「徹底的に恐ろしいJホラー」[Alexandros]川上洋平、第2回日本ホラー映画大賞受賞作品『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』を語る【映画連載:ポップコーン、バター多めで PART2】
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撮影=河本悠貴 ヘア&メイク=坂手マキ(vicca)
大の映画好きとして知られる[Alexandros]のボーカル&ギター川上洋平の映画連載「ポップコーン、バター多めで PART2」。今回取り上げるのは、第2回日本ホラー映画大賞・大賞受賞監督作品であり、近藤亮太監督の長編映画デビュー作『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』。弟の失踪にまつわるある家族に残された一本のVHSテープを巡るリアリティのある恐怖を描いた新次元のJホラーを語ります。
『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』
――今回は前回予告していた通り『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』です。
はい。もう久々に徹底的に恐ろしいJホラーをいただきました。生み出していただいて本当にありがとうございます。
──怖くて久々に目を覆ったとか。
そうなんですよ。中学の頃、『ほんとにあった! 呪いのビデオ』シリーズを友達の家に集まって見てた記憶が蘇りました。リアルに目を覆ってましたね(笑)。『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』はあの頃のVHSの画質や粗い音がふんだんに使われていて。「VHSに馴染みのない若い世代はどう思うんだろう?」とも思いましたが。
――確かにレトロなものとして映ったりするのかもしれないですね。
そうですよね。俺はVHSの画質は本能的に怖く感じるんだけど、今の若い人たちはおしゃれに感じたりするのかな(笑)。昔って「ホームビデオにたまたま何かが映っちゃったみたいな映像がテレビ局に送られてきて」系のビデオ作品が台頭してましたよね。僕はそういうのばかり観てたので(笑)、すごくハマりました。ホラー映画の怖がらせ方って結構出尽くしている感があったんですけど、こういうやり方があったんだな。アホな話、「もし自分がホラーが撮るならこういうところから幽霊登場させるな」とかよく考えてるんですけど(笑)。音楽でもちょっと似たようなことやってるんだよな。例えば我々の曲「For Freedom」のおかしなリズムはそんな発想から来てるんだろうし。「どうしたら驚くだろう?」「どうしたらひっかかるだろう?」みたいなね。だから『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』は「やられた!」って勝手に思っちゃいました(笑)。僕は映画監督でもなんでもないんだけど。ホラー映画は結構観てるし、いろんなパターンを熟知しているつもりだけど、まだ新しい怖がらせ方ってあったんだなと。はっきり言って発明レベル。アイデアにまず脱帽です。序盤の長回しでVHSを見るシーンとか超怖かったですね。あそこ映画館で観たら多分「うわぁああ!」ってなると思う。
――怖かったですよね。
俺はオンライン試写で観たんですけど、自宅で「うわぁああ!」ってなりましたから(笑)。他にも「あんまり関係ないのになんでそこ映すの?」みたいなシーンが多かったけど画角がいちいち怖かった。意図的なんだろうけど、なんかおしゃれでした。
――野暮じゃない感じというか。
そう。今っぽいホラー映画だなと思いました。ハリウッドはこのタイプのアプローチは真似し辛いんじゃないかな。『呪怨』と『リング』は和ホラー特有のジメっとした怖さが浸透してなくても、貞子と伽椰子っていう怖い対象物、つまりわかりやすいヴィランが登場するから真似しやすかったと思うんですけど、『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』はヴィランの存在をもやっとさせるのを徹底しているのがかっこいい。あの詫び錆びのある恐怖を欧米人がどう感じとるかが気になります。
――『イット・フォローズ』みたいに怖さの正体が気配ですよね。
そう。気配。映像に映らないのに“ある”と思わせるのってめっちゃ難しいんだろうなと思いますね。改めて映画館で観たいですね。悲鳴が上がる瞬間を体験したい(笑)。
『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』より
■「あの頃の本当に怖いJホラー映画が観たい」って言ってきたので感謝の気持ちです
――確かに。
出ている役者さんが若手の方が多かったのもリアルで良かったです。個人的にホラー作品って記号性の高い役者の方が出ると正直怖くなくなっちゃうんですよね。
――フィクション感が強くなりますもんね。
そうそう。「これは作り物なんだな」って思って安心しちゃう。これは前情報の話だから役者さんの技量の問題ではないし仕方ないんだけどね。『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』は若手の役者さんがメインで、そこも没入できた要因でしたね。でもNetflixのドラマシリーズの『呪怨:呪いの家』の荒川良々さんとかは今までのご自身の像を薄くしていた気がして、それがすごく良くて超怖かったんですよね。あれは本当に巧みな技でした。
――『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』はノーCG、ノー特殊メイク、ノージャンプスケアを謳っていて、その結果リアリティが出るんだなと思いました。
そうなんだ! 作品の切り口的にそれが功を奏した気がしますよね。『呪怨』シリーズの清水崇さんが総合プロデューサーということですが、世界に誇る”本当に怖い”Jホラーを復活させたかったのかもしれないですね。
――まさに「本当に怖いJホラーを作ろう」という目標があったようです。
いやあ、そうなんだ。すごい。この連載でも結構言ってたじゃないですか? 「あの頃の本当に怖いJホラー映画が観たい」って。本当感謝の気持ちです。
『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』より
■限りなく無機質なところに恐怖を感じた
――撮影場所もセットではなく本当に怖い場所をできるだけ探してそこで撮影したそうです。終盤の廃墟は実際は長く使われていない病院だとか。
あの場所怖いよね。映画では何の施設かは伏せられていたけど不気味だったよね。やっぱりいろんなことを明かさない方が怖いんだよな。黒沢清監督と対談させてもらった時に「正体がわからないものほど怖いものはない」っておっしゃってて。幽霊のバックグラウンドが垣間見れちゃった時点で同情が生まれちゃうじゃん?(笑)。
――感情移入しちゃうっていうか。
そう。幽霊に共感を覚えてしまって怖さが半減する。物語としては綺麗になるのかもしれないけど、やっぱりホラー好きとしてはただただ怖いものであってほしいっていう気持ちが強いんだよね。『ダークナイト』のジョーカーの悪事には大義名分がなかったように。キリスト教の観念でいうところの“悪魔”ですよね。理由がないからこそ怖い。日本のホラーの中には途中までめっちゃ怖いのに、終盤にその悪意や殺意がどこから来てるかっていうのが明かされてちょっといい話になる瞬間があるけど、そこで個人的には冷めちゃうんだよね。でも『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』はない。人間ドラマがないわけではないんだけど、限りなく無機質なところに恐怖を感じた。
――中心となる兄弟のバックグラウンドとかは結構丁寧に描いてますもんね。
そうそう。なのにめちゃくちゃ怖い。
――近藤監督は今作が長編デビュー作ですが、これからも楽しみですよね。
楽しみですね。僕みたいなJホラーのファンはいっぱいいると思うんだけど、いち早く観れた者としておすすめさせてほしいですね。是非映画館で悲鳴あげてください(笑)。あー、3月で連載終わっちゃうの寂しいな。是非感想をお待ちしております。
取材・文=小松香里
※本連載や取り上げている作品についての感想等を是非spice_info@eplus.co.jp へお送りください。川上洋平さん共々お待ちしています!
上映情報
監督:近藤亮太/総合プロデューサー:清⽔崇/出演:杉⽥雷麟、平井亜⾨、森⽥想、藤井隆
あらすじ:「そのビデオテープには映ってはいけないものが映っている…」。敬太は昔、⼀緒に出かけた弟が失踪するという過去を持ち、今は⾏⽅不明となった⼈間を探すボランティア活動を続けていた。そしてある⽇、突然⺟から敬太に1本の古いビデオテープが送られてくる。それは、弟の⽇向がいなくなる瞬間を映したビデオテープだった。霊感を持つ同居⼈の司はそのテープに禍々しい雰囲気を感じ、敬太に深⼊りしないよう助⾔するが、敬太はずっと⾃分についてまわる忌まわしい過去を辿るべく動き出す。そんな敬太を取材対象として追いかけていた記者の美琴も帯同し、3⼈は⽇向がいなくなった“⼭”に向かう──。
配給: KADOKAWA
1月24日(金)全国公開
©2024「ミッシング・チャイルド・ビデオテープ」製作委員会
アーティストプロフィール
ロックバンド[Alexandros]のボーカル・ギター担当。ほぼすべての楽曲の作詞・作曲を手がける。毎年映画を約100本鑑賞している。「My Blueberry Morning」や「Sleepless in Brooklyn」と、曲タイトル等に映画愛がちりばめられているのはファンの間では有名な話。
ツアー情報
05.02(金) 宮城 SENDAI GIGS
05.03(土祝)宮城 SENDAI GIGS
05.16(金) 愛知 Zepp Nagoya
05.17(土) 愛知 Zepp Nagoya
05.23(金) 福岡 Zepp Fukuoka
05.24(土) 福岡 Zepp Fukuoka
05.30(金) 北海道 Zepp Sapporo
05.31(土) 北海道 Zepp Sapporo
06.06(金) 東京 Zepp Haneda (TOKYO)
06.07(土) 東京 Zepp Haneda (TOKYO)
06.13(金) 大阪 Zepp Osaka Bayside
06.14(土) 大阪 Zepp Osaka Bayside
06.21(土) 石川 金沢歌劇座
06.22(日) 新潟 新潟県民会館
06.28(土) 岡山 岡山芸術創造劇場ハレノワ
06.29(日) 愛媛 松山市民会館
07.05(土) 福島 けんしん郡山文化センター
07.06(日) 山形 シェルターなんようホール
07.12(土) 三重 四日市市文化会館
07.13(日) 奈良 なら100年会館
07.15(火) 兵庫 神戸国際会館こくさいホール
07.18(金) 広島 上野学園ホール
07.20(日) 熊本 熊本城ホール
07.26(土) 沖縄 那覇文化芸術劇場 なはーと
https://alexandros.jp/
リリース情報
2月26日発売
[Alexandros]『SINGLE 3』
初回限定盤(Blu-ray):UPCH-7709 ¥3,900(税込)
通常盤:UPCH-6037 ¥1,500(税込)
金字塔 ※テレビ朝日ドラマ『プライベートバンカー』主題歌
ほか計3曲収録
「Back To School!! celebrating Aoyama Gakuin's 150th Anniversary」から5曲収録
書籍情報
川上洋平「ポップコーン、バター多めで」