福島から始まった故郷への道ーー片平里菜がニューシングル「予兆」に込めたメッセージ、未来へと繋げていく想い、10周年ライブへの意気込みを語る
片平里菜 撮影=ハヤシマコ
片平里菜が、前作から2年11ヶ月ぶりとなるニューシングル「予兆」を、8月2日(水)にリリースする。セルフプロデュースとなる今作には、OAU、おおはた雄一と共に楽曲を制作。 デビュー10周年に向けて行われた、全国47都道府県53箇所を巡るキャリア最多最長の弾き語りツアー『片平里菜 感謝巡礼ツアー COUNTRY ROADS2022-2023』のテーマソングとなった、映画『耳をすませば』の主題歌「カントリーロード」のカバーも収録。そして8月6日(日)には、デビュー10周年を記念して故郷・福島の猪苗代野外音楽堂で『10th Anniversary Come Back Home 2023』が開催される。そこで今回SPICEでは、片平里菜とデビュー以来親交のある大阪のラジオ局・FM802のDJ 内田絢子がインタビュー。ツアーを振り返りながら、ニューシングルに込めた想い、そして福島での野外ライブを前に何を思うのか話を訊いた。今、片平里菜がより自由に、思いのままにたくましく歌い届けている想い、大切に育んできた繋がり、未来と託そうとしているメッセージをぜひ、彼女の音楽や言葉を通して知って、感じてほしい。
ーーまずは『感謝巡礼ツアー COUNTRY ROADS 2022‐2023』の旅について聞かせていただけたらと思います。47都道府県53公演というキャリア最多最長のロングツアーとなりましたが、ツアーを開催されたキッカケというのは? また、振り返ってみていかがですか?
そもそものツアーを開催した経緯というのが、10周年を迎える前にやり残したことじゃないけど、「今できることで何をしたいかな」と考えた時に、真っ先にツアーを回りたいと思ったんですね。もちろんデビューしてからこれまでにもツアーは回ってきたんですけど、細かくみんなのいる町まで歌いに行ったことがなかったので、このタイミングで日本の隅々まで回るツアーがしたいなと。それで実際にみんなが住んでいる町に行って、10周年なので「今までありがとう。これからもよろしくね」と直接伝えるツアーにしたいなと思って『感謝巡礼ツアー COUNTRY ROADS』と名付けました。「COUNTRY ROADS」とつけたのは、私も地元・福島を年を重ねるほど大切に思えるようになったことだったり、みんなの故郷や今住んでいる町も自分のことのように大切に思えたらいいなと思って、「故郷への道」は全部つながっているという意味合いも込めています。なので、すごく濃厚なよき旅になりました。
ーーコロナ禍で直接会ってライブをする、ということができない時期が長くなったからこそ、ひとつひとつの土地を回りながら改めていろいろな刺激が感じられたツアーになったのかなと思うのですが、いかがですか?
SNSが主流になったからこそ、すごく便利で、同時にいろんな地域の人たちと繋がれる良い点もあると思うんです。だけど本当の繋がりが希薄になりがちなのかなと思っていて。そんな時に、実際に待ってくれている人の町へと会いに行って、顔を見て歌うツアーを回ったら、ネットの反響だったり待ってくれている人たちがこれだけ実在したんだ、みたいな感覚があって。その中でも特に感慨深かったのは、どの開催場所でもライブハウスのスタッフさんにお願いして、地元のアーティストさんやバンドさんに出演いただいたことの出会いです。私の歌を聴いて、影響を受けて音楽を始めたという方もいたり、中高生の頃に聴いてカバーをしたという方だったりとたくさん巡りあって。自分が、自分の歌が、知らないところで誰かに影響を与えていたり、音楽を始めるキッカケになっていたこと。私の模倣じゃなくて、それぞれみんなが自分独自の音楽で自分の足でステージに立って表現している、その姿を見て、すごく感動しました。
FM802 DJ 内田絢子
ーーちゃんと自分の歌が誰かに届いて、それがまた誰かの音楽につながってるという、人生の出会いのような感覚を得られた、そんな旅でもあったんですね。それはやっぱり10年続けてきたからこそ感じられるものでもあったと思うんですけど、改めて10周年を迎える今、どんなお気持ちですか?
これまで紆余曲折あったけど、今日までの出会いと経験は本当に宝物だし無くなるものではなくて、自分の歌にも直接影響していると思うんです。だから集大成じゃないですけど、全部が無駄じゃなくて、全部肯定したい。すごくポジティブな気持ちですね。
ーーそれは今、お話ししていてもすごく感じます。これまでいろいろな音楽の表現方法にどんどんトライしてる姿も見てきたからこそ、今のアコースティックギター1本で奏でている片平里菜というシンガーの強さみたいなものもすごく感じていて。この10年ですごく、たくましくなった感覚もあるのかなと思ったり。
それはそうかもしれないですね。
FM802 DJ 内田絢子、片平里菜
ーー先日、インスタライブでおっしゃっていた、フリーランスで活動するようになったことで、身軽でどこか軽やかで時代にフィットしているという言葉がすごく印象的で。それは具体的に、どんな場面で感じられているのでしょうか?
時代にフィットしているというのは、気軽というか、思い立った時に行動ができることですね。私は特に弾き語りだからギター1本あればどこでもライブができるので。あとはやりたいことや活動の仕方が、それまでの既存のものじゃない枠組みから外れたようなことをしたいと思うようになったので、大きいなにかで守られている環境で活動するよりも、自分のやることに責任を持ちながらやっていく方が動きやすいなという。
ーーそれがひとつのキッカケでもあり、全国で細かくライブを回るというフットワークの軽さにも繋がってそうですね。
そうですね。経済的なことを考えたら、たぶんツアーを始めた去年の8月末はコロナ禍もありまだ現実的でない時期だったはずなので、私の今の環境下だったからこそ決断できたのかなと思っています。
ーー8月6日(日)には、デビュー10周年イベント『10th Anniversary Come Back Home 2023』が開催となります。会場となる福島・猪苗代野外音楽堂は、里菜さんにとって本当に大切で特別な場所ですよね。あらためて、どういった場所なのか教えていただけますか?
猪苗代は福島の真ん中あたりに位置している自然が豊かなところで、猪苗代湖という有名な湖の天神浜でライブを開催します。湖を挟んで向こう側には、磐梯山という福島の山が見えて、夕日が美しくて天気が良かったら星空もすごく綺麗なので、福島の澄んだ空気と自然を感じられる場所なんです。それから、猪苗代野外音楽堂は震災後に「SPC peak performance」というライブPAチームの方々がつくった特別なステージです。主に津波の被害を受けたエリアの石巻・大船渡・宮古で3つのライブハウスを建てて、こけら落としもしてツアーバンドがみんな回って、その一番最後のプロジェクトとして、福島は事原発事故もあったからソーラーパネルの太陽光発電で運営する、みんなが集まれる野外音楽堂を作ろうということで始まった、みんなの気持ちとメッセージが詰まった場所なので……10周年はこの場所でやりたいなと思っていました。
ーー今、どんなライブのイメージが浮かんでいますか?
場所のパワーがすごく強いので、福島の自然に頼りながら太陽光発電に頼りながら、ピュアなライブになったらいいなと思ってます。そして、10周年という節目なので、今まで歌を聴いてくれた、応援してくれた人にとって、これまでの10年の思い出を振り返りながら良かったと思えるような日になったらと思います。
ーーこの日のセットリストは里菜さんにとっても特別な思いで紡がれていると思います。その中で、きっと披露される新曲「予兆」もまさにたくさんのメッセージが詰まった1曲だと思うんですけど、この曲はどういった過程で生まれたのでしょうか?
この曲は7年前くらいにもう既にあった曲で。ただいつ作ったのかはっきりとは覚えてないんですけど、いろんな時期に作ったピースが合わさってできた曲なんです。私自身が震災を経験していたり、それ以降この12年間にわたって日本全国で自然災害が猛威をふるって切迫感が増している今、なにより願うことは人の命が無事であってほしいという想いを純粋に歌にできたと思います。そういった自然災害が起きてしまうのは、もちろん地球の周期が原因かもしれないですが、確実に自分達の生活や活動が影響して、毎年水害が増えているところもあると思うので、だからこそそういったメッセージや想いを歌に込めました。
ーーその想いはすごく伝わってきましたし、同時に自分が「守りたい」と思う大切な人の姿も浮かびました。この曲はOAUが編曲&レコーディングに参加されたことで、里菜さんの気持ちを先輩方にそっと委ねるようなところもありましたか?
OAUのみなさんはミュージシャンとしての大先輩でもありつつ、私のライフワークの部分でも心を通わせてきた人生の先輩でもあるから、一緒にレコーディングして曲に込めた想いを汲んでくださって、それが自然と形にすることができたと思います。
ーー里菜さんが弾き語りで曲を作って、そこに先輩方の力が重なってより大きく広がっていくような印象を受けました。
そうですね。弾き語りでもずっと歌ってきたんですけど、この曲はさらにたくさんの人に届けられたらいいなと思ったので。自分だけじゃなくて、たくさんの人に出会って音楽をしてきたので、自分以外の音が合わさってより景色が広がったらいいなという思いはありました。
ーー「予兆」のカップリングに収録されている「風の吹くまま」は、ギタリストとしてリスペクトされている、おおはた雄一が参加されていますね。この曲は里菜さんの声がより近くに感じられて、すぐそばで歌ってくれているような、思いをそのまま届けてくれているように聞こえてきました。
おおはたさんとのレコーディングはセッションで、一発録りをするので確かにその時の空気感がそのまま入っていると思います。おおはたさんは、さらりとすごいテクニカルでかっこいいギターを弾かれるんですけど、気楽さも備えてるんですよね。失敗してもそれも音楽だよ、みたいなフランクさがあるので、テクニカルな部分だけではないそういう気持ちの部分も教えてくれる先輩なんです。
ーーさらに、ツアーでどんどん育っていった「カントリーロード」も収録されています。この曲は、里菜さんの声で聞くとまた違う道が広がっていくような感じがしたり、歌詞が里菜さんのたくましさと通ずるところがあるなと改めて感じました。
実はツアーのタイトルが先にあって、ツアーを回っていく中でたまたまホテルについてテレビをつけたら『耳をすませば』が放送されていたのを見たのがキッカケなんです。大人になってから初めてしっかりと作品を見たこともあり「明日のライブでやってみよう」と思い、カバーをやり始めました。あらためて歌ってみると、歌詞が自分の気持ちにもピッタリだし、ツアーでみんなの故郷を回っていくこともそうだし、故郷を背に頑張っていくという人生だったりいろいろ詰まってるのも全部がピッタリだなと! だからこそ旅をしながら歌い進めてきた、思い出も詰まった楽曲です。
ーーまさに過去と今、そしてこの先に続いていく片平里菜の音楽ライフが詰まっていますよね。だからこそ、よりこの先どうなっていくのかなと、楽しみにもなりました。
嬉しい。この先のことはちょっとまだ未知だったり、ツアーは終わったけど終わってないような気もしていて。というのもツアーをやったことで始まったことがいっぱいあるなと思っています。それは各地でお客さんとか、出演者のみなさんとか、ライブハウスのスタッフさんに出会ったので、その出会いが次はどういう風にしてまた巡り合って、お互い成長していくのかという、先が楽しみになったからだと思います。
ーー今回のツアーの出会いは、まさに始まりですもんね。里菜さんが53公演回って蒔いた、ここから先の未来への種がその土地、その場所でどう芽吹くのか、ここから先またその場所に帰るのもすごく楽しみになりますしね。まだまだ未知だとおっしゃってましたけど、自分の中でこんなことやりたいなとか、ふわりと浮かんでいることがあったりするのでしょうか?
種をまいてきたという話では、やっぱり自分の故郷や福島の人たち、住んでいる町だったり自分が関わっているところがどんどん良くなったらいいなという思いが強くあります。自分自身の人生もそうだし、自分が携わっている人の人生もそうだし、その人たちが住む場所の環境も良くなっていったらいいなと、どんどん強くなってるんです。だからこそ、そうなるような活動ができたらいいなと思いますね。ライブハウスについては、私自身が頻繁に最南端まで行ったり来たりはなかなかできないので、その土地のライブハウスを守れるのは地元の人だと思うからこそ、ツアーで出会ったミュージシャンの方たちが地元のライブハウスを守って、私がもし種を撒けていたのだとしたらその種に水やりをしたり育ててもらって、私が行ける時にまた遊びに行こうさせてもらうね、みたいな。そういう土地に根付いた活動、人と人のしっかりした繋がりでの活動、それから人と自然だったり人と動物とか、いろんなものとの繋がりをしっかりと感じられるような、生活と活動ができたらいいなと思います。
「予兆」ジャケット
ーーちなみに「予兆」のジャケットは、写真家の石井麻木さんが撮影されているんですよね。お付き合いはもう長いのですか?
デビュー直後からなので約10年ぐらいかな?
ーー麻木さんは、震災直後から東北に通い続けて、撮影した写真を全国で展示されたり写真本『3.11 からの手紙/音の声』に残されたりしていますよね。一緒に福島の町も回られたりしましたか?
そうですね。むしろ、私が行けなかった場所に連れていってくれました。例えば、仮設住宅や避難所には麻木さんに連れてってもらったんです。私は全国的に見れば福島出身の被災者なんですけど、どこか当事者ではないような感覚もあって。それは場所によって被害の大きさが違って、私は津波の影響を受けてないし地震で家や何かが壊れてしまったりもしていないから、ほんとに避難している人たちからすると「私はなんなんだろ」というちょっと複雑なところもあって……。なかなか向き合えないところがあったので、麻木さんが連れていってくれたから行くことができました。
ーー本を読ませていただくと、麻木さんは東京出身だからこそ自分が伝えられることがあるという目線で回られていますよね。私も震災の後に、福島に住んでいる方にいろいろ案内してもらって、その時の気持ちだったり状況を聞かせてもらえたからこそ見え方が変わったことがたくさんあったので、麻木さんの写真や言葉だったり、里菜さんの歌や言葉だったり、いろんな方の目線で知れるのはすごい大事だなと思いました。
きっと、みんなそれぞれが伝えていくことが大事ですよね。
ーージャケットの写真はどこで撮影されたのですか?
これはまさに、10周年記念ライブをする猪苗代湖なんです。夕方4時頃だったかな。
ーーそうだったんですね! ということは、ライブに行くとこの景色が見られる?
見れます!この写真は湖に入っちゃってますけどね(笑)。
ーージャケットの続きの景色が、パノラマで見られるなんて素敵ですね! 今度は故郷である福島にみなさんをお迎えして、「私のこの素敵な故郷見て!」という気持ちで音楽を届けられる特別な日を楽しみにしています。きっと全国からみなさんいっぱい来てくださるから、いろんな福島を感じてほしいですね。
そうですね。もしかするとマイナスなイメージもあるかもしれないし、もちろんそういった問題にも触れてほしいし。でも福島はすっごくいいところだし、美味しいものいっぱいあるし、私もまだ知らないこといっぱいあるから通い続けてるし……だからお互いの故郷を行ったり来たりしたりして、お互いのこと知り合っていくキッカケの日にしたいですね。知るって、心が豊かになることなのかなと思うので。
取材=内田絢子 文=SPICE編集部(大西健斗) 写真=ハヤシマコ
リリース情報
2023年8月2日(水)リリース
品番:BCH-0001 POS コード 4522197147321
販売価格:1,500円(税別)/ 1,650円(税込)
発売元:BUCHI. RECORDS
販売元:PCI MUSIC
<収録曲>
1. 予兆 Additional musicians OAU
2. 風の吹くまま Additional musicians おおはた雄一
3. カントリーロード
ライブ情報
日程:8月6日(日)
会場:福島・猪苗代野外音楽堂
時間:開場14:00/開演16:00
料金:一般¥5,000、10代¥2,500
公式サイト:https://www.katahirarina.com/