ダンスも歌も新たなチャレンジ。 大阪再演『へぼ侍~西南戦争物語~』は OSK翼和希の東京初主演作【会見レポート】
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左から唯城ありす、翼和希、戸部和久(脚本・演出)
2023年8月に大阪で初演され好評を博したOSK日本歌劇団『へぼ侍~西南戦争物語~』が、2024年1、2月に大阪、東京それぞれで上演される。主人公の志方錬一郎を演じる翼和希、錬一郎と出会う娘・鈴役の唯城ありす、脚本・演出の戸部和久が出席しての記者懇親会で語られた内容を整理してレポートする。
原作は松本清張賞を受賞した坂上泉の同名小説。翼が演じる錬一郎は、明治という新たな時代に翻弄され商家に奉公していた没落士族。志を成し遂げるために西南戦争の壮兵に志願したことからその人生は大きく動いていく。
キャラクターの魅力、演じ手の魅力、それぞれの思い
翼和希
翼:錬一郎は、家を再考することに希望を抱き、周りから『へぼ侍』とののしられてもあきらめずに刀を振り続けてきた中で、やっと認められて戦場へ行くのですが……。恐怖や葛藤などさまざまな感情の中で、死が迫り人を殺める現実を突きつけられてしまう。その感情の揺れ幅をよりリアルに表現したいと思います。武士としての誇り、商人としての知恵。まだ何者でもない17歳の若くて青くて頭の柔らかい青年の思いをすべて詰め込んでブラッシュアップした舞台をお届けしたいと思います。
唯城:熊本から出てきたお鈴は女性としての強さとまっすぐさと優しさ、太陽のような明るさをもった天真爛漫な子で、そこがとても魅力的だと思います。本当に想像を超える強さと元気なんです。私自身、原作を読ませていただきながら元気をいただきましたので、そこは絶対に欠かせないところだと思います。
唯城ありす
翼:衝撃的なことに出会っても全部を素直に受け止め、吸収することができるところが錬一郎のよさ。人との出会いによって自分なりの戦い方を見つけていくのですが、そのきっかけをつくってくれるのが仲間やお鈴という存在。そうしたところに魅力を感じます。
唯城:お鈴は家族と離れ離れになりひとりで生きていくために身売りするしかないという、すごく辛い状況の中で錬一郎さんと出会います。きっとそれによって明日も生き続けたい、未来を生き続けたいという思いになるのだろうと思います。
戸部:翼さんと結城さんが並ぶと舞台が本当に華やか。ですので、小説には描かれていない錬一郎と鈴の恋模様の、翼さんと結城さんの素敵なシーンをたくさん詰め込みました。
戸部和久(脚本・演出)
ダンスのストーリーとリアリティ、同じ振りでも異なる味わい
翼:錬一郎の初陣の場面はダンスナンバーになっていて、薩摩兵と官軍とそれぞれが武器を持って踊るのですが、踊りのための小道具ではなく人を殺めるための道具としてのリアリティーがあります。それぞれ役の人物としての踊るので同じ振りでも性格やその時の心情によって異なります。そこをはっきりお見せしたいです。
戸部:いわゆるダンスシーンということではなく、ダンスでストーリーが展開していくという、ある種、歌舞伎舞踊的な展開をさせていただいています。音の変化のなかで心情が変わっていく。ですから激しく踊りながらも内面が変わっていかなければならない。芝居の中での踊りということです。
翼:山田文彦先生の音楽そのものにストーリーがあるので心情の変化を実感できます。花柳まり草先生の振り、照明などスタッフさんのお力添えのおかげで、お客様にはっきりとそれが見えるのではないでしょうか。錬一郎が感じたその時のリアルを包み隠さずお客さまにお伝えできたらと思います。
戸部:振りそのものもさらにブラッシュアップさせ、迫力あるシーンにしたいと思います。
歌劇を超えた歌唱への挑戦、日本音階を取り入れた音楽
唯城:歌はとにかくたくさんあります。いつもより少しキーの高い曲なのですがそのキーでお鈴として気持ちを高め、歌劇とはまた違ったミュージカルとしての歌唱をしたいと思います。それは私の挑戦でもあり、戸部先生の挑戦でもあるのかなと思います。
戸部:せりふと歌の境目をなるべくなくすようにしました。また歌舞伎の話で恐縮ですが、歌舞伎ではきれいな日本語を音として生かしてせりふも音で聞かせることがあります。普段はあまり使わないような言葉の難しい歌詞があったり、雅楽の山田先生が日本音階をうまく取り入れてくださっていたりするので、いつも歌っていらっしゃるものとはアプローチが違うはずで、実際問題として歌うのはかなり難しいと思います。
2024年は102年目のスタート、OSKの伝統と魅力
戸部:OSKの皆さんはとにかく一所懸命。できるかどうかわからないようなことでも、やってみたらすごいことができるのは?と思わせるガッツ、立ち上がる生命力を感じます。翼さんを中心に私のかなりの〝無茶ぶり〟にも応えてくださいました。日本人が日本語で、ブロードウェイの『ハミルトン』のようなものをつくろうと思ったらどうなるだろうか、という思いで取り組んだ作品です。それは手探りで深い森をかきわけていくような状況だったのですが、まさにOSKだからこそ実現できたと思っています。
唯城:OSKの魅了は団結力。本当に温かい劇団で、何か悩んでいる時は必ず手を差し伸べてくださる方々がいらっしゃいます。100年続いて来た伝統を受け継ぎ、精一杯の力を込めて心を込めて、みんなで団結していい舞台をお見せできるようこれからも続けていきたいと思います。
翼:トップスターの楊琳さんがよくおっしゃるようにOSKの魅力は生命力、どんな状況下でもたくましく生きて花を咲かせる力強さだと思います。そして好き好きでしゃあない舞台をお客様にご覧いただきたいという熱意。100年目は感謝、101年目は新たな一歩、そして102年目は継続の年と思っています。しっかりと前を見据えて、OSK日本歌劇団を継続していけるよう、精進していきたいと思います。
取材・文=清水まり 撮影=中田智章
公演情報
翼和希・天輝レオ・壱弥ゆう・唯城ありす・せいら純翔・知颯かなで・柊湖春・南星杜有・凰寿旭・鼓珀響・奏叶はる・ことせ祈鞠
【公演日時】
大阪/2024年1月18日(木)~22日(月)(全9公演)
東京/2024年2月1日(木)~4日(日)(全8公演)
【観劇料(全席指定席)】
SS席=8,500円・S席=6,500円・S席U-25=5,000円・S席はじめて割=3,000円・S席学割=2,000円・S席高校生以下=無料
大阪/扇町ミュージアムキューブ・CUBE01
東京/銀座博品館劇場