実験的で面白い取り組み 有澤樟太郎、東啓介らが挑む、新作オリジナルミュージカル『TOHO MUSICAL LAB.』ゲネプロ&会見レポート
『TOHO MUSICAL LAB.』l会見より 撮影:吉田沙奈
2020年7月、新型コロナの緊急事態宣言が解除されたばかりの頃に、3月から休館していたシアタークリエに俳優とクリエイターが集まって立ち上げた『TOHO MUSICAL LAB.』。劇場で演劇を見る楽しさを、観劇ファンにも初めて演劇を見る方にも楽しんでもらえるよう、1ヶ月の稽古を経て2本の新作ミュージカルを作り上げ、無観客・ライブ配信によって生のエンターテインメントを届けた。
このチャレンジが大きな評判を呼び、有観客での第2弾が決定した。脚本・演出は、ともに東宝ミュージカル初となる高羽彩(タカハ劇団)と池田亮(ゆうめい)。は全日程即日完売、熱い注目を集めている本作の開幕に向け、開幕記念会見と観客を入れた有料公開ゲネプロが行われた。
会見には『わたしを、褒めて』に出演する有澤樟太郎、美弥るりか、エリアンナ、屋比久知奈、高羽彩(脚本・演出)と『DESK』の 東啓介、豊原江里佳、山崎大輝、壮一帆、池田亮(作詞・脚本・演出)が登壇した。
ーー新作ということで、演じる役や意気込み、高羽さんと池田さんは作品の背景なども教えてください。
有澤:僕はお騒がせ主演俳優・星奈 和(ほしな かなう)を演じます。派手できらびやかな衣装ですが、ものすごく人間ドラマになっています。短い期間で作ったとは思えない密度で、皆さんの心を打つ作品になっていると思います。僕自身も役柄とリンクしているところがあり、原点に返ることができるお芝居。乾燥する季節ですが、この作品で心を潤していただけたら嬉しいです。
『わたしを、褒めて』舞台写真
美弥:私は星奈さんに振り回される演出家・朝日です。大変面白い企画に参加できることを楽しみにしていました。演出家を演じる日が来るとは思っていなかったので、今まで出会った女性演出家さんを思い出しながら、皆さんの個性を取り入れて演じています。稽古期間は短かったですが、個性あふれる素敵な皆さんと一緒に、精一杯全力で駆け抜けたいと思います。
エリアンナ:私はクセのあるプロデューサー・水川を演じます。どちらかというとみんなを振り回すキャラクターで、美弥さん演じる演出家とそれぞれの正義を持ってぶつかり合う、ゴジラVSメカゴジラみたいなバトルがあります(笑)。ぜひ楽しんでいただけたら。
『わたしを、褒めて』エリアンナ
美弥:どっちがメカゴジラ?
エリアンナ:どっちかな(笑)。短期間でしたが笑いの絶えない稽古で、チーム一丸となって作品を作りました。ぜひ笑って、ほっこりしてほしいです。
屋比久:私は有澤くん演じる星奈のマネージャー・田之倉を演じます。知っているマネージャーさんたちを参考にするというよりも、屋比久がマネージャーだったらどうかなと考えながら私なりに作りました。みんなが個性やアイデアを持ち寄って、高羽さんが導いてくれて、すごく楽しく濃密な稽古をしました。お客さんもきっと共感できるストーリーだと思うので、楽しんでいただけたら嬉しいです。
『わたしを、褒めて』屋比久知奈
高羽:この作品を作った経緯ですが、私がプロの演劇人になりたいと思ったきっかけは、あるスタッフワークに感動したからなんです。それから20年近く、私の演劇活動はスタッフさんへのリスペクトとともにありました。舞台裏で何が起きているのか、どういう人たちがいるのかをお客様にもわかっていただきたい、それを知ってさらに演劇を楽しんでいただきたいと思っています。演劇の話ですが、働く皆さんを応援するような内容なので、バックステージのドタバタコメディを楽しんでください。
『TOHO MUSICAL LAB.』l会見より 撮影:吉田沙奈
東:僕は『DESK』で和田という役を演じます。『私を、褒めて』チームの話を聞きながら同じ期間に稽古をしていたんだと思うくらい顔を合わせなかったので、それぞれで作ったものがここに到着したことがすごく嬉しいです。今回は有観客で配信もあるので、より多くの方に届けられるかと思いますし、日本のオリジナルミュージカルがもっと増えたらいいなと思います。働く皆さんを後押しするような内容で、共感できるものが散りばめられていますし、2本セットで見ることで相乗効果もあると思いますから、どちらも楽しんでいただけたら嬉しいです。
豊原:私は和田さんたちと一緒に働いている上野を演じます。皆さんと一緒にイチから作品を作るのが楽しかったですし、自分の経験を全て活かせるような素敵な稽古期間でした。大人になると、自分を大切にしたり自分のためだけの時間を持つって難しいなと感じていて、それを改めて気づかせてくれる作品でした。見た方が自分に優しくなれる作品なんじゃないかと思います。
『DESK』舞台写真
山崎:中原という役を演じます。アニメーション制作会社の話で、立ち止まるということを教えてくれる作品だと思いました。皆さんお仕事忙しいと思いますし、僕も最初に台本を読んだ時、自分の時間を意外と取れていなかったと考えました。僕が演じるのは、きっとどこかに信念みたいなものはあるけど、学生のまま社会に出てしまったような人。皆さんにも一度立ち止まる気持ちを味わっていただけたらと思います。
壮:私はアニメ会社のプロデューサー・三浦という役を演じます。同じプロデューサーですがエリアンナさんとは全く違う雰囲気です。ただでさえ短い稽古期間で、私はさらに半分くらいしか参加できなかったので、必死に追い上げました。最初に本を読んだ時、「これは面白い」と感じましたし、自分がどこまで表現できるかが課題だと感じました。いろいろな役に挑戦する中で自分の引き出しを増やせていると思うので、少しでも「面白かった、いいものを見られた」と思ってもらえるように頑張りたいと思います。
『DESK』壮 一帆
池田:僕はこの企画の第1弾を配信で見たんです。いろいろな公演が中止になる中で、配信で届けてくれたことで、今でも舞台をやっているんだと感じ、今は生活のことを優先しなくちゃと思いつつ、もう一度仕事をしたい・自分のやっていたことをやりたいという思いが溢れてきました。それがあったからこそ、第2弾で返せるものはないかと考えました。また、アニメーション会社で働く知人から話を聞いて、言葉にならない叫びのようなものがすごくあるのを感じました。日本でオリジナルミュージカルを作るならやっぱり題材はアニメなんじゃないかと思って執筆しました。短い稽古でしたが、毎回面白さが更新されていくのは本当に特別なことだと思っています。見てくれる皆さんを明るく元気づけられたらと思っているのでぜひ楽しみにしてください。
続いて行われたゲネプロの様子をお届けしよう。
『わたしを、褒めて』舞台写真
高羽が脚本・演出を務めた『わたしを、褒めて』。初日の幕が上がる直前、有澤演じる主演俳優・星奈の言葉をきっかけに巻き起こるトラブルを描いたミュージカルコメディだ。まずはナビゲーターとして高羽が登場し、舞台を作るために働く様々なスタッフを紹介するうちに曲になっていく。ポップな曲調に乗せて切実な歌詞が紡がれているのが面白い。30分程度の短編ながら、主演俳優のプライドと苦悩、クオリティを求める朝日とシビアに判断する水川のバトル、マネージャーの思いなど、キャッチーで魅力的な曲も多数ある。
『わたしを、褒めて』美弥るりか
『わたしを、褒めて』有澤樟太郎
芝居においても、周りを振り回しているものの素直で愛嬌がある星奈、厳しいがまっすぐに役者を見ている朝日、プライドを持ってそれぞれの仕事に取り組む制作スタッフやプロデューサー、マネージャー。それぞれの立場と言い分があり、時にはぶつかりながらも正解のわからないクリエイティブに取り組む様子に胸が熱くなる。また、うまくいかないことばかりで大変だと言いながらも、登場人物たちはどこか楽しそうだ。舞台を作る人たちの裏側を楽しく知ると同時に、彼らの姿からエールをもらえる。一人ひとりの表情や動きもユーモラスなため、何度か見返して細かい部分まで確認したくなるはずだ。
『わたしを、褒めて』舞台写真
『わたしを、褒めて』有澤樟太郎
池田の作詞・脚本・演出による『DESK』はアニメーションの制作現場を描いたミュージカル。『わたしを、褒めて』のにぎやかな舞台裏からガラリと雰囲気を変え、ステージ上に積み上げられたデスクのみのシンプルなセットが目を引く。
『DESK』東 啓介
『DESK』山崎大輝
東は家族への愛情とアニメへの情熱の間で板挟みになる制作デスク、豊原は退職を決めつつ責任感を持って仕事に取り組もうとする制作進行、山崎はちょっと抜けたところのある制作進行、壮は良い作品にしようと奮闘するプロデューサーを演じる。『転生したら牧場でのんびり暮らしました』というアニメが最終回を迎えるまでの間、人手不足やクオリティの問題を抱えて疲弊し、憧れと生活の間で揺れる人々の姿が赤裸々に描かれていた。
『DESK』舞台写真
『DESK』舞台写真
『DESK』豊原江理佳
シリアスなストーリーだが、和田と中原のコミカルなやりとりがあったり、追い詰められた四人が「宝くじを当てよう」と歌ったり、アニメの作画崩壊を主人公・奏が表現したりと、ユーモラスなシーンも多い。キャストの歌声を堪能できる楽曲も魅力。和田と奏が歌う「休んでいいよ」という言葉がじんわりと染み込んでくる。仕事の大変さや現場の苦労といったシビアな部分がメインだが、どこかあたたかく前向きな気持ちになれる物語だった。
『DESK』舞台写真
ともにバックヤードを描きながら、それぞれ違う切り口で楽しませてくれる2つのオリジナルミュージカル。23日(木・祝)16:00の千秋楽公演はライブ配信も行われる。『TOHO MUSICAL LAB.』というタイトルの通り、実験的で面白い取り組みをぜひチェックしてほしい。
公演情報
『わたしを、褒めて』
出演:
有澤樟太郎
美弥るりか
エリアンナ
屋比久知奈
新井海人 石井千賀 焙煎功一
作詞・作曲:ポップしなないで
美術:稲田美智子
衣裳:臼井梨恵
振付:大和
『DESK』
出演:
東 啓介
豊原江理佳
山崎大輝
壮 一帆
久住星空/三浦あかり(子役・Wキャスト)
作詞・脚本・演出:池田亮(ゆうめい)
作曲:深澤恵梨香
美術・衣裳:山本貴愛
振付:岡本 優
会場:シアタークリエ
日程:2023年11月22日(水)19時、11月23日(木祝)12時/16時
料金:8,800円(全席指定・税込) 全日程満席状況となっております。
【11月23日(木・祝)16時公演(千穐楽)ライブ配信】
視聴料金:3,500円(税込)
アーカイブ有:公演終了後準備でき次第~12/10(日)23:59まで
販売期間:11/6(月)10:00~12/10(日) 20:00まで