浦井健治「前カンパニーの思いも背負って昇華したい」~『天保十二年のシェイクスピア』会見&ゲネプロレポート
『天保十二年のシェイクスピア』会見より (左から)藤田俊太郎、大貫勇輔、浦井健治、唯月ふうか
『リア王』や『マクベス』、『オセロー』、『ハムレット』、『リチャード三世』、『ロミオとジュリエット』など、誰もが知る名作を残したウィリアム・シェイクスピア。発表から4世紀以上経った今でも世界中で上演され、多くの作品やクリエイターに影響を与えているシェイクスピアの作品37作品を横糸、江戸末期の人気講談『天保水滸伝』を縦糸にした井上ひさしの傑作戯曲、『天保十二年のシェイクスピア』。
演出・藤田俊太郎、音楽・宮川彬良のタッグで上演した2020年版から4年の時を経て、2024年12日9日(月)より開幕する。初日に先駆け、演出の藤田俊太郎、浦井健治、大貫勇輔、唯月ふうかによる囲み会見とゲネプロが行われた。
ーーまずはご挨拶をお願いします。
浦井:数年前から準備し、ようやくこの日を迎えて繋がったと感じています。一生懸命頑張りたいと思います。
大貫:本当に素晴らしい作品に関わることができて嬉しいです。できるだけたくさんの方に見ていただきたいと思っています。
唯月:お稽古場から本当に充実した日々を過ごし、やっと皆さんにお披露目できると思うとドキドキそわそわしています。自分の精一杯を舞台にぶつけますので、受け止めていただけたら嬉しいです。
藤田:2024、2025年版の『天保十二年のシェイクスピア』カンパニーで一生懸命稽古してきた自信作です。皆さんぜひ劇場にお越しください。
ーー2020年はコロナ禍で中止になってしまいました。再演したいという思いは強かったんでしょうか。
藤田:強くありました。を買って公演を待ち望んでくださっていたみなさんに届けたいという思いを持続し、準備を重ねて、ようやくこの素晴らしい座組で皆さんにお届けできるのを嬉しく思っています。
浦井:感慨深いです。セットや日生劇場の光景を見て、ばんちょうさん(辻萬長さん)の思い出も含めて繋がっていると感じます。木場(勝己)さんの口上から、全てがかけがえのない豊かな時間だと思って過ごしています。
ーー今回の役について、やりがいはいかがですか?
浦井:井上ひさしさんが書いた極悪人というか、そうならざるを得ない人を演じていると、役が抜けない部分はあります。
大貫:日に日に近寄りがたくなっている感じはします(笑)。
唯月:舞台上と普段のギャップがすごいです。舞台上で対峙すると吸い込まれそうな目にゾクゾクするんですが、普段はふわっとしてらっしゃるので本当に同じ人かな? と思います(笑)。
大貫:髪と着物の捌きに苦労しています。あと、タトゥーが入っているのでしばらくサウナに行けないなと。着物は上手く扱わないと足が上がらないですし、上半身を脱ぐシーンも難しくて。ダンスは洋と和の両方があるので、その差も楽しんでいただけたらと思います。
ーー唯月さんは、前回の出演時と比べてどうですか?
唯月:瞬時に役を切り替えるのはこの作品の見どころの一つだと思っているので責任を持って届けたいです。自分一人ではできない早着替えやギミックもあり、たくさんの方の支えがあってできる2役だと実感しているので、感謝の気持ちを持って取り組みたいです。秒単位で着替えて役を切り替えるシーンがあり、タイムアタックみたいな部分もあるので、常に体力・精神力の戦い。この作品を通してすごく成長できると思います。
ーー大貫さんは前回浦井さんが演じた役に挑戦しています。浦井さんから見ていかがでしょう。
浦井:本当に素敵で、ダンスも殺陣も化学反応が起きています。勇輔の王次像もあるし、僕の面影もどこか背負ってくれている感じもある。イキイキとした王次です。三世次と表裏一体の存在として、自分はどうしようと思える役になっています。
大貫:DVDも見ようとしたんですが、見ると影響を受けてしまうと思い、出来上がるまでは観ないようにしています。浦井さんからはアドバイスをもらっていなくて、三世次として存在する浦井さんを観て「じゃあ僕はこうしよう」と考え、作品全体のバランスを意識して作り上げました。
浦井:自分が役と向き合えば向き合うほどカンパニーの士気も高まっていると感じます。
大貫:三世次の邪悪さって誰もが持っている、遠くない存在だと感じます。
浦井:個人的には、時代が移り変わるときに出てしまった膿というか、いつの時代も登場しうる存在だという井上さんのメッセージを感じてヒリヒリします。だからこそ、生きる大変さもあるけど生きる素晴らしさを描いてくださっている気もして、演じていて爽快さもあります。
大貫:最初は極悪人で毛嫌いしているけど、観ているうちに応援してしまう。なのにある時突然「いや、ダメだ。こんなやつ生きてちゃいけない」となるんです。自分でも驚きました。
ーー今回の見どころはどこになりそうでしょうか。
藤田:稽古の中で強く思ったのは、当たり前ですが「舞台は役者のものだ」ということ。僕は演出家として皆さんにいろいろなことを渡しますが、現在の世相や虚と実、今の世の中にある様々な言葉を三世次は体現している。コロナ禍以降の時代を役者の皆さんが見事に体現なさっています。役を通した役者の生き様が今回のカンパニーの最大の魅力です。もちろん2020年版を作ったメンバーの礎があり、皆さんへのリスペクトしかありません。でも、そこから4年経って私たちが作った世界は時代を映すものになったと思います。
あと、浦井さんの三世次は、真実の言葉を持っている三世次。観客の皆さんに真実を伝えると思います。大貫さんの王次は太陽のような存在、ふうかさんのお光とおさちは喜劇。稽古の帰りに思い出しては笑ってしまっていました。総勢29名の役者全員に魅力があるので、一人ひとりの魅力を発見していただきたいです。
ーー最後に、みなさんへのメッセージをお願いします。
浦井:井上ひさしさんの大作として、さまざまなカンパニーで受け継がれている作品だと思います。木場さんが隅々まで目を光らせてくれ、先輩たちの存在が受け継がれていく。言葉がなくても、それを見ることが役者やスタッフ、お客様にとって非常に価値があると思います。同時に、生きることはとても大変だし、井上さんは権力や業も描いています。逆説的に、生きる素晴らしさを伝える祝祭劇として昇華していく。終わった後にみんなでお祭りをしようというものをお客様に届ける作品として描いています。50年前なのに、今の時代のお客様に伝わる作品になっていると思います。無観客で撮影した時と同じ場所に立った時、ちょっとうるっとしました。前任者の思いも背負い、みんなで作ってきたものを昇華し、各地で楽しんでいただけるように精進していきたいと思います。
ゲネプロレポート
まずはストーリーテラー的な役割も担う隊長(木場勝己)が現れ、ユーモアを交えて作品の概要を語る。軽快な語り口で期待を煽ったところで幕が開き、鰤の十兵衛(中村梅雀)が娘たちに身代を譲ろうと考えるところから物語が始まる。短いやり取りでも、長女・お文(瀬奈じゅん)と次女・お里(土井ケイト)の対立、彼女たちに頭が上がらない亭主の紋太(阿部 裕)、花平(玉置孝匡)、心優しいお光(唯月ふうか)という関係性が見えてくる。シェイクスピアでも人間の愚かさや滑稽さが描かれているが、小さな村のヤクザ一家による争いという物語になったことで俗っぽさが増しているのがユニークだ。日本らしい楽曲に乗せてテンポよく紡がれるセリフや歌詞も心地よく、あっという間に引き込まれてしまう。
『天保十二年のシェイクスピア』舞台写真
お文とお里の対立が不穏ながらも華やかに描かれたところで浦井健治演じる佐渡の三世次が登場。その瞬間に舞台上の空気がピリッと引き締まり、一気に怪しい雰囲気に飲み込まれるのが見事だ。三世次は様々な計算を巡らせ、口のうまさでのし上がっていく邪悪な存在。だが、彼が清滝村の権力者たち相手に上手く立ち回る様子はどこか爽快に感じる。
野望のためなら手段を問わないお文とお里のしたたかさもあり、冒頭からしばらくは大貫が会見で語っていたように三世次を応援したくなってしまった。しかし、出世していく中で三世次の言葉やふとしたときに見えた人間味はどこまでが本当かわからなくなっていく。それでいて、三世次自身は最初からなにも変わっていないような気もし、不思議な面白さと不気味さがある。
きじるしの王次(大貫勇輔)も、登場シーンでガラリと空気を変える。お文とお里がそれぞれの一家を大きくするための策を練り、そこに三世次が入ることで血生臭い展開が続いていたところを、一気に明るく楽しい雰囲気にしてくれた。いなせな姿と力強く美しいダンスで自分のペースに巻き込んでいく様子は見応え十分だ。シリアスな要素を多く担いつつ、華やかな存在感とコミカルな芝居で笑わせてくれる。
唯月ふうかはヤクザの家で育ったお光と、双子の妹・おさちの2役を見事に演じ分けた。勝気で腕の立つお光をクールに表現し、彼女がとあるきっかけで恋する乙女になるギャップをユーモラスに見せる。また、貞淑なおさちは可憐ながら凛とした女性として演じ、まるで別人のように感じさせた。
お文とお里の権力争いと、それを利用してのしあがる三世次を中心に、王次の許嫁・お冬(綾 凰華)の悲劇、佐吉(猪野広樹)と浮舟太夫(福田えり)の恋、お里の亭主となった幕兵衛(章平)の苦悩といった様々なドラマが描かれているのも大きな見どころだ。人間臭い登場人物たちの中で、ストーリーテラーとして客席に語りかける隊長、不思議な予言や呪いで登場人物たちを翻弄する老婆(梅沢昌代)の存在感も魅力を放っている。
シェイクスピア37作の要素を盛り込んでいるぶん展開が早く、どの作品のオマージュかわからないと唐突に感じる部分もあるかもしれない。だが、それを上回る普遍的なドラマ、言葉遊びを盛り込んだセリフの楽しさ、セットや衣装のビジュアル的な見応え、シーンに合わせた楽曲の魅力によって、シェイクスピアに詳しくなくても楽しめるはずだ。2024・2025年版カンパニーが自信を持って届ける本作を、ぜひ劇場で味わってほしい。
本作は2024年12月9日(月)〜29日(日)まで日生劇場で上演。2025年には大阪、福岡、富山、愛知でも公演が行われる。
取材・文・撮影=吉田沙奈
公演情報
出演:
浦井健治 大貫勇輔 唯月ふうか 土井ケイト 阿部裕 玉置孝匡 / 瀬奈じゅん 中村梅雀 /
章平 猪野広樹 綾凰華 福田えり / 梅沢昌代 木場勝己
斎藤准一郎 下あすみ 鈴木凌平 中嶋紗希 藤咲みどり 古川隼大 水島 渓 水野貴以
作:井上ひさし
音楽:宮川彬良
演出:藤田俊太郎
<日程・会場>
2024年12月9日(月)~12月29日(日)東京 日生劇場
2025年1月5日(日)~1月7日(火)大阪 梅田芸術劇場
2025年1月11日(土)~1月13日(月)福岡 博多座
2025年1月18日(土)~1月19日(日)富山 オーバード・ホール 大ホール
2025年1月25日(土)~1月26日(日)愛知 愛知県芸術劇場大ホール
日程:2024年12月21日(土)
会場:日生劇場
開演:12:30~
【e+貸切】観劇応援:特別優待12/21
受付期間:2024/11/27(水)19:00~2024/12/21(土)12:30
<e+貸切公演>
日程:2024年12月26日(木)
会場:日生劇場
開演:13:00~
【e+貸切】観劇応援:特別優待12/26
受付期間:2024/11/27(水)19:00~2024/12/26(木)13:00
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