振付家・ダンサー 近藤良平インタビュー お互いが喜び合えるような、“セレブレーション”な時間を
近藤良平
踊って笑って楽しめる大盆踊り大会「にゅ~盆踊り」などで、これまで池袋の街を大いに盛り上げてきた振付家・ダンサーでコンドルズ主宰の近藤良平さんが構成・振付・演出を手掛けるプログラム、コンドルズ・野外パフォーマンス『Let’s Turn The Table』が東京芸術祭 2024に登場! 当日、会場となるGLOBAL RING THEATRE〈池袋西口公園野外劇場〉にはキッチンカーも並び、お祭り気分で楽しめる公演になりそう。気になるその内容を伺いました。
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踊りの原点も感じる野外は“予想外”が面白い
振付家・ダンサーとして活躍する近藤良平さんが、野外パフォーマンスで東京芸術祭に参加。音楽に合わせて楽しく動く身体、人と表現の楽しみを共有する感覚——そんな近藤作品とぴったりの企画になりそうです。
近藤:池袋で開催していた盆踊りでは、何千人も集まったこともありました。驚いちゃいますよね。「みんなで踊ると楽しいね」「動くとやっぱり暑くなるね!」とお喋りしながら、楽しげに踊る人たちで溢れた風景は、なかなか壮観でした。外だと偶然性も取り込めますし、野外で踊るって“予想外”が面白い。フラッシュ・モブや練り歩きしながらのダンス作品もつくったことがありますが、そこでは《踊りの原点》のような感覚も得られる気がします。眠らない街、池袋にあるGLOBAL RING THEATREは駅からも近く、誰もがふらりと足を運べる場所。ここにみんなが親しめる空間を生み出します。お互いが喜び合えるような、 “セレブレーション”な時間をつくれたらいいなって思っています。
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今回の『Let’s Turn The Table』は、近藤さんが主宰を務めるダンスカンパニー「コンドルズ」のメンバーや、さまざまな作品で活躍するダンサーがリードしつつ、公募で集まった人たちも出演予定。老若男女、幅広い人たちとのコラボレーションになります。聞くところによると、あっという間に公募出演者の応募枠が埋まってしまったとか! 8月末から稽古を重ねて本番にのぞむスペシャルな計画は、アツい夏の予感です。
近藤:みんなコロナで心まで“ステイホーム”だった時期が長かったから、発散したいんですかね(笑)。一度ストップしてしまったもの、そのほかあらゆるものを解放しに来てほしいですね。久しぶりにこういう企画が実現すること自体が、僕にとってちょっとワクワクする出来事。どこまでがダンサーで、どこからが一般参加者で、誰が観客なのか。その境界線もわからなくなるんじゃないかな。
仕事から家に帰る前、ちょっと公園で一息つく気分でダンスを観る。近年こうしたイベントから遠ざかっていた方にとっても、この気軽さは魅力的です。以前、近藤さんが主宰する盆踊りに参加して感心したのは、楽しい気分が充満する“開かれた場”をつくるうまさ。ご本人は「個人の力ではなく“集いの力”なんで、大したことはしてないですよ(笑)」と謙遜しますが、誰一人強制されることなく、心のままに身体を動かせる。ふんわりとまとめ上げていく力には驚いてしまいます。
近藤:コツというほどのものじゃないけど……真面目なことを言うと、人には誰しも「踊ってもいいんだ」「心を許してもいんだ」というスイッチみたいものがあるはずなんです。それを押すかどうかはその人次第。こちらは、押せるきっかけをたくさんつくれたらイイだけなんですよね。意外とシンプルなことなんです。
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お話を聞いたこの日も、「踊れない人はどうしたら?」と聞く男性スタッフに「実は『踊れないけど』って言う人が、最終的にはすごい踊るんですよ!」と笑う。
近藤:たとえば草野球なんかを見ていると、みんな自然に身体が動いているじゃないですか。必要なのは、場の連動みたいなことなのかな? 個人的には、「踊れないよ」と言っていた人が、あれあれ? って感じで踊り始める瞬間がたまらなく楽しくて好きなんです(笑)。めちゃくちゃ踊れる人をただ眺めていたって、全然面白くないじゃないですか。もうすぐ結成30年を迎えるコンドルズだって、還暦のメンバーも出てきているし、平均年齢がどんどん上がっている。一般の方が考えるような“踊る身体”の基準から言うと、ずっとギリギリ。どうぞ安心して踊ってください!(笑)
“フェス”は新しい感覚に出会える場所
「東京芸術祭はパフォーミングアーツのフェスってことですよね。これが音楽の“フェス”ぐらい、『一度足を運んでみたい』と思ってもらえる、より気軽なイベントになれたらいいですよね」と近藤さんは語ります。
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近藤:そのためには、「盛り上がっている」ということを、目にしてもらえる機会をもっと増やしたい。だって“フェス”っていう言葉がもう最高にアガるはずじゃないですか(笑)。GLOBAL RING THEATREを偶然通りかかった人が、この野外パフォーマンスを見かけて芸術祭自体に興味を惹かれたり、新しい感覚に出会える場所だということを、広く知ってもらえるような作品になればうれしいです」
コンドルズメンバーも含め、近藤さんの作品にはいつも、ご本人同様“開かれた”感覚を持つダンサーが参加している気がします。ふと気になって一緒に踊るダンサーの基準を尋ねてみました。
近藤:ダンスを「みんなで分かち合いたい」と思うタイプの人……少しだけデタラメ感がほしいのかな(笑)。「とにかく私のステキな踊りを作品として見せたい!」という人もいるだろうし、もちろん、そういった作品があること自体は否定しません。でも僕の場合はコールアンドレスポンスというか、お客さんとの対話が好きだし、今回のような作品には特にそうしたものが必要だと思うしね。ストイックにただ精度を高めてしまうと、表現が狭まってしまう気がするんですよ。
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なるほど、少しのデタラメ感! 肩の力を抜いてリラックスして動いたほうが、視野が広がる——これは人生にも役立つアイデアのような気もします。近藤さんがダンスを始めたきっかけは大学時代、体育の授業で出会った「創作舞踊」。《からだ気づき》という教育分野の第一人者になる高橋和子先生の授業だったとか。初めて心が“裸になった”感覚を知り、表現する楽しさを実感。そのまま大学のダンス部へ。
ここからが近藤さんのユニークなところなのですが……身体表現に本格的に目覚めた大学4年の秋、バックパッカーの放浪旅へ出かけます。旅を通して知るであろう、削ぎ落としたウソをつかない身体、精いっぱい身体を広げることへの興味。一人旅でダンスへの好奇心はさらに高まり、コンドルズの原型のような舞台をスタートさせたのもこの頃です。踊ることは近藤さんの人生と地続きになっていきました。
近藤:この前、高校の同窓会に行ったんですよ。むちゃくちゃうれしかったのが、ほとんどの同級生が、ダンスをやっているって知っていたこと。小さい頃からバレエをやっていたような子どもではなかったし、「コンちゃんがこんなことを!」と、初めて知った時は驚いたと思うんだけど(笑)。そう考えていくと、全くダンスを知らなかった自分が現在これだけ踊っていることは、すごく不思議で感慨深いことです。ダンスはね、年々面白くなります。自分の中でまだまだ深みを感じられているし、興味が尽きない。発見がこの先ずっと続いていくと思えるなんて、すごいですよね。
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インタビューをした日は、「芸術祭に行きたくなるダンス」のレクチャー動画の撮影日でもありました。「こんなのどう?」と生まれたダンス作品は、その場にいた人たちもいつの間にか踊り出す、楽しさと親しみやすさあるものに(デザイナーやカメラマンや、少し前まで「踊れない」と言っていた男性スタッフも!)。最後はその場が笑顔と拍手に包まれる、印象的な出来事でした。
近藤良平の "東京芸術祭に行きたくなるダンス" 動画
https://tokyo-festival.jp/2024/special/kondo-dance
※東京芸術祭 2024 特設サイトより
ダンスの締めくくりの振り付けは、今年の芸術祭のテーマ「トランジット・ナウ~寄り道しよう、舞台の世界へ~」に合わせて、元気に腕を振る“寄り道ポーズ”。その時近藤さんが言った言葉が、今回の公演のコンセプトのように響きました。
近藤:寄り道って、すっごく大事なのかもしれないね。GLOBAL RING THEATREって、普段はピャーッと噴水が出ているでしょう? あそこでよく、子どもたちが水に飛び込んで遊んでいるじゃない。僕たち大人は、いつから飛び込めなくなったんだろうなぁ。思い切って水に飛び込むような気持ちで僕たちの野外パフォーマンスに寄り道して、心ゆくまで遊んでほしいですね。
近藤良平
取材・執筆:川添史子 写真:橋本美花 編集:船寄洋之