家主、田中ヤコブが語るツアーを目前に控えた現在の想いと達観した音楽観「いろいろなステージにも立った上で、長く、ゆるゆる続けられたらいいですね」

インタビュー
音楽
2025.6.12
家主 撮影=今井駿介

家主 撮影=今井駿介

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今、多くの音楽好きに「ライブを観たい!」と思わせているのが4人組ロックバンド、家主だ。
結成は2013年。田中ヤコブ(Vo, Gt)、田中悠平(Ba, Vo)、岡本成央(Dr, Cho)、谷江俊岳(Gt, Vo)という現在のラインナップが揃い、1stアルバム『生活の礎』をリリースした2019年頃から注目を集めはじめたバンドの人気は昨年、ぐっと高まった印象も。人気の秘密は、ビートルズから連綿と続くロックの正統をそのオルタナ感覚も含め、今一度思い起こさせるところにあるようだ。
ライブシーンにおける家主の存在感は6月15日から始まる『YANUSHI LIVE TOUR 2025』でさらに増していきそうな予感。ツアーを目前に控えたバンドを代表して、田中ヤコブに近況を尋ねながら、ツアーの意気込みを聞いた。達観しているようにも思えるその言葉は、ユニークな音楽観の持ち主であることを印象づけるかもしれないが、ロックミュージシャンとは本来そういう存在だったはずと思ったりも。
ツアーで披露するかもしれないという現在制作中の新曲も楽しみだ。

――昨年の11月、米国シカゴのインディロックバンド、フリコ(Friko)の来日公演でゲストだった家主のライブを観させてもらったんですけど、実はその時、家主のことを存じ上げてなくて、なんなら大阪公演のゲストだったHomecomingsのほうがうれしいんだけどという、今思えば大変失礼な気持ちで家主のライブを観て、“あ、こんなかっこいいバンドがいたんだ”とびっくりさせられて。たぶん、僕以外にもあの時、家主のライブを初めて見た人って多かったんじゃないかと思うのですが、昨年は『フジロックフェスティバル』にも出演したし、計14公演のツアーもやったし、多くの人たちに知られたことも含め、バンドとして跳ねたというか、注目度がぐっと上がって、バンドの状況がいい方向に変わってきたという実感もあるのではないでしょうか?

規模が大きくなってきたという感覚はあるんですけど、そうですね、それに伴って、良くなってきたことっていうのは、ライブの規模的にちょっと入らざるを得なくなってギターテックさんに入っていただいて。機材の選定とか、ステージ上の立ち位置とか、セッティングとか、すごくシビアに細かくやるようになったことぐらいですかね。

――以前よりも、良い音でライブができるようになったということですよね?

そうですね。かつ、楽器も調整された、いい状態で演奏できるようになったおかげで、チューニングが狂ったりとか、弦が切れたりとかみたいな恐怖が少し薄れたっていう。ただ、規模が大きくなったぶん、自分も含めメンバーのプレッシャーも大きくなってきたとは思うんですけど。

――プレッシャーですか。

はい。会場が大きくなったりとか、お客さんが増えたりとかっていうことに対しては、やっぱりプレッシャーを感じます。

撮影=今井駿介

撮影=今井駿介

――どんな面でプレッシャーを感じますか?

ミスれないなとか、風邪ひけないなとか、体調崩せないなとか、変なお客さんが来ないかなとか。メンバーは普通に仕事もしているので、その日程調整とか。だから、そういう意味では大変さみたいなものは、増えたかもしれないです。

――でも、その中でバンドに取り組むモチベーションは変わってきたんじゃないですか?

その意味では、テックさんが入って、機材を含めたクオリティが上がっていくことに対してはうれしいし、それがモチベーションにはなるんですけど。でも、基本的に自分らがやることっていうのは、ずっと変わっていないという気はします。たとえば、お客さんが増えたからって、“行くぞ横浜!”みたいに煽ることもないので。

――2021年12月に2ndアルバムの『DOOM』をリリースした頃は、お客さんが増えることや、カーネーションや台風クラブというお客さんとしてライブを観に行っていたバンドと対バンすることに困惑しているとおっしゃっていましたけど、その困惑するみたいな感覚は今もあるんでしょうか?

私個人としては、そういう感覚は少し薄れてきました。というのも、以前に比べて、遊びみたいな感覚でもなくなってきたというか。去年の9月にスピッツ主催の『豊洲サンセット』でスピッツと一緒にやった時に感じたんですよ。以前までは自分はそういったバンドをいちファンとして聴いていた感覚があったんですけど、やはり同じ舞台に立つ以上、いちファンとしてはいられないというか、失礼というか。そこはいち同業者として、同じ立場でできるようにというか、お客さんに見てもらう以上は、たとえ素人でも下駄を履かせてもらわずに、どれだけできるかみたいなことは意識するようになったと思います。そういう意味では、困惑ではなく、ご一緒できてうれしいという素直な気持ちに変わってきたのかな。

――それはプロ意識に目覚めたということとは、また違うんですか?

うーん、自分の中でプロ意識とは言いたくないですけど、一緒にできてうれしい。ファンでした、みたいな感覚とも違うって感じです。去年、ツアーをやったときにはthe pillowsをはじめ、POLYSICSやSPARTA LOCALS、元キリンジの堀込泰行さんとか、自分らがいちリスナーとして聴いてきた先輩方と対バンしたんですけど、その経験もさっき言ったような自分の感情の変化に繋がっていると思います。

――先輩の客を奪ってやろうくらいの気持ちはなかったんですか?

いやいや、さすがにそんな気は全然なかったです。もっと平和にというか、有機的に。仮にお客さんがどちらかを知らなかったとしても、両方の音楽を楽しめるようになればいいなと思っていました。

 

――ところで、「家主のテーマ」という2019年の曲で、《家主の曲はいつでも君の味方なのにさ どうしてこうも伝わらないの?》と歌っていますが、曲を作ったとき、実際にそういう気持ちがあったのかどうかはさておき、その伝わらないという感覚は今もあるんでしょうか?

ありますね、全然。それは音楽に対する自分の距離感というか、自分が音楽を聴く時にいつも思うことなんですけど、自分はみんなで盛り上がる曲で、“イェーイ”みたいなのが元々すごく苦手で。そもそも音楽ってあまり共有できないものだと思って、生きているんですけど、そういう共有できない、曲の良さみたいなものがすごく好きなんですよ。たとえば、この曲のこの部分がすごくいいみたいな、重箱の隅をつつくようなポイントが好きというところがすごくあるんですけど、そういうのってあんまり他人と共有できるものではない。自分が作る音楽にもそういう部分があってほしいと常々思いながら、音楽を共有できないってことを自分では大事にしていて。そういう心情を歌詞を書いたにもかかわらず、そのテーマをお客さんが歌いながら共有しているみたいなことが二律背反というか矛盾を孕んでいて、自分が当初考えていたことが、良い意味で捻じれていってるということに対しておもしろさを感じていますね。なんか“共感のできなさ”に共感されてる、みたいなで、それが共有されることによって歌詞のテーマが完成されなくなるというか。それがすごくおもしろいと思いますし、むしろどんどん歌ってほしいと思います。

――そんな田中さんがいいライブができたとか、今いい演奏しているとか思うのはどんな時ですか?

そうだな。一度あったんですけど、歌詞がとんで“やばい、全然思い出せない”と思っていたら、お客さんが歌ってくれて、歌詞を思い出せた時はうれしかったです。それを考えると、いいライブができる時は、お客さんが盛り上げてくれるってことが圧倒的に多いかな。

――じゃあ、決して一体感を求めていないわけではない?

あったらあったですごくうれしいです。

――でも、それを無理やり求めるのは違う、と。

そうですね。こっちから“こうしろ”って言って、そうなってるのもちょっと悲しいので。先生が“静かにしろ”って言ったら静かにするんかい、先生が“騒げ”って言ったら騒ぐんかい、みたいな気持ちというか、ステージに立つ人間として、変に主従関係みたいなものが生まれるのは学校とか部活みたいで気持ち悪いなっていうのはすごく思っていて。自分もお客さんとしてライブに観に行ったりすると、ステージに立っている人たちの言うことって、すごく正しく聞こえるんですよね。“ここで手拍子”と言われたら、やらなきゃ申し訳ないという気持ちになっちゃう。だから、そういうものを自分からはあまり利用しないようにして、ライブがどれだけ成立するのか観察したいという気持ちはあるかもしれないです。無理をしないというか、お互いに無理をしないで、どれだけお客さんと共有できるかみたいなところは考えたりしますね。

撮影=山本啓太

撮影=山本啓太

――さて、6月15日から『YANUSHI LIVE TOUR 2025』が始まります。昨年の『YANUSHI LIVE TOUR 2024』は、2023年12月に配信リリースした3rdアルバム『石のような自由』のCDが2024年2月にリリースされたタイミングでのツアーでしたが、今回はそういういわゆるリリースツアーではありませんが、どんな狙いや意味合いがあって、10月19日までツアーすることになったのでしょうか?

うーん、特にはないですけどね(笑)。去年のツアーが対バンだったから、今回はワンマンで、みたいなことだと思うんですけど。ただ、今回、リリースには関連付けてはいないんですけど、今、EPを制作していて、新曲を小出しにしていけたらいいねという話はしています。

――あ、ツアー中に新曲を発表して、ツアーで初披露する、と?

たぶん、そういう流れになるんじゃないかと思います。曲が崩壊しないレベルで演奏できるようになればですけど。

――いやいや、そんなことはないと思いますけど、今回のワンマンツアーでどんな家主を見せたいと考えていますか?

去年、ライブをいっぱいやったので、ライブ用の筋肉がついたような印象があって、まだ完全に定着していない気はするんですけど。今回、ワンマンを回ることでかなり定着するんじゃないかと期待はしています。

撮影=山本啓太

撮影=山本啓太

――去年ついた筋肉をライブで見せつつ、さらに鍛え上げていこう、と。

そうです。使わないと脂肪になっちゃうと思うので、それをもうちょい固めておこうという感じなんですけど。今ライブをやりながら自分がおもしろいなと思うのは、自分が出したいと思っている音を出せるかどうか、みたいなところなんですよ。バンドアンサンブルとしてももちろんなんですけど、個人的にはギターを含め、機材にもすごく興味を持ち始めていて。だから、ライブは機材面の試行錯誤の場というところもあって。

――そこもライブの見どころだ、と。

はい、恐らくは。割とこだわって、機材を選んできたつもりなので、去年見た時よりも音が良くなっているところはあると思います。機材の使い方とか、音作りとか、だいぶライブやレコーディングで学んできて、このアンプから出る正しい音ってこれなんだ、みたいなことが自分の中でけっこう出来上がってきていて。ライブハウスにある機材を借りてライブするみたいなところから、自分の手持ちのものでどれだけ勝負できるかというところに今は重きを置いているんですよ。そういうアウトプットを見せられたらいいかなと思っています。

――お客さんもそういうところに注目してみると、より楽しめそうですね。

そうですね。たとえば、今、高校生でギターをやっていますみたいな子がもし観にきて、これがMarshallアンプの音なんだとか、VOXアンプのいい音ってこれなんだとか、そういうのがわかったらおもしろいと思うんですけど。リハスタの音とは全然違うと思うので。でも、やっぱりライブで大事なものって圧倒的に歌だと思うので、まずは音楽全体を聴いていただきつつ、そういうオタク的なポイントも随所に感じてもらえたらなあと。

撮影=山本啓太

撮影=山本啓太

――『石のような自由』では、サウンド面でも満足できるものが作れたという手応えがあったそうですが、それがライブでも機材にこだわって、いい音を出していきたいというところに繋がっているんですか?

きっかけはそこです。『石のような自由』のレコーディングでアキマツネオさん(AKIMA&NEOS)から機材をお借りしたことがきっかけで、アンプや機材に対しての意識がものすごく変わりました。また、ギターテックで入ってくださっている方に、今作っているEPでも機材提供とか音作りとかで携わっていただいているんですけど、その方が“『石のような自由』の音がすごく良かったから、それを伸ばしていける手伝いをさせてほしい”というようなことを言ってくださって。だから、そのテックの方の尽力もすごくあると思います。

――お話を聞きながら、今作っているというEPがめちゃめちゃ気になっているんですけど、どんな作品になりそうですか。話せる範囲で教えていただけないでしょうか?

カロリーが高い曲が揃っていると思います。今までもかなりカロリー高めの曲をやってきたという自負はあるんですけど、それの集大成になるような気がしますね。

――カロリーが高いというのは?

演奏が難しくて、使っている楽器やコーラスの量も多くて、密度が高い。全5曲の予定なんですけど、メンバーからは“すげえ難しい。いい加減にしてくれ”と言われました(笑)。

撮影=山本啓太

撮影=山本啓太

――なるほど。今、おっしゃったようなカロリーの高い楽曲が今のところ歌ものの範疇に収まっていますが、それが今後、もっとサイケデリックになったりとか、プログレッシブになったりとかする可能性はありますか?

それはないですかね。サイケとかプログレとかって、得てして、突き詰めないかぎりカロリーが高くならないというか、長い時間やっているだけで、ずっと適当にジャムってるだけじゃんみたいなことになりかねない。演奏時間は長いけど、むしろそこでカロリーの消費を抑えてんじゃね?みたいな。よっぽどのテーマやコンセプトに則らない限り意味のあるサイケとかプログレはできない気がしますし、自分にそれはできません。だから、3分か4分ぐらいのポップスにやりたいことを詰め込むことが自分の中では一番カロリーが高いってことになるんですけど、今作っているEPの曲もそういう意味でカロリーの高いものになっています。

――今度のツアーでは、もしかしたら新曲もやるかもしれないということですが、お客さんはどのへんを予習していったら、より楽しめるでしょうか?

全体的にゆるっと聴いてきてもらえばいいと思うんですけど。そういう意味では、何も知らなくても、それなりに楽しめるかどうかというところもけっこう大事だなとは思っていて。単純に楽曲の強度というか、たとえば自分がライブハウスに行ったとき、全然知らないバンドでも、“うわ、このバンド、すごくいい曲やるな”って思って、がっと能動的になる瞬間があるように、本当に家主の曲を1曲も知らない人が観にきたとしても、そのお客さんをそれなりに能動的にさせる何かが曲とライブにあるべきだと思っているんですよ。

撮影=山本啓太

撮影=山本啓太

――去年、家主のライブを初めて観た時の僕がまさにそうでした。その意味では、曲はもちろんですけど、演奏、ライブパフォーマンスともに実はけっこう自信があるんじゃないでしょうか?

いや、毎回みんなビビってます。自分なんかライブ前はほんとに足とか手とか震えています。そんなことがなくなれば、自信がついたと言えると思うんですけど。まだちゃんと震えてるんで、全然ダメだと思います。

――そうなんですか。そんなふうには全然見えませんでしたよ。

ステージに出ちゃえば、後は野となれ山となれみたいな気持ちになれるんですよ。バンジージャンプとかもきっとそうじゃないですか。さっさと飛んじゃったほうが楽みたいな。

――今回のツアーでは、7月12日の川崎CLUB CITTA'とファイナルとなる10月19日の渋谷Spotify O-EASTのキャパはともに1,300人です。

どのくらい来るんでしょうね。

――いや、いっぱいになるんじゃないですか。

そうだといいですけど。ぶっちゃけ、いっぱいになってくれたほうがやりやすいです。ちっちゃいライブハウスで、お客さん5人くらいのほうが緊張するってこともライブをやってきてわかったことです。だからたくさん来てほしいです。

撮影=今井駿介

撮影=今井駿介

――今後の目標も聞かせてください。

正直、ちょうどいいところに落ち着きたいなという気持ちがありますね。たぶん、今、すごくいい環境でやらせてもらっていると思うんですけど、今後、この状態がずっと続くとは思っていなくて。順当に時を経て、いい感じになって、なんかいいバンドがいたね、みたいな感じになれたらいいですね。あとはローカルのすごい人になりたいという気持ちはあります。各地方にそういうレジェントというか、自分が尊敬する人がいて。お客さんがいっぱい来て、脚光を浴びながらやるような華々しい世界ではなくて、街の中でひっそりと、平日の夜にやってる人たちのヤバさみたいなものをやっぱり知っているので、最終的にはそんなふうになれたらいいなと思うんですけど。いろいろなステージにも立った上で、長く、ゆるゆる続けられたらいいですね。

――ずっと続けていきたいという気持ちはあるわけですね。

そうですね。続いたらいいなとは思うんですけど、ずっと大きいステージでとは、あんまり。楽しく音楽ができればそれで良いです。

――でも、今、家主の魅力をできるだけ多くの人に知ってもらえたら、長く、ゆるゆると続けていけるような気もしますけど。

ありがとうございます。今度のツアーも精一杯がんばります。

取材・文=山口智男
撮影=今井駿介(ライブ&アーティスト写真)、山本啓太(レコーディング写真)

ライブ情報

家主 ワンマンライブツアー『YANUSHI LIVE TOUR 2025』
前売 4,500円 / 学生 3,500円 (共にドリンク代別)
※学生は入場時に学生証を提示
※中学生以下入場無料
(e+独占販売):https://eplus.jp/yanushi

-NAGOYA-
会場:NAGOYA CLUB QUATTRO
日時:6/15(日)
17:30 OPEN / 18:30 START
 
-KAWASAKI-
会場:CLUB CITTA’
日時:7/12(土)
17:30 OPEN / 18:30 START
 
-FUKUOKA-
会場:BEAT STATION
日時:8/9(土)
18:00 OPEN /19:00 START
 
-OSAKA-
会場:BIGCAT
日時:8/16(土)
18:00 OPEN /19:00 START
 
-SAPPORO-
会場:PENNY LANE 24
日時:9/14(日)
17:00 OPEN / 18:00 START
 
-TOKYO-
会場:Spotify O-EAST
日時:10/19(日)
17:30 OPEN / 18:30 START
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