彩の国さいたま芸術劇場・埼玉会館 2025年度ラインナップを発表
彩の国さいたま芸術劇場・埼玉会館が2025年度のラインナップを発表した。
公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団では、2022年4月より彩の国さいたま芸術劇場芸術監督として振付家・ダンサーの近藤良平が就任。《クロッシング》をテーマに〈ジャンル・クロス〉〈人々がクロス〉〈地域とクロス〉しながら、あらゆる人々が自由闊達に交わりアートを創造・発見する開かれた劇場を目指している。
大規模改修工事による17カ月の休館を経て、彩の国さいたま芸術劇場は2024年3月にリニューアルオープンを迎え、また同年は劇場開館30周年という節目の年でもあった。2024年度は新たな幕開けに際して「カンパニー・グランデ」や新シリーズ「彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd」を始動、さらなる飛躍に向けてしっかりと足場を固めてきた。また埼玉会館は2026年に創立100周年を迎える。来る2025年度は、その先の歴史を刻むべく、2期目を迎えた近藤良平芸術監督とともに着実な前進を目指す。
近藤良平 メッセージ
(C)福山楡青
森の中を歩くように、新しい出会いを楽しんで
今年は大規模改修と開館30 周年を経て最初の年。次の歴史を刻んでいくために、着実な一歩を踏み出します。
昨年、120 名のメンバーが集って生まれた「カンパニー・グランデ」は新作を発表します。僕と松井周さんとの2 度目のタッグとなる「ジャンル・クロスⅢ」も構想が膨らんでいます。「彩の国シェイクスピア・シリーズ 2nd」では、劇場の新たな1ページを『マクベス』というスケールの大きな作品が飾ります。人気を博している演劇作品『めにみえない みみにしたい』は今夏、埼玉を皮切りに再び全国ツアーを敢行します。コンドルズは今年にふさわしく、題名は『BORN TO RUN』。アクラム・カーン『ジャングル・ブック』の世界ツアーは埼玉でファイナルを迎えます。さらにピナ・バウシュ最晩年の作品『Sweet Mambo』でヴッパタール舞踊団が8年ぶりに来日するなど、ダンスの埼玉は健在です。音楽では、アヴデーエワ、ジャルスキー等、世界の音楽シーンで話題の演奏家達が初登場。また昨年開始した「エトワール・シリーズ プラス」での務川慧悟さんと金川真弓さんの挑戦も目が離せません。そして今年2月のワーク・イン・プログレスを経て坂東祐大さんが挑む新作公演にも注目してほしいですね。
森の中を歩いて、さまざまな表現と出会う。そんなワクワクするような気持ちで、一つひとつの公演を楽しんでいただけたらと思っています。
近藤良平企画、前進!
カンパニー・グランデ 新作公演
近藤芸術監督が就任時から2年にわたって構想を温めてきた新しいシアターグループ「カンパニー・グランデ」が、2024年6月に始動した。グランデはスペイン語で「大きい」の意、カンパニーには「仲間」という意味。公募による応募者832人から近藤芸術監督自ら選考し、16歳から83歳の120人がメンバーに決定。若者から高齢者まで、また障がいのある人や地域に暮らす外国人も巻き込んで、年齢もバックグラウンドも異なる人々がプロフェッショナル・アマチュアの垣根を超えて集った。各ジャンルの第一線で活躍するアーティストである講師陣とともに年間を通じたスタジオワークを経て、今年3月にはワーク・イン・プログレス公演『花にまつわる考察』を上演した。2年目となる2025年度は引き続きワークを重ね、2026年2月に集大成となる新作公演を、当劇場大ホールを舞台に実施する。
埼玉回遊
改修休館中に「県内を隅々まで巡りたい!」という近藤良平芸術監督たっての強い希望で始まった「埼玉回遊」。埼玉県内のさまざまな文化と人々を訪ねて、クリエイティブな視点で新しい埼玉の民俗誌を編むという挑戦的な地域プログラムだ。初年度は25カ所を訪問。県内外から大きな反響があり、劇場再オープン後も継続を望む声に後押しされて、2年目の2024年度は貴重な伝統行事から最新の食文化まで、県内6カ所を巡った。2025年度も訪問先を再び他薦公募し、近藤芸術監督が訪問する。また、「埼玉回遊」で出会った文化や人々と県民とが交流できるイベントを、2025年度も開催予定。
ジャンル・クロスⅢ 近藤良平×松井周 新作
近藤芸術監督が就任とともに立ち上げた、異ジャンルの芸術がクロスすることによって生まれる新しい表現を探求する「ジャンル・クロス」シリーズ第3弾。就任の年に『導かれるように間違う』で初タッグを組んだ近藤良平と松井周による、待望の2度目の共作だ。今回も松井周の書き下ろし戯曲を近藤良平が演出。主演には前作に引き続き、俳優の成河が登場し、比類なきフィジカリティと表現力で、演出家・近藤良平が目指す演劇・ダンスの枠を超えた新たな舞台表現を体現する。
演劇
彩の国さいたま芸術劇場といえばシェイクスピア。蜷川幸雄前芸術監督、そしてバトンを受けた吉田鋼太郎シリーズ芸術監督が、25年をかけて全作上演を成し遂げたレガシーを未来へとつなげるべく、2024年度、新シリーズ「彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd(セカンド)」がスタートした。高い評価を受けた第1作の『ハムレット』に続き、今回もシェイクスピアの最高傑作のひとつ『マクベス』を、吉田鋼太郎演出でお届け。タイトルロールには藤原竜也、マクベス夫人に土屋太鳳をはじめ、魅力的なキャストが集結し、シェイクスピア作品が伝える普遍性と新たな魅力を届ける。
藤田貴大が手掛ける子どもと大人が一緒に楽しめる演劇作品『めにみえない みみにしたい』もこの夏、再び登場。幾度となく再演を重ね、これまで全国28年で84公演、述べ8000人以上を動員してきた大人気の本作。2025年度も、埼玉から全国9都市の子どもたち・大人たちへと届ける。
また、岩松了が若手戯曲家を指導する「岩松了劇作塾」も継続。
ダンス
(C)Karl-Heinz Krauskopf
彩の国さいたま芸術劇場のもう一つの顔、それが「ダンスの埼玉」。恒例のコンドルズ新作公演からはじまり、世界の最前線を走る話題のアーティストを招聘するのも、開館以来の特徴だ。今年はイギリスからアクラム・カーンの『ジャングル・ブック』が日本で世界ツアーファイナルを迎える。キプリングの名作を気候変動をテーマに再解釈し、地球の未来を担う子どもたちにもアピールする、ダンスとアニメーションが一体になった迫力ある舞台で伝える。さらに、舞踊と演劇の歴史を塗り替え独自のタンツテアターを確立し、数々の名作を遺した巨匠ピナ・バウシュのヴッパタール舞踊団が、8年ぶりに来日。最晩年の作品『Sweet Mambo』を、ピナと長年活動を共にした初演時のオリジナルメンバーが踊る。
2006年から続く子どもと大人のためのダンスシリーズは、近藤芸術監督の発案で、世界の童話や絵本などに題材を広げてリニューアル。2025年度から、新シリーズ「世界のおはなしのダンス」が始まる。旧シリーズ第1弾と同じく、近藤良平と伊藤千枝子という百戦錬磨の振付家による2本立て。
昨年スタートした次世代のアーティストを育成するプログラム「ダンス・リダイレクション」も継続。テクニックだけでなく、さまざまな角度からダンスを問い直し、ダンスの新しい方向性を見出すことを目指して、ダンスの未来を見据える。
音楽
(C)Yoshiyuki Nagatomo
アコースティックな音響が高く評価されている音楽ホールの性質を活かし、極上の音楽を楽しめるラインナップが出そろった。ピアノでは、2010年のショパン国際ピアノ・コンクール優勝で一躍注目を集めたユリアンナ・アヴデーエワが登場。今年はショスタコーヴィチ没後50年。その傑作《24の前奏曲とフーガ》を披露する。日本での全曲演奏は当劇場のみ。さらには、フランスの歌手で、華やかな美声と技巧で世界最注目のカウンターテナー、フィリップ・ジャルスキーと、ギター界の新星ティボー・ガルシアのデュオで珠玉の歌曲をおくる。気鋭のアーティストがリサイタルと室内楽に取り組む「エトワール・シリーズ プラス」には、務川慧悟(ピアノ)と金川真弓(ヴァイオリン)の2名が登場する。
そして劇場音楽プログラムの新機軸である坂東祐大の新作《キメラ》は、2025年度、2年間のリサーチと創作の集大成を迎える。現代音楽の作曲家として才能を発揮しながら、クラシックのみならず様々なジャンルを往来して活動を展開している坂東祐大。今年2月のワーク・イン・プログレスでは、日本の伝統音楽や西洋音楽の概念を捉え直し、もし歴史が異なる形で展開していたら——というユーモラスな仮説をもとに、和洋折衷の音楽作品の創作に挑んだ。ブラッシュアップした《キメラ》上演に注目だ。
その他
(C)大洞博靖
若手発掘・育成プログラム「彩芸ブロッサム」
2024年度からスタートした「彩芸ブロッサム」は、新進気鋭のアーティストや劇団・カンパニーと提携して、実験や発表を劇場がサポートする公募型提携プログラム。初年度は、振付家の女屋理音のワーク・イン・プログレス公演を支援した。2025年度は公募に対して演劇、ダンスなどの分野から19組が応募、そのなかから今後の活躍が期待されるアーティスト・団体を選出する(結果発表は2025年3月下旬)。若い才能が安心して試行錯誤のできる場を提供することで、アーティストの成長を後押しする。
オープンシアター「ダンスのある星に生まれて2025」
近藤芸術監督がプロデュースする毎年大人気のオープンシアターを今年も開催。劇場のあらゆる場所で、また最寄りの与野本町駅から劇場までの道のりも、劇場と地域とがダンスに溢れる2日間。「さいさい盆踊り」や「子どもディスコ」など、ダンスという表現を手がかりに、劇場を地域にひらくイベント盛りだくさんで届ける。
オープンスペースで気軽に芸術体験
リニューアルした劇場をもっと楽しく、もっと身近に!光の庭(劇場中央のガラス張りの広場)やガレリア(劇場を貫く長い廊下)といった劇場内のオープンスペースでも、「表現」のさまざまな楽しみ方を提案する。オルガンのミニコンサートやストリートピアノに加え、2024年度は新たな試みとして、蒸気機関車や海の波の「音」を展示する「サウンドスケープ」や、現代アートチーム目[mé]のアート展と目[mé]のコンセプトによるパフォーマンスを行った。
埼玉会館100周年
2026年、埼玉会館は創立100周年を迎える。渋沢栄一が尽力して建設された初代埼玉会館の開館から100年。記念の年の幕開けを「寿ぎ狂言『万作・萬斎の世界』」で祝う。
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