明日海りおが20周年記念コンサート『ヴォイス・イン・ブルー』千秋楽で宝塚時代の同期・凪七瑠海と感涙コラボ「出会ったのがついこの間みたい」
『ヴォイス・イン・ブルー』 撮影=福家信哉
20th Anniversary Rio Asumi sings dramas『ヴォイス・イン・ブルー』千秋楽 2023.9.24(SUN) 梅田芸術劇場メインホール
明日海りおが2003年に宝塚歌劇団で初舞台を踏んでから20年を記念したコンサート『ヴォイス・イン・ブルー』が9月24日(日)、大阪・梅田芸術劇場メインホールで千秋楽を迎えた。宝塚歌劇団の花組トップスターを5年半つとめ、2019年の退団後は、舞台のみならずドラマやアニメ映画などの話題作に出演し続けている。そんな明日海の今回の20周年記念コンサートの千秋楽公演は、彼女のアグレッシブかつチャレンジングな姿勢が存分に発揮され、これからのストーリーへの期待を大いに抱かせるものになった。
●無数のペンライトを前に「海のなかにいるみたい」
巨大スクリーンに浮かび上がる、タイトルと羽が舞う様子。そして広がる「ブルー」。そのなかから登場する、青い衣装の明日海。
オープニングナンバー「どこまでも」では、スクリーンと映像効果によって海の上に明日海が佇んでいるような光景が広がった。幻想的な雰囲気のなかで明日海のエレガントな歌声が響き渡る。スクリーンが上がり、最初のMCでは『ヴォイス・イン・ブルー』で結成されたという「海組」にちなんだポージングを作って、「みなさんの(青い)ペンライトが海のなかにいるみたいで本当に綺麗です」とうっとりした表情を浮かべながら、「今日まで公演をやってきて思ったのは、いろんなドラマが(公演のなかで)生まれることなんです。いろんなドラマが繰り広げられるので、どうぞ楽しんでいってください」と呼びかけた。
2曲目「Hail Holy Queen」(『天使にラブソングを』より)では、明日海が指揮者となってコーラスチームを先導。「You Can’t Stop The Beat」(『ヘアスプレー』より)は<私の鼓動はハイスピードで刻み続ける>という歌詞に合わせて胸を高鳴らせる振付が印象的だった。
特筆すべきは、明日海が宝塚以外で初めて観たミュージカルで大好きな作品と語った『ミス・サイゴン』の劇中歌「命をあげよう」の歌唱である。<生まれたくないのに 生まれ出たお前が 苦しまないように 命もあげるよ>という歌詞だけでもハッとさせられるが、明日海の迫真の「表現力」でよりショッキングさ(もちろんこの言葉は表現における「衝撃度」を意味する)がきわだった。終盤の<お前のためなら 命をあげるよ>は聴き手の気持ちを突き刺す鋭さ、強さがみなぎっていた。それでいて包容力や生きるための活力が漂っている。これは明日海ならではの表現だ。彼女自身の『ミス・サイゴン』と「命をあげよう」に対する思い入れの深さが感じられ、どれだけ感銘を受けたかが分かった。
続く「Caro Mio Ben」は、明日海にとって苦い経験もあった曲だ。「宝塚音楽学校へ入学して初めて(声楽の授業で)習った曲。私は宝塚に入る前に歌を習っていなかったので、全然声が出なくて。模擬試験のたびに落ち込んで、表現したい気持ちがあるのに歌えなかったのが本当に悔しくて」と挫折を突きつけられた同曲。ところがどうだろうか、「全然声が出なかった」という過去が信じられないほど、第一声目から声が伸びていく。「Caro Mio Ben」は明日海の声域の広さを堪能するのにぴったりの曲だが、同時にそれはこの20年、彼女がいかに努力を重ねてきたか、その道のりの“証明”でもあるようだった。歌唱前「歌と向き合った曲」と紹介していたが、明日海は「できないこと」から絶対に逃げない。スキルを高めて磨き上げた明日海の「Caro Mio Ben」を聴いて、「自分もこれまで目を背けてきたこととしっかり向き合おう」と思ったのは筆者だけではないはず。勇気を与えてくれるパフォーマンスだった。
●アカペラチャレンジで涙「みんなと「Answer」を歌うのが楽しい」
明日海りお
公演のなかでファンがひときわ喜んだのは、『私だけに』のパフォーマンスだろう。「決意の強さ」で観る者を惹きつける明日海のエリザベート。どこかひとつの場所に止まっていてはいけない、いろんなところへ飛び出してさまざまなことを知って、新しい世界や価値観を作り出さなければならない。それらはこれまでのエリザベートの持ち味である、自由奔放さ、好奇心に通じるが、明日海自身が宝塚歌劇団退団後に「女優」としてさまざまな「冒険」をしていることからより説得力が感じるものに。バンドによる厚みのある演奏は迫力十分だったが、明日海の歌やボディランゲージは演奏にまったく押し負けていなかった。「凄み」がある内容だった。
艶っぽい衣装にチェンジして臨んだ「Adios Nonino」ではタンゴを踊り、男性ダンサーたちと抱きしめ合ったり、リフトをしたりするなど、繊細さとダイナミックさを融合させた動きで観客を魅了。「Sing Sing Sing」でも軽快な身のこなしを見せ、明日海のダンスパフォーマーとしての実力を味わうことができた。腕を左右にゆったりと大きく振りながら横移動するなど不朽の振付の「All That Jazz」、足を組んで座って歌う明日海の足元で妖しく主張する赤いハイヒールが曲の世界観を作り出していた「Maybe This Time」も明日海らしい表現力が光っていた。
次は、明日海のアカペラチャレンジ曲「Answer」。コロナ禍で気持ちがふさいでいたときに鑑賞したという、多重録音によるさまざまな歌唱動画。それが今回「アカペラチャレンジ」をするキッカケになった。海組を構成するコーラスの長谷川開、宮本美季、ダンサーの中塚皓平、渡辺謙典、岡田治己、松田未莉亜、大久保芽依、西尾真由子とともに約1か月前から稽古を重ねてきたが、アカペラは「夕方4時から晩御飯までに、おせち料理を揃えるくらい難しい」と言い、悪戦苦闘。それでも妥協を一切せず、さらなる難易度を自分たちに課していき、いつしか「毎日、みんなと「Answer」を歌うのが楽しい」と思えるくらいに。そしていざ、披露された「Answer」。キーを合わせるところから始まり、息の合ったハーモニーのなか、一つひとつの歌詞を噛み締めるように歌う8人。歌い終わると全員で抱き合い、明日海も涙を浮かべた。
そして『ムーラン』の楽曲でおなじみ「リフレクション」で第1幕は終えられた。
●凪七瑠海が振り返る明日海との初対面「あまりの透明感に二度見した」
『ヴォイス・イン・ブルー』
第2幕はミュージカル『マドモアゼル・モーツァルト』より「Mモーツアルトのテーマ」「私はエリーザ」「旅」で幕が開いた。3曲を歌い終えると「久しぶりに『モーツァルト』の楽曲を歌い、体のなかにモーツァルトが生まれて今出て行ったんだなと思うと涙が出てきてしまって。再び出会えて嬉しかったですし、お客様に聴いていただけて嬉しかったです」とほほ笑んだ。
コミカルな曲調と3人の男性を翻弄する明日海の振る舞いがキュートな「私がもしベルなら」、実在するビューティサロンがモデルとなっていて明日海が美について口にする「レッド・ドア・サロン」、美しくも毒のあるピンク色でスクリーンが埋め尽くされていく「ピンク」を歌ったあと、いよいよ宝塚歌劇団の同期生であり、現在も宝塚歌劇団専科に所属する男役スター・凪七瑠海が今回の公演のスペシャルゲストで登場。凪七はまず単独で「熱愛のボレロ」を歌唱。情熱的な愛がテーマの同曲を、凛々しく歌い上げた。
そして明日海が壇上へ再び登場すると、凪七は思わず涙。凪七は「この景色、空間……。私はいつも観劇するときは集中して、「良い舞台を観せていただいたな」となるんですけど、(『ヴォイス・イン・ブルー』は)浄化させられるというか。すごく良い気が流れていて、客席の皆様と一体感になれる素敵なコンサートだなって」と心が揺さぶられたのだという。
明日海が「カチャ(凪七)とは宝塚の男役で20年の仲。出会ったのがついこの間みたいな気がする」と話すと、凪七も「音楽学校を入れたら22、23年のお付き合い。受験生のときからさゆみ(明日海)は光り輝いていて。廊下をすれ違ったとき、あまりの透明感に二度見しました」と当時を振り返った。
そんなふたりが『エリザベート』のなかの名曲「闇が広がる」をデュエットすると、会場は地鳴りのような歓声が沸き起こった。配役は、明日海がトート、凪七がルドルフ。MCのときのにこやかな表情をガラッと一変させて『エリザベート』の世界観を作り出すところは鳥肌が立った。圧巻のパフォーマンスを終えて、凪七は「もう、本当に奇跡的すぎて。こうやって一緒に歌えることが」と噛み締めると、明日海も「これからも末長く仲良くしてください」とお礼。凪七は「うん、おじいちゃん、おばあちゃんになるまで」と笑った。
●20周年公演は「進化したものをお見せしたいというエゴまっしぐらの挑戦」
明日海りお
次の映像コーナーでは明日海の幼少期の写真も交えてこれまでの道のりを回想。宝塚時代は背が決して高くなかったことから男役として悩んでいたこと、花組のトップスター時代に「ただ、目の前のことをやろう」と決意を持って突き進んだことなどが明かされた。そして「もっと演じたい。板の上に立って、感じて、学んで、生きているなと実感したい」という現在の心境が語られた。
ここからは一気にクライマックスへ。「Blue Illusion」で明日海の歌声はよりギアが上がり、「哀しみのバンパネラ」「愛と死の輪舞 Reprise」は全身からメッセージを発しているような歌いっぷりだった。「幻想曲 花!」では客席へ降りて場内をまわった明日海。遠くにいるファンにも身を乗り出すような姿勢で手を振るなど、「ファン第一」の明日海らしい心遣いが光った。
バレエの動きをモチーフとした振付や腕の滑らかな動きが美しい「金色の砂漠」、海組全員でお祭り騒ぎをする「Sante!」、恋と冒険こそが人生哲学だと宣言する「人生には恋と冒険が必要だ」、そして凪七が再登場して宝塚への想いをたっぷり込めて歌う「TAKARAZUKA FOREVER」を立て続けにパフォーマンス。
明日海はスタッフや関係者への感謝を述べ、「(今回の公演は)進化したものをお見せしたいというエゴまっしぐらの挑戦だったのですが、実現できたのはみなさんの、お客さまのおかげなんです。私、これからもがんばりますので」と改めて今後の活動への強い意欲を示し、本編ラスト「CHE SARA’」へ。明日海は20年間の感謝を述べるように、宝塚歌劇団の退団公演でもフィナーレで歌われたこの曲を歌った。
感謝の気持ちを受け取った観客からの鳴りやまぬ拍手に応え、再登場した明日海は、アンコール曲に「歌詞がいつもそばにいるみなさまとリンクする」ということで「名前のない空を見上げて」をチョイス。「みなさま、本当にありがとうございました。また会う日まで、さようなら、元気で、良いお年を」とすべての気持ちを言葉のなかに詰め込んで公演を終えた。宝塚歌劇団退団後も役者として活動の幅を広げ続ける明日海だからこそ引き出せる多彩な表現で、それぞれの曲の世界へ誘った2時間半。ステージに広がっているスクリーンには、「明日」に繋がる「美しい空」の映像が映し出されていた。
取材・文=田辺ユウキ 撮影=福家信哉
公演情報
出演者:
明日海りお
東京:
井上芳雄 浦井健治 上原理生 平方元基 田代万里生
蘭乃はな 花乃まりあ 仙名彩世 華優希
<東京公演>2023年9月15日(金)~19日(火)東京国際フォーラム ホール C
<大阪公演>2023年9月22日(金)~24日(日)梅田芸術劇場メインホール