はやぶさ2が持ち帰った“リュウグウの試料”や重さ約4トンの無人探査機を目撃! 特別展『海』レポート
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特別展『海 ―生命のみなもと―』展示風景
特別展『海 ―生命のみなもと―』が、2023年7月15日(土)に東京・上野公園の国立科学博物館で始まった。10月9日(月・祝)まで開催される本展は、あらゆる生命のみなもとであり、現代の我々の生活にも欠かせない存在である「海」の誕生から現在までの歴史を紹介する企画展だ。海から始まった生命の神秘や人類と海とのつながり、海洋研究の最新技術など、多角的な展示で来場者の好奇心をそそり、子どもたちには夏休みの学びにもぴったりな本展。内覧会の様子を交えながら、その見どころをお伝えしよう。
はやぶさ2の偉業から「海」の起源を考える
地球の海が誕生し、現在に至るまでの歴史を全4章構成の展示を通じて紹介する本展。国立科学博物館に到着し、地球館の地下にある会場にたどり着くと、第1章「海と生命のはじまり」の初めには小惑星探査機「はやぶさ2」の1/10サイズジオラマが展示されている。
会場入り口
「『海』がテーマの展覧会なのに、何ゆえ、はやぶさ?」と一瞬戸惑いを覚えるかもしれないが、多くの人々に感動を与えたはやぶさ2の功績は、実は海の起源を探る研究にも一石を投じている。
小惑星探査機「はやぶさ2」1/10模型(所蔵:宇宙航空研究開発機構)
はやぶさ2が持ち帰った「小惑星リュウグウのサンプル」は、現在の我々が有する太陽系の中で最も原始的な物質。その中の鉱物からは液体の水が発見されており、海の起源を考察する上でもとても貴重な品となっているのだ。
「小惑星リュウグウのサンプル」(所蔵:宇宙航空研究開発機構)
何とここでは本物のサンプルを見ることができる。小さな容器に入っているのは、鉛筆の芯のかけらのような直径2.9ミリメートルの小さな粒子であるが、それははやぶさ2が約52億キロメートルもの飛行距離をかけて持ち帰った、約5.4グラムしかない人類の財産の一部。目を凝らして覗き込めば、火星よりもさらに向こうの宇宙をリアルに感じられることだろう。
海で生まれた初期生命がヒトになるまでの進化ヒストリー
次の空間には、海から生命が誕生し、さまざまな生物に枝分かれしていく進化の過程が紹介されている。初めにあるのは、初期生命が誕生した場とされる熱水噴出域の再現展示だ。
白い熱水噴出域の再現展示
地球上の生物の共通祖先である最も原始的な生物は、高温を好み、水素ガスを代謝に利用する微生物とされている。なかでも、海底にある熱水噴出域内の「チムニー」と呼ばれるアルカリ性の熱水噴出孔には有機物が造られた痕跡があり、まさに初期生命が生まれた場所である可能性が高いという。
「炭酸塩チムニー」(所蔵:ETH Zurich)
ここには地球上に現存するアルカリ性熱水噴出域「ロストシティ」から採取された本物の炭酸塩チムニーも展示されている。原始生物が誕生した約35~38億年前のチムニー周辺は300度程度の高温だったという。最も早くに存在した生物が、そんな過酷な環境の中から生まれ出たというのは神秘的でもあり、不思議にも感じる。
進化系統図の展示
その隣には動物や植物など多様な生物への進化につながる真核生物の誕生を解説する展示があり、さらに向かいには、先カンブリア時代の46億年前から現代までに海で起こった生命の進化を、化石や標本を交えた系統図で紹介している。
「インドネシアシーラカンス」(所蔵:アクアマリンふくしま)
脊索動物から脊椎動物が生まれ、さらに顎口類から硬骨魚類に、そして四肢動物へと進化してきた末端にはヒトもおり、我々人間も海の生物から進化してきたということが視覚的に理解できる展示だ。また、現存するシーラカンスの一種「インドネシアシーラカンス」の標本を展示されており、“生きる化石”の巨大な姿に衝撃を受けるはず。
黒潮、親潮に育まれ、深海にも広がる海のダイバーシティ
第2章「海と生き物のつながり」は、潜水艇内を模したような丸窓の中にさまざまな“海のフシギ”が解説されている空間からスタート。その中央には高さ約6メートルの超高精細LEDパネルに海中のさまざまな生き物を映し出す「海のエレベーター」が設けられている。
第2章「海と生き物のつながり」の展示風景
映像には、神秘的なダイオウクラゲ、大きな口が象徴的なメガマウスザメ、仲間で泳ぐ姿がかわいらしいスネイルフィッシュのほか、先ほど紹介したチムニーの様子も登場。表層から深層まで海中のさまざまなシーンが見られ、海の世界により一層引き込まれる。
「海のエレベーター」
続くゾーンには、海をイメージした巨大空間に生き物たちの大型標本や再現模型が集められ、日本の海における生物多様性を知ることができる。
第2章「海と生き物のつながり」の展示風景
日本の領海と排他的経済水域(資源や環境を管理する海域)を合わせた面積は約447万平方キロメートル。これは世界の国々の中で第6位の広さだ。その海に南からは世界最大規模の暖流である黒潮が、北からは豊富な栄養塩を持つ寒流の親潮が流れ込み、その恩恵にもたらされた豊かな生態系が築かれている。ここでは黒潮と親潮が育む生態系を魚類や哺乳類、爬虫類などに分類して紹介。水深6500メートルより深い超深海に棲む生き物たちの標本展示も見ることができる。
深海生物の展示風景
魚類の中にはカツオ、サンマ、サケなど、普段私たちの食卓に並ぶ身近な魚たちも。一方で、アカウミガメ、アオウミガメ、タイマイという三種のカメが、兄弟のように泳ぐ形で展示されている様子はとってもキュートだ。さらには動物プランクトンの標本をルーペで覗けたりと非常に多角的な展示がある空間は、あるものひとつひとつに興味をそそられて目移りしてしまいそうな印象。その中でひときわ目立っているのが、約4.7メートルの高さを誇るナガスクジラの上半身標本だ。
「ナガスクジラの上半身模型」(所蔵:国立科学博物館)
この展示では、海洋生物の生態系を支える、クジラ類の「ホエールポンプ」という活動に着目している。それは大型クジラ類が息つぎとエサの確保のために海面と深海との鉛直移動を繰り返すことによって、水深200メートルの有光層で育つ植物プランクトンへ深海の栄養素が運ばれるはたらきのこと。このはたらきによって、さまざまな生き物の餌になるプランクトンが育ち、海中の食物連鎖が保たれているという。
「ナガスクジラの上半身標本」(所蔵:国立科学博物館)
海面に飛び出した瞬間を捉えたかのような巨大模型と骨格標本は圧巻のド迫力。おそらく実際の海でも体験できない至近距離からのクジラ観察を楽しもう。
古来から海とつながり生きてきた人類のいとなみ
後半の第3章「海からのめぐみ」と、第4章「海との共存、そして未来へ」は、人類史と海とのつながりに着目した展示だ。
はじめのゾーンでは原始人の海洋進出から約3万8000年前に始まった日本列島への人類渡来の歴史を紹介。南方から琉球列島への「沖縄ルート」で渡来した旧石器人のいとなみを数々の出土品を通じて解説している。黒潮の強力な海流に阻まれながらも、人類がどのように琉球に上陸できたのかを検証するために造られた丸木舟も展示されている。また、ここには約2万3000年前に造られた「世界最古の貝製釣針」も展示されているので見逃さぬよう。
「3万年前の航海徹底再現プロジェクトで使用された丸木舟」(所蔵:東京都立大学)
「サキタリ洞出土遺物」より「世界最古の貝製釣針」(所蔵:沖縄県立博物館・美術館)
これに続く「縄文人と海」もなかなか見応えのある内容だ。動物や哺乳類の歯や骨、貝殻、猟具などが大集合。一歩進むごとに立ち止まってしまう“穴場的”な見どころであるとお伝えしておこう。
「縄文人と海」の展示風景
そして終盤には、現代の海洋研究や海運で活躍している船やマシンに関する展示や、私たちがこれから先の時代にますます考えなければならない環境保全についての展示がある。
第3章「海からのめぐみ」の展示風景
特に海洋研究開発機構(JAMSTEC)で活躍する無人探査機「ハイパードルフィン」は、重さ4.3トンもある見ごたえのあるもので、これを会場に持ち込んだ“科博の気合い”を感じる展示だ。長さ3メートルの機体は4500メートルまで潜ることが可能。駆動を支えるスラスターや前面に取り付けられたアームなど、滅多に見ることができない潜水マシンを180度の角度から見学しよう。
「無人探査機 ハイパードルフィン」(所蔵:海洋研究開発機構)
約46億年におよぶ地球の歴史を「海」という視点でギュッと詰め込んだような壮大な企画展。ひとつひとつが深い内容だが、ところどころに映像解説や子ども向け解説が用意されていて、子どもにもわかりやすい展示になっているので、夏休みシーズンのレジャーにもおすすめだ。
特別展『海 ―生命のみなもと―』は、東京・上野公園の国立科学博物館で10月9日(月・祝)まで開催中。
イベント情報
会期:2023年7月15日(土)~10月9日(月・祝)
会場:国立科学博物館(東京・上野公園)
休館日:9月4日(月)・11日(月)・19日(火)・25日(月)
開館時間:9時~17時(入場は16時30分まで)
お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)、03-5814-9898(FAX)
公式サイト:https://umiten2023.jp