【対談】渡辺シュンスケ×伊澤一葉 出会い、音楽、そして共演ライブについて、ゆっくりたっぷり語り合う
写真左から:渡辺シュンスケ、伊澤一葉 撮影=森好弘
渡辺シュンスケって、歌も歌うんだ。うっかり、そう思っていた人が驚き、ときめき、虜になる未来が見える。サポートキーボーディストとして多方面で活躍する渡辺シュンスケ、生誕50年にして初のソロアルバム、その名も『「MUSIC」-Most Unusual Songs In my Collection-』。お洒落なピアノインストバンドのSchroeder-Headzや、ポップな歌ものバンドのcafelon(カフェロン)での活動とも一線を画す、いわばこれが音楽家・渡辺シュンスケのルーツミュージック。
SPICEではこのアルバムのリリースを記念して、国立(くにたち)音楽大学の同窓生・後輩であり、渡辺シュンスケの音楽と人を誰よりも愛してやまない、伊澤一葉を迎えて対談を実施。出会いについて、音楽について、アルバムについて、そして3月に予定されている共演ライブについて。ゆっくりたっぷり、語ってもらった。
――素晴らしい作品です。
渡辺シュンスケ:ありがとうございます。
――まず何と言っても、歌が良くて。アーシーで、とてもソウルフル。
渡辺:“歌、いいのになー”と思いながら、結構昔作った曲たちばっかりで、ずっとリリースしてなくて。「すごくいいからうちで出そうよ」っと言ってもらうのを待ってたら、こんなに月日が経っちゃった(笑)。でも50歳で出せてよかったです。
――シュンスケさんの歌がいいことは、もちろん伊澤さんは昔から知っていて。
伊澤一葉:はい。付き合いが大学生の時まで遡るので。僕が20歳だから、29年前から。
渡辺:その頃は別のバンドをやってて、ボーカリストも別にいて。歌も歌ってたっけ?
伊澤:コーラスはしてましたね。
渡辺:学祭で一緒にライブしたの、すごい覚えてる。(伊澤は)その時、弾き語りしてたよね。大貫妙子さんの「からっぽの椅子」、歌ってた気がする。“渋い曲やるなー”と思ってた。
伊澤:それは全部シュンさんの影響ですよ。僕、ほぼほぼシュンさんの家に入り浸ってたから。
渡辺:学年も学部も違うんだけど。
伊澤:国立音大にジャズ研があって、毎週土曜日にジャズ喫茶でセッションするんですよ。僕はお客さんで観に行ってて、シュンさんが演奏するのを観て一発で惚れて、すぐに声をかけて。自分はすごいコミュ障だから、声をかけることとかあんまりないんですけど、「かっこよかったす!」とか言って。それから、2個下だしちょっと可愛がってくれて、「うちに遊びに来いよ」って。自分としては、ミュージシャンになるきっかけというか、こういう活動をする原点になった人です。
渡辺:いつもこうやって言ってくれるんだけど、そんな大層な話じゃない。その時の先輩後輩って、ずーっと先輩後輩だから。
伊澤:自分にとってはそこが原点なので、もう1ミリも揺るがない。
渡辺:僕があんまり、先輩後輩みたいなことを感じさせないタイプっていうか。大人になって知り合った、年下の子とは普段敬語でしゃべるから、(伊澤と)こうやってしゃべってるのを見てびっくりされることが多い。「なに先輩風吹かせてんの?」って(笑)。そうじゃなくて、その頃出会った感じのままでしゃべっちゃうから。
――その頃の同窓生で、ほかに第一線でやられている方というと……。
渡辺:僕はあんまりいないけど、(伊澤は)ヒイズミくんとけっこう繋がりあるよね。
伊澤:ヒイズミはまさに学年が一緒。僕は浪人して入ったんで、年齢は一個上ですけど。彼は最初から、学内の有名なビッグバンド、ニュータイド・ジャズ・オーケストラに入ってやってた。
――シュンスケさんも、ジャズの人だったんですか。
渡辺:なんですかね? 音楽全般が好きで、ジャズも習いに行ったりして。
伊澤:ジャズ研、入ってたんですか。
渡辺:入ってない。サッカー部だった。音大のサッカー部だから、めちゃくちゃ弱いんだけど。ボールを蹴ったこともないような人が集まってるから、なんか部長にさせられちゃって。まぁいいや、その話は(笑)。
「奥多摩行こうよ。鍾乳洞でピアニカ吹こうぜ」って言われて、「あ、はい」って。(伊澤)
――何か当時の、ファンキーな思い出があれば。
伊澤:やっぱり、奥多摩の鍾乳洞に行ったやつでしょ。その頃、僕は本当にシュンさんの家に入り浸っていて、音楽だけじゃなくて、読んでる小説とか、全てを吸収しようと思ってたんですよ。島田雅彦とか、村上龍とか、いろいろ教えてもらったし。で、僕、本名は啓太郎で、「啓太郎、奥多摩行こうよ。鍾乳洞でピアニカ吹こうぜ」って言われて、「あ、はい」って。
渡辺:ピアニカ持って、駅からバスに乗って、鍾乳洞に行って、吹きまくって。普通に鍾乳洞を見に来たお客さんに、パチパチって拍手されて(笑)。
――なんだったんですか。そもそも鍾乳洞って(笑)。
渡辺:いろんなとこ行こうよ、みたいな。“やっぱり人がやってないことをやんなきゃダメだ”みたいな感じ。鍾乳洞でピアニカ吹いたら、絶対気持ちいいなと思って。
伊澤:公園とかでも、やってたんですよね。「もっと変わった場所でやろうぜ」みたいな感じで言われたような気がする。
渡辺:たぶん、お互い、悶々としていた時期で。いろんなことを表現したいけど、まだ術(すべ)がわかんないし、アウトプットの仕方を探してる、みたいな時期だったのかな。変人にすごい憧れてた。「心配しないでも変人だよ」って言われることもあるけど(笑)。変なことをしようしようと思ってた時期に、出会って、ハモっちゃったみたいな。(伊澤は)すっごい面白い人だったんで。
伊澤:いやいや。僕はわかりやすい、先輩に憧れる2個下の子みたいな感じ。シュンさんはその時から、鍵盤はめちゃくちゃうまかったです。
――いわゆる主役志向もあったわけですか。歌も歌って。
渡辺:僕の場合は、そうでもなかった。
伊澤:自分もそうです。バンドに参加したり、自分の曲も作ってみたり。
渡辺:いろんなところに顔出して弾いたり、そういうのは好きだったけど。でもお互い、大学を離れてからだよね。自分の活動をちゃんと始めたのは。学校の時は、やることがしっかり定まってなかったから、いろんなところに顔を出して、ジャズ研に遊びに行ってたのもそうだったし。楽しい時代です。
難しい理論とかいろんな楽器の弾き方を知ってても面白い音楽を作れるわけじゃない。新しい音を作るには新しい耳を作らないと無理だなみたいな。(渡辺)
――音大時代の伊澤さんは、どんな未来を思い描いていましたか。
伊澤:未来なんか、考えたこともなかったです。シュンさんのほうは、自分のバンドをやってたんで、それで成功したいみたいな話は聞いてましたけど。
渡辺:そういう時期もあったね。ただそのバンドは、なくなっちゃって。
伊澤:その辺から、全然違う方向に行き始めた気がする。
渡辺:啓太郎は、もっと根源的な、“音楽とは”みたいなことを考えていたよね。未来とかじゃなくて。僕はライブハウスでバンドやったり、クラブでライブやったりしてたから、現実的にデビューしたいし、それにはどういうやり方がいいのか、そういうことも考えてたかもしれないけど、啓太郎はそこまで考えてなかった気がする。
伊澤:哲学っぽい方向に行っちゃって、“大学とか行ってる場合じゃない”みたいな。で、その後、シュンさんとはしばらく会わなくて。
渡辺:僕は、自分のバンドのcafelonをやりながら、セッションプレイヤーで、いろんなところでサポートをするようになって。そしたら、啓太郎が東京事変に入ったのを聞いて、フェスで久しぶりに会ったりするようになったのかな。
伊澤:その前も、ちょいちょいシュンさんのライブは観に行ってましたよ。シュンさんもシュンさんで、自分の活動で紆余曲折してる時期に、玉川上水の駅でばったり会ったことがあって。普通なら「ひさしぶり!」とかじゃないですかぁ? それが、苦悶の表情でとぼとぼ電車から降りて来て「啓太郎、俺、普通になっちゃったよ」って言うから、「いや、全然普通じゃないですよ」って。
渡辺:(笑)。
伊澤:あとで考えるに、その頃、いろんな仕事をやり出して、元のアーティスト性みたいなところを自分で抑えながら、たぶんやってたんだろうなと。
渡辺:なるほど。
伊澤:だけど、全然普通じゃなかった(笑)。それを聞いてまた、“シュンさん、かっけーっす”と思って。
渡辺:まぁでも、焦ってたかな。早くいろんなことを、(自分の音楽の)中にあるものを知ってほしいけど、術がわかんないし。逆に言うと、ワクワクもしていたと思うんですよね。でも“普通になっちゃった”というのは、たぶん落ち込んでたんだろうね。
――いつ頃のことですか?
伊澤:それは、俺が事変に入る全然前。
渡辺:毒が欲しいみたいなことは、ずっと思っていて。僕は元々、バンドから入ったんで、音大に入って勉強すればするほど、どんどん制限されていくというか。音楽の良さとか、いろんなジャンルを知ってくと、逆に自由さも失われていくような気もしたし、自分が作る音楽がつまんなく思えてきちゃって、それで“普通になっちゃった”と思ったんじゃないかな。もっと毒が欲しいけど、自分自身が面白い人間にならないと、そこはたぶん出てこないな、みたいなことを考えてて。
伊澤:へえー。
渡辺:難しい理論とか、いろんな楽器の弾き方を知ってても、それで面白い音楽を作れるわけじゃないから。自分自身の内面に目を向けないと。新しい音を作るには、新しい耳を作らないと無理だなみたいな、そういうことを思ってた気がする。
伊澤:20代ですよね。シュンさんが外の仕事、PUFFYさんとか色々やり出したのって、いくつぐらいの時ですか。
渡辺:25、26歳ぐらいかな。サポートで、なんとか家賃を払えるか払えないか、みたいな。
――悶々とした、悩みの時期を、どうやって抜けていったんですか。
渡辺:今も悩んでます(笑)。でもやっぱり、思ったことをやって、もがくしかないなって。そう思って、50になって、これを出そうと思ったんですけどね。もう、やっていくしかない。続くかどうか、わかんないんですけど。
ソングライティングの全体を俯瞰して、(鍵盤は)全部の中のこの位置だ、みたいなことを見つけるのが日本一だと思ってます。(伊澤)
――伊澤さんは、今回の『MUSIC』に入ってる曲には、昔から聴き馴染みがあるわけですね。
伊澤:もちろん、全部知ってます。ソロで対バンとか、させてもらってるんで。
――どれがいつ頃作った曲なのか、覚えてますか。
渡辺:「背番号」とか、けっこう昔かな。
伊澤:そうですね。「デラシネ」「背番号」「コーヒー」とか、10年前から知ってます。
――このアルバムの曲は、どんなふうに生まれていったんですか。
渡辺:そんなに曲を作れるほうじゃないし、歌だから、言葉があるじゃないですか。どっちかというと、そっちが大事というか、言葉になかなかならないけど、言いたいことがあって、それがうまく言葉になった時に、曲を作りたいと思うので。そういう感覚でできた曲たちですね。「夢の中のふたり」とか、サブタイトルで「(social distance)」って入ってるんですけど、コロナの時に、“不必要な外出は避けましょう”みたいなことで、なかなか会えなくなったカップルが多いんだろうなと想像して、遠距離恋愛の人は大変だなとか。そういう時にロマンチックな曲を聴きたくなるのかな、と思って作った曲です。
――それぞれに、きっかけになる出来事があると。
渡辺:「ミラーボール」も古い曲で、下北沢で、cafelonでライブをやってる時期ですね。みんな30歳前後になってくると、実家に帰って家を継ぐとか言って、バンドを続ける人と辞める人の分かれ目があって。頑張ってるのは知ってるから、「もっと頑張れよ」とは言えないし、でも続けてほしい気持ちもあるし、それは自分に対してもあるんですけど。という気持ちで作った曲が「ミラーボール」です。で、柴咲コウさんのツアーでサポートをやってた時に、合間で僕の弾き語りのライブツアーも入れさせてもらって、そこにコウちゃんとバンドメンバーが観に来てくれて。「ミラーボール」っていい曲だねって、「私のコンサートで歌ってよ」と言っていただき、武道館でコウちゃんと歌った曲です。それが今やっと世に出せて、よかったです。一曲一曲、歴史がありますね。
――ですよね。
渡辺:「背番号」は、野球選手が活躍してるのをテレビで見て、いいなーって言ってる曲なんですけど。「大谷さんのことを歌ってるんですか」って言われるんですけど、曲を作った時期的に、ゴジラ松井です(笑)。
――最後に《ゴーゴー》って歌ってますからね。55番だなと。
渡辺:「Swallow Song」は、この仕事をしていると旅が多いので、旅の歌みたいな気持ちです。
――伊澤さん、プレイヤーとは別に、ソングライター、ボーカリストとしてのシュンスケさんを、どんなふうに見ていたんですか。
伊澤:いや、もう大前提がシュンさんは神なんで、自分にとって。
渡辺:俯瞰して見れない(笑)。
伊澤:背景を含めて、丸々影響を受けて、丸々好きなので。シュンさんが読んでた本とかにも、すごい没頭してハマっちゃったし、そういう地続き的なものとして、言葉の端々も、メロディもそうですし、どの曲も好きだし、自分の思い出もあるし。自分は本当に不器用で、シュンさんも不器用なんだけど、音楽は器用で、しなやかっていうか、ウルトラCを決める人みたいなイメージがあって。曲を聴いていても、そういう部分をすごく感じます。あと、そうだ、自分はアニメが好きで、『化物語』がすごく好きで、それの一番メジャーなエンディング曲でシュンさんが弾いてて、それを聴いた時にまた惚れ直して。「結局、俺が好きなものは全部シュンさんがやってる」って、俺は間違ってなかったって思いました。
渡辺:supercellの曲(「君の知らない物語」)だよね。あれは好きっていう人が多い。
伊澤:あれは、シュンさんが弾いてないとバズってない。鍵盤の人の、というか、アーティストの解釈がないと、ああいうふうな曲の仕上がりにはできない。
渡辺:ありがたい。そうやって言ってもらえると。
伊澤:そういうのが、シュンさんは多すぎて、シュンさんが弾いてるから、その曲の良さとか、違う側面が見えてくる。ソングライティングの全体を俯瞰して、(鍵盤は)全部の中のこの位置だ、みたいなことを見つけるのが、日本一だと思ってます。
渡辺:マジすか。
伊澤:この世代で、というか、もちろん先輩方はいっぱいいるけど、そういう能力に関して、今のシーンの多くを、渡辺シュンスケという人間が作ってるんじゃないかなと、僕は思ってます。あんまり前に出ないじゃないですか、シュンさんって。めちゃくちゃ控えめだし、自分から言わないから。だから、アルバムもすごい遅れて出てるんですけど。
渡辺:俺はまだ本気出してないだけって(笑)。
今の世の中のスピードとは全然違うところにかつてあった、忘れちゃいけないような、人の心のあったかいところがすごい詰まっていると思います。(伊澤)
――たとえば、今回のソロと、Schroeder-Headzと、パッと聴いてジャンルは全然違うと思うんですけど、伊澤さんが聴くと“やっぱりシュンさんだな”と思うわけですか。どっちも。
伊澤:そうですね。全部が地続きというか。昔を知ってるから、ということもあるんですけど。Schroeder-Headzのほうが、今の世の中にちゃんとフィットさせるように、自分でブランディングして作ったのかな?みたいに、最初は思いましたけど、『NEWDAYS』(2010年)が出た時に。
渡辺:そういうこと、啓太郎も考えるの? ブランディングとか。
伊澤:いや、全然。1年前ぐらいにそんな言葉を知りました(笑)。
渡辺:今ちょっとびっくりした。ブランディングとか言うから(笑)。こんな、ワン・アンド・オンリーな音楽を作ってる人はいないから。僕は、さっきちょっと器用みたいなことを言われたけど、器用貧乏みたいなコンプレックスもあって。いろんなことをやるんだけど、“これしかない”みたいなものがない気がしていて、でもやっぱり、歌にするとわかりやすいなとか、楽器を制限するといいのかなとか。
伊澤:そうですね。歌ものに関しては、シュンさんの弾き語りが一番好きです。「夢の中のふたり」とか。しかも、歌、めちゃくちゃ上手くなってますよ。
渡辺:ほんと? 声がわりと高くて、子供っぽく聴こえるっていうか、自分でもわかんないところがあるんだけど。しゃべる声と歌う声が全然違うんだよね。
伊澤:年齢で、さらにいい感じで仕上がってると思います。
渡辺:ちょっと枯れてきたのかな。アーシーというか。でもやっぱり、ブラックミュージックは僕の中でルーツというか、90年代に上京してきたので、ヒップホップまでは行かないソウルとか、アシッドジャズとかが、すごい青春だったので。あとは渋谷系か。70年代のレイドバックも、わーっと来ていて、渋谷の(DJバー)インクスティックとか、西麻布のYELLOWでライブするのがステイタスで。だから自分でも、このアルバムを聴くと懐かしいところがいっぱいあって、そういう要素が結構入れてあるというか。Schroeder-Headzはそこを制限して、違うモードで音楽を作っていたりするんですけど、今回はもっと自由に、自分のルーツが色々入ってるかなとは思うので、そういうところも、同じ年代の人が聴けば“ああ、はいはい”みたいな、そうやって響いてくれたら嬉しいなって思います。
伊澤:マーヴィン・ゲイとか、ダニー・ハザウェイとか、シュンさんに教えてもらったような気がする。20歳の頃、シュンさんの家で。
渡辺:そっか。そうだよね。
――歌詞について、もう少し聞かせてください。ワードのチョイスとか、世界観のテーマとか、こだわりの部分はどこですか。
渡辺:あんまりそこまで意識はしていないんですけど、さっきも言ったように“歌にしたいこと”というのがポイントになるのかな。うまく言えないんですけど、たとえば「コーヒー」は、“ちょっと、ゆっくりコーヒー飲ませてよ”みたいな気分があって……誰かに言われたわけじゃないけど、なんか、急かされて生きていかなきゃいけないみたいな空気ってあるじゃないですか。でもそこで、のんびりコーヒー飲みながら、当時“スローライフ”っていう言葉が流行っていたのかもしれないけど、“もうちょっと自分の時間を大事にしたい”みたいな、そういう意味はあったりします。
――その、日常のつぶやき感のような、親しみやすい感覚は、全曲にあるような気がします。
渡辺:「背番号」は、背番号いいなって歌ってるんですけど、背番号って、要は、社会の歯車になるってことだから。いいなと言ってるけど、欲しいとは思っていないというところまで、込められてはいるんですよね。つけられたらもう俺は不自由だから。そういうことが、自分の中では色々あるんですけど、そこは聴いてくれた人が自由に想像してくれたらいいなと思いつつ。
――言われてみれば。マイナンバー導入の時も、国民総背番号制とか言われていて。
渡辺:そうそう。そこまで完全に伝えようと思ってはいないけど。あと「背番号」では、“暇で暇で、暇なんです”って歌いたかった(笑)。この時、そんなに暇じゃなかったんですけど。
――ああ、逆に、暇に憧れて歌っていた。
渡辺:そう。「暇だ暇だ」と言っていたい、みたいな。
――ある意味、とてもパーソナルな世界観ですよね。この歌がどんな人に届くだろうとか、考えますか。
渡辺:どんな気持ちになってほしいとか、そういうのはないですけど、“こう考えたら良くない?”とか、“こう考えたら楽しいよね”とか、そういう曲を作りたいのかな?って、出てきたものを聴いて自分で思いますね。“こういうことがあって寂しかった”とか、そういう曲も全然あっていいんだけど、僕は、元気が出る曲が好きだから、そういう言葉を探している気はします。日常の、ちょっとめんどくさいこととか、大変なことも、“こうやって考えたら楽しくない?”とか。そもそも歌ってそういうものかな?と、僕は思っていて。
――はい。なるほど。
渡辺:歌ってる内容は、たぶんそんなにたくさん見つけることって難しいだろうから。そういう、自分なりのものの見方だったりを、“そう言われたらそうだね”とか、“それ素敵だね”とか思ってもらいたくて 、歌を書いている気がします。
――伊澤さん。このアルバムに推薦文を寄せるとすると、なんて書きますか。
伊澤:個人的なこととして、あの頃の懐かしい空気感とか、それはもしかしたら、若い人とは共有できないかもしれないけど、当時あった心の揺れ方とか、 空気の感じ方とか、香りだとか、今の世の中のスピードとは全然違うところにかつてあった、忘れちゃいけないような、人の心のあったかいところ。それは、そこにとどまらずに、ずっとあり続けていることなんですけど、それがすごい詰まっている。言葉の端々とか、曲の中に。シュンさんは優しいから、それを、今の感じにちゃんと落とし込んでいるのは感じますね。歌い方とか。だから今の人も、入口から辿って、そこにたどり着ければいいなと思います。懐かしいというか、あったかい感じがすると思います。
「Schroeder-Headzとはどう違うんですか?」って聞かれるけど、渡辺シュンスケは広い意味で自分から出てくるものを自由にやれればいい。(渡辺)
――アルバムに参加したプレイヤーも、いい感じです。最高のプレー、してくれてます。
渡辺:レーベルオーナーのサカモトくんがやっているELEKIBASSと、あとは、本当に僕が大好きで、一緒にやってほしい人をお呼びしてます。ギターが石井マサユキさん、ベースが鹿島達也さん、ドラムが小松シゲルくん。間違いなかったですね。
――渡辺シュンスケとして、今後の作品はどんなふうに作っていきたいですか。
渡辺:いろんなことをやっているので、人に歌ってもらうアルバムでもいいし、全部インストでもいいし。「渡辺シュンスケとSchroeder-Headzはどう違うんですか?」って聞かれることが多いんですけど、渡辺シュンスケはもうちょっと自由でいいかなと。Schroeder-Headzは、ピアノのインストで表現することを自分の中で決めていて、渡辺シュンスケは広い意味で、自分から出てくるものを自由にやれればいいかなと。でも、歌ものはずっと出したかったので、それが今回は大きいですね。
――今後のリリースも、期待してます。
渡辺:この何年間で溜まった曲をやっと出したから、これがうまくいけば、次もぜひ出したいですね。昔のスタイルをずっと続ける気もないし、やっぱり若い子に聴いてほしい気持ちもあるし、“昔はこういうのが良かったんだよ”とかは、一回全部捨てて、“この人ヤバイね、かっこいいね”と思われたいなという、そういう気持ちは常に持っていたいなと思うので。
――素晴らしいです。
渡辺:最近思うこととして、自分が歳を取ったこともあるけど、若い子は若い子の世界があるかもしれないんですけど、音楽業界って、もっとキラキラして盛り上がっていたはずなんですよ。こっちは隅に追いやられているはずなのに、そのまんま底上げされて、上も下も先細りになって、みたいな。それがつまんないというか、もどかしい気持ちもあって。“もっとワクワクしてたじゃん、みんな”みたいな、そういうもどかしさを、どこかにぶつけたいですね。そういう気持ちを歌ったのが、「ミラーボール」という曲なんですけど。
――言われてみれば。《夢の続きを聞かせてくれよ》。
渡辺:今も、夢はありますから。
――お二人の、共演ライブも楽しみにしています。3月29日、東京・上野恩賜公園野外ステージ、WaikikiRecord主催の『ワイキキと雨のお花見コンサート』。
渡辺:レーベルオーナーのサカモトくんがやっているバンド、ELEKIBASSの主催で、僕と伊澤くんと、インナージャーニーが出ます。春の野外だし、すごく気持ちいいと思います。アルバムの曲もやりますし、伊澤くんとも何か一緒にやるかもしれない。鍾乳洞で吹いたピアニカを吹くかもしれない(笑)。これからちょっと相談したいと思います。
伊澤:シュンさんと、いつも何してましたっけ。
渡辺:何も決めないでやってたよ。それが面白かったりして。
伊澤:その、鍾乳洞でやった「ラブ・イズ・オール」という曲はやりたいです(笑)。名曲なんで。
取材・文=宮本英夫 撮影=森好弘
リリース情報
配信開始日:2025/02/12(水)https://lnk.to/LLNzEG
WAKRD-084 ¥3,000+税
<収録曲>
01. デラシネ
02. Swallow Song
03. 背番号
04. コーヒー
05. Baku-Note
06. 夢の中のふたり(social distance)
07. ミラーボール
ライブ情報
2025年3月29日(土)上野恩賜公園野外ステージ
出演:渡辺シュンスケ / ELEKIBASS / 伊澤一葉 / インナージャーニー
出店:Bar雨
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前売り:5,000yen 当日:5,600yen
※全席自由
U-25:¥2,400
※入場時に年齢のわかる身分証の提示をお願いいたします
未就学児童無料(ともに保護者同伴)
▼
e+:https://eplus.jp/sf/detail/4252550001-P0030001
・整理番号順入場
※屋根付き・雨天決行
※入退場自由(受付時にリストバンドの着用をお願いします)