北山宏光、6年ぶりの主演舞台で黒澤明作品に挑む 『醉いどれ天使』の上演が決定
『醉いどれ天使』ティザービジュアル
2025年11月~12月、東京・明治座、その後、名古屋・御園座、大阪・新歌舞伎座にて『醉いどれ天使』が上演されることが決定した。
日本をはじめ世界中に大きな影響を与えた名匠・黒澤明と、その多くの作品で主演を務めた三船敏郎。後に次々と傑作を生み出すことになる二人が初めてタッグを組んだ映画が『醉いどれ天使』。戦後の混沌とした時代に生きる人々の葛藤をいきいきと描いた映画『醉いどれ天使』は、黒澤明監督による力強く斬新な世界観と三船敏郎の荒々しくも繊細な演技が絶賛され、名作のひとつとして世界中で愛されている。
(左から)三船敏郎、志村喬、黒澤明 提供:三船プロダクション
映画史に燦然と輝く本作だが、映画が公開された1948年4月から約半年後、ほぼ同じキャストとスタッフが集結し、舞台作品として上演されたという記録が残っている。当時の映画界では、大規模な労働運動が起こり、多くのスタッフや俳優達が窮状に陥っていた。彼らを救うために黒澤明を中心に劇団が編成され、全国巡業が催されたと言われている。この時、上演作品に選ばれたのが『醉いどれ天使』だったそう。その後、当時の舞台台本は長い間眠っていたが、近年偶然にも発見され、黒澤明が抱いた舞台への熱い想いが息を吹き返した。この黒澤明の想いを継承し、満を持して2021年に舞台化。大盛況のうちに幕を閉じた。
左:黒澤明 右:三船敏郎 提供:三船プロダクション
そしてこの度、新たなスタッフ・キャストにより、25年舞台版『醉いどれ天使』の上演が決定した。今も傑作として語られる映画版、そして48年、21年の舞台版。それぞれの作品が持つ魅力を引き継ぎながらも、新たな視点で紡ぐ『醉いどれ天使』の世界。映画でも印象的なダンスシーンをはじめ、ライブならではのフィジカルでエネルギッシュな表現も満載。戦後の人々が命を燃やすように生きる姿を濃密に描き出す。
脚本は、前回に続き蓬莱竜太が務める。演劇界のみならず映画脚本、映像作品でも好評を得ており、骨太な物語を生み出し人間を深く描き出すその力で、黒澤作品をさらに跳躍させていく。演出は、映画にとどまらず演劇、オペラ、テレビドラマ、コンサートなど、ジャンルを越えて活躍の場を広げている深作健太。現代社会が抱える問題を組み込み問いかける演出に定評のある深作が戦後の時代をいかに描くのか。
そして、三船が演じた闇市を支配する若いやくざ・松永に挑むのは6年ぶりの主演舞台となる北山宏光。巧みな表情管理で繊細な演技を魅せる北山が、内に秘める男臭くまっすぐな情緒を松永に反映させる。
公開された扮装ビジュアルでは、もがき葛藤しながらも生きる松永の姿を彷彿とさせ、期待が高まるものとなっている。なお、松永と対峙する酒好きで毒舌な貧乏医師・真田など、注目のキャストは後日発表となる。
当たり前のように存在していたすべてが失われた、敗戦後の東京。
戦争で帰る場所を失った人々は、荒れ果てた都市に流れ着き、闇市でその日その日を生き延びていた。
ある夜、銃創の手当てを受けに、闇市の顔役・松永が真田の診療所を訪れる。
真田は闇市の界隈に住む人々を診る町医者で、酒に溺れ口は悪いが、心根は優しく一流の腕の持ち主。
顔色が悪く咳込む松永を、診療所に住み込みで働く美代も心配する。
一目見て肺病に侵されていると判断した真田は治療を勧めるが、松永は言うことを聞かずに診療所を飛び出し、闇市の様子を見回るのだった。
居酒屋で働く同郷の幼馴染のぎんは、そんな松永を心配しつつも、密かに想いを寄せるようになっていた。
しかし、着々と病魔が松永を蝕み、ダンサーの奈々江は彼から離れていく。
戦後の混乱の中、松永の采配によって落ち着きを保っていた闇市だったが、松永の兄貴分の岡田が出所し、闇の世界の力関係に変化が起きていくのであった…。
黒澤プロダクション コメント
このたび、映画『醉いどれ天使』が再び舞台として甦ることを、心より嬉しく思っております。
本作は、戦後の混沌とした時代において、黒澤明が人間の強さと弱さ、そして希望を描いた記念すべき作品であり、俳優・三船敏郎との最初の邂逅でもあります。
舞台という新たな表現の場において、現代の感性と技術をもってこの物語がどう描かれるのか、大きな期待を寄せております。
黒澤が遺したメッセージが、今を生きる人々の心に届くことを願っております。
演出 深作健太 コメント
黒澤明監督の名作〈映画〉を〈演劇〉として再構築する。
重責に押し潰されそうな仕事をあえてお引き受けした最大の理由は、蓬莱竜太さんによる素晴らしい脚本でした。
〈新しい戦前〉ともいわれる現代。戦後80年の節目となる年に、焼跡の瓦礫を振り返る事は、とても意味のある事だと思えるのです。まるで野良犬のように、ひと握りの希望を求めて〈闇市〉をうろついた人間たち。その根底にある〈滅びの美学〉は、映画『仁義なき戦い』の中でも描かれた父・深作欣二の青春時代ともつながっています。
モノクロの舞台セットの中で、才能あふれる北山宏光さんと御一緒に、まったく新しい極彩色の松永像を創り出す事ができたら。そして深作組の盟友・西川裕一さんが舞台上で奏でる、生きた音風景にも御期待ください。
北山宏光 コメント
時代を超えてこの令和に素晴らしい歴史ある作品に携われる事をとても光栄に思います。ストレート舞台は約6年ぶりになりますが、緊張と責任、喜びと期待で身の引き締まる想いです。混沌の時代を生き抜いた松永と、それを取り巻く人々の命のエネルギーをステージで演じ届けられる事にとても感謝しています。
観た後の帰り道で思わず感動のため息が出てしまう、そんな作品をキャスト一丸となって作り上げていきたいと思います。ぜひ会場に足を運んでください。