舞台と客席との一体感を楽しもう!日本初演20年目を迎えるミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』ゲネプロレポート(山口祐一郎ver.)
ミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』のゲネプロの様子
ミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』が2025年5月10日(土)から東京建物Brillia HALLほかで開幕。初日を前にした9日(金)、ゲネプロ(総通し舞台稽古)が行われた。その様子を写真とともにお伝えする(※この日のキャストは、クロロック伯爵:山口祐一郎、サラ:フランク莉奈、アルフレート:太田基裕、クコール:駒田一、ヴァンパイア・ダンサー:佐藤洋介、アブロンシウス教授:石川禅)。
ミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』のゲネプロの様子
ミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』のゲネプロの様子
ミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』のゲネプロの様子
ロマン・ポランスキー監督のカルト・ムービー『吸血鬼』を下敷きに、『エリザベート』『モーツァルト!』で知られるミヒャエル・クンツェが脚本・歌詞、ロック界のワーグナーと称されるジム・スタインマンが音楽を手がけたミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』。オーストリア・ウィーンで1997年に初演され、2006年に日本初演された。09年、11年、15年、19年と再演を重ね、日本初演20年目を迎える今年、6年ぶりの再演となる。
ミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』のゲネプロの様子
ミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』のゲネプロの様子
ミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』のゲネプロの様子
物語の舞台は、ヴァンパイアの故郷として知られる極寒のトランシルヴァニア。村人たちが「ガーリック、ガーリック」と歌いながら大騒ぎする宿屋に、大雪で気絶したアブロンシウス教授(演:石川禅)を抱えて、助手のアルフレート(演:太田基裕)が転がり込んでくる。彼らはヴァンパイアを研究するためにこの地にやっていた。
宿屋の主であるシャガール(演:芋洗坂係長)や女房のレベッカ(演:明星真由美)、村人たちの介抱により、意識を取り戻したアブロンシウス教授は、アルフレートと共にこの宿屋に滞在することに。エキセントリックな教授とは対照的に、アルフレートはどうも気が小さく、臆病なところがあるが、こと恋愛に関してはまっしぐらで、宿屋の娘サラ(演:フランク莉奈)に一目惚れをする。風呂好きなサラもバスタブの中で身を清めながら、少々色気付いた口調でまんざらでも様子だ。一方、シャガールは夜がふけると、女房の目を盗んで、女中のマグダ(青野紗穂)の部屋に通っている......。
アルフレートの他に、もう一人、サラを求める存在があった。それが、ヴァンパイアのクロロック伯爵(演:山口祐一郎)。息子のヘルベルト(演:ジュリアン)と召使いのクコール(演:駒田一)と城に暮らしている。伯爵はどことなく寂寞としたオーラを放ちながら、宿屋に近づき、親の束縛から逃れて羽ばたきたい、サラの心に巧みに忍び寄り……というストーリーだ。
ミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』のゲネプロの様子
ミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』のゲネプロの様子
ミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』では、カーテンコールのダンスも魅力の一つ!
この作品の魅力は、客席と舞台との一体感が感じられるところにあると思う。これまで過去5回は帝国劇場で上演されていた本作だが、劇場の建て替えに伴って、今回は東京建物Brillia HALLでの上演となる。クロロック伯爵の登場のみならず、劇場1階の花道や通路をキャストがこれでもかというほど行き来をする。このいわゆる客降りの演出によって、観客は自分自身がトランシルヴァニアの森やクロロック伯爵の住む城に迷い込んだかのような錯覚になり、物語の中へと没入していくことができるのだ。
また、「真っ赤に流れる血が欲しい、モラルもルールもまっぴら!」と踊り歌うカーテンコールも一体感が感じられるポイントの一つ。まさに「終わりよければすべてよし」状態というべきか、観客も歌って踊って、作品の最後を盛り上げる。公式の振付動画がSNSにアップされているので、ぜひ余裕があれば振付を頭に入れておいて欲しい。
「欲望VS理性」という普遍的なテーマがベースにあるものの、話の筋は全く複雑ではない上、アブロンシウス教授とアルフレートとのやりとりなど、コメディタッチで物語が進むので、小難しいことは考えずとも楽しめる作品。観劇後につい口ずさみたくなるようなキャッチーな音楽や、ダンサーたちによる素晴らしいダンスシーンも満載なので、“ミュージカル初心者”でも入り込みやすい作品だと思う。
ミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』のゲネプロの様子
ミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』のゲネプロの様子
ミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』のゲネプロの様子
さて、キャストについても言及をしておきたい。
まず、クロロック伯爵を演じた、山口祐一郎。初演からクロロック伯爵を演じている“レジェンド”であるが、いやはや、山口は本当はヴァンパイアなのでは......と思うほどに、改めてハマり役である。初演から20年目を迎え、本人が人間ならばそれほど年を重ねているはずなのに、全く衰えない肉体と発声を今公演でも見せてくれる。囁くように優しく歌うウィスパーボイスから、高らかなロングトーンまでを巧みに使いこなし、永遠の命を持つヴァンパイアとしての苦悩や葛藤を表現。圧倒的な存在感がありながらも、時々茶目っ気も感じられるクロロック伯爵をぜひご覧いただきたい。
助手のアルフレートを演じた太田基裕。本作の主人公はクロロック伯爵ではあるが、物語を俯瞰すると、アルフレートの恋路とヴァンパイア研究の冒険譚のような筋立てなので、“助手”とはいえ、かなり重要な役である。楽曲も多い上、教授やサラに振り回されっぱなしで、なかなかに体力が必要なアルフレート役だが、太田はその一途さと気弱さをナチュラルに体現していて、全編を通じて実に可愛らしい。最後の結末を考えるに、本来なら悲劇かもしれないが、太田アルフレートが楽しんでいる姿を見ると、これでよかったと思えるほどだ。
そして、アブロンシウス教授を演じた石川禅。2009年公演から連続して演じているということで、こちらも安定感があり、「理性こそ最後に勝つ!」などと早口で歌う「すべて順調〜人類のために」「本だ!」は必聴。研究熱心にメモをとる姿も、空回りする姿も、すべてマスコット的で、アブロンシウス教授としては大変な場面であっても、観客はついつい笑顔になってしまう。
ミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』のゲネプロの様子
ミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』のゲネプロの様子
ミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』のゲネプロの様子
ヒロインのサラを演じたフランク莉奈。18歳になったサラは少女から女性になろうとしている最中で、アルフレートからの一途な思いもまんざらではないけれど、クロロック伯爵のミステリアスでスリリングな魅力に惹かれていくという、危うさがある役。フランクサラは、純粋無垢な面ももちろんあるのだが、その内側にある“欲望”が垣間見えて、なかなかの好演だった。
初演からクコールを演じている駒田一。いやはやそのメイク(マスク?)なので、ぱっと見るだけでは駒田だとは分からないのだが(笑)、幕間やカーテンコールの盛り上げなどをみると、愛嬌ある駒田らしいクコールになっている。ヘルベルトを演じたジュリアンは、そのルックスも相まって、妖艶さと狂気がいい塩梅。芋洗坂係長のシャガールは、どこにでもいそうなオヤジ感が妙にうまいし、青野紗穂のマグダと明星真由美のレベッカは対照的な描かれ方をするが、シャガールに運命を狂わされた2人としてなんだか感情移入してしまう。
ヴァンパイア・ダンサーという名で、クロロック伯爵の化身として踊る佐藤洋介は、前回公演からの続投。身体が物語を紡ぐとはこういうことかと思うほどに、指先足先まで魂が込められたダンスで、『ダンス オブ ヴァンパイア』というタイトルに重みを持たせた。
ミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』のゲネプロの様子
ミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』のゲネプロの様子
ミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』のゲネプロの様子
今回の公演はクロロック伯爵、サラ、アルフレート、クコール、ヴァンパイア・ダンサー、アブロンシウス教授がWキャストであるので、俳優によってまた役の解釈や表現が異なるはずだ。その見比べも楽しみつつ、この作品の世界観に浸ってほしい。ぜひお見逃しなく!
公演情報
音楽:ジム・スタインマン
演出:山田和也
振付:上島雪夫
サラ:フランク莉奈・中村麗乃(Wキャスト)
アルフレート:太田基裕・寺西拓人(Wキャスト)
シャガール:芋洗坂係長
レベッカ:明星真由美
ヘルベルト:ジュリアン
マグダ:青野紗穂
クコール:駒田一・伊藤今人(Wキャスト)
ヴァンパイア・ダンサー=伯爵の化身:佐藤洋介・加賀谷一肇(Wキャスト)
アブロンシウス教授:石川禅・武田真治(Wキャスト)
※クコール:伊藤今人、アブロンシウス教授:石川禅は東京公演のみ出演
2025年5月10日(土)~31日(土)東京建物 Brillia HALL
2025年6月7日(土)~15日(日) 愛知・御園座
2025年7月4日(金)~12日(土)大阪・梅田芸術劇場メインホール
2025年7月19日(土)~30日(水)福岡・博多座