地味なんて言わせない! 奈良博が「超真面目に」選んだ、超美しい国宝が集う特別展『超 国宝―祈りのかがやき―』開幕

2025.5.2
レポート
アート

画像を全て表示(20件)

特別展『超 国宝―祈りのかがやき―』 2025.4.19(SAT)~6.15(SUN) 奈良国立博物館 東・西新館

4月19日(土)から、奈良国立博物館(以下、奈良博)で開館130年を記念した特別展『超 国宝―祈りのかがやき―』がスタートした。展示物の中には、飛鳥時代の仏教彫刻を代表する国宝「菩薩半跏像(伝如意輪観音)」などのほか、東大寺南大門の「阿吽像」を彫った仏師・運慶の現存する最も早い作例の国宝「大日如来坐像」、剣の国宝「七支刀」など、国宝112件、重要文化財16件を含む143件の仏教・神道美術が大集結した。

国宝を生み出した先人たちの想いを超えて、文化の灯(ともしび)を次の時代につなぐための、奈良博の「本気」が見える展覧会だ。「そもそも仏教とか神道美術ってよくわからない。地味でつまらなくない?」という声があることも理解している。今回は本展の内容を紹介しつつ、おもしろいなと思う造形の文化財をピックアップしてみた。少しでも興味を持ってもらえたら嬉しく思う。

飛び抜けて優れた作品が大集合、文化のともしびを次世代に繋ぎたい

日本で2番目に古い国立博物館として1895年に開館した同館は、仏教・神道美術の専門館として130年間活動してきた。毎年数十万人の来場者を集める『正倉院展』も有名だが、今回ほど大規模な国宝展が行われるのは初めて。開幕に際し行われたプレスプレビューで、奈良国立博物館の井上洋一館長は『超 国宝』というタイトルについて「奈良博、ちょっとふざけすぎてるんじゃないのという声も届いております。しかし、私たちは超真面目でございます!」と目を輝かせた。今回展示された国宝は「(奈良博の)研究員が選びに選んだ国宝中の国宝。要するに飛び抜けて優れた作品である」と自信をのぞかせ、「先人たちから時代を超えて伝えられた祈りや文化を大切に継承していく人々の心こそ、かけがえのない国の宝です」とメッセージを伝えた。

奈良国立博物館 学芸部企画課の岩井共二教育室長は「奈良博の発展史や過去の展覧会を視野に入れ、仏教・神道美術に特化した作品を選びました」と語る。「国宝や重要文化財指定品のほとんどが仏教・神道美術に関係したものである」という事実から、「日本文化の基盤をなすものと言ってよい。その意味で、仏教・神道美術の国宝を展示することこそが本道の『国宝展』であると自負して本展を企画いたしました」と笑顔。国宝以外の重要作品もセレクトしている理由については、「時代を超えて未来に伝えるべき文化遺産で、奈良と奈良博の歴史上で特に意義深いものだから」と話してくれた。

6世紀半ばに日本に伝来し、推古天皇が四天王寺や法隆寺などを建立したことを機に市井の人々にも信仰が広がった仏教と、日本古来の「八百万の神々」を信仰する神道。日本文化が時代ごとに発展したのも、確かに仏教・神道美術があったからだ。

本展を見るにあたり、仏教・神道美術について詳しくないという方もご安心を。俳優の岡田准一が担当している音声ガイドを聞きながら進むとより理解が深まるだろう。また、奈良博の所蔵品をモチーフに誕生した動物キャラ「ざんまいず」が、文化財や展示についてパネルでわかりやすくナビゲートしてくれる。

スラリとした菩薩像の美しさにうっとり

第1章「南都の大寺」と第2章「奈良博誕生」は、奈良国立博物館が誕生した歴史に関わる文化財が展示されている。

国宝「天寿国繡帳」(原本部分 飛鳥時代 推古天皇30年(622)頃 模本部分 鎌倉時代 建治元年(1275)、奈良・中宮寺) 展示期間:4月19日〜5月15日

「天寿国繡帳」は、日本で最も古い刺繍の作品。聖徳太子の冥福を祈って、聖徳太子が天寿国で過ごしている様子を刺繍したもの。中宮寺の本堂に安置されているものは複製なので、実物を見られる『超 国宝』はかなり貴重だ。

国宝「興福寺金堂鎮壇具」(奈良時代(8世紀)、東京国立博物館)

「興福寺金堂鎮壇具」は、興福寺中金堂を建立する時に、建物の永続を願って地下に埋納されたものたち。ガラス玉や水晶、金塊の美しさに目を奪われること間違いなし。状態の良さにも驚くだろう。

奈良博誕生の歴史をダイレクトに感じられる展示物のひとつは「奈良博覧会立札」だ。木の札に「於 大仏殿 博覧会 来ル三月一日ヨリ 五月二十八日マテ」と書かれている。シンプルに歴史ロマンを感じざるを得ない。その手前にある2体が一対になった国宝「天燈鬼・龍燈鬼立像」も要注目の文化財。運慶の三男である法橋康弁が作ったとされている。鬼がユニークな表情で燈篭を支えている様子をじっくり観察したい。

「八雷神面」(室町〜江戸時代(16〜17世紀)、奈良・元興寺)

観て楽しいのは「八雷神面」。元興寺に伝わる鬼伝説の中で、鬼退治をした道場法師を神格化して「八雷神(やおいかづちのかみ)」と呼び、奇怪な面を今世に伝えている。

国宝「伎楽面 呉公」(飛鳥時代(7世紀)、東京国立博物館(法隆寺献納宝物))

今年3月に新しく国宝に指定された「伎楽面 呉公」も早速観ることができる。明治時代に奈良・法隆寺から皇室に献納された木造の伎楽面。呉公とは「呉の国の貴公子」という意味で、キリッとした眉とキュッと上がった口角から貴公子の気配が感じられるのではないだろうか。

国宝「観音菩薩立像(百済観音)」(飛鳥時代(7世紀)、奈良・法隆寺)

そして、その雰囲気に圧倒されたのは、同展チラシのキービジュアルにも使われている「観音菩薩立像(百済観音)」(飛鳥時代7世紀、奈良・法隆寺)。明治から昭和初期にかけて奈良博に長く展示されていた重要な一体で、細い長身と曲線美、天にものぼる炎のような光背はとても美しく、思わず見入ってしまうこと間違いなし。

すみっコぐらしコラボのモチーフ探しも醍醐味

第3章「釈迦を慕う」から第6章「写経の美と名僧の墨蹟」までの4章は、奈良博が過去に手がけてきた展覧会や研究テーマをもとに展示している。

国宝「刺繡釈迦如来説法図」(中国・唐または飛鳥時代(7世紀)、奈良国立博物館) 展示期間:4月19日〜5月18日

「刺繡釈迦如来説法図」は、お釈迦様が仏教の教えを説いているところを刺繍で表したもの。この中に描かれた人物から、展覧会公式応援キャラクター「すみっコぐらし」の「えびふらいのしっぽ」と「おばけ」がコラボしているので探してみるのも楽しい。

国宝「金亀舎利塔」(鎌倉時代(13世紀)、奈良・唐招提寺)

お釈迦様の骨を入れる「金亀舎利塔」はきらびやかで豪華絢爛。細かすぎる細工と金のまばゆさに舌を巻いた。

国宝「大日如来坐像」(平安時代 安元2年(1176)、奈良・円成寺)

平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて活動した有名仏師・運慶の現存する仏像の中で、最も早い時期、20代の頃に作られたとされるのが「大日如来坐像」(平安時代 安元2年、奈良・円成寺)。若き運慶のあふれ出る才能がよく感じられる。

思わず感嘆の声が溢れること間違いなし

国宝「吉祥天像」(奈良時代(8世紀)、奈良・春日大社) 展示期間:4月19日〜5月6日

第5章「神々の至宝」は、「おっ」と感じる展示物が多い。「吉祥天像」は教科書でもお馴染みの、あの天女像。実物は漆塗りの額の中に飾られている。

国宝「金地螺鈿毛抜形太刀」(平安時代(12世紀)、奈良・春日大社) 展示期間:4月19日〜5月18日

「金地螺鈿毛抜形太刀」は、猫好きさんにおすすめ。両面の「つか」の部分に、竹林でスズメを狙う猫の様子が描かれているので、両側からじっくり見てみてほしい。

国宝「七支刀」(古墳時代(4世紀)、奈良・石上神宮)

奈良県天理市にある日本最古の神社のひとつ、石上神宮に伝わる「七支刀」(古墳時代4世紀、奈良・石上神宮)のインパクトもすさまじい。鉄製で特異な形の剣は、歴史の史実を伝え読み解く原品として、とにかく貴重な宝物である。

国宝「金光明最勝王経(国分寺経)」(奈良時代(8世紀)、奈良国立博物館)

頭上から解説が垂れ下がる空間展示も魅力の第6章で光を放つ「金光明最勝王経(国分寺経)」は「こんこうみょうさいしょうおうきょう」と読む。仏教の経典の代表作で、このお経を敬いながら声を出して読めば、国が護られると重要視された。そんな経典が金の文字で書かれた本文化財は、今もなお燦然とかがやいている。

国宝「金光明最勝王経金字宝塔曼荼羅 第六幀」(平安時代(12世紀)、岩手・中尊寺大長寿院) 展示期間:4月19日〜5月18日

「金光明最勝王経金字塔曼荼羅 第六幀」は紺色に染めた紙に金色の塔と、上述の「金光明最勝王経」の内容を表す絵が周りに描かれたもの。であるがしかし、塔の部分をよーく見てほしい。柱や屋根に見えるのは全て文字だ。あまりの細かさに声が出そうになるかもしれない。

奈良博からのメッセージ「未来への祈り」

同展のサブタイトル「祈りのかがやき」には、仏教美術や神道美術という人々の祈りが生み出した造形が、かがやきのように過去から未来へ継承されていくことと、文化財の検証と継承の一端を担ってきた奈良博の130年の軌跡を重ね合わせている。その想いを一身に受けた最後の章「未来への祈り」は、戦争や災害で混迷を深める世の中でも、平和への祈りとともに文化のともしびを次の時代へ継承していきたいという、奈良博からのメッセージが込められた展示となっている。

国宝「菩薩半跏像」(平安時代(8世紀))、京都・宝菩提院願徳寺)

白い部屋の中央に展示され、観る者を荘厳な世界に導いていたのは「菩薩半跏像」(平安時代8世紀、京都・宝菩提院願徳寺)。そこにあるだけで背筋が伸びると同時に想いを寄せてしまう凛とした佇まいは、唯一無二と言えるのではないだろうか。

会場特設ショップでは、展覧会公式応援キャラクター「すみっコぐらし」のコラボデザイングッズも販売。トートバッグやステーショナリーなどふだん使いできるアイテムから、アクリルスタンドやてのりぬいぐるみ(てのりぬいぐるみは5月20日から販売)といったコレクションしたくなるアイテムまでがずらり。

さらに来場アンケートに答えると「『超 国宝』展オリジナル 仏像アクリルスタンド4種セット」を抽選でプレゼントするという企画も実施されている。

仏教・神道美術に詳しい人にとっては「この展覧会を見ずして、仏教美術・神道美術は語ることなかれ」と館長が豪語するほどに貴重な本展だが、もちろん仏教・神道美術を全く知らないという人も、シンプルに造形美や細工の素晴らしさを新鮮な気持ちで楽しめる内容になっているので、新緑の奈良への行楽とあわせてぜひ足を運んでみてほしい。

前期展示は4月19日(土)〜5月18日(日)、後期展示は5月20日(火)〜6月15日(日)。教科書にも載っているレベルの「超 国宝」をぜひ間近で見てみよう!

取材・文=久保田瑛理 撮影=川井美波(SPICE編集部)

イベント情報

奈良国立博物館開館130年記念特別展『超 国宝―祈りのかがやき―』
■会期:2025年4月19日(土)~6月15日(日)
■会場:奈良国立博物館 東・西新館
■開館時間:午前9時30分~午後5時 ※入館は閉館の30分前まで
■休館日:毎週月曜日、5月7日(水)
※ただし、4月28日(月)、5月5日(月・祝)は開館
:一般 2,200円、高大生 1,500円
■主催:奈良国立博物館、朝日新聞社、NHK奈良放送局、NHKエンタープライズ近畿
■展覧会公式サイト:https://oh-kokuho2025.jp