《連載》もっと文楽!~文楽技芸員インタビュー~ Vol. 11 鶴澤清介(文楽三味線弾き)

2025.1.21
インタビュー
舞台


良い音を追い求めて

2023年に技芸員たちが出した『文楽名鑑』では、幸せな瞬間として「蝠聚会」を挙げていた清介さん。蝠聚会とは三味線弾きが研鑽のために、同僚の三味線を相手に太夫として語る素浄瑠璃の会で、かつて語りを習っていた清介さんはしばしば出演している。

「三味線弾きというのは常に太夫さんをケアして気を遣っているんです。でも自分が太夫をやってみると、太夫は三味線のことを一切気にしない。ああそうか、ここで息がいっぱいになるから、三味線はパンっと入ったほうがいい、こう持っていっておいたらば波に乗るようになるといった具合に、幾つか押さえるべきポイントがあって、あとはずっとベッタリせず好きなように弾くくらいがいいんだなとわかりましたね」

さて、同じ三味線でも、三味線弾きによってその音は千差万別。清介の三味線には丸みのある豊かな音色を感じることが多い。

「音のことは清治師匠にも『よく研究しいや』と散々言われて。いい音とはどんなものかと、自分なりに色々と考えました。先代の燕三師匠や九代目の吉兵衛師匠や弥七師匠の三味線は、本当に良い音がしていて、そういう方々の弾き方を、『ああ、こういう風にしたら音は違うな』と思いながら見ていたものです。昔、『本朝廿四孝』十種香の段で八重垣姫がおりんを鳴らす場面で、望月太意司郎さんという方が上手の裏で鳴らしているのがあんまり良い音だから聞いたら、家の自転車の鈴だった(笑)。それがまさに、御殿の音で。こういう音をよく聴いておいて、三味線でもそれに近い音が出るようになったらいいんだな、と」

張ってある糸を左手で押さえ、バチで弾く。シンプルなつくりだが、細かい工夫で音はどんどん変わっていく。

「一番簡単なのは、糸を引っ掛けて弾く『引っ掛け弾き』。これは糸が痛みます。糸と皮の間はだいぶ離れているので最初は難しいのですが、糸を皮の近くまで持って行って離しなさい、というのが最初の教え。それができずバチが逃げてしまったら『力を入れなさい』と怒られ、力を入れて弾いていると、やがて『いつまで力を入れているのか』と怒られる。1ミリくらい上のところで離す感覚がないと、正確な音で弾けません。それもさっと離すのでなく、バチの先で削るようにする。これを『跳ね出すバチ』と言います。糸を押さえる左手も大切で、弾く物によっては身(指)を使うこともありますが、基本的には爪で押さえます。すると糸によって爪が削れて『糸道』ができる。これは一番削れているところを頂点にして三角に削れるのですが、その頂点で糸を押さえると、糸が太いからどうしても力が均等に入りません。三角形の一辺、つまり点ではなく線を使うと糸をキュッと押さえることができて音が変わる。他の人がどうしているか知りませんが、僕はここぞという時にはそうやって弾いたりします。左手が変わると、右のバチの具合もまた変わってきます」

三味線の譜。三味線弾きはこのようにめいめいノートに書き記す。         提供:鶴澤清介


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