尾上松緑主演、講談から生まれた新作歌舞伎『無筆の出世』を4月歌舞伎座にて上演 人間国宝の講談師・神田松鯉も出演 

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2025.1.7
尾上松緑

尾上松緑

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令和7(2025)年4月歌舞伎座公演で、尾上松緑が主演する『無筆の出世(むひつのしゅっせ)』が上演されることが決定した。

江戸時代から大衆の文化として人気を博してきた歌舞伎と講談は、互いに影響しあい、交流を持ちながら新たな作品を生み出してきた。『無筆の出世』は人間国宝の講談師・神田松鯉の講談から生まれる新作歌舞伎で、松緑主演で好評を博した『荒川十太夫(あらかわじゅうだゆう)』『俵星玄蕃』のスタッフが再集結し、新たな感動作を創造する。

神田松鯉

神田松鯉

松緑が初めて手掛けた“新作歌舞伎”として話題を呼んだ『荒川十太夫』は、令和4(2022)年10月に歌舞伎座で初演された(令和6年1月歌舞伎座で再演)。赤穂義士が討入りを果たした後日譚を描く、松鯉の口演による『赤穂義士外伝』を、講談好きとしても知られ、松鯉の弟子である神田伯山とも親交のある松緑が、歌舞伎として初めて上演した。

『荒川十太夫』は四十七士に関わる人物に焦点を当てた「外伝物」として松鯉が得意とする講談の人気作で、高田馬場の決闘で有名な赤穂義士のひとり、堀部安兵衛の切腹の際に介錯をつとめた下級武士の荒川十太夫の苦悩と、武士としての覚悟が情感豊かに描き出された傑作だ。

歌舞伎座での上演にあたり、主演の荒川十太夫を松緑が勤め、平成20(2008)年に松緑が出演した現代劇『ハリジャン』の作・演出をつとめた劇団「InnocentSphere」主宰、脚本家・演出家の西森英行が歌舞伎の演出を初めて手掛け、歌舞伎の狂言作者である竹柴潤一が脚本を担った。新作ながら、擬古典の装いでつくられた『荒川十太夫』は、歌舞伎通を唸らせ、まるで昔からあった作品のような仕上がりで評判を呼ぶと、その舞台成果から、一年間で最も優れた新作歌舞伎に贈られる栄誉ある「大谷竹次郎賞」(第51回/令和4年度)を受賞、さらに「文化庁芸術祭賞・芸術祭優秀賞」(令和4年度/第77回)を受賞するなど、松緑が講談から題材を得て生み出した新作歌舞伎は最大級の評価を得た。

令和4年10月歌舞伎座『荒川十太夫』荒川十太夫=尾上松緑 /(C)松竹

令和4年10月歌舞伎座『荒川十太夫』荒川十太夫=尾上松緑 /(C)松竹

そして、歌舞伎座の令和5年12月と令和6年1月の公演では二ヶ月連続企画として、12月には赤穂義士による討入り前夜と当日の物語である新作として『俵星玄蕃』を、1月には討入りの後日譚である『荒川十太夫』を上演。『俵星玄蕃』は、赤穂義士たちが素性を隠して、虎視眈々と吉良邸討入りの準備をしている中で出会う槍の使い手・俵星玄蕃を主人公にした名作で、赤穂義士の杉野十平次との心の交流が描かれ、討入り前夜から当日の物語が展開。浪曲では三波春夫のものが有名だが、歌舞伎として上演した『俵星玄蕃』では、松鯉に脚本協力を仰ぎ、演出を西森英行、脚本を竹柴潤一が担い、好評を博した。

歌舞伎座での上演が決定した『無筆の出世』は松鯉が自身で速記本から起こした講談で、奉公人の治助という男が酒癖の悪い主人から受けた仇を恩で返すという心温まる感動作。

今回の上演では、松鯉が講談の提供だけではなく、『無筆の出世』に出演することも発表された。これまで講談師が歌舞伎の本興行に出演した例はあるが、歌舞伎の殿堂である歌舞伎座での本興行にひと月にわたり劇中にて講談師が出演するのは、歌舞伎座史上初となる。松鯉が歌舞伎座の舞台に立つのは、令和4年(2022)年9月28日に『荒川十太夫』上演記念として行われた講談の会『神田松鯉・神田伯山 歌舞伎座特撰講談会~神田松鯉傘寿を祝って』以来となる。

尾上松緑 コメント 

皆様、御機嫌宜しゅう御座居ます
尾上松緑で御座居ます
この度、歌舞伎座四月大歌舞伎に於きまして『無筆の出世』を新たに歌舞伎として上演致す運びとなりました
私が講談の作品を歌舞伎に移植させて頂くのは『荒川十太夫』、『俵星玄蕃』に続いて三作目で御座居ます
また、三作目にして初めて“忠臣蔵”物から離れてのチャレンジです
これまで講談からの移植では古典歌舞伎から転用しても違和感の無い色々な挑戦をして参りましたが、今回もその気持ちを忘れずに“擬古典”として違和感の無い作品に仕上げつつ、これまでに無かった演出等も作者、演出家、共演者、スタッフの皆とアイディアを出し合っている所です
『無筆の出世』は講談として既に名作で御座居ます
その世界観を壊す事無く、また歌舞伎座の舞台で上演しておかしくない作品に作って行きたいと決意しております
是非、応援を宜しくお願い致します
また、今回も惜しみなく協力して下さっている神田松鯉先生、神田伯山先生にもこの場を借りて篤く御礼を申し上げます
どうか皆様、四月の歌舞伎座を楽しみにお待ち下さいませ 

神田松鯉 コメント

小生の講談『無筆の出世』が此の度歌舞伎化される事になった。思えば令和四年の『荒川十太夫』に続いて二度目の快挙であり、これ程嬉しい事はない。四十数年前に古い速記本から起した愛着のある作品である。
加えて今回は小生自身も講釈師として舞台に上げていただく事となり、取り上げて下さった主演の尾上松緑丈を始め皆様の期待とご厚意に背かぬよう懸命に勤めさせていただきますので何卒宜しくお願い申し上げます。

西森英行(演出) コメント

尾上松緑丈と神田松鯉先生が、「共演」する。
『荒川十太夫』から始まった講談と歌舞伎との交わりは、三作目にして、新たに挑戦的な作品づくりへと歩みを進めます。
『無筆の出世』。誰しも心の在りどころが混迷するこの時代だからこそお届けしたい、講談から生まれた心に沁みる一作。
歌舞伎と講談。長く深い時を重ねてきた古典芸能が、舞台上で邂逅する。その歴史的な瞬間を、多くのお客様にご覧頂きたいと思っております。
歌舞伎座の舞台で、尾上松緑丈をはじめとする歌舞伎俳優の皆さんと、神田松鯉先生の声が寄り添い、豊かな音が旋律として満ちる。その奇跡のような時を、大切に、紡ぎ上げていきたいと思っています。 

公演情報

令和7年4月 歌舞伎座
『無筆の出世』
神田松鯉口演より

脚本:竹柴潤一
演出:西森英行
主な出演:尾上松緑/神田松鯉 
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