高畑充希が魅せる、等身大の女性像 ミュージカル『ウェイトレス』ゲネプロレポート

レポート
舞台
2025.4.11
ミュージカル『ウェイトレス』舞台写真

ミュージカル『ウェイトレス』舞台写真

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アメリカ映画『ウェイトレス~おいしい人生のつくりかた』(2007年)をベースに製作された、ブロードウェイミュージカル『ウェイトレス』。人間味豊かなキャラクターたちが妊娠・出産・離婚・自立・養育といった人生における岐路を織りなすミュージカル・コメディは、2016年3月にブロードウェイで上演が始まると瞬く間に記録的興行成績を上げ、全米ツアー公演、ロンドン・ウェストエンド公演も大盛況となった。

日本では2021年に初演を行い、今回は4年ぶりの再演となる。アメリカ南部の田舎町でとびきりのパイを売るダイナーのウェイトレス・ジェナを演じるのは、初演に引き続き高畑充希。さらに、森崎ウィン、ソニン、LiLiCo、水田航生、おばたのお兄さん/西村ヒロチョ(Wキャスト)、田中要次、山西惇といったキャストが集結した。

4月9日(水)の開幕を前に行われたゲネプロの様子をレポートしよう。
 

※ネタバレが気になる方はご注意ください。
 

物語はアメリカ南部の田舎町にある、とびきりのパイが評判のダイナーで始まる。辛い現実を忘れるようにアイデアを膨らませてオリジナルのパイを作るジェナ(高畑充希)、恋に憧れはあるものの奥手なオタクのドーン(ソニン)、病気の夫を看病しながら仕事に励むベッキー(LiLiCo)の3人が冒頭からパワフルに歌い踊り、物語に対するワクワクを高めてくれる。

(左から)ソニン、高畑充希、LiLiCo

(左から)ソニン、高畑充希、LiLiCo

それぞれの事情を抱えて悩みながらも笑顔で過ごす3人のパワーに、こちらもつられて笑顔になってしまった。女子会のように賑やかなおしゃべりを繰り広げる3人と対照的に無愛想な料理人のカル(田中要次)、気難しく見えるが面倒見の良い店のオーナー・ジョー(山西惇)、ドーンを運命の相手だと確信して熱烈なアプローチをするオギー(おばたのお兄さん/西村ヒロチョ)といった男性陣もいいアクセントとなっている。

(左から)おばたのお兄さん、ソニン

(左から)おばたのお兄さん、ソニン

西村ヒロチョ

西村ヒロチョ

ジェナの悩みの種である夫・アールを演じる水田航生は、アールを清々しいほどのダメ男として演じ、憎まれ役を引き受けている。ジェナと別れたくない、自分を一番愛してほしいという言葉は愛ゆえの束縛に思えなくもないが、言葉や態度の端々から、ジェナを自分の所有物として扱っているだけだということがわかってしまい、「アールの子供はほしくない」というジェナの言葉に説得力が生まれていた。

水田航生

水田航生

対照的に、産婦人科に赴任したポマター医師(森崎ウィン)はなんともチャーミング。ジェナの作るパイに大喜びし、どれだけ美味しいか言葉を尽くす子供のような可愛らしさがある一方、ジェナの言葉に耳を傾ける包容力も持ち合わせている。二人がパイの話で盛り上がり、距離を縮めていく様子が微笑ましい。お互いに既婚者だと知りながら一線を超えてしまう様子がブラックかつコミカルに描かれており、ついつい笑ってしまう。

(左から)森崎ウィン、高畑充希

(左から)森崎ウィン、高畑充希

さらに、ジョーの勧めでパイ作りのコンテストに出場することを決めたジェナは、優勝して賞金を獲得し、アールと別れようと決心して行動を始める。根深い問題を抱えるジェナだが、覚悟を決めたら前向きに突き進んでいく姿が逞しい。

また、歌詞や台詞に登場するジェナのオリジナルパイは美味しそうなものばかり。ひらめきとその時々の気分に合わせて生み出されるヘンテコな名前のパイにうっとりする人々の反応が彼女の腕前を想像させ、「ジェナが作ったパイを食べたい!」という気持ちが湧いてくる。

田中要次

田中要次

 山西惇

山西惇

ジェナだけではなくドーンやベッキーの人生にも、共感できるポイントがたくさん。DV被害や介護、不倫といった思いテーマを扱っているが、ポップな楽曲や個性的でイキイキしたキャラクターによって軽やかな印象に仕上がっている。姉御肌のベッキーがジェナにかける率直な言葉、ジェナの境遇を気遣うジョーの思いやりあふれる言葉など、胸に響くセリフも多い。

LiLiCo

LiLiCo

さらに、本物の小麦粉や牛乳などを使った演出、細やかに作り込まれている美術や衣裳、シーンに溶け込むように存在するバンドの生演奏も大きな見どころだ。決して派手ではないが、一生懸命生きる人々の姿からたくさんのメッセージをもらい、ジェナたちの日常に紛れ込んだような気持ちになれる作品を、ぜひ劇場で体感してほしい。

高畑充希

高畑充希

本作は2025年4月9日(水)〜30日(水)まで東京・日生劇場で上演。5月には愛知・Niterra 日本特殊陶業市民会館 フォレストホール、大阪・梅田芸術劇場 メインホール、福岡・博多座でも公演が行われる。

高畑充希 コメント

『WAITRESS』2025、
初日の幕がやっと上がりました!
やっとお客さんと出会えて、劇場中の熱気で、日生劇場が浮き上がりそうでした。
初演時はコロナ真っ只中だったので、稽古も海外のクリエイティブチームがリモートで行ってくれたり、稽古場もマスクが必須だったりと、通常の初演作品立ち上げより困難が多かったように感じます。
今回は普通に演出が受けられること、普通に共演者の顔を見ながらお芝居できること、普通にお客様の笑い声が聞けること。
全ての普通が本当に輝いて見えて、感謝の日々です。
この作品に改めて浸かってみて、メッセージ性の強さ、楽曲の素晴らしさ、キャラクターたちの愛らしさに再び感動しています。
最後までカンパニー一同、元気に走り切りたいです。
応援よろしくお願いします!

森崎ウィン コメント

ようやく、4年前に観ていた世界の中でポマター医師として生きられる時が来ました。
毎回毎回新しい発見と、刺激や課題をくれる海外演出チームとこうしてご一緒できた事は大きな財産になる事間違いありません。
上演中にもっと自分のものに出来るよう日々精進していきたいと思います。
どうかウェイトレスの世界を堪能しに来てください!劇場でお待ちしております!
改めて、全世界の母たち、ありがとう。

ソニン コメント

9年前にブロードウェイで観劇して以降、必ず日本で上演すべきだと強く思っていた作品に、今回一員になる事ができて感無量です。
再演で演出家が変わり、ドーンというキャラマスコットではなく、実際に生きる女性として、自身と重なる部分を引き出して、稽古していただきました。何度か観劇した印象で脳裏にある私のイメージと戦い苦戦しましたが、現代の人々に共感してもらえるポイントを大切に丁寧に造形作業をしました。
「不安症で、潔癖症で、形ないものへの恐怖心や恋愛においても確実な理想ばかりを求める。溜めてたものが自由に解放された時の人の生き生きとする所や、好きな事には拘りを持って熱を注ぐ所。」普遍的なシーン達の中で、全ての台詞の言い方や仕草や動きに、ドーンの性格や個性や変化に共感し楽んでいただけたら、幸いです。
ぜひ、現代を生きる女性の機微を、可愛いらしいパイの世界と、おしゃれな音楽と、リアリティある生々しい肌感で描く『ウェイトレス』を感じにいらしてください。

LiLiCo コメント

初演のとき50歳でのミュージカルデビューでした。最初にベッキーに出会ったのは最高にラッキーな運命!私はベッキーが大好きで、4年ぶりに再会して、今回作品を作り上げるなかでのお稽古中により深く彼女を理解し、劇中では描かれていないけど彼女が背負う苦悩も感じ取っていただければ嬉しい。ベッキーは全然完璧な人間ではないけど友人としてはとても素敵な存在だと思います。みんなも彼女に寄り添うことが出来る様に頑張ります。正直、ベッキーがLiLiCoにどんどん入り込んで最近では充希ちゃんとソニンちゃんが近くにいて、目が合うだけで心の中に暖かいものが芽生えます。ふたりともミュージカル界の大先輩だけど、守ってあげないといけないという母性本能が毎日メラメラと燃えている。スタッフ・キャストみんなで力を合わせて作品をよりわかりやすく、ディープに、そして登場人物や素晴らしい楽曲もみんなの応援歌になるはず。
さぁ、このどろどろだけど清々しいパイを召し上がれ!
 

取材・文=吉田沙奈

公演情報

ミュージカル『ウェイトレス』

■脚本:ジェシー・ネルソン ■音楽・歌詞:サラ・バレリス
■原作映画製作:エイドリアン・シェリー
■オリジナルブロードウェイ振付:ロリン・ラッターロ
■オリジナルブロードウェイ演出:ダイアン・パウルス
 
■出演:
高畑充希 森崎ウィン ソニン LiLiCo
水田航生 おばたのお兄さん/西村ヒロチョ 田中要次 山西惇
岩崎巧馬 茶谷健太 堤梨菜 寺町有美子 照井裕隆 中嶋紗希 永石千尋
中野太一(スウィング) 中原彩月(スウィング)

■製作・主催:東宝/フジテレビジョン/キョードー東京
■共同制作:バリー&フラン・ワイズラー
 
■日程・会場:
2025年4月9日(水)〜4月30日(水) 東京・日生劇場
2025年5月5日(月)〜5月8日(木) 愛知・Niterra 日本特殊陶業市民会館フォレストホール

2025年5月15日(木)〜18日(日)大阪・梅田芸術劇場メインホール
2025年5月22日(木)〜5月29日(木)福岡・博多座

■作品公式 WEB サイト https://www.tohostage.com/waitress/
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