古川雄大、深みの増した芝居と圧倒的な歌唱力で魅せる ミュージカル『モーツァルト!』ゲネプロレポート
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ミュージカル『モーツァルト!』舞台写真
「才能が宿るのは肉体なのか? 魂なのか?」というテーマをベースに、脚本・歌詞/ミヒャエル・クンツェ、音楽・編曲/シルヴェスター・リーヴァイのゴールデンコンビが生み出したミュージカル『モーツァルト!』。
2002年の日本初演以来ミュージカルファンを魅了し続けてきた本作が、帝劇クロージングラインナップとして約3年ぶりに帝国劇場に帰ってくる。
ヴォルフガング・モーツァルト役を演じるのは、2018年より同役を務める古川雄大と、本作で帝劇初主演を務める京本大我。さらに、真彩希帆、大塚千弘、涼風真世・香寿たつき(Wキャスト)、山口祐一郎、市村正親ら実力派が顔をそろえている。この日のゲネプロでは、ヴォルフガングを古川雄大、ヴァルトシュテッテン男爵夫人を涼風真世、アマデを星駿成が演じた。
同役を演じるのが3回目となる古川は、ヴォルフガングという人物の長所と短所を非常にチャーミングに表現。難易度の高い楽曲も危なげなく歌いこなし、無邪気な危うさや不遜ささえ魅力的に描き出す。一方で、思うように評価されない絶望、父親に認められたいという願い、神童と呼ばれた過去の自分に囚われている苦しみなど、彼が抱える苦悩もリアルに伝えた。
「僕こそ音楽」ではキラキラした笑顔と音を意のままに操っているような巧みさで才能を、劇場支配人・シカネーダー(遠⼭裕介)との出会いにおいては子供のような好奇心と野心を見せる。冒頭から熱量を持って音楽の天才ヴォルフガング・モーツァルトを作り上げてきた古川だが、一幕ラストの「影を逃れて」では、一層パワーアップ。解き放たれたように力強く自由を叫び、自分の中に燻る不安を鬼気迫る様子で歌い上げる。
父・レオポルト役の市村は、静かな芝居の中で、子供たちへの愛情と心配、世間への不信、天才を育てたという自負などに揺れ動く心を赤裸々に描く。息子への深い愛から心配、憤りへと変化していくのが切ないが、市村は親としての様々な感情を多面的に表現する。
姉のナンネールを演じる大塚も、弟を信じる気持ちと自分の人生に対する苦しみの間で思い悩む姿を等身大で作り上げた。夢見がちな少女が現実をわきまえた大人になっていく様子が、いつまでの少年のようなヴォルフガングとの対比を際立たせている。
ヴォルフガングの妻・コンスタンツェ役の真彩は、ツンとした第一印象が変化していく過程を愛らしく表現。「ダンスはやめられない」では、色っぽく笑ったかと思うと寂しそうに表情を歪め、ぱっと見の艶やかさと裏腹な虚しさの両方を見事に描いた。
ヴォルフガングという人間の才能と人生に加え、彼を身近で見て支えてきた「家族」もこの物語における一つのテーマだと言えるだろう。
ヴォルフガングが新たな一歩を踏み出すきっかけを作り導くヴァルトシュテッテン男爵夫人を演じた涼風は、凛とした佇まいが魅力。才能を見出し応援するのは家族たちと同じだが、より厳しく“芸術家”のあり方を説く、無慈悲ともとれる姿が印象的だ。
そして、ヴォルフガングの人生の随所で大きな壁として立ちはだかるコロレド大司教(山口祐一郎)。権力者らしいどっしりとした佇まいと厚みのある歌声でその場を圧倒し、登場する度にステージ上を掌握するのが見事。家族や男爵夫人、仲間たちと同じくヴォルフガングの才能を認めていながら、彼を追い詰めていく大司教を、憎たらしくも魅力的に演じている。
“天才音楽家”であると同時に一人の人間としてのヴォルフガング・モーツァルトを描く本作。決して完璧ではない彼と、同じく完璧ではない周囲の人々が悩み、苦しんでもがく物語は、大団円のハッピーエンドとは言い難い。
しかし、円熟味の増した古川ヴォルフガングをはじめ、プリンシパル・アンサンブルともに深みのある芝居で魅せるキャスト陣の熱演は爽やかささえ感じさせる。誰もが共感できるだろうリアルな弱さ、自意識、家族とのすれ違いなどが魅力的な楽曲に乗せて紡がれ、見応え抜群。華やかなセットや衣装、生演奏も加わって、作品の魅力をたっぷり味わうことができる。ここからスタートする日々の公演で、どのような生き様を見せてくれるのか期待が高まった。
古川雄大 コメント
「楽しみ」と「不安」を行ったり来たりしていますが、今は楽しみな方が強いです。3回目にして理解出来た部分や新しい発見があります。稽古場では、これまでの中で一番失敗したり恥ずかしい思いをしてきました。それくらい色々な事に挑戦してこられた稽古でしたし、曲に対するアプローチも結構変わってきていて、今回のヴォルフガングから変化を感じ取っていただけるのではないかと思います。
この作品はある意味ファンタジーですが、リアルにやりたい。これまで自分の中でカチッと形を決めていた事、自分の中の決まり事をあえて取っ払って、舞台の上で自然に存在してみようと考えて臨んでいます。
(モーツァルトの享年である)35歳を越えたヴォルフガングは僕が初めてですが(笑)、フレッシュにいながら、彼の成長をいかに体現できるかを大切にしたいです。“才能が宿るのは魂なのか、肉体なのか”という深いテーマの作品なのですが、このテーマをどれだけ感じ取っていただけるか。作品の本質をちゃんとお伝え出来るように取り組んでいきたいと思います。
本作は2024年8月19日(月)〜9月29日(日)まで東京・帝国劇場で上演。10月8日(火)〜27日(日)まで大阪・梅田芸術劇場メインホール、11月4日(月)〜30日(土)まで福岡・博多座でも公演が行われる。
取材・文・撮影=吉田沙奈