「個性で殴り合っている」マカロニえんぴつ、SAKANAMON、ヤユヨ、SPRINGMAN、WONが集結『TALTOナイト 2024』の熱演をレポート

レポート
音楽
2024.12.10

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『TALTO ナイト 2024』2024.12.4(WED)東京・渋谷Spotify O-EAST

ロック・レーベルのTALTOに所属するバンドが一堂に会するライブ・イベント『TALTO ナイト 2024』が12月4日(水)に開催された。前回のZepp Haneda(TOKYO)から渋谷にあるSpotify O-EASTに会場を移して、2ステージ制となった今回、出演したのはSAKANAMON、マカロニえんぴつ、ヤユヨ、WON、SPRINGMANの計5組。

「上下関係がない」
「個性で殴り合っている」

SAKANAMONの森野光晴(Ba.Cho)とマカロニえんぴつのはっとり(Vo.Gt)がそれぞれに魅力を語った、レーベルの元に集まった個性派揃いの5組がそれぞれに30分のセットリストに代表曲をぎゅっと詰め込み、熱演を繰り広げたイベントの模様をレポートする。

WON

トップバッターは、昨年3月に『TALTOナイト 2023」で“現地ライブ”デビューを果たした女性シンガー、WONだ。楽曲以外はアイコンしか発表していない彼女は前回同様、ステージの前に下ろした紗幕にシルエットを浮かび上がらせながら、楽曲のみならず照明の演出や映像も楽しませるパフォーマンスを披露。自分はなぜ歌を歌うのか、その理由を語っているようにも聴こえる「Unique」を、竹縄航太のピアノだけをバックに歌い上げ、1曲目から圧倒的な歌声の魅力を見せつける。

竹縄のノスタルジックなピアノも聴きどころだった「You to」から繋げたデビュー曲「日記」では、同曲を作曲したSAKANAMONの藤森元生(Vo.Gt)がアコースティック・ギターとハーモニーを加えるというサプライズも飛び出した。

「人生で3回目のライブ。緊張がほぐれて、めっちゃみんなの顔を見ながら歌えてます。え、私の姿も見えてる? 恥ずっ(笑)」

悲痛なトーンの中、感情を迸らせ、観客の気持ちを鷲掴みにした「日記」の張り詰めた空気から一転、そんなざっくばらんなMCを挟んでからの後半戦は、「WONの曲は温度差が激しい。次の曲は会場をぶち上げていきたい」という言葉通り、「ヘイトキラー」「ギャンラブ」「裏目シアター」をメドレーでたたみかけると、辛辣な言葉に加え、煽情的なサウンドとタテノリのビートでスタンディングのフロアを揺らしていく。

そして、「一発目が一番盛り上がる感じで終わろう」と向こう意気を窺わせながら、3人組の音楽プロジェクト、空白ごっこと作った新曲「無知」を12月18日(水)にリリースすることを発表すると、リリース前にもかかわらず、その新曲をサプライズ披露。ミラーボールが放つ無数の光の粒の中、ストリングスも鳴らした壮大なバラードを歌い上げ、彼女は自信や愛着といった新曲に対する思いとともにライブに足を運んだ観客にとって、この時間が特別なものであってほしいというライブアクトとしての矜持も届けたのだった。

SPRINGMAN

続いてオンステージしたのは荒川大輔(Vo.Gt)のソロプロジェクト、SPRINGMANだ。「今日もおつかされさまでした!」と声を上げながら、リズム隊とキーボード奏者とともに1曲目の「勤労」から、歌詞に綴ったやるせない気持ちを吹き飛ばすようにロックンロールをたたみかけていく。

前回、オープニングアクトだったSPRINGMANがそれから1年9か月を経て、どれだけ成長した姿を見せてくれるのか。そこがこの日のSPRINGMANのライブの一番の見どころだ。バラードの「エスケープコール」ではハモンドオルガンを思わせるキーボードの音色が往年のブリティッシュ・ロックの香りを漂わせ、がむしゃらなだけにとどまらないSPRINGMANの魅力をアピール。音色をバリバリと歪ませずにクリーントーンで弾いた雰囲気もののギター・ソロも聴きどころだった。

アップテンポの演奏に食らいつくように手を打ち鳴らす観客とともに盛り上げたパワーポップ・ナンバー「右へならえ」では、サビのメロディーに滲むせつなさにSPRINGMANならではと言える青(春)臭さを感じたりも。ギターをかき鳴らしながら左足を蹴り上げる荒川のアクションもキマッている。そこから「1-2-3-4!」というカウントで間髪入れずに繋げ、ドラムの2ビートとともにバンドの演奏が加速していった「いないふり」では、マイクを掴んでステージ最前線で観客に対峙する荒川の堂々としたパフォーマンスに観客が快哉を叫ぶ。

そこから一転、オルガンがふわふわとサイケに鳴るバラード「ポットパイ」に繋げ、曲の振り幅を見せつけると、「カポック」の90’sパワーポップ・サウンドで今一度、フロアを揺らしてエンディング。

「今後ともTALTOとSPRINGMANをよろしくお願いします!また会いましょう!」

よほど手応えがあったのだろう。荒川が高々と掲げたピースサイン、いや、ヴィクトリーサインがことのほか頼もしく見えたのは筆者だけではなかったはずだ。

SAKANAMON

TALTOの長男を自負するスリーピース・ロックバンド、SAKANAMONは転換の時間が短い2ステージ制ならではのテンポの速い展開をさらに加速させた。

スタートダッシュをキメるように「渋谷!ファイ!ファイ!ファイ!」と木村浩大(Dr)が声を上げながら、「マジックアワー」から演奏になだれこむ。熱度満点の演奏でフロアの温度をぐっと上げると、藤森がソリッドな音色でコードをかき鳴らしながら、間髪入れずに「幼気な少女」に繋げ、早速、観客にシンガロングの声を上げさせる。そこにノンストップで繋げたのが、森野光晴(Ba)のスラップ奏法が映えるオルタナ・ファンキーな「ぱらぱらり」。

ノスタルジックなメロディーとテクニカルなオルタナ・ロックの組み合わせというSAKANAMONの魅力をものすごいスピードで見せつけた直後に繰り広げる、演奏が孕む凄みからはちょっと想像できない、のどかな調子のトークもまたSAKANAMONのライブの見どころだ。

「TALTOが生まれ、こうしてみなさんと対峙して、さあ、どんなイベントになるのやら。それは僕達しだい。そして、みなさんしだい。みんなでがんばりましょう」(藤森)

「TALTOで一番先輩になってしまいましたが、TALTOは上下、関係ない。運動部みたいなところがない。じゃあ、お菓子部?(笑) そういうところが特殊なレーベルです。一応、先輩ということでおいしいタルトをしっかりと届けます」(森野)

後半戦の口火を切ったのは、10月2日に配信リリースした「ただそれだけ」。辛辣なメッセージを歌うファンキーなラップロック・ナンバーだ。続く「DUAL EFFECT」は歌いながら藤森がテクニカルなリフを奏でる正統派のオルタナロック・ナンバーと思わせ、ミスクチャー・ロック風になる中盤が、今日のSAKANAMONはファンキーなモードなのだと思わせる。

そして、「ミュージックプランクトン」で今一度、観客にシンガロングさせながら、作り上げた盛り上がりをさらに大きなものにしたのが、音源と同様にマカロニえんぴつの田辺由明(Gt)を迎えたライブ・アンセム「光の中へ」。もしかしたらと予想していた観客は少なくなかったに違いない。森野が言った「おいしいタルト」は、その布石だったのか? そんな期待に応えてくれたSAKANAMONと田辺に観客がせいいっぱい拳や手を振る光景は、『TALTOナイト 2024』のハイライトの1つとして記憶しておきたい。SAKANAMONは来年2月、SPRINGMANとともに『TALTOナイトEXTRA』を東名阪の3か所で開催する。

ヤユヨ

「こっちのステージはこぢんまりとしてますが、ステージの大きさに関係なく、楽しんで、でっかい声で歌いたいと思います!」

リコ(Vo.Gt)が言ったこの言葉にスリーピース・ガールズバンド、ヤユヨの向こう意気を感じた。いや、彼女達だけに限らず、TALTOのアーティスト全員が決して剥き出しにはしないものの、同様に向こう意気を持っているのだろう。レーベル・ナイトということでいつも以上に正直になれるのか、それともレーベルメイトだからこそ負けたくないと思うのか、それぞれに持っている、そんな向こう意気が不意に垣間見えるところも『TALTOナイト』の見どころだということを、今回、ヤユヨのライブから今一度教えてもらった気がした。

そのヤユヨはシャッフルっぽいリズムが跳ねる軽快なポップ・ナンバー「エス・オー・エス」でライブをスタートさせる。最近、ギターを持たずにステージを自由に動きながら歌う場面が増えてきたリコが2曲目の「うるさい!」で見せたキュートな振りも見どころだ。「チョコミンツ」で奔放な歌声の魅力を見せつけたリコは、続くオールディーズ風のバラード「あばよ、」では、歌声にぐっと感情を込めてみせる。

不実な恋人との別れが新たな出発になるという意味で「希望の歌だと思って聴いてほしい」と、その「あばよ、」を歌う前に語ったリコは、そこでも「(自分達の出番の)前と後ろに、どんなに素敵な音楽があろうともめっちゃ自信があると思って、この曲を歌います」と言葉に向こう意気を滲ませる。「あばよ、」はぺっぺ(Gt.Cho)による繊細なギター・プレイとハーモニーも聴きどころだった。

「(TALTOに)入った時は末っ子だったけど、いつの間にかお姉ちゃんになりました。少しでも成長したところを見せたいと思います」(リコ)

クライマックスという言葉を作り上げた「さよなら前夜」は、ヤユヨのライブに欠かせないアンセム中のアンセムだ。観客を巻き込みながらメンバー全員で歌うサビはもちろん、はな(Ba.Cho)とぺっぺのソロのリレー、リコのハーモニカ・ソロも含め、盛り上がる要素が多い曲だから、ここでライブを締めくくってもよかった。しかし、ヤユヨはもう1曲、8月17日に配信リリースした「ふたり曜日」を演奏して、モータウン風の跳ねるリズムとともにポップ・センスが際立つソングライティングをアピールした。そんなところにリコ曰くお姉ちゃんになった今のヤユヨが感じられたのだった。

マカロニえんぴつ

『TALTOナイト 2024』もあと1バンドを残すのみ。今回、SAKANAMONに代わってトリを任されたのは、マカロニえんぴつだ。

ひときわ大きな歓声と手拍子がメンバー達を歓迎する中、イントロのギターのアルペジオと、そこに重ねたオルガンの音色だけで観客に歓声を上げさせたUKロック風の「零色」でいきなりフロアを掌握した彼らがこの日、見せつけたのは、全国アリーナ・ツアーを全てソールドアウトさせ、来年6月に横浜スタジアム2デイズに挑むバンドのスケールと、そこに入り混じるユニークな音楽性だった。

長谷川大喜(Key.Cho)のピアノが軽快に跳ねるポップ・ソングと思わせ、曲が進むにつれ、クイーンを連想させるぶあついギター・サウンドとプログレ的な曲の展開が聴き手を翻弄する「レモンパイ」をはじめ、全年齢対象ポップスロックバンドを掲げるポップ・センスを身上としながら、彼らの曲はどれもエキセントリックなんて言葉を使ってみたい一捻り、いや、二捻り、三捻りが加えられているところが、いつライブを見てもおもしろい。

「末っ子だったのにいつの間にか下にいろんなのがちょろちょろと(笑)、個性で殴り合っている。とてもいい夜です。気持ちが引き締まる。それを感じながら、そしてちょっとビビりながら、みんなで歌ってステキな夜にしたい」

はっとり(Vo.Gt)が『TALTOナイト 2024』に臨む意気込みを語って、「poole」から繋げた「悲しみはバスに乗って」もプログレ・ハードな演奏および曲の展開を、観客がシンガロングできるライブ・アンセムとして成立させているんだから唸らずにいられなかった。歪ませた轟音だけではなく、スライド奏法、ワウ、オクターブ奏法など、さまざまなテクニックを駆使して、リード、バッキングともにキャッチーなフレーズを閃かせる田辺由明(Gt.Cho)のギター・プレイも見事の一言。それも含め、エキセントリックが単にマニアックなだけで終わらないところがマカロニえんぴつの真骨頂。それを改めて実感する。

はっとりと田辺が向かい合って、ギターをかき鳴らした8ビートのエモいギターロック・ナンバー「忘レナ唄」のエンディングのドラムの連打は、まるでザ・フーのキース・ムーンだ。「レモンパイ」もそうだが、60年代~80年代の洋楽ロックをそれなりに聴いていると、マカロニえんぴつの楽曲はより楽しめるようだ。

「まだまだ一緒に歌えるか?」というはっとりの問いかけに「オー!!」と観客が応え、突入した終盤戦。「洗濯機と君とラヂオ」「ヤングアダルト」というともにストレートなライブ・アンセムを観客のシンガロングとともに爆音で奏で、マカロニえんぴつは本編を締めくくった。

「自分が始めたバンドだけど、自信をくれたのはTALTOです。もっと個性を出していいと思えたのは、TALTOのバンドのおかげです。ありがとうございます!」

「ヤングアダルト」を演奏する前に、自分達が所属しているレーベルに対する思いを語ったはっとりは何か思うところがあったのか、続けて改めての所信を言葉にした。
「いろいろな時期があったけど、いろいろな時期があるからバンド。あなたに届けるために曲を作っているんです。これからも一緒に歌ってもらえますか?」

『TALTO ナイト』はレーベルメイトが一堂に会するイベントであると同時に、前述したようにバンドが本来持っているべき向こう意気や音楽活動の原点を今一度思い出させる節目でもあるのだろう。

そんな『TALTO ナイト』の大団円を、マカロニえんぴつはアンコールに応え、「ミスター・ブルースカイ」で飾ったのだった。ライブで演奏すると、<サヨナラグッバイ 笑ってスカイハイ とりあえずまた明日>という歌詞が別れの挨拶にも再会の約束にも聞こえるロック・バラードは、曲が持つリリカルな魅力もさることながら、そういう曲をダイナミックに響かせる高野賢也(Ba.Cho)のぶんぶんと唸るベースも聴きどころだった。

最後の記念撮影ではWON以外の出演者が勢揃いしたが、全員が遠慮して真ん中に空間ができるというTALTOらしい光景が観客をなごませたことを、余談として付け加えておきたい。

取材・文=山口智男 写真=オフィシャル提供(撮影:酒井ダイスケ、満田彩華)

イベント情報

TALTOナイト -EXTRA-
2月14日(金)大阪 246 LIVE HOUSE GABU
 ACT:SAKANAMON、SPRINGMAN、the quiet room、pachae
2月15日(土)愛知 CLUB UPSET 
 ACT:SAKANAMON、SPRINGMAN、the quiet room、chef’s
2月24日(月・祝)東京 shibuya eggman
 ACT:SAKANAMON、SPRINGMAN、藍坊主、omeme tenten

■TICKET
3,800円(税込)
※ご入場時別途1drink代別途必要
 
オフィシャルHP先行 
12/4(水)21:30〜12/15(日)23:59まで
 
【HP】
■SAKANAMON Official Website:https://sakanamon.com/ 
■マカロニえんぴつ Official Website:https://macaroniempitsu.com/ 
■ヤユヨ Official Website:https://yayuyo-official.com/ 
■WON X:https://x.com/won_ow?s=21
■SPRINGMAN Official Website:https://springman-official.com/
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