舞台『No.9』×石井琢磨コラボ連載、第3弾は崎山つばさ&中尾暢樹の“兄弟”トーク~兄・べートーヴェンは暴君!?
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創作中に「ハイになる」瞬間とは──
石井:僕、今日どうしてもお聞きしてみたかったことがあって。僕は普段、家でひとりで練習して曲を完成させていくんですけど、時々ね、すごくいい演奏ができたときに、自分の中でガッって喜びを感じる、ハイになる瞬間があるんですよ! もちろん、お客さんを前で演奏して、スタンディングオベーションをいただいたときとかもハイになりますが、ひとりで家にいて、一曲完成させたとき、うまく弾けたときもめちゃめちゃハイになる(笑)。役者の方々ってどうなんだろう?と。例えばひとりで台本を読んでるときとかリハーサルとか……どんなときに表現者としての高揚感や喜びを感じますか?
崎山:うわぁ……それはモノにもよりますけど、舞台の場合は、やっぱり初日開けたときが一番ハイになるかなって、僕は思いますね。自分たちの作品が初めてお客さんに触れ、見てもらえる瞬間! あの初日の幕が開く前の空気も好きですし。
石井:幕が開く直前って、どんな感じなんですか?
崎山:ざわざわしてるときもあるし、ちょっと張り詰めた空気のときもあるし、その時々の作品性にもよりますけど、そこからインスピレーションを得るのが好きというか。劇場内の雰囲気自体にすごく“初日感”を感じつついよいよ自分も本番に臨む、みたいなことは結構多いですね。
石井:初日というのはやっぱり特別なものになりがちである。
崎山:そうですね。
石井:中尾さんは?
中尾:稽古の最中に共通認識とかがバチッとはまったときとか、気持ちもグッと上がりますし、ハイになるというか、すっごく楽しいなって思いますね。言われたことを、「これか?」「いや、こういうことか?」と探りながら役者同士が深いところで会話してる感じが、なんか……絶対プライベートじゃできない、感情とかをお互いに話すじゃないですか。そういうところを共感したり、そこから生まれる芝居の深みを感じたり発見したり。今回の白井さんもそうなんですけど、「こういうときって、人ってこう動くよね」という示唆が──
崎山:わかるっ。
石井:……そうか! 演出家の方がその場にいて、その考えを受け取りつつ、俳優が各々で考えてフレキシブルに作っていくっていうのが演劇の基本の形態なんですよね。
中尾:はい。もちろん、演出家の方によってやり方は違いますが、その場その場での雰囲気を見て演出される方が多いと思います。役者もその日の体調とかでも反応って変わるので、日々変わる中で共通認識を持って探り合うんです。
石井:演劇はひとりじゃない。うわ、いいお話聞けました。
崎山:僕からも質問、いいですか? 役者の場合、行間やセリフとセリフの間から読み取るってこともあったりするんですが、演奏家はそれを楽譜から解釈するということですよね? 各々の解釈って、どういったところで一番変わってくるんですか?
石井:仰る通り、楽譜から読み取れることってとっても多いんですけれど、結局のところ、演奏者のエゴが少しは入らないと(演奏に)魅力は出ないなと僕は思っています。例えばべートーヴェンの場合も、(楽譜を)書いた瞬間に作曲終わり、ってわけじゃなかったと思うんです。彼にとって「誰かに演奏されること」までが表現のゴールだったんじゃないかと。だから広い意味で言えば、僕は彼の作品が完成するのを手伝ってるみたいな感覚でいます。コンテンポラリーとして、現代で、その曲を完成させている。だから「べートーヴェン、ありがとうって言ってくれよ」という気持ちなわけです(笑)。
崎山・中尾:おおっ(笑)
石井:あ、いや、冗談ですよ!?(笑)でも、誰かが演奏しないと、彼の作品はただの譜面、ただの紙で終わってしまうってところは痛感しているので、最大限べートーヴェンに敬意を表しつつも、どう深堀っていくかというのは大切にしていますね。楽譜でいう音のない部分っていうのが、いわゆる行間だと思うんですが、それをどのくらいあけるのかは指示されていないわけじゃないですか。
崎山:でも、楽譜って明確な休符などもありますよね。それをどう捉えるかっていうのも、演奏者によって違うわけですか?
石井:そうですね。もうほんとに瞬間的に、コンマ1秒伸ばすだけで色合いは全然変わってきます! クラシックが面白いところは、何となくそれが時代背景から読めていったりもするんですよ。社会情勢や作曲家の残した文章、年齢、その時の体調……研究によって裏打ちし、解釈し、でも最後はピアニストとして、表現者として完成させないといけない。その“最後のひと押し”っていうのが自分なりのエッセンス、それをどこかに入れなくては魅力的なものにはできないと僕は思うんです。
もちろん自分の意見が強くなりすぎると良くないんですけど、でも稀にその意見の強さがバチッとはまる、エゴを最強に出して表現していってカリスマ性を出す音楽家もいて、そういう名演奏は数々あります。だから要は、自分のパーソナリティーに合わせてどう作っていくか。僕自身は、エゴ全開じゃなくて、最後の1滴のところでエゴを混ぜて、どこまで自分の色として変えられるかっていうところが楽しいと感じるタイプだと思っています。
崎山:なるほど〜。興味深いです、とても。
出会いを重ねながら表現者としてい続けられることが一番の目標
石井:いろいろお話伺ってきたんですが、最後、結構大きな質問になるんですけど、おふたりの描く「これから」っていうのも聞いてみたいなと思って。実は僕と崎山さんは同い年らしくて、中尾さんも近しい世代ですよね。それからもうひとつ共通点が……おふたりは高校生のときからお仕事を始めてるんですよね?
崎山:そうですね。僕は大学受験のタイミングで一度辞めて、大学生の頃は遠ざかっていましたけど。
中尾:僕も同じ、高校の頃から。あ、僕は遠ざかってないです(笑)。
崎山:僕ら、暢樹が高校に通ってるときから一緒にお仕事してるんですよ。
中尾:ね。そろそろ出会って10年経つかな、みたいな関係で。
石井:そうだったんですか! じゃあ兄弟役も全く知らない同士よりはずっと作りやすいでしょうね。
中尾:そうですね、初めましてよりは全然やりやすいと思います。
石井:僕も同じように学生時代からピアニストという夢に向かってきているんです。せっかくこうしてお会いしたので、ぜひおふたりに、今後俳優としてなりたい像や目標など、未来についての思いも伺ってみたいなぁと。
中尾:僕は今28歳で、業界に入って10年程経つんですけど、「やらせてもらっている側」から「作る側」に変わってきてる瞬間っていうのが最近、目に見えてあって。10年でいろんな繋がりができて、現場で再会できたり、自然と「これ一緒にやりましょうよ」と言えたりするときに、やっぱり、「楽しいな」って実感します。20代前半まではわからないことだらけでいっぱいいっぱいで、企画とか作品制作の過程とか、もっと言えば、仕事の成立の仕方とか、どうなってるんだ?状態で。でも、好きな監督さんや演出家さん、長くお付き合いしているプロデューサーさんに巡り合って、だんだんと「役者として作り手になっていく」ことができている、というんでしょうか。そうやって出会った方たちと一緒に素敵なものができたらって行動できるようになっている。それが嬉しいんです。この先もそんな仲間たちが増えてって、それで最後まで、死ぬまでこの仕事をやりたいなって思いますね。
石井:仲間と出会ってどんどん冒険していく、みたいな感覚ですね。僕もそれはすごく思います。やっぱり関わる方が増えていくと、お客さまのみならず、作り手側の間でも「喜ばせたい」っていう思いは強くなるし、「楽しんでいきたい」っていう思いが強くなっていきますよね。崎山さんは将来像、もしくは今後の目標、いかがですか?
崎山:そういうのはあまり持たないほうなんですけど……でも、暢樹の話と似てる部分は僕もあるかなぁ。自分にとって仕事ってロールプレイングゲームみたいなところがあって、始めたての頃は「自分の武器って何だろう」とか「人より秀でてるものはどこだろう」みたいなことをひたすら頭で考えていた時期もありました。それも大事なんだけれど、続けていく中では、武器屋に行って武器を手に入れて、いろんな場所でいろんな人と出会って知識や経験や技を手に入れて……みたいな、実体験に基づいた生き方が一番いいよなって思うようになったんです。この仕事はすごく出会いも多く、現場が変われば場所(コミュニティ)も変わります。同じところには居続けない。そういう中で、もちろん演じたい役を浮かべるときもありますけど、それよりも、「続けられる」ってことが一番難しく、大切なことなのかなとすごく思っていますね。だからシンプルに「ずっとこの仕事を続けられたらいいな」が目標ですね。
石井:それは本当そうですね。僕もずっとピアノを弾いて死んでいけたらなって思うので、究極の目標ってやっぱりそこになるっていうか、あらためてそう思いますね。
崎山・中尾:(頷く)
石井:……というところで、そろそろお時間のようです。今日は本当にありがとうございました! 最後に改めて、読んでくださっている方々へメッセージをいただければ。
崎山:石井さんとのお話、貴重な時間でした。楽しかったです。今回4度目の再演ではありますが、過去のキャスト・スタッフの方々の想いや時間を踏襲しつつも、また新しい『No.9』を作っていけたらと思っています。毎公演生演奏とのお芝居にもなりますが、ピアニストの方とのセッション感って、役者と共通する部分もあるんだってことが今日お話しして少し理解できたように思います。なので、明日からの稽古でもそこをもっとより大切に感じ、本番のお芝居も演奏もその時々の『No.9』として楽しんでいけたらいいなと思います。
中尾:まず、今日はすごく楽しい機会をありがとうございました。こうやってピアニストの方としゃべるって、すごいことですよね。表現に対してのいろんな切り口があることを再確認できたというか、芸術……エンターテインメントってやっぱり人の心の奥、人間の根底を表現するじゃないですか。そういうところはやっぱり演奏家も俳優も通ずるものがたくさんあるんだなって、すごく思いました。この先の稽古でもまた一個、深くできそうな予感がしています。
公演は東京のほか久留米・大阪・浜松を回るので、いろんな方に観ていただけるといいなと思います。4回目ですけど、僕らも楽しみながら新しい『No.9』を作っているので、本番、楽しみにしてくれたら嬉しいです。
石井:べートーヴェンの弟たち、本当に難しい役どころだと思いますが、崎山さんと中尾さんがどんなふうに舞台に立つのかさらに楽しみになりましたし、おふたりの役者像というものもちょっと垣間見えたところがあって、わくわくしました。公演を楽しみにしています!
>(NEXT)インタビューを終えて~崎山、ピアノを習う!?