青木豪が書き下ろした爽快エンタメ作品を、安田章大らが見事に表現 PARCO PRODUCE 2024『あのよこのよ』が開幕
(左から)青木豪、潤花、安田章大、中村梅雀
近年は歌舞伎の新作書き下ろしや劇団四季などの大規模作品を手掛ける青木豪と、アーティスト・俳優として活躍する安田章大。2人のタッグは、舞台『マニアック』以来5年ぶりとなる。青木が書き下ろした新作は、江戸の幕末から大転換期を迎えた明治黎明期を舞台に、とある浮世絵師と周囲の人々がひょんなことから事件に巻き込まれる物語だ。 共演者には潤花、池谷のぶえ、落合モトキ、大窪人衛、村木仁、南誉士広、三浦拓真、市川しんぺー、中村梅雀と、実力派が集結。
初日を前に、作・演出の青木豪、安田章大、潤花、中村梅雀による会見とゲネプロが行われた。
ーー初日を迎えるにあたって、意気込みを教えてください。
安田:コロナ禍を経て、改めて演劇が皆さんの心に近づいてきていると思います。頭を空っぽにしていただける時間を提供できたらと思い、みんなで力を合わせてエンターテインメントを作りました。
潤花:初めましての皆様と一緒に心を通わせて作りました。どんな幕開けになるのか、私自身とても楽しみです。
中村:今まで舞台でやったことのない種類の役を演じています。冒頭から奇想天外、予想を遥かに上回る登場をしますし、その後も「え!?」という展開だらけ。お客さんの反応が楽しみですね。
青木:お芝居はお客様に育てられるものなので、本番が始まって皆さんの笑い声や涙に支えられてどんどん進化したらいいなと思っています。
ーーそれぞれの役の見どころ、お気に入りのシーンや稽古場エピソードを教えてください。
安田:豪さんは、明るくてヤスがいることでポジティブ・前向きになるというところにエネルギーを置いて秋斎を当て書きしてくださったんだなと実感しています。稽古をしてわかったんですが、秋斎はせっかち。豪さんにもそっくりなんじゃないかと思いました(笑)。
潤花:私自身、ミツのような役は初めて。いろいろなものを抱えながらも生きる情熱に溢れた魅力的な女性だと感じています。安田さん演じる秋斎さんと二人の場面もあるんですが、そのシーンはいい意味で力が入っておらず、削ぎ落とされた仕上がりになっています。秋斎さんに引っ張っていただいて、私自身も共鳴できるようにしたいと思っていますし、お客様が入って新たな感情も芽生えると思うので、そこを吸収しながら生きていきたいです。
中村:珍しくとっても悪い役で、お芝居におけるメッセージ性も含んでいます。どこかの国を支配してきた権力の象徴みたいな感じで、最後にメッセージを叫んでいます。どんなふうに届くのか楽しみです。
ーー青木さんから見た皆さんの印象はいかがですか?
青木:ヤスはみんなを引っ張っていってくれます。ただ、エレベーターに乗ってボタンを押し忘れることが多くて、僕は早押しみたいに閉まるボタンを押すくらいせっかち。稽古場でもヤスはぼーっとしながら全体の空気を見ていて、僕は「とにかく巻いて!」と言っている。おっとりとせっかちで随分違いがありますが、彼が中心にいてくれることですごく場が良くなっているので、芝居にもそこが現れるといいなと思っています。
潤花さんはとにかく明るい。ずっと笑っていてくれるおかげで稽古はすごく気持ち良くできたんですが、いざ本番で誰も笑ってくれなかったらどうしようと。潤花さんが2人くらい客席にいてくれるといいんですけど(笑)。
梅雀さんは親戚にひとりいてほしいお兄さんみたいな感じ。みんなと遊んでくれます。若手の所作や刀の扱い、三味線のシーンなどを、先輩ぶらずに楽しく教えてくれています。
安田:お若いんですよね。
中村:幼いんだよ(笑)。
安田:最高じゃないですか!
(左から)青木豪、潤花、安田章大、中村梅雀
ーーキャストの皆さんは、青木さんの演出についてどう感じましたか?
安田:豪さんの中でいろいろ決まっているんだなと改めて感じました。5年ぶりにご一緒して、曲げられないことについて真摯に追求していくところが5年前よりはっきりしたなと。5年前は気を使っていただいている気がしましたが、今回は演出・俳優というくくりを超えてしっかり会話できたと思います。
潤花:今回一番感じたのは、青木さんが作られる現場の空気感。皆さんが同じ方向を向いて真摯に作品を作っていて、宝物のような瞬間が詰まっている稽古でした。貴重な時間だと感じているので、本番が楽しみです。
中村:すごく奇想天外な世界観だけど、しっかりと芯のある筋が通っている。さらに飽きさせないよう、びっくりする展開が散りばめられています。稽古場で思いついたことをいろいろ試してみるのを見て、「好きなんだなあ」と。確固たる世界があるのを感じて、役者側も責任を持って演じなければいけないと感じました。
ーー安田さんに関しては当て書きの部分もあるということですが。
青木:今回は安田くんのある部分をうんと誇張しています。周りを翻弄して自分のペースに巻き込んでいく役です。本人を見ていると、むしろおっとりと周りを巻き込んでいるのかと思うんですが、役としては稽古最初の頃よりかなりスピードが上がりました。(安田が)最初に台本を読んだ時のイメージとだいぶ違ったんじゃないかな。
安田:私生活の速度は置いておいて、この世界を楽しんでもらいたいので、みんなでこの作品の世界を作りました。僕ひとりが急いでも話は回らないので、みんなで一緒に大きなものを作っているのを実感しています。それが演劇の楽しさですね。
青木:この5年間で彼の芝居を見に行ったり連絡を取ったりしていて、共通の言葉ができたんです。稽古場でもいろいろ言えるようになったのは、共通言語を持てるようになったからなのかなと思います。
ーーメガネも今作のキーアイテムになっているんですね。
安田:そうなんです。体のことも考慮してくださって、明治初期の時代の眼鏡・色眼鏡についても考えながら特注で作ってくださいました。
青木:新たに作った小道具です。微調整してちょうどいいものを作ってもらったので、安心して舞台に立ってもらえると思います。作中での活躍はお楽しみにということで。
ーー最後に、公演を楽しみにしている皆さんに向けてメッセージをお願いします。
安田:舞台上ではいろいろな役者さんが、舞台裏ではいろいろな部署の方々が一丸となって物語を紡いでいます。現場で起きているリアルな状況を、五感で感じに来ていただけたらと思います。なのにエンターテインメント。そこが楽しいところです。ぜひお越しください!
※以下、ゲネプロの写真と多少のネタバレあり
PARCO PRODUCE 2024『あのよこのよ』舞台写真
PARCO PRODUCE 2024『あのよこのよ』舞台写真
PARCO PRODUCE 2024『あのよこのよ』舞台写真
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幕が開くと、赤鬼と青鬼、閻魔大王(中村梅雀)が罪人を裁いているシーンから物語がスタートする。だがこの閻魔大王、どこか俗っぽくて裁きも自分本位だ。コミカルなやり取りを見ていると浮世絵師・刺爪秋斎(安田章大)と弟の喜三郎(大窪人衛)が現れ、閻魔大王達の様子は新政府について描いた風刺画だということがわかる。
安田はきっぷがよく腕の立つ秋斎を魅力的に好演。冒頭から10分足らずの間に殺陣や歌唱を惜しみなく披露して物語に対する期待を抱かせてくれる。絵を描くことに一直線で想像力豊かすぎる秋斎は厄介な人間にも思えるが、自分の興味や心に正直な姿が爽快で惹きつけられた。
せっかちで型破りな秋斎と、振り回されながらも兄を慕う喜三郎のやりとりも微笑ましい。タイプが違うように見えてお互いにずれたところのある兄弟のテンポのいい掛け合いが楽しい。
PARCO PRODUCE 2024『あのよこのよ』舞台写真
PARCO PRODUCE 2024『あのよこのよ』舞台写真
PARCO PRODUCE 2024『あのよこのよ』舞台写真
PARCO PRODUCE 2024『あのよこのよ』舞台写真
PARCO PRODUCE 2024『あのよこのよ』舞台写真
居酒屋を営む又一郎(村木仁)の妹・フサ(池谷のぶえ)が「秋斎の未来を決める女に出会う」という未来を見たこと、直後に店に飛び込んできたミツ(潤花)と勘太(落合モトキ)を追って刀や銃を持った男達が踏み込んできたことから、物語は猛スピードで動き出す。
とぼけた雰囲気の又一郎、しっかり者で不思議な力を持つフサ、わけもわからぬまま巻き込まれてしまった又一郎の息子の又蔵(三浦拓真)、幽霊となっている又一郎とフサの父・ロク(市川しんぺー)など、個性豊かなキャラクターたちの活躍、思いがけない展開の連続にワクワクしながら見入ってしまう。
軽妙でユーモアのあるやりとりが散りばめられており、冒頭から笑えるシーンがたくさんある一方で、邏卒組頭の山路(中村梅雀)、薬種問屋の鯖上(南誉士広)はシリアスな空気を醸し出している。テンポの良さと緩急のついた展開によって、約2時間の上演時間が一瞬で過ぎたような感覚に陥った。
PARCO PRODUCE 2024『あのよこのよ』舞台写真
PARCO PRODUCE 2024『あのよこのよ』舞台写真
PARCO PRODUCE 2024『あのよこのよ』舞台写真
PARCO PRODUCE 2024『あのよこのよ』舞台写真
本作は4月8日(月)~4月29日(月・祝)までPARCO劇場にて上演。その後、5月3日(金・祝)~5月10日(金)まで大阪・東大阪市文化創造館 Dream House 大ホールでも公演が行われる。
取材・文・撮影=吉田沙奈