松下洸平&松下優也、宿命の相手役を演じるも「ライバルというより相棒」 世界初演のミュージカル『ケイン&アベル』開幕
ミュージカル『ケイン&アベル』が2025年1月22日(水)に、東急シアターオーブで開幕。1月21日(火)に行われた公開ゲネプロ、そして1月23日(木)に行われた開幕記念会見の様子をレポートする。
本作は、イギリスの国民的作家ジェフリー・アーチャーのベストセラー小説を原作とした世界初演のオリジナル・ミュージカル。音楽はフランク・ワイルドホーン、脚本・演出はダニエル・ゴールドスタインが担当する。
同じ日に生まれたウィリアム・ケイン(松下洸平)とアベル・ロスノフスキ(松下優也)という二人の男の宿命を描いた本作。フロレンティナ(咲妃みゆ)がストーリーテラーとなって、二人が生まれたときから “対決”に結末がつくまでの長い時を壮大な世界観と音楽で描き出す。
ステージには、大きな箱状のセットが二つ。簡素なセットながらマッピングを効果的に使うことで見事にそれぞれの場面を作り上げた。
洸平が演じるケインは、銀行家の父の跡継ぎとして祝福された人生を歩む人物だ。ケインのソロのファーストナンバー「父の名に恥じぬよう」でも真っ直ぐさと誠実さを感じさせる歌声でその役柄を印象付けた。優也が演じるアベルは、戦争によって孤児となり、度重なる苦難を乗り越えて生きてきた。ポーランドからアメリカに渡り、新たな地でのし上がろうと野心に燃える。アメリカに到着したアベルが目をキラキラと輝かせ、夢見る姿は一際華やかに見えた。
全編にわたって二人の対比が色濃く描かれていくが、洸平と優也の対照的な歌唱がそのキャラクター性を非常にうまく表していて印象的だった。洸平は全編に渡ってはっきりとした発音で、低音を響かせ、言葉を真っ直ぐ届けるように歌う。それがケインの実直な人柄につながって見えた。対して優也はグルーヴ感と抑揚に重きを置いているかのような力強い歌い方。アベルの野心と勢いを感じさせた。
一方で、稽古中に行われた取材で洸平が「会話劇で見せるというのがこの作品の面白いところ」「ミュージカルとしての素晴らしさと演劇としての素晴らしさ、それからエンターテインメントショーとしての素晴らしさ、三つが入った作品です」と話したように、芝居を見せるシーンも多い。特に、ミュージカルであるこの作品で、二人の初めての“対決”を「会話」で見せるシーンは印象に残った。(その後、歌唱シーンもある)しっかりと「会話」を見せることで、より言葉の重みが伝わってくる。当然ながら全編を通して美しく、耳馴染みの良い楽曲に彩られた作品であるが、「会話」を効果的に使うことで、物語により深みを持たせた。
さらに、「エンターテインメントショーとしての素晴らしさ」という意味では、ダンスと身体表現で表現した“戦争”シーンが記憶に残っている。その動きは洗練されたものだったが、全体を通して見ると異質さも感じられ、戦争という非日常であることを印象付けた。もちろん、劇中には華やかなダンスナンバーも多数あり、エンターテインメントの醍醐味を味わうこともできる。
二人の男たちの宿命を描いた物語だが、そこには二人の対決だけでなく、それぞれの成功と挫折、そして喜びや哀しみがある。人と出会い、別れ、憎しみと愛情を持って生きていく、まさに“人生”を描いた物語だ。ケインとアベルのような激動の人生ではなかったとしても、きっと彼らの人生は誰もが共感できるものではないだろうか。
開幕記念会見には、松下洸平、松下優也、咲妃みゆ、知念里奈、愛加あゆ、益岡徹、山口祐一郎が登壇。
洸平は、初日公演を終えた心境を「興奮冷めやらぬ状態で、良いモチベーションのまま2日目を迎えられそうだなと思います。思ったより緊張せず、リラックスして臨めたと思いますし、何よりも非常にたくさんのお客さまがいてくださることが安心につながって、充実した初日を迎えられたと思います」と話す。
世界初演となる本作。海外スタッフとのクリエーションについて聞かれると、「言葉の壁みたいなものもあるかなと思ったんですが、全くそういうものはなかったです。言葉ではないところで繋がれたのがすごく大きかった。一つのものを作る上で言葉は重要ですが、クリエイターの皆さんがパッションを持って接してくださったので、言葉以上に受け取るものが毎日、ありました。また海外の方と仕事したいなと刺激をもらった1カ月半でした」と振り返った。
一方、優也は「無事に初日を迎えられてホッとしています。たくさんのお客さまの顔を感じながらテンションを感じながら、皆さんが味方でいてくれる感覚があったので、すごく落ち着いて、楽しくできて安心しています」と初日に思いを寄せ、「新作なので非常に変更が多くて。演出をつけていただいても次の日には変更があるという日々が続いていました。ただそれは、よりよくしていくため、前に進めていくためだったので、前向きに捉えて一同臨んでいたかなと思います」と回顧した。
物語の進行役であり、アベルの娘でもあるフロレンティナを演じた咲妃は「私は、信じられないくらい緊張して開幕の時を迎えたのですが、シーンごとに皆さんが熱量のバトンをどんどん受け渡していって話が進んでいくので、それをお客さまが見守ってくださっている空気を感じられるようになって、そこからは少し呼吸ができるようになりました。みんなでここまで作り上げて来た全ての時間が思い起こされて胸がいっぱいになりました。ここから始まるんだなとワクワクしています」とコメント。アベルの妻・ザフィア役の知念は「世界初演というとすごく大変なプレッシャーを感じてしまうかなと思っていましたが、お二人(洸平と優也)が緊張していなかったので、すごくいい雰囲気を作ってくれていました。ここから千穐楽までみんなでどんなものを作っていけるか楽しみです」、ケインの妻・ケイト役の愛加は「(出番前に)モニターで拝見させていただいていましたが、そのモニターからもお客さまの集中力が伝わってくる初日でした。すでに愛しい作品です」とそれぞれ笑顔で話した。
ケインの上司アラン・ロイド役の益岡は「個人的に歌がないと思っていたのですが、稽古終盤に追加されまして。歌が課題でしたが、自分ではなんとかまとまったかなと思っております。世界初演の実感と自覚をこれから自分の中で感じていきたいと思っているところです」と言い、ホテル王のデイヴィス・リロイを演じる山口は「きっとこの作品は『21世紀前半で最も素晴らしいミュージカルだった』と語り継がれると確信しています」と胸を張った。
「洸平くん」「優也」と呼び合うというW松下の二人。お互いの尊敬できるところを聞かれると、洸平は「優也は、ずっと練習していました。稽古中に自分の出番が終わったら、休憩中に稽古を録音したものを聞いて微調整して。こんなに研究熱心で努力家な方はなかなかお会いしたことがないので、刺激を受けましたし、勉強させてもらいました。頼りにしています」と絶賛。優也は「ありがとうございます」と嬉しそうにはにかみつつ、「(洸平は)すごく周りを見ていて、人のお芝居をしっかり見てくれているのを感じます。それにどれだけやることが多くても常に冷静。その冷静さに助けられました。どうしても新作ミュージカルを作るとなると切羽詰まってくる時期もあるものだと思いますが、今回は全くそういうこともなく、穏やかに進められた。それは、洸平くんが横にいたからかなと思います」と絶大な信頼を寄せた。
劇中では宿命の相手として対立を深める役柄を演じているが、実際には「ライバル意識はない」と洸平は断言。「キャスティングで優也の名前が出た瞬間から、嬉しいなと思っていました。いずれどこかで交わることもあるかなと思っていましたが、このタイミングで二人で真ん中に立てるのが嬉しかった」と語る。それを聞いた優也も「稽古場から洸平くんが寄り添ってくれていることを感じていましたし、バディのような気持ちでいました。ライバルというより相棒」と同意。洸平は「リスペクトがあるから舞台上ではバチバチやりあえる。絶対的な信頼関係があります」と力を込めた。
取材・文・撮影(会見)=嶋田真己
公演情報
【キャスト】
松下洸平 松下優也
上川一哉 植原卓也 竹内將人 今 拓哉 益岡 徹
飯塚萌木 榎本成志 加藤翔多郎 古賀雄大 咲良 佐渡海斗 島田彩
德岡明 富田亜希 中村ひかり 廣瀬喜一 堀部佑介 本田大河 町田睦季
萬谷法英 宮内裕衣 宮田佳奈 森下結音 森山大輔 米澤賢人 (五十音順)
スウィング磯部杏莉 後藤裕磨
原作:ジェフリー・アーチャー
音楽:フランク・ワイルドホーン
歌詞:ネイサン・タイセン
編曲:ジェイソン・ハウランド
振付:ジェニファー・ウェーバー
脚本・演出:ダニエル・ゴールドスタイン
東京 東急シアターオーブ 2025年1月22日(水)~2月16日(日)
大阪 新歌舞伎座 2025年2月23日(日)~3月2日(日)
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