柚香光×鈴木拡樹、「10年を超えて強く想い合う」人間と鬼の夫婦で初共演ーー劇団☆新感線45周年にちなみ、2人が長く続けていることとは

インタビュー
舞台
2025.4.12
鈴木拡樹、柚香光

鈴木拡樹、柚香光

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さまざまな出自のキャストが揃い、旗揚げ45周年の記念イヤーを盛り上げる話題作、2025年劇団☆新感線45周年興行・初夏公演 いのうえ歌舞伎【譚】Retrospective『紅鬼物語』が、2025年5月13日(火)~6月1日(日)に大阪・SkyシアターMBS、6月24日(火)~7月17日(木)に東京・シアターHで上演される。劇団主宰・演出のいのうえひでのりの発案でスタートした、民話伝承を題材にしたお伽噺のようなファンタジーを、青木豪が書き下ろし。鬼が棲む平安の世、貴族の源蒼(みなもとのあお)が、10年前に失踪した妻の紅子(べにこ)と、娘の藤を取り戻すため従臣たちと旅に出る。鬼である紅子役を演じるのは、2024年5月に宝塚歌劇団を卒業した元花組トップスター・柚香光。妻子は生きていると信じて疑わない源蒼を演じるのは、7年ぶりの新感線出演となる鈴木拡樹。大阪で行われた合同取材会後、柚香と鈴木に稽古場でのエピソード、新感線への想い、「鬼」についての考察など、いろいろと語ってもらった。

鈴木拡樹、柚香光

鈴木拡樹、柚香光

■基本的に笑いが絶えない稽古場

――稽古の様子はいかがですか?

鈴木:まだ始まったばかりですが、前半に芝居の稽古、後半に歌や殺陣の稽古が入り、こんなに早い段階で動くんだ! と思いました。確かに歌や殺陣の稽古は時間を使うので、序盤にこそ、そういうシーンを作っていくのが大事だなと感じています。

柚香:私は稽古が始まる前に、みんなで準備運動をするのが新鮮です。屈伸から始まり、手首を回してと、シンプルなストレッチを、稽古に参加しているみんなで「1! 2! 3! 4!」。

柚香・鈴木:(声を合わせ)「5! 6! 7! 8!」

柚香:……と、言いながら体操をするんです(笑)。

――部活のようですね(笑)。

鈴木:はい。

柚香:体操中も朗らかな空気感で、他愛もない会話をしながら、みたいな。

――いのうえさんの演出が始まると、また違う空気感になるのでしょうか。

柚香:基本的に笑いが絶えないですよね。

鈴木:そうですね。ピリッとするというより、真剣であるというだけで。

柚香:集中。

鈴木:そう。怒号が飛び交うとかは全くないので。

――東京での製作発表で、鈴木さんはいのうえさんの演出を再び受けるにあたり、「千本ノックだけは勘弁してください」とおっしゃっていましたが。

鈴木:あぁ! あれは擦り合わせをするために、何度も繰り返すというのがあって。「ここの言い方が……」とか、感情を超えた“音”で表現してくださることも。音の抑揚まできちんと向き合ってくださいます。

柚香:スパルタというよりは、丁寧で親切という印象です。何度も教えてくださるという感じですね。

柚香光

柚香光

――おふたりは初共演ですが、お互いの印象について教えてください。

柚香:今、ふたりの場面が始まってきたところなので、これからいろいろなことを発見し、ふたりの場面も濃くなっていくのだろうなと思います。

鈴木:でも「楽しい方なのだな」というのは分かりました。殺陣のシーンの稽古で柚香さんがおっしゃった、「これまで守られたことがなくて、守るほうだった」という名言は忘れられないです(笑)。

柚香:本当にそうだったので(笑)。

――今回夫婦役ですが鬼と人間の夫婦で、人間同士とはまた違う関係性になりそうで興味深いです。

柚香:鬼みたいな人間もいれば、人間らしい鬼もいるので、紅子という役を掘り下げ、殿(=源蒼:鈴木)との関係、夫婦の間にあるものを探していきたいです。10年を超えて強く想い合い、彼女がいかに殿の存在に救われているのか。この方と一緒に生きる、そして娘が長生きしてくれることだけが、彼女の望み、願いのすべてなので。

鈴木:鬼にとってその選択はいかがなものか、というのがね……。

柚香:紅子にとってどれだけ残酷か、というのもありますよね。紅子が鬼になるところは、嫌われてもいいくらいの覚悟で鬼に徹したいです。それは紅子の心にも通じる部分ですし、紅子の苦しみがすごく表れるところでもあるので、しっかりと鬼を演じたいです。これまで私が男役をやってきたゆえに、表現できることがあるのかな、と思います。

鈴木:僕にとっては、それを目の当たりしたときに、どう感じられるかが勝負。曲がったところがないキャラクターだからこそ、それでも愛を超えていくのか――。心の動きをしっかり描きたいです。

――鈴木さん演じる源蒼は、「愛情深い役」と取材会でいのうえさんがおっしゃっていましたね。

鈴木:はい。そして信念が強い人だと思います。10年前に失踪した妻は生きていると、絶対的に信じている。そうやって信じ続けることで救われている部分もあっただろうけど、周りはそんなに10年も信じてくれるのか。周りの人との関係性が変わっていく辛さもあると思います。彼の中にも弱さがあるけど、「生きること」は紅子と一緒にいることだ、と考えているのだと思います。

■45年も続いてきた劇団☆新感線の魅力とは

鈴木拡樹

鈴木拡樹

――鈴木さんは2017年~2018年に『髑髏城の七人 Season月《下弦の月》』に出演されましたが、それから約7年の間で特に俳優として変化したところや、今回の舞台で活かせそうなところはありますか?

鈴木:いのうえさんの演出を受けたことで、抽象的にはなってしまうのですが、自分が持っていない引き出しが確実に増えました。あの「カカン!」という音にハマる魅せ方って、ほかの舞台にはないもので、すごい決まるな!と思います。あとは座組みのあり方が好きで、新感線の舞台に出てからは、劇団みたいな空気を作れないかなと、いつも目標にさせてもらっています。

――以前に劇団☆新感線を経験された鈴木さんから、何か柚香さんにアドバイスなどありますか?

鈴木:僕も出演は1回だけなのですが、やっぱり劇団員の方たちと話したり、聞いたりするのがいいと思います。なんだったら劇団を支えてこられた方々が、こちらから訊ねなくてもお話ししてくれます。僕もそうやって支えられました。

――今回、粟根まことさんなど劇団員の方も多く出演されていますね。柚香さんは退団後、初のお芝居となりますが、新たなカンパニーに入っていかがですか?

柚香:私は新感線さんに初参加ですが、垣根とか壁を感じていなくて、皆さんと作品を作れるのが本当に嬉しいですし、光栄です。稽古が終わった後も「今日の稽古はね……」とか話しかけてくださるので、大きなものがのしかかっている、とかは全くないです。

鈴木:そうですよね。家族的なものを感じます。

柚香光

柚香光

――旗揚げから45周年というのはすごいと思うのですが、これだけ続いてきた劇団☆新感線の魅力をどこに感じられますか?

柚香:やはり独特の、新感線ならではのムードと存在感がありますよね。そして演者の方々の、ガーッと飛び込んでくるような圧。かと思えば、押しつけがましくなくて、緊迫の後にゆるい時間が流れたりと、その緩急が特長なのでは、と思いますね。

鈴木:うんうん。そういうところを感じつつ、毎回「挑戦」も入れられて、作品によってカラーが分かれているところもおもしろいなと思います。

――いつも定番のロックから始まって……。

柚香:そうなんですよ、キターーー!!ってなりますよね(笑)。

鈴木:ね!!

柚香:初めて新感線さんの舞台を観たとき、あの始まり方が本当に衝撃でした。重低音をあんな大音量で聞くことすらも、それまでなかったので。

鈴木:確かにあれも完全に劇場体験だから味わえることですよね。

柚香:ドーンドーンとスピーカーから聞こえてくる音、そういう音楽の感じ方も初めてだったので衝撃でした。

――今回東京は特に小さめの劇場で、演出で客席を多用するといのうえさんがおっしゃっていました。

鈴木:客席も含めてその世界観になるのが舞台の良さ。(俳優が)近くを通ったときの呼吸や、通り過ぎるときの風も、楽しんでもらえたら嬉しいです。

柚香:殿、走っていますもんね!

鈴木:旅の仲間たちはよく走るので(笑)。

――紅子役の柚香さんは?

柚香:いのうえさんが「柚香が(皆様の)近くに」とおっしゃっていましたし、これからどんどんそういう演出がついていくのだろうなと思います。

鈴木拡樹

鈴木拡樹

――ところで、劇団が長く続いてきたのにちなんで、オンでもオフでも長く続けていることがあれば教えてください。

鈴木:僕はランニングです。トレーニングではなく、普通の趣味のランニング。

柚香:1日どのくらい走るのですか!?

鈴木:今は短くなりましたが、昔は平均で2時間くらいは走っていました。

柚香:(驚きながら)朝?夜?

鈴木:夜。シャワーをする前に走って、その後にシャワーを浴びて寝る、という感じです。

柚香:ヘー!!

鈴木:幼稚園のときにはもう走ってました。あ、その頃は夜じゃないですよ(笑)。午後のみんなが遊びに行く時間帯に、「ちょっと走りに行ってくる!」と。

柚香:そんな小さな頃から! 長距離派ですか?

鈴木:長距離は無駄に速かったです。なぜか、走るのが好きでした(笑)。

柚香:トレーニングではなく趣味って、本当に好きなんですね。

鈴木:そうですね。習慣がひとつあるのはいいことだなと思います。

柚香:私は全然走らないのですけど(笑)、湯船に毎日必ずつかります。それは本当に長く続いていますね。

――その中で、ご自身のこだわりやルーティンは?

柚香:入浴剤は必ず入れます。そんなに長い時間ではないけれど、シャワーだけですますことは本当に、ほんっとうに稀です!

鈴木:僕は「今日はいいや」と思って、結構シャワーですませちゃうときがあるな~。

■いにしえの鬼、今作の中の鬼

鈴木拡樹、柚香光

鈴木拡樹、柚香光

――『紅鬼物語』は鬼の存在が主題になってくるようですが、おふたりがもともと鬼に持たれていた印象と、この作品に関わる中で鬼について新たに感じることを伺えますか。

鈴木:僕は愛する相手が鬼なので、印象はかなり変わりそうです。やっぱり鬼は漠然と、怖い、恐れるもの、それを鬼としているのかなと。どうあがいても勝てない象徴が鬼だ、という考え方もしていたのですよね。役としては、紅子を救うために鬼に立ち向かうときもあれば、愛おしく感じる可能性もある。怖い象徴じゃなくなるかもしれないです。

――役作りの参考として、鬼に関する作品に触れることもありますか?

鈴木:有名なところでは酒呑童子とか、大嶽丸という多くの災害を起こした鬼などは有名ですよね。やっぱり平安時代に、妖怪ものや鬼系が多いです。

柚香:理解できないものとか、分からないものとか……。

鈴木:そういうものが鬼と言われていて、この舞台もいろいろな作品をなぞらえているのかなと感じます。

――柚香さんは鬼に対してどのような印象がありますか?

柚香:やはり鬼は、人間が分からないものだから怖いのだと思います。雷もなぜピカッと光るのか分からないから、神様が怒っているのだと言っていたようですし、そういう理解ができない現象を、祟りや鬼の仕業だということにしていたのかなと。今回の作品の鬼について考えると、人間の欲や弱さがやはり鬼を生み出すこともあると感じます。その鬼は世の中にも、自分の中にもあって、何が鬼なのかと、考えさせられます。

――鬼は人間がある意味生み出したと?

鈴木:そうですね。鬼は人かもしれない。

柚香:この作品では「人間とは?」ということをすごく考える場面もあります。いのうえさんがおっしゃっていたように、お伽噺って「めでたし、めでたし」で終わるのではなく、生々しさやグロテスクな部分もありますが、そういうところも描かれていますので、観客の皆様は想像力をすごく刺激されるのでは、と思います。人間とは、愛とは、家族とは、といろいろなものがギュッと詰まっていて、鬼に対しての考え方もすごくグルグルしちゃうと思います。

――いろいろな余韻が味わえそうですね。最後に改めてメッセージをお願いします。

鈴木:今回はお伽噺をベースにした物語をお届けしますが、ぜひ平安時代の空気感や、そこに生きる人々を感じながら、「鬼って何なんだろう」と考えてもらいつつ、観ていただくのがおもしろいと思います。

柚香:私は鬼の役をさせていただけるのが本当に嬉しくて。自分にしかできない鬼・紅子を作っていきたいです。鬼は人間の中にあるもので、イコール自分の中にもあるもので、と考え、実際にしっかり鬼になったところをご覧いただきたいです。皆様の前にどんな姿、お化粧、衣装で現れ、どんな芝居をするのか、楽しみにしていただきたいと思います。

鈴木拡樹、柚香光

鈴木拡樹、柚香光

取材・文=小野寺亜紀 撮影=ハヤシマコ

公演情報

2025年劇団☆新感線45周年興行・初夏公演 
いのうえ歌舞伎【譚】Retrospective『紅鬼物語』
(いのうえかぶき たん れとろすぺくてぃぶ あかおにものがたり)
 
作 青木 豪
演出 いのうえひでのり
 
出演 柚香 光/早乙女友貴 喜矢武 豊 一ノ瀬 颯 樋口日奈/粟根まこと 千葉哲也/鈴木拡樹
 
右近健一 河野まさと 村木よし子 インディ高橋
山本カナコ 礒野慎吾 吉田メタル 中谷さとみ 
村木 仁 川原正嗣 武田浩二
 
川島弘之 あきつ来野良 藤田修平 北川裕貴 
米花剛史 武市悠資 本田桜子 藤 晃菜
 
企画・製作 ヴィレッヂ 劇団☆新感線
 
【大阪公演】SkyシアターMBSオープニングシリーズ
日程 2025年5月13日(火)~6月1日(日)
会場 SkyシアターMBS
料金 15,800円/ヤング2,200円(全席指定・税込)
主催 ABCテレビ/サンライズプロモーション大阪
協力 ABCラジオ 
後援 FM802/FM COCOLO
 
【東京公演】
日程 2025年6月24日(火)~7月17日(木)
会場 シアターH
料金 15,000円/U-252,500円(全席指定・税込)
主催 ヴィレッヂ
制作協力 サンライズプロモーション東京
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