃる通り、台本を読んだだけでも、ラドヤードの言葉の重みというか存在感の重みのようなものを感じます。ラドヤードと眞島さんは実年齢が近いと思いますが、そのあたりはどのように感じていらっしゃいますか。
そこは大変なところだなと思っています。ただ、ラドヤードについては40代だからこそなのかな、とも思います。もうちょっと歳を重ねた父親だったら、そんなに無理して息子を戦地に送ろうとしなかったんじゃないかな、という気もするんです。きっと父親としてまだ若い部分があるからこそ、何としてでも息子を軍隊に入れよう、という考えになっているんじゃないかな、と思います。
ーーラドヤード・キプリングは実在の人物です。これから役を作っていく上でやはりいろいろリサーチしていくものなのでしょうか。
そうですね、リサーチと言うと固い感じになりますけど、まずはある程度作品が自分の中に染み込んで来ないとリサーチをする余白が生まれてこないので、稽古を重ねながらやっていくことになるのかな、と思っています。今の段階では、今作の元になった「My Boy Jack」がどういう詩なのかとか、当時のイギリスの情勢であったりとか、そのあたりを少しずつ確認しているところです。
舞台共演3回目の倉科カナが妻役で「全く不安がない」
ーー今回演出の上村さんとは初めてご一緒されるということですが、上村さんに対してどのような印象をお持ちですか。
まだお会いしていないのですが、『エンジェルス・イン・アメリカ』を拝見して、シリアスな部分と、コメディというか軽いタッチの部分の振れ幅がとても広い演出をされる方だな、というのが印象としてありました。今回の台本をどのように導いてくださるのかはこれからなので、そこについてはまだフラットな状態です。「よろしくお願いします、連れて行ってください!」という感じですね(笑)。
眞島秀和
ーー倉科さんと舞台で共演されるのは、2015年の近代能楽集Ⅷ『道玄坂綺譚』、2019年の『CHIMERICA チャイメリカ』に続き今回で3回目です。
『CHIMERICA チャイメリカ』のときは役柄的にそこまで絡みはなかったんですけど、親しい友人でもあるので、今回は大変な作品だなと思っている中、倉科さんが妻役をやってくださるのであれば、もうそこは何も心配がないというか、全く不安がないですね。
ーー今回共演するにあたって倉科さんと何かお話しされましたか。
「よろしくお願いします」という話はしましたが、内容についてはまだ何も話していないですね。ここまで正面から組ませていただくのは初めてですが、友人としても仲がいいという部分もプラスに持っていければいいかなと思っています。あと、きっと倉科さんのことですから、稽古が進む中でまた台本2冊目とか3冊目とかをもらうことになるんじゃないかな、と想像しています(笑)。倉科さんは稽古序盤から台本にいろいろ書き込みをされる方なので、もう書く場所がなくなって「新しいのをください」っていつも言っているんですよ。
ーー倉科さんはどのようなことを台本に書き込んでいるのでしょうか。
稽古中に倉科さんが台本に何か書いているな、と思って覗き見したらめちゃくちゃ怒られました(笑)。僕も動きのきっかけとかを台本に書き込むことはよくありますが、セリフを覚えていく作業は役者さんによってそれぞれ違うので、ここは覚えにくいとか言いにくいみたいな、何か印とか区切りとかを書き込んでいるのかな、というところがチラリと見えました。
ーー台本を何冊も使うというのは、舞台の稽古場あるあるだったりするのでしょうか。
どうなんでしょうね。僕も結構台本にいろいろ書いた後で新しい台本をもらって、まとめたり整理し直したりしたことがあったので、気持ちはすごくわかります。だから、意外と他にもそういう方はいらっしゃるのかもしれないですね。あとは、お風呂でセリフを覚えていたら台本が水没しちゃったから新しい台本をもらいたいという人もいたりとか、いろいろあるんですよ(笑)。
ーー息子役の前田さんとは今年4~6月に放送されたドラマ『Dr.チョコレート』で共演されていましたね。
ドラマではほとんど絡みがなかったので、今作の話をするタイミングも全くなかったんですけど、現場で見ていてすごく飄々とした存在感の方だな、という印象でした。後から元々お笑い芸人をされていたことを知って、場所によって存在感が変わるというか、フットワークが軽くいろんな顔を持ってる俳優さんなのかな、と思いました。
眞島秀和
舞台は自分の中で“目指すべき場所”
ーー今作は、第一次世界大戦時の物語です。眞島さんは戦争に対してどのような思いがありますか。
母方の祖父は、第二次世界大戦中に満州にいてその後シベリア抑留も経験して帰って来たので、その話はよく聞きました。一言で言えば、戦争なんてない方が絶対にいい、というのが大前提としてありますが、今だってどこかでは起きているし、怖いのは戦争に協力するというか、例えば今作に描かれているように息子を戦争に送り出すとかもそうですけど、国のため戦争のために何かをやることが正しい、という空気感が出来上がることが、いつの時代の戦争でも怖いんだろうな、と個人的には思っています。
ーー上演決定時のオフィシャルコメントで「戦場に息子を送り出す父親という役を、今、演じる意味を感じながら」というお言葉がありましたが、具体的にどのような思いを感じているのでしょうか。
こうした父親の役をいただけたことの意味はあると思うので、まずはそこと向き合って稽古に入っていくことになると思います。「難しいな」と思うような役を舞台でいただけることは、俳優としてはすごく幸せなことなので、まずそれがありがたいです。向き合った先にはきっと、自分の中でひとつ成長できるのかなという期待もあるし、自分はそんなに俳優としてわかりやすいセールスポイントがあるタイプではないので、こういう作品と向き合って一生懸命にやることで、いろいろな面を出していけるのかな、という思いもあります。
ーー眞島さんにとって舞台に挑戦することは、映画やドラマなどに臨むときと気持ちの上で違いはありますか。
やっぱり若干違いはあると思います。舞台は、自分の中で“目指すべき場所”みたいな思いがちょっとあるんですね。俳優という仕事をやっていく上でとても必要な場所というか。舞台の場合はある期間、日常とは離れて特別な場所に向かって、いつもとは違う集中力を使うという作業があって、そこが大変なところなんですけど、自分にとっては必要だな、という感じなんですよね。本番では目の前にお客様がいるというところも、編集されてある程度パッケージになったものを出すのとは違って、生のものを出していくという部分で、やっぱり違うのかもしれないですね。
ーー公演を楽しみにされてる方に向けて、メッセージをお願いします。
稽古が始まる前のこの時点では、もう相も変わらず本当に不安で怖いですが、一生懸命稽古をして素晴らしい作品になるように頑張りますので、楽しみにしていてください。
眞島秀和
取材・文・撮影=久田絢子