ゆきむら。「最高だ、一生忘れねぇよ!」 “ノイズだらけの想い出”を刻んだ東京ガーデンシアター公演をレポート
ゆきむら。
ゆきむら。 Memories Full of Noise
2023.8.13 東京ガーデンシアター
ソロとして活動中の歌い手・ゆきむら。が、2023年8月13日に自身最大規模のキャパシティとなる東京ガーデンシアターにてワンマンライブ『ゆきむら。 Memories Full of Noise』を開催。どの瞬間も鮮烈な“ノイズだらけの想い出”を刻んだゆきむら。は、やはり天上天下唯我独尊の“絶対的神”だった。
胸高鳴るオープニング映像があけ、ほの蒼い光が照らし出したのはステージ中央の檻。その中で愁いに満ちた歌声を響かせ始めたゆきむら。1曲目は「かなしみのなみにおぼれる」だ。時に声を震わせ、叫びながら全身全霊で歌を届けるゆきむら。の姿に、どうしたって心が動く。
ゆきむら。
一転、特効の音玉をきっかけに檻が上昇、ライトセーバーのように発光するマイクスタンドを手にしたゆきむら。の姿があらわになったのは「ベルセルク」。「お前ら待たせたな、俺が新世界の神、ゆきむら。だ!」「かかってこいよ、手加減するんじゃねぇぞ!」「もっと声出せよ!」と気炎を吐くそのさまは、まさに“狂戦士”さながら。レーザーライトが派手に飛び交うオリジナル曲「反逆カルマ」では巻き舌にも反骨精神が宿って、殿厨(ゆきむら。ファンの呼称)が手にするゆきむら。のイメージカラー・紫を灯したペンライトが共鳴するように大きく揺れる。
ゆきむら。
「ただいま! 俺に会えて嬉しいか?」という問いかけに殿厨が大歓声で応えると、満足気な笑みを見せるゆきむら。「フォニイ」ではダンサーとぴったり揃ったしなやかなダンス、衣装の裾をひるがえしながらの華麗なターンでも魅せたり。「猛独が襲う」や夏にぴったりな「少女レイ」「あの夏が飽和する。」では、繊細な感情表現に痛みや狂気をしのばせたり。赤のライトに照らされながらの歌声もダンスも艶っぽかった「フィクサー」や「威風堂々」、<アタシは孤独じゃない>と病的な自己暗示をかける「孤独の宗教」にしても然り、あらゆる表現が深く、生々しく刺さる。2月から5月にかけて3都市で行ったワンマン公演『ゆきむら。 ~Night Revival of The Dead~』でも感じた表現者としての進化が、今回も顕著だ。
ゆきむら。
「うぇいうぇいうぇい!」という恒例の挨拶に続き、「次の曲ではコール&レスポンスやっちゃっていいっすか!」と殿厨歓喜の提案がなされたのは、清濁併せ持つジェットコースターナンバー「こちら、幸福安心委員会です。」「ゆきむら。の幸せがてめぇらの幸せだろ!」という強要(!?)にも殿厨がますます高まって、コール&レスポンスも振りも一体感がありすぎではないか。
「MCで言いそびれるかもしれないので今のうちに言っておきたいんだけど、本当に来てくれてありがとう」「今までのいろんな嫌な想い出も全部いい想い出になるといいよね」「おまえらと俺で最高の夏を過ごすぜ」というのは、幕間映像でゆきむら。が口にした言葉たち。大きな期待やプレッシャーを背負いながら、いつだって殿厨に真っ正直に向き合うのがゆきむら。である。
ゆきむら。
バンドメンバーによるインストゥルメンタルをはさみ、ロングコートをまとい十字架型の玉座に堂々座ったゆきむら。が現れたのは「DOGMA」。トレードマークのサングラスをかけ、光を放つマイクスタンドを手にしたゆきむら。の風格は“統べる者”だ。再びダンサーが加わり、ガラっと異なる表情を見せたのは「KING」と「アイドル」。「KING」で明示した絶対王者感からの、キレッキレダンスも笑顔もハートマークも<完璧で究極のアイドル>でしかなかった「アイドル」への変貌ぶり、本当に同一人物なのかと疑いたくなってしまったほどだ。
ゆきむら。
さらに、「ここから死ぬセットリストになってるけど大丈夫そ? ひよってるやついねぇよな!?」「マジで悔いなくいこうぜ!」と発破をかけた「アウターサイエンス」。ゴリゴリなスラップベースにバチバチに美声を絡ませた「廃墟の国のアリス」。ステージにいくつものファイヤーボールが噴き上がる中で命を削るように歌い吼えた「ヒバナ」。刹那の輝きを、一瞬たりとも見逃したくない。
ゆきむら。
「俺は今日、死ぬ気でここに立ってんだよ。伝わってる? 俺ぶっ倒れそうだマジで。でもこれがいいんだよ。次の曲も目に焼きつけてくれますか」
極限状態で迎えた本編ラストは、「涙腺回路」。淡いブルーのライトの下、ゆきむら。の歌声、存在はあまりにも儚く美しく尊かった。
アンコールは、コール&レスポンスも巻き起こった「ENVY」でスタート。「アイドル」でもステージに登場したゆきむら。のオリジナルキャラでありかわいすぎる相棒“中島さん”に見守られながらゆきむら。が扇を手に舞い歌ったのは、自ら作詞をした「決戦エンドレス」だ。何人たりとも、覚悟を決めて突き進む者の行く手を阻むことはできない。
ゆきむら。
ゆきむら。
「このステージに俺なんかが立てるって思えなくて、今でも夢みたいだけど。全員の声、俺にちゃんと届いてるから」
殿厨にそう伝え、バンドメンバー、ダンサーひとりひとりを丁寧に紹介していったゆきむら。新世界の神は、自分を応援してくれる人、支えてくれる人たちすべてへの感謝を決して忘れず、全力で愛を注ぐ。
「なんとおまえらの近くに会いに行っちゃいます!」と宣言、アリーナ客席の通路をトロッコで進んだのは「愛言葉Ⅲ」。「ほんと久しぶりだね」「ありがとう」「見えてるよ」「最高だ、一生忘れねぇよ!」と言い、客席をくまなく見渡しながら大きく手を振るゆきむら。「おまえホントバカだな!」という言葉にも、愛と感謝がにじみすぎていた。
ゆきむら。
インターネットでの活動を無期限休止することを7月に発表したゆきむら。ステージにひとり残ると、「次いつ会えるかわからないから」と、いつもはしないファンサタイムへ。笑顔で手を振りながら贈ってくれた心からの「ありがとう」を、殿厨は決して忘れない。
ゆきむら。に続いて殿厨も日ごろの鬱憤を晴らすべく思い思いに叫んだ、清々しいラスト。信じ合う者同士、同じ空間で自らをとことん解き放ってさらけ出すことができるライブは、ゆきむら。にとっても殿厨にとってもかけがえのない居場所のはずだ。“ノイズだらけの想い出”を胸に、神の帰還を待とう。
文=杉江優花
撮影=Viola Kam (V’z Twinkle) 、堀卓朗[ELENORE]
セットリスト
2023.8.13 東京ガーデンシアター
01. かなしみのなみにおぼれる
02. ベルセルク
03. 反逆カルマ
04. フォニイ
05. 猛独が襲う
06. 少女レイ
07. あの夏が飽和する。
08. フィクサー
09. 威風堂々
10. 孤独の宗教
11. こちら、幸福安心委員会です。
12. DOGMA
13. KING
14. アイドル
15. アウターサイエンス
16. 廃墟の国のアリス
17. ヒバナ
18. 涙腺回路
[ENCORE]
19. ENVY
20. 決戦エンドレス
21. 愛言葉III