ギャリー・エイヴィスが語る"バレエの魔法を創り上げた"ロイヤル・バレエ『ドン・キホーテ』の魅力~英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズンにて上映

2024.1.22
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ギャリー・エイヴィス Gary Avis as Don Quixote (c) ROH 2023 Photographed by Andrej Uspenski

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「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2023/24」(配給:東宝東和)の一環として、ロイヤル・バレエ『ドン・キホーテ』が2024年1月26日(金)よりTOHOシネマズ日本橋ほか全国公開される(2月1日(木)まで一週間限定)。『ドン・キホーテ』は、スペインを舞台にした明るく楽しい恋物語として人気の古典名作で、今回上映されるのは2013年に新制作されたカルロス・アコスタによるプロダクション。2023/24シーズンのバレエの開幕を飾り話題を呼んだ(2023年11月7日公演を収録)。物語の鍵となるドン・キホーテを演じたギャリー・エイヴィスに、アコスタ版の魅力や演技のこだわり、マヤラ・マグリ(キトリ役)やマシュー・ボール(バジル役)との共演、日本のファンに向けてのメッセージを聞いた。
 

■ロイヤル・バレエの新定番! アコスタ版『ドン・キホーテ』の魅力とは

ギャリー・エイヴィス Gary Avis (c) ROH 2023

――今回映画館上映される『ドン・キホーテ』は、2013年に新制作されたカルロス・アコスタ(元ロイヤル・バレエ プリンシパル、現在はバーミンガム・ロイヤル・バレエ芸術監督)によるプロダクションです。アコスタ版では街の群衆が声をあげたり、野営地の場面では舞台上においてギターが生演奏されたりするなど、キューバ出身のアコスタらしいラテン気質も発揮されているように思うのですが、アコスタ版の特色・魅力はどこにあるとお考えですか?

ギャリー・エイヴィス(以下、エイヴィス) カルロスのプロダクションはフレーバーが豊かで情熱もあり光っています。彼は大変な時間をかけて努力し創り上げました。カルロスからのロイヤル・バレエへの素晴らしい贈り物です。すごく明るいプロダクションですね。暗かったり重めだったりする版もありますが、カルロスのプロダクションはアンサンブル・ピースとして登場人物それぞれに光をあてています。私はこの作品のルックが大好きです。飛び出す絵本のようで、登場人物のキャラクターも絵本のなかから立ち上がってくるようなのを気に入っています。単なるバレエ作品ではなく、どちらかというとショウのような趣です。翼をもって羽ばたくようなプロダクションなので成長し続けていますし、これからもどんどん成長していくでしょう。

マヤラ・マグリ Mayara Magri as Kitri in Don Quixote ©2019 ROH. Ph by Andrej Uspenski

――初演から10年が経ちましたが、再演を重ね、2019年の日本公演でも披露されました。今のロイヤル・バレエには、チーム・ワークのよさがあって、しかもそれが年々増していっている印象を受けます。実際に舞台を創る立場からはどのように感じますか?

エイヴィス 10年はあっという間でしたが、作品は確実に成長し、ダンサーたちも成長しています。もうすっかりロイヤル・バレエのレパートリーに定着しました。ロイヤル・バレエにとって『ドン・キホーテ』のプロダクションを持つのは簡単なことではなく、英国のダンサーにとっては『ドン・キホーテ』のようなバレエ作品は、ちょっと収まりが悪いと感じていた人もいたかもしれません。しかし、ダンサーたちはカルロスのプロダクションをものにしていると感じますし、チームワークもうまくいって、バレエの魔法を創り上げたと思います。

マシュー・ボール Matthew Ball as Basilio in Don Quixote ©2019 ROH. Ph by Andrej Uspenski

 

■「ドン・キホーテ役は、物語を創り上げる重要なキャラクター」

――今回演じられたドン・キホーテはタイトル・ロール(表題役)です。ただし、セルバンテスの原作小説と違って、バレエではキトリとその恋人のバジルの恋物語を軸に展開し、ドン・キホーテは憧れのドルシネア姫を求めて旅に出ます。演じるうえで大切にされている点は?

エイヴィス ドン・キホーテは単に旅に出るだけでなく、彼と観客全員が一緒に3時間の旅に出ます。観客の皆さんには、ドン・キホーテを風変わりな人だと捉えるのではなく、彼が感じることを同じように感じてほしいですね。彼がどういう人間なのかを理解し、なぜそこにいるのかを考えてもらいたいです。これは生きた物語です。ドン・キホーテという人物は、真実の愛、永遠の愛を求めています。彼のドルシネア姫に対する愛だけでなく、キトリとバジルが2人で愛を見つけて幸せになることも彼にとっては大切なのです。ドン・キホーテは、喜びをもたらす人物だと思います。彼が巨大な風車に立ち向かっていくのは、風車がモンスターに見えてしまったからですが、その"モンスター"と戦う場面では、お客様も一緒になって戦ってほしいですね!

キトリとバジルが物語の中心だと感じる人が多いでしょう。でも、ドン・キホーテは、ある種物語の中心にいて、キトリやバジルと一緒に物語を創り上げる重要なキャラクターです。彼は変わっているのではなく大切な存在で、意味のあることをしているまともな人間なのです。

ギャリー・エイヴィス Gary Avis as Don Quixote (c) ROH 2023 Photographed by Andrej Uspenski

――お気に入りの場面はどこですか?

エイヴィス まずプロローグを気に入っています。従者のサンチョ・パンサとの友情の絆がどれだけ深いかを描いているので、とても好きです。あと、馬に乗って舞台に登場する場面は、どんなバレエでも楽しいから好きですね。それから、風車をモンスターと間違えて戦い、風車に引っかかってしまう場面はチャレンジングです。音楽が長い反面、やることは少なく大変なので、どう演じるのかをよく考えています。

マヤラ・マグリ Mayara Magri as Kitri in Don Quixote ©2019 ROH. Ph by Andrej Uspenski

 

■「観客の皆さんに毎回ベストなパフォーマンスをお届けしたい」

――キトリ(マヤラ・マグリ)、バジル(マシュー・ボール)らとのコミュニケーションで楽しかった点・刺激的だった点は?

エイヴィス 主役が誰であっても、彼らとの共演を毎回楽しんでいます。リハーサルでは、キトリとバジルは基本的にドン・キホーテとは別に練習しています。いざ舞台となったとき、瞬発的に、自発的に演技が発生することがあって、それがとてもエキサイティングです。毎回演技をコピー&ペーストするのではなく、その時々にどんな演技が生まれるのかを楽しんでいます。ドン・キホーテは3時間のあいだほとんど舞台に立っていて、キトリとバジルの演技を観ていますが、いざ絡むと自発的にさまざまな演技が出てくるので楽しいと感じています。

マシュー・ボール Matthew Ball as Basilio in Don Quixote ©2019 ROH. Ph by Andrej Uspenski

――今回は振付指導にも携わっています。指導時に何を心がけましたか?

エイヴィス 振付指導者としては、まずはオリジナルの振付通りにできているかどうかを重視します。いっぽう、それぞれのダンサーが異なる解釈をするので、彼らの個性を生かせるようにもします。そして、観客の皆さんに素晴らしい3時間の楽しい旅をしてもらうために、毎回ベストなパフォーマンスをお届けするように努力しています。振付指導だけでなく、ドン・キホーテに加えて交代出演でロレンツオ(キトリの父)に配役されていたので、それぞれの役が混ぜこぜにならないようにして、チームとしてうまく機能できるように気を付けました。

マヤラ・マグリ Mayara Magri as Kitri in Don Quixote ©2019 ROH. Ph by Andrej Uspenski

 

■日本の観客への愛があふれるメッセージ!

――『ドン・キホーテ』の上映に向けて、日本の観客にメッセージをお願いします!

エイヴィス 映画館に来ていただいた皆様全員が楽しんでくださることを期待しています。何回でもご来場ください! 映画館上映はカンパニーにとって大事なので、ロイヤル・バレエとしてのメッセージを受け止めてほしいですね。そして、3時間の楽しい時間を過ごしてほしいです。日本の皆様もスペインの街中にぜひお越しください!

マヤラ・マグリ Mayara Magri as Kitri in Don Quixote ©2019 ROH. Ph by Andrej Uspenski

――「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2023/24」において『ドン・キホーテ』の後に上映されるバレエとして、『くるみ割り人形』(2月16日より順次公開)、『マノン』(4月5日より順次公開)、『白鳥の湖』(6月14日より順次公開)が控えています。とくに『くるみ割り人形』は、ロイヤル・オペラ・ハウスの年末年始の風物詩で、映画館上映でも毎年最新の舞台が紹介されます。次々回に上映される『くるみ割り人形』の魅力についてもお聞かせください。

エイヴィス ピーター・ライト版『くるみ割り人形』は、本当に美しくマジカルなプロダクションで、クリスマスに贈りたいすべてが詰まっています。そんな素晴らしいプロダクションを長年ロイヤル・バレエで上演できて幸せです。しかもライト卿ご本人が観にきてくださり、私たちに彼の知識を伝えてくれます。特別なバレエなので、今後もずっと上演したいです。この作品が伝える、愛や情熱といったメッセージはクリスマスにふさわしいので大好きです。

【予告編】The Royal Ballet: Don Quixote cinema trailer

取材・文=高橋森彦

上映情報

英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2023/24
ロイヤル・バレエ『ドン・キホーテ』

2024年1月26日(金)よりTOHOシネマズ 日本橋 ほか全国公開
TOHOシネマズ日本橋にてアンコール上映決定、2/2(金)~2/8(木)まで
 
【上映劇場】
北海道 札幌シネマフロンティア2024/1/26(金)~2024/2/1(木)
宮城 フォーラム仙台2024/1/26(金)~2024/2/1(木)
東京 TOHOシネマズ日本橋2024/1/26(金)~2024/2/1(木)
東京 イオンシネマ シアタス調布2024/1/26(金)~2024/2/1(木)
千葉 TOHOシネマズ流山おおたかの森2024/1/26(金)~2024/2/1(木)
神奈川 TOHOシネマズららぽーと横浜2024/1/26(金)~2024/2/1(木)
愛知 ミッドランドシネマ2024/1/26(金)~2024/2/1(木)
京都 イオンシネマ京都桂川2024/1/26(金)~2024/2/1(木)
大阪 大阪ステーションシティシネマ2024/1/26(金)~2024/2/1(木)
兵庫 TOHOシネマズ西宮OS2024/1/26(金)~2024/2/1(木)
福岡 中洲大洋映画劇場2024/1/26(金)~2024/2/1(木)
※上映時間について、公開日が近づきましたら上映劇場へ直接お問い合わせ下さい。
 
【振付】カルロス・アコスタ、マリウス・プティパ
【音楽】レオン・ミンクス
【デザイナー】ティム・ハットリ―
【照明】ヒューゴ・バンストーン
【ステージング】クリストファー・サンダース
【指揮】ワレリー・オブシャニコフ
【演奏】ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団 
【出演】
ドン・キホーテ:ギャリー・エイヴィス
サンチョ・パンサ:リアム・ボズウェル
ロレンツォ(キトリの父):トーマス・ホワイトヘッド
キトリ:マヤラ・マグリ
バジル:マシュー・ボール
ガマーシュ(金持ちの貴族):ジェームズ・ヘイ
エスパーダ(闘牛士):カルヴィン・リチャードソン
メルセデス(街の踊り子):レティシア・ディアス
キトリの友人:ソフィー・アルナット、前田紗江
二人の闘牛士:デヴィッド・ドネリー、ジョセフ・シセンズ
ロマのカップル:ハンナ・グレンネル、レオ・ディクソン
森の女王:アネット・ブヴォリ
アムール(キューピッド):イザベラ・ガスパリーニ
ファンダンゴのカップル:ミーシャ・ブラッドベリ、ルーカス・B・ブレンスロド
 
【STORY】
老紳士ドン・キホーテは、読みふけっていた本に登場する美しい姫ドルシネアを夢に見て恋する。ドルシネア姫との出会いを夢見て、従者サンチョ・パンサを引き連れて騎士を気どり冒険の旅に出る。
陽光あふれるバルセロナの街角。町娘キトリは床屋のバジルと恋仲だが、父ロレンツォは娘を金持ちの貴族ガマーシュに嫁がせようと目論み、二人の仲には反対だ。街にドン・キホーテとサンチョ・パンサが現れ、キトリこそ夢の姫君ドルシネアだと思いこむ。
恋人たちはジプシーの野営地に逃げ込む。そして再びドン・キホーテの夢の中、ドルシネア姫、キューピッド、そして森の女王や妖精たちが踊り、甘美なひと時が過ぎて行く。
キトリとバジルは街の居酒屋で友人たちと祝杯を上げようとするが、そこにはロレンツォやガマーシュも待ち構えていた。バジルは、結婚を許さないなら死んでやると狂言自殺をし、ドン・キホーテに説得されたロレンツォは二人の結婚を認める。そして二人の結婚式が華やかに行われる。恋人たちの仲を取り持ったドン・キホーテはサンチョ・パンサを引き連れ、再びドルシネア姫を追って次の冒険へと旅立つ。

【公式サイト】http://tohotowa.co.jp/roh/
【配給】東宝東和 
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