-真天地開闢集団-ジグザグ、ツアーファイナル横浜アリーナ公演を鉄壁の演奏と歌そして最高のエンタメで魅了する

2025.1.24
レポート
音楽

-真天地開闢集団-ジグザグ

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『-真天地開闢集団-ジグザグ〈全国開闢禊 -天ト地-〉』2024.12.24(tue)横浜アリーナ

2023年11月に行われた東京ガーデンシアター公演のレポートで、このときが-真天地開闢集団-ジグザグ初体験だった自分は、「もっとやっちまえ」という言葉で締めくくった。そうしたらどうだ。もっとやっちまった結果、約1年後に行われることになった今回のツアーではホールを回ることになり、ファイナルの会場はなんと横浜アリーナ。しかも、3階席まで参拝者(-真天地開闢集団-ジグザグファンの呼称)でほぼ満員という大人気ぶり。いや、これは本当にすごい。客層は幅広く、場内に漂う空気も幸福感に満ちていた。彼らを取り巻く環境がポジティブに大回転していることが開演前から瞬時に感じ取ることができた。

今回、二度目の禊(ライブ)体験となる自分が感じた前回との違いは、当然ながらセットリスト。ポップだったり、お遊び要素の強い曲(「ニイハオ・ワンタンメン」、「どんぐり」、「スマイル★かわいいねん」など)の割合が多かった東京ガーデンシアター公演に比べると、今回はオープニングナンバー「天 (ama)」から6曲目「燦然世界」まで、ヘヴィかつ、シリアス。初回で強烈な刷り込みを体験した自分にとってはかなり意外な展開だった。これは各ツアーのベースになっている作品『慈愚挫愚 四 -最高-』と『Gran ∞ Grace』の違いによるものなのだろうか。

命(唄)

そんなギミックのない始まりだったからこそ気付けたことではあるのだけど、このバンドには、サポートギタリストの菅野尋も含めてバカテクのミュージシャンが揃っているのにもかかわらず、技術力を前に押し出すタイミングが非常に少ない。「復讐は正義」や「兎girl」などで登場する命のギターソロは独特なフレージングも含めてスリリングでカッコいいし、音量もグッと上がるのだけど、それ以外の場面で前に出てくることはない。影丸の手数多めなドラミングも最高だ。中盤の見せ場、気合の入ったドラムソロコーナーはかなり痺れた。テクニカルな上に音は重いし、プレイの合間にお遊びまで入れて参拝者を笑わせる。しかし、それ以外ではあくまでも縁の下の力持ちに徹していた。それはベースの龍矢も同様だ。まあ、それでも終演後には会場の外で「ドラム、すげー!」と大興奮している男子がいたほどで、縁の下に収まりきらない存在感が彼らのプレイにはあるのだが。

じゃあ、何が前に出ているかというと、絶対的に「歌」なのだ。命による歌が、メロディが、このバンドの肝になっていると強く感じた。己の技術力を見せつけることは独りよがりの自己満足だと捉えているのだろうか。それとも、このバンドの曲に絶対的な自信を持っているということなのだろうか。いずれにせよ、目の前で繰り広げられる彼らのパフォーマンスには非の打ち所がないので、このやり方で正解なのだろう。後述するが、ジグザグのライブはエンタメ度が高い。しかし、ロックバンドとしての軸がブレないのは、鉄壁の演奏と歌があるからなのだ。

歌といえば、昨年のツアーで命は喉の不調に悩まされていたようで、東京ガーデンシアター公演でも自身の不甲斐なさを嘆いていた(彼の名誉のためにも、「これで不調なの!?」と驚くほど素晴らしいパフォーマンスだったことを付け加えておきたい)。しかし、今回はどこからどう見ても絶好調。それは「天 (ama)」の時点でわかった。高音、低音、シャウト、ファルセット、あらゆる歌唱法を見事に使い分け、楽曲にさらなる生命力を吹き込んでいた。

龍矢(低音弦)

-真天地開闢集団-ジグザグは高い技術力を誇るバンドだ。だからこそ余計に疑問に思うことがある。なぜ、「拙者忍者、猫忍者。~木天蓼三毛蔵と町娘おりん~」のようにメンバー全員が楽器を置いて誰も演奏しない4つ打ち曲が存在するのか。なぜ、曲はカッコいいのにネギを連呼する歌詞のせいで、やたらと平和な「バリネギ -sexy green onion-」が仕上がってしまったのか。どんな狙いでこれらの曲をつくったのか純粋に気になる。しかし、結果としてライブではかなりのアゲ曲として機能しているし、もし「客席が狂喜乱舞する光景を見たかったから」と言われてしまったら返す言葉もない。シリアスなロックとアイドル的なノリは同居するだろうという判断力、そして実際にそれを可能にするセンスはすごい。ちょっとした発明だ。まさか、純然たるロックバンドのライブでトロッコが客席の間を疾走するとは想像もしなかった(トロッコが登場したのは「最高だZ」と「拙者忍者~」の2曲)。

ここまで書いてきて気付いたが、自分は彼らの音楽やそれに対する姿勢に関する理解がまだまだ足りない。だが、言い訳させてほしい。-真天地開闢集団-ジグザグは先人たちによる様々な音楽を喰らっているバンドだが、方法論や表現の仕方は何にも縛られておらず、自由だ。唯一無二だ。だからこそ、たった2回の参拝では全貌を把握しきれない。でも、「理解」なんて堅苦しいことは言わず、ただ楽しさに身を任せていればいいんじゃないかという気にもさせられる。そこが彼らの禊の魅力なのではないだろうか。

ただ、終盤の「あっぱれ珍道中」~「JAPPARAPAN ~Japanese Party~」~「拙者忍者、猫忍者。~木天蓼三毛蔵と町娘おりん~」の流れは楽しかったものの、最も重要だったのはそのあとに続いた「傷と嘘」だったように思う。狂乱のパーティータイムの熱を冷ますためにじっくりと間を空けて鳴らしはじめたこの曲は、コロナ禍直前に「大きいところで合唱できたらいいな」と夢想しながら命がつくったという壮大なバラードで、メンバーにもスタジオで「めっちゃよくない?」と話していたという。このエピソードは東京ガーデンシアター公演でも披露していた。命にとってそれぐらい思い入れのある曲なのだろう。客席では無数の自動制御ペンライトが白く揺れ、参拝者によるラララのシンガロングが響く。ステージ中央から延びるランウェイの先端で歌う命と揺れる無数のペンライトを捉えた映像も含め、この日一番美しい時間だった。つい5分前の狂騒なんてまるでなかったかのようだ。これをできてしまうのがジグザグの凄さなのである。歌唱後のMCでは、「いやぁ、これはダメだね。アカンやつや。なに今の? 現実?」と感極まっている命の姿があった。「曲がようやく報われた」――グッとくるひと言だった。

影丸(太鼓)

そう、独特な見た目やコンセプトによってバンドとしての生々しさはいくぶん薄くなっているものの、随所で滲み出てくる感情を隠そうとしないのも彼らのいいところだ。禊中盤に命がひとりで臨んだ弾き語りでは、いくつかのクリスマスソングのあとに、彼が中学生の頃につくったという曲を披露。歌唱後、「『お前、この曲横浜アリーナで歌うぞ』と言ってやりたいですね!」と笑っていたが、彼にとって相当エモーショナルな瞬間だったに違いない。「Promise」後の記念撮影における「一生分の思い出ができたわ」という言葉も偽らざる本音だったのだろう。

しかし、その前の「人生のピークがきてんちゃうか」というひと言には疑問が残る。どう考えてもそれはまだまだ先だ。大量のフレーマーやCO2などのド派手な演出も相まって、-真天地開闢集団-ジグザグはさらなる可能性を見せてくれた。参拝者に見せられる新しい景色はまだまだあるはず。さいたまスーパーアリーナだって、東京ドームだって、決して夢ではないんじゃないか。少なくとも自分は、彼らが横浜アリーナでピークを迎えたとは少しも思わなかった。それどころか、今度はどこで何を見せてくれるのかと期待で胸が膨らんだ。彼らにもっともっとロックシーンを引っ掻き回してほしいんだ。まだ彼らの禊を体験したことがない人たちにも全力でオススメしたい。鳥居は常に大きく開かれている。


取材・文=阿刀"DA"大志 撮影=江隈麗志

-真天地開闢集団-ジグザグ

セットリスト

『-真天地開闢集団-ジグザグ〈全国開闢禊 -天ト地-〉』2024.12.24(tue)横浜アリーナ
01. 天(ama)
02. Dazzling Secret
03. Cry Out -victims-
04. あいのかたち
05. Schmerz
06. 燦然世界
07. 夢に出てきた島田
08. さくら さくら
09. 兎girl
10. Drip
11. 最高だZ
12. バリネギ -sexy green onion-
13. E.v.e
命 -mikoto- 弾き語り
影丸 -kagemaru- ドラムソロ
14. あっぱれ珍道中
15. JAPPARAPAN ~Japanese Party~
16. 拙者忍者、猫忍者。~木天蓼三毛蔵と町娘おりん~
17. 傷と嘘
18. きちゅねのよめいり
19. 復讐は正義
20. Promise
21. Nighty night!