《連載》もっと文楽!~文楽技芸員インタビュー~ Vol. 10 吉田簑二郎(文楽人形遣い)
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来たる12月には、作家・井上ひさしが書いた『金壺親父恋達引』の主役、金仲屋金左衛門を遣う。モリエールの戯曲『守銭奴』を原作に、井上が放送番組用に義太夫節で1972年に書き下ろした作品だ。今年は井上の生誕90年にあたる。まずはラジオで放送され、その後、文楽技芸員によってスタジオ収録されテレビ放映。その後、人形劇団プークでも上演を重ねているが、生の文楽としては2016年に国立文楽劇場で初めて上演された。当時、金左衛門を勘十郎が遣い、簑二郎さんはお梶婆を勤めている。
「さっき、『工夫』と偉そうに言いましたが、前回、勘十郎兄が目一杯工夫しているんですよ(笑)。兄弟子に『今度やらせていただきます』と挨拶したら、『またいろんなことしたらいいやん』と言われたけれど、何ができるか……。これから考えていきたいですね」
三枚目が好きだという簑二郎さん。金左衛門は典型的な三枚目ではないが少しコミカルな要素もあり、その一方で、胴欲さという意味では9月の文楽鑑賞教室に遣った『夏祭浪花鑑』の義平次に通じるところもある。
「吝嗇家の親父が、お金が大好きで、そのために子どもたちとすったもんだがあって、最終的には結局、しようと思っていた結婚はできなかったけど、やっぱりお金は大好きということで幕が閉まる。ある意味、孤独で可哀想だけれど、本人はそれに気づいていないわけだからいいのかもしれない。その辺にお客様がどういうニュアンスを感じていただけるか、でしょうか」
前述の義平次、11月文楽公演『靭猿』猿曳、そして今回と、70歳にして初役が続く。「有難いですね。初役は、まっさらの状態から自分なりの役作りをしていく楽しみがあります」としつつ、文楽の今後を見据えてこう語った。
「勿論、良い役を遣いたい、今までやっていない役をやりたいという意識はありますけども、やっぱり、去らなければいけない時はやがて来るわけですから、それを踏まえてやっていくことも、自分に与えられた仕事のような気がします。後輩たちもみんなキャリアを積んで頑張っているので、自分達が脇に回って、若い人たちの舞台を盛り上げていく時期も来つつあるのかなと。今年9月の『夏祭浪花鑑』にしても、義平次が脇ということではないですが、弟弟子の簑紫郎が団七を遣って私が義平次を遣って、その舞台がちょっとでも良くなればと考えながらやっていました。これからの10年、自分の実年齢と文楽の未来を考えた時、こういうことも自分の仕事かなと思っています」
令和6年9月文楽鑑賞教室『夏祭浪花鑑』で義平次を遣う簑二郎(右)と、団七を遣う簑紫郎。 提供:国立劇場
≫「技芸員への3つの質問」