Red Bull BC One World Final Kick Off Jam Tokyoレポート、世界最高峰ブレイキンバトルへの扉が開かれた

2025.3.19
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Red Bull Content Pool 撮影=Suguru Saito

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『Red Bull BC One World Final Kick Off Jam Tokyo』2025.03.08(sat) GARDEN新木場FACTORY

2024年開催のパリオリンピックでは競技として採用され、世界的に改めてそのアートフォームへの注目度と理解が高まった「ブレイキング(ブレイクダンス)」。中でも、エナジードリンク「レッドブル」を発売しているオーストリアのレッドブル社が主催する、1対1でのブレイキンバトル「Red Bull BC One」は、世界中の何千、何万というB-BOY/B-GIRLの中から、年間でそれぞれ16人しか決勝ステージには立つことが出来ないという、熾烈かつ世界最高峰といえる大会だ。

今年も新たなシーズンが開幕し、世界各国で予選大会が行われることになっているが、そのキックオフパーティとなる「Red Bull BC One World Final Kick Off Jam Tokyo」が、3月8日、土曜日に東京は新木場「GARDEN新木場FACTORY」にて開催された。

Red Bull Content Pool 撮影=Suguru Saito

寒波が入り込み、昼過ぎからはみぞれ混じりの冷たい雨が降った東京。しかし、この日の会場となった「GARDEN新木場FACTORY」には、オープンとなる11時から「4on4 Crew Battle」にエントリーするブレイカーと共に、このイベントを目撃しようとする多くの観客が詰めかけ、その熱気はオープニングから高まっていく。また、この日は入場無料ということもあり、小中学生と思しき若年層や、家族連れなど、様々な世代や属性の観客が集まり、このイベントの注目度を感じさせる。

2セットのDJブースが設えられたステージでは、DJ SPRAYとDJ SPELLがブレイカーに向けてのDJを展開。ヒップホップはもちろん、ラテンからソウル、ファンク、ロックまでが"ブレイク"され、ブレイキングのバックトラックとして会場に響きわたる。フロア中央に作られた「Red Bull BC One」のロゴがプリントされたダンスエリアでは、ブレイカーたちがビートに合わせてサイファー(自由参加のダンスの輪)で技を披露する。また、フロアの後方にもダンスサイファーの輪ができており、その周りでは技の練習やストレッチに余念がないブレイカー、談笑しコミュニケーションを深める人、会場外に設置されたレッドブルを中心にしたドリンクを提供するバーカウンターやフードカーで購入した食事を摂る人など、思い思いにこのイベントを楽しむ風景が見られた。

またフロアを囲むように天井近くにはWOOD、GOSPEL、MSY & DISE、Masanari Tsujiがライティングしたグラフィティも掲出。その意味でも、MC、DJ、ブレイキング、グラフィティという"ヒップホップの4大要素"が、しっかりとこの会場には息づいていた。

Red Bull Content Pool 撮影=Suguru Saito

MCのKENTARAWとCRUDEが登場し、会場の集中力をメインエリアに高めると、「4on4 Crew Battle」の予選がスタート。4人一組を基本にしたクルーが、フロアで鎬を削り、そのスキルやムーブをHaruhiko aka Watchm3n、LEE、Perninhaの三人のトップブレイカーがジャッジし、上位12組が選抜された。また、アクロバティックなビッグムーブで決めるもの、足技で魅せるもの、しなやかな表現力でアピールするものと、ダンスの方向性は人それぞれ。参加するB-BOY/B-GIRLの年齢層も幅広く、まさに多種多様であり、それぞれのオリジナリティを表現する様は、自由度の高さを追求するブレイキングの醍醐味だろう。同時に"バトル"であるがゆえに、相手をダンスで挑発したり、ジェスチャーで煽る行為も当然ながらあり、ヒートアップする場面も散見される。しかし、それでもバトルが終わったあとには互いに握手を交わし、ハグし、健闘を称え合う姿は、ブレイキング自体が礎とする、"暴力の代わりにダンスで勝敗を決める"という、バイオレンスを否定するヒップホップカルチャーの思想を体現していた。

そして予選を勝ち抜いた12組に、ゲストチームであるStudent All Stars、Team Nagoya、Team Oosaka、Team Fukuokaの4クルーが加わって行われるBest16がスタート。予選の持ち時間制から、メンバーがそれぞれ1ターンを受け持つターン制にシステムが変わり、よりそれぞれのスタイルが明確になっていく。そのままBeat8に続き、準決勝となるBest4ではStudent All StarsとTeam KYUSHU、FUKとWe Stillが激突し、Student All StarsとWe Stillが決勝へとコマを進めた。

Red Bull Content Pool 撮影=Suguru Saito

DJブースにはKnxwledge(ノレッジ)が登場。LootpackやJ Dilla、MF Doom、Madlib、Mayer Hawthorneなど、ヒップホップやR&Bを中心に、名だたるアーティストを輩出するLAのアンダーグラウンレーベルの雄「Stones Throw」に所属する彼は、ビートテープの発表や、Joey Bada$$やケンドリック・ラマーのプロデュースなどで名を馳せ、2025年のグラミー賞ではAnderson .Paakと結成したデュオ:NxWorriesとして「最優秀プログレッシブR&Bアルバム部門」を受賞。アンダーグラウンドに留まらない活躍でシーンの中心に躍り出ている。その彼のグラミー受賞後初となる来日ライブは、序盤はLA Voyageなどの80sディスコ/ブギーから、現行のアンダーグラウンドポップス、そしてCAT BOYSや日野皓正など邦楽アーティストまでを彼独特の美意識でチョイスしたDJスタイルでスタート。中盤以降は彼のメインアートフォームであるオリジナルのトラックメイクを中心としたビートライブへと展開し、その音楽性の幅広さをライブとして形作っていく。そのビートに乗せて、シンプルに身体を揺らす人、ダンスをする人、頭を振る人など、観客がそれぞれのムーブでKnxwledgeの音楽を楽しむ様が非常に興味深い。また、この日が誕生日だったKnxwledge。「My Birthday!」と観客に呼びかけると、オーディエンスからも大きな拍手が上がり、日本語で『ありがとうございます』と応える場面もあり、『ストリートファイター6』の大ファンであり楽曲も提供している彼の知日家ぶりが伺えた。

Red Bull Content Pool 撮影=Jason Halayko

続くセクションは「Red Bull BC One」の中核であり、ストロングポイントである「1on1」ダンスバトルのエキシビションである「1on1 Exhibition Battle」が行われた。パリオリンピックで金メダルを獲得し、「Red Bull BC One」にも大会史上初のB-girlとして出場を果たしたAYUMIも所属する「BODY CARNIVAL」クルーのメンバーであり、数々の世界大会でも活躍するHarutoが日本から登場。Red Bull BC One All Starsのメンバーであり、2021年に『Red Bull BC One E-Battle』での優勝など数々の世界大会で名を馳せるオランダのLEEと対戦し、MCのKENTARAWも「ブレイキングの最先端」と話す、二人が繰り広げる世界最高峰レベルのバトルには、観客が息を呑み、最後の握手には歓声が湧いた。

その熱気を引き継いで行われたのは「Red Bull BC One All Stars + Friends vs Young Gunz」の5 vs 5によるバトルパフォーマンス。Red Bull BC One All Stars + Friendsには、パリオリンピックでも大きな注目を集めたShigekix、「Red Bull BC One World Final」では2023年に準優勝を果たしたISSIN、20年近くに渡り日本のブレイキングシーンを牽引するTAISUKE、「Red Bull BC One」で二度の優勝を果たしている韓国のHong10、コロンビア出身で数々の世界タイトルを獲得しているAlvinの5人が登場。安定感と世界最高のスキルによるパフォーマンスで観客を魅了した。一方、Young GunzにはTSUKKI、RA1ON、Cocoa、FUMA、RYOGAと若手実力派が参戦し、そのフレッシュなムーブで新世代としての矜持をダンスにぶつけ、両者のダンスとムーブが決まるたびに歓声と拍手が起きる。

Red Bull Content Pool 撮影=Jason Halayko

バトルが終わるとShigekixに封筒が手渡され、「Red Bull BC One World Finalのワイルドカードの一人目は……僕です!」と決勝への出場が発表される。会場からの拍手とブレイカー同士からも祝福される中、「なにも言葉は出ません、ぶちかまします!」と短く意気込みを語ったShigekixに、更に大きな歓声が上がった。

「ダンスには他にも様々なジャンルがあります。今回はその中でも"ヒップホップ"をご紹介しましょう」というアナウンスから、MCはSUV、DJは「Clean Up」などのイベントを通して長年に渡り横浜のクラブシーンを牽引するDJ MINOYAMAにバトンタッチ。そしてここからは「Hip Hop Exhibition East vs West」が開幕。ブレイクビーツを中心にしたBPM120前後のビートに乗せ、フロアを使ったアクロバティックなムーブやフットワークを中心とする「ブレイキング」と、レイドバックしたいわゆるヒップホップビートに乗せ、立ち技や立って行うムーブと見せ場の一つにする「ヒップホップダンス」。どちらも"ヒップホップ"を基盤に置く、いわば兄弟的な存在であるが、ここからはその「ヒップホップダンス」を中心にしたパフォーマンスを見せるセクションが展開される。(もちろん、どちらのアートフォームも相互に作用し合い、スキルも共通する部分があるので、スタイル的な完全な峻別は難しい。詳しくは、レッドブルのサイト記事『ブレイキンとヒップホップダンスにまつわる5つの誤解』を参照されたし<※注1>)。

そして「East vs West」という企画名通り、Team EastにはYASS/TAKUYA/The Retro/LEO、Team WestにはYU-SEI/SORA/ASATO/JUNが登場し、東西に分かれてのバトルセッションを展開する。DJ MINOYAMAがプレイする、RED MAN& METHOD MAN「Lalala」、 Jaylib「Raw Shit  feat. Talib Kweli」といったクラシックから、2025年のグラミー賞にて「Alligator Bites Never Heal」で最優秀ラップアルバム賞を獲得したDoechiiの「DENIAL IS A RIVER」など、新旧のいわゆる"ブーンバップ"(90sのニューヨークヒップホップに代表されるようなビートアプローチ)に乗せて、それぞれの妙技を披露し、ブレイキングとは感触の異なるダンスパフォーマンスで観客を圧倒した。

Red Bull Content Pool 撮影=Jason Halayko

そして、この日のダンスセクションのラストを飾るのは「4on4 Crew Battle」の決勝戦。ダンスサークルを幾重にも囲む観客の前に登場したのは、Student All StarsとWe Still。各人が2ターンずつダンスするという、それぞれの見せ場も重要となった最終戦は、全国の学生ダンサーの精鋭が集まったStudent All Starsは、それぞれの高いスキルとタイトなムーブを披露。一方、We Still(TENPACHI、MIMZ、陸上、SOWA)はそれぞれのスキルはもちろん、クルーとしてのセッションダンスや、メンバーのダンスをチアーアップするようなアクションなど、B-BOYとB-GIRLによる"チーム"としての強さも形にした。また、自身のクルーだけではなく、相手側であっても素晴らしいダンスやムーブが披露されると、それに対して惜しみないリスペクトを拍手やゼスチャーでバトル中に送る姿は、清々しい気持ちにさせられる。この感動的なバトルに対して、ジャッジの選択はStudent All Starsに上げられ、大きな拍手に包まれる中、Student All Starsが喜びを分かち合った。

Red Bull Content Pool 撮影=Jason Halayko

このイベントのトリを飾ったのは、D.L.i.P. RecordsとDogear Recordsによるライブショーケース。神奈川藤沢 a.k.a MOSS VILLAGEをレペゼンするD.L.i.P. Recordsのショーは、DJ BUNTAがDJブースに登場し、「Red Bull BC One、調子どうだ!」と観客に呼びかけながら登場したDUSTY HUSKYが「ガッペレス」を披露し、ライブをスタートさせた。そしてDJ BUNTAの二枚使いとビートジャグリングの上で展開される、DUSTY HUSKYとのセッション性の高いパフォーマンスなど、DUSTY HUSKY流に消化したヒップホップイズムを体現するパフォーマンスは、やはり唯一無二と感じさせられる。そして同じくD.L.i.P.に所属するMiles Word & Sheef The 3rdによる2MC:BLAHRMYは、「Woowah」などの楽曲を音源よりも何十倍もラフでタフなスタイルで披露し観客を盛り上げる。そのままDUSTY HUSKY「THE DAY feat. BLAHRMY」などのコラボ曲や、D.L.i.P. recordsにも所属し、GRAYSOURCEやReady to Rockなどのクルーでも活動を展開するダンサー:YASSのパフォーマンスなどが展開。泥臭く、しかしクールで、そこにイズムを感じるという、ヒップホップでしか起こり得ない化学反応をステージ上で表現した。

Red Bull Content Pool 撮影=Suguru Saito

DUSTY HUSKYがステージを降りながら観客に呼びかけた「D.L.i.P.とDogearの組み合わせなんてやばいよな!」という言葉に導かれるようにDJブースに登場したのは、プロデューサー/トラックメイカーとして国内外で高い評価を集めるBUDAMUNK。そしてDogear Recordsのみならず、東京のアンダーグラウンドシーンを代表する存在であるISSUGIがマイクを握り、歓声を浴びながらステージに登場すると、「366247」をパフォーマンス。"誰でも輝ける/オレはそう思って今もやってるさ"という歌詞が、この日のイベントを象徴するような意味合いも感じさせる「XL」、スケーターカルチャーへのリスペクトを込めたMCなど、ストリートを体現するようなライブをリスナーに提示する。そしてソロはもちろん、SWANKY SWIPEやSCARSのメンバーとしても長年人気を誇るBESが登場し、BES&ISSUGIとしてBUDAMUNKプロデュースのクラシック「247」を披露。そしてステージにはBESが残り、「EL COCINERO」や「MIC BUSINESS」など、昨年リリースのアルバム「WILL OF STEEL」収録楽曲を中心にパフォームし、シーンを象徴する存在であることを見せつけるスキルと、新たな側面を見せるフレッシュさという、BESの現在地点をパフォーマンスとして表現した。

そしてDJブースにはDJ SPELLが再びセットし、ゆっくりとクロージングに向けたプレイを展開するが、名残惜しそうにフロアで踊る人の中には、小学校低学年と思しきキッズの姿もあり、ここから次世代のB-BOY/B-GIRL、ダンサーが生まれてくることを感じさせられ、胸が熱くなった。

セクションが変わるごとに掃除され、拭き清められるダンスサイファーエリア。しかし、ブレイクビーツが流れ、ブレイカーがその場でムーブすると、瞬く間に靴跡やパワームーブでの擦り跡で、ダンスエリアは汚れや傷だらけになっていく。しかし、そのフロアの傷跡こそが"勲章"であり、物語が繰り広げられた証となっていた。その物語はこれから行われていく世界予選、そして11月9日に両国国技館で行われる世界大会の決勝「Red Bull BC One World Final Tokyo」ではどのような結末を迎えるのか、いまから楽しみでならない。


取材・文=高木"JET"晋一郎

イベント情報

Red Bull BC One World Final Tokyo 2025
2025年11月9日(日)両国国技館(東京都墨田区横網1丁目3-28) 
開演 17:00~(開場 15:00~)
 
料 金:
<先行販売>
1F S席 6,750円、1F A席 5,400円、2F A席 4,050円、2F B席 2,700円
販売期間:2025年02月01日(火)12:00~2025年08月31日(日)23:59
※規定枚数に達し次第、販売終了。一般販売を開始します。
<一般販売>
1F S席 7,500円、1F A席 6,000円、2F A席 4,500円、2F B席 3,000円
販売期間:2025年09月01日(月)10:00~
購入:
https://eplus.jp/redbull-bcone/ (国内販売)
https://ib.eplus.jp/redbull-bcone (Overseas Sales)
 
主 催:
レッドブル・ジャパン株式会社
オフィシャルグローバルパートナー:
Reebok International Limited
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