7年ぶりに開催する『SOUL CAMP』にErykah Badu、The Pharcyde、knxwledge──J.Dillaとの関連作から3者の魅力に迫る
-
ポスト -
シェア - 送る
Erykah Badu
『SOUL CAMP』が7月4日に東京・SGCホール有明で開催される。同パーティの実施は実に7年ぶり。今回はネオソウルのレジェンド・Erykah Baduがバンドセットでライブを披露するほか、日本でも絶大な人気を誇るThe Pharcyde、そして2025年にAnderson .Paakとのユニット・NxWorriesのアルバム『Why Lawd?』でグラミー賞を受賞し、今年の4月には日本移住も発表したビートメイカー・knxwledgeという3組のビッグアーティストがサタデー・アフタヌーンをグッドバイブスで彩る。
『SOUL CAMP』は、2015〜2019年にかけて“真っ昼間から いいキモチ。”をキャッチコピーに、さまざまな形で開催されてきたソウル〜ヒップホップの大型パーティーだ。過去にはLauryn HillやRoy Ayersをはじめ、Common、Jungle Brothers、De La Soulといったジャズやソウル、ファンクの色を強く残したアーティストたちを招聘してきた。Erykah Baduは2017年にも出演している。
今回の3組に共通しているのは、J.Dilla/Jay Deeとのつながりだろう。ご存じの方も多いだろうが、J.Dillaはデトロイト出身のビートメイカー/ラッパーで、キャリア初期はJay Dee名義で作品を発表していた。彼の名を一躍世に広めたのが、今回出演するThe Pharcydeの代表曲「Runnin'」だ。小洒落たブラジリアンギターのイントロから始まるこの曲は、ヒップホップシーンと飛び越えさまざまなダンスフロアのアンセムとしてプレイされ続けている。
The Pharcydeは1990年代半ばからアメリカの西海岸で活動しはじめたヒップホップグループ。当時の西海岸といえば、N.W.A.を代表するギャングスタラップが全盛だったため、東海岸のDe La SoulやA Tribe Called Questに呼応するかのようなThe Pharcydeのスタンスは多くのファンに愛された。
件の「Runnin'」は2ndアルバム『Labcabincalifornia』(1995年)に収録された。この頃のJay DeeはA Tribe Called QuestのQ-TipとAli Shaheed MuhammadらによるプロデューサーチームThe Ummahに所属し、のちにSoulquariansというコレクティブを結成することになるD'AngeloやRaphael Saadiq、Commonらとも共同制作していった。またJay Deeはこの時期に自身のグループ・Slum Villageを結成した。
Jay Deeサウンドの大きな特徴は“ヨレた”ビートだ。当時はラップしやすいよう正確に均等なドラムを打ち込むものだった。そんな時代に、Jay Deeは正確ではないリズムをラッパーに提案した。彼のビートはほんの少しだけズレていた。だが他にない独特なグルーヴがあり、なによりソウルフルだった。彼のプロダクションは徐々に信奉者を増やしていった。
2000年代に入るとJay DeeはThe Rootsのドラマー・Questloveらとともに、The Roots『Things Fall Apart』(1999年)、Common『Like Water For Chocolate』(2000年)、D'Angelo『Voo Doo』(2000年)、そしてErykah Badu『Mama’s Gun』(2000年)といった傑作アルバムを次々と生み出していった。このコレクティブが先述のSoulquariansだ。これらの作品が革新的だったのは、ドラムのループやサンプリングというヒップホップ特有の質感を生演奏で表現したことだ。延々とセッションした音源をサンプリングしてビートを組み、それをバンドで演奏して、またサンプリングしてビートを組む……。バンドとビートメイクの境界線を融解させる作業スタイルだったという。Erykah Baduの『Mama’s Gun』は、D'Angelo『Voo Doo』と並んでヒップホップを聴いて育った世代が見つけ出した、ソウルとヒップホップの繊細で複雑で同時にダイナミックな融合の形であった。
The Pharcyde、Erykah BaduがJay Dee/J.Dillaとともに新しい表現を生み出してきた世代だとすると、knxwledgeは彼ら彼女らに影響を受け、さらに機材やインフラの進化とともに、より自由にヒップホップの可能性を追求し続けているプロデューサーであると言える。しかも彼が所属するレーベル〈Stones Throw〉は、Jay DeeとMadlibとのユニットJaylib『Champion Sound』、そしてJ.Dillaの遺作にして最高傑作の呼び声も高い『Donuts』を発表してきた。〈Stones Throw〉はヒップホップの無限の可能性を模索し続けるレーベルであり、knxwledgeはその旗手なのだ。彼はもともとEarl SweatshirtやJoey Bada$$との共作で高い評価を受けていた。だがその名をさらに広く知らしめたのは、Kendrick Lamar『To Pimp a Butterfly』に提供した「Momma」の浮遊感あるビートだ。ヒップホップというと、派手さや暴力的な側面に注目が集まることが多いが、knxwledgeはナードであり、J.Dillaのようにクリエイティブな可能性を追求するタイプだ。そんな彼が現代最高のラッパーと共演を果たし、しかもそのアルバムが第58回グラミー賞で最優秀ラップ・アルバム賞を受賞したことには大きな意味があるだろう。
今回の『SOUL CAMP』にははからずもJ.Dilla/Jay Deeにゆかりある3組が集まった。サブスクサービスが浸透したことにより、音楽はジャンルや時代というレッテルから解放され、リスナーは良い音楽を手軽に楽しめるようになった。フラットにアーカイブされている分、アーティストのヒストリーや作品のディテールといった知識が音楽をさらに深く楽しむためのスパイスになる。Erykah Badu、The Pharcyde、knxwledgeという偉人たちのライブを1日で見られる機会なんてそうそうない。ネオソウル〜ヒップホップの歴史に大きな足跡を残し続ける3者の邂逅をぜひとも現場で楽しんでもらいたい。
文=宮崎敬太
イベント情報
2026年7月4日(土)東京都 SGCホール有明
出演:Erykah Badu(Band set)、The Pharcyde、knxwledge