赤い炎と青い炎の2日間――ReoNa『AVATAR』『Birth』の両ライブに込められた思いを語る
ReoNa
2024年10月に開催されたReoNaの2つのライブ『神崎エルザ starring ReoNa ✕ ReoNa Special Live "AVATAR 2024”』と『ReoNa ONE-MAN Concert "Birth 2024"』(以下『AVATAR』『Birth』)のBlu-ray&DVDが2025年6月4日に販売される。今回は発売を記念して当時を振り返る形でReoNaに話を聞いた。
■神崎エルザを“顕現”させ、かつ“真剣勝負”をする
加東:『AVATAR』『Birth』のBlu-ray&DVDが販売されるということでお話を伺うのですが、今回のインタビューはちょっと普段と違うというか。
ReoNa:加東さんも今回はライブの制作側ですから。
加東:自分もご縁をいただきまして、『AVATAR』の脚本と演出を担当させていただきました。なのでお話を聞くというよりは、二人で対談的に振り返りながらあの日の話をするという形にできればと思っています。もう開催から半年経ちましたが、改めてこの2日間はどんな時間でしたか?
ReoNa:とにかく集中していたというか、必死でした。
加東:リハーサルからかなり詰め込んだ内容でしたし、ReoNaさんも疲れていた印象があります。
ReoNa:終わった直後にも思ったし、今でも思うことなのですが、『AVATAR』も『Birth』も中身が濃厚だったので、すごく記憶に残る2日間でした。
加東:元々『AVATAR』で僕が入った理由の一つとして、「神崎エルザという存在をこの世に顕現させる」というコンセプトがありました。神崎エルザのライブってどんなものなのだろう? というのに、全員で真剣に向き合った結果があのライブなんですけれども、とはいえ稀有なライブでしたよね。歌っているのは結論としてReoNaさん一人だし。
ReoNa:そうですね、神崎エルザ starring ReoNaとしてステージに立って歌うのは私ですから。
加東:ステージ上で歌っているのはReoNaさんだけど、でも神崎エルザのライブ。多分ReoNaのライブとエルザのライブは温度感も違うよね、と。
ReoNa:本当の意味でエルザという存在をみんなで形作るというか。いろんなヒントや彼女のパーソナリティみたいな部分は、作品の中に沢山散りばめられてはいるけど、じゃあ、現実の世界でライブをするエルザはどういう風になるんだろう? っていう。私も含め、みんなが神崎エルザっていう存在に向き合った時間だったと思います。
加東:僕がチームに合流したのは、2つのライブで演奏する曲を振り分けた、くらいのタイミングだったんですが、最初の選曲ではどういうコンセプトで曲を振り分けたんでしょうか。
ReoNa:私が2024年にお届けしたライブは、全体のことを考えながら作っていたと思うんです。前半は『ReoNa 5th Anniversary Concert Tour “ハロー、アンハッピー”』があったので、『Birth』は私が今までやってきたことに、改めてもう一度立ち返ってお届けするライブという事でセットリストを考えました。『AVATAR』に関しては、神崎エルザを顕現させる、に加えてもう一つ「真剣勝負」というコンセプトがありました。ガチでエルザとReoNaの2マンライブをしようと。
加東:そうでしたね。
ReoNa:過去の『AVATAR』は私もデビュー当初だったので、ちょっとエルザの胸を借りるみたいな気持ちがあったんですが、6年ぶりに再会したエルザに対して、真剣勝負を仕掛けられるぐらいにはReoNaの楽曲も増えてきて、「どうやってエルザと戦おうかな?」みたいなことを考えながらセットリストを組んだ覚えがあります。
加東:『AVATAR』のReoNaセットリストって、「Weaker」「for-get-me-not」「Scar \let」「ANIMA」「VITA」。初手から全力で駆け抜ける選曲ですよね。
ReoNa:もう一息つく間もないぐらい畳みかけるような時間でした。真剣勝負なので、“ReoNa×ソードアートオンライン”でぶん殴る、みたいな。
加東:「真剣勝負」も『AVATAR』の大事なコンセプトでしたよね。制作的に一番悩んだのは、オープニングをどうやって始めるか、でした。チームみんなで過去の映像も改めて見て、過去2回が「こえにっき」で始まっているので、今回もそうだよね、でも先手でReoNaがあの世界観を持ってきたら、エルザは絶対そこをおちょくってくるよね、とか話して。
ReoNa:話しましたね、「絶対エルザ邪魔してくるよね」とか。
加東:なので『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』(以後『ガンゲイル・オンライン』)のアニメも全話見返して、印象的な台詞をピックアップして、それをハッキングしてくるような展開にして……しかもあの声って新録なんですよね。
ReoNa:日笠(陽子)さんに改めて入れていただきました。あそこが新録ボイスっていうだけでも結構レアリティが高い。
加東:新録だっていうのは公言していませんでしたから。収録は一発OKでしたけど、声優さんのすごさを改めて感じましたね。
ReoNa:なんか『AVATAR』は神崎エルザを3次元に引き寄せると同時に、3次元を生きる私たちが、エルザのいる2次元に向かって歩み寄ろうとしたなって思っています。
加東:今回の映像は MCもほぼカットなしで収録されていますし。
ReoNa:ほとんどあの日の起きた出来事、紡がれた言葉がそのままですね。
加東:映像ではエルザのMC中、ReoNaさんは映っていないんですよ。でも日笠さんの力を借りて、そこにエルザがいるって感じられる。ある意味2.5次元的世界観だったのかもしれない。
ReoNa:何かが交差していたと思います。
加東:ReoNaさんには頭少しだけセリフを喋ってもらいました。あの台本のコンセプトも……。
ReoNa:エルザとケンカしましょう、でした(笑)。
加東:あれ、結構無茶振りをお願いしたと思っているんですが。
ReoNa:なんか『AVATAR』でしかできないことだったし、今までやってないことでも、この日ならできるんじゃないかって、挑戦できたのはありました。今振り返っても二度とないなという感じはありますし。
加東:個人的には、ReoNaさんが今お芝居をしている……! というのは結構グッと来るものはありました。
ReoNa:でもあれ、私から見てもすごく贅沢ですよ。エルザとの会話からライブがスタートできるって。
加東:確かに! エルザが茶化してきて、ReoNaさんが本当にちょっとだけイラっとしていたのがリアルで。
ReoNa:不思議な時間でした。そこから続くReoNaパートの選曲も含めて、対バン、という現場のヒリヒリ感を体現していたという感じがしています。
加東:負けたくない、っていうのはずっと言っていましたしね。
ReoNa:そうですね、負けたくなかった。
■『AVATAR』が『SQUAD JAM』ツアーに及ぼした影響
加東:神崎エルザは2024年の年末に『ELZA2』というアルバムをリリースしましたが、この日は当時発表していたエルザ楽曲は全部やっている。アルバムが出た後だと曲数も増えているので、全曲やれない可能性もある。そういう意味でも非常にいいタイミングだったという気がします。
ReoNa:『ガンゲイル・オンライン』アニメ2期に至るまでの6年間で私やエルザに出会ってくださった方も、エルザの楽曲をライブで回収できるっていうのは、確かにすごくいいタイミングだったと思います。
加東:せっかくなのでお聞きしたいんですが、ReoNaさんの好きなエルザ楽曲ってどの曲なんでしょうか?
ReoNa:難しいな……エルザの楽曲って私自身の存在も食い込んでいるので、あんまり俯瞰では聴けないんですけど……私、人生で初めてCDに入る曲をレコーディングしたのが「Rea(s)oN」で、当時は現実味がすごくなかったんです。ブースに入って歌っているのは自分自身だし、スピーカーから聞こえてくる声は自分の声なんだけど、この楽曲が世に出るのか、という現実感がなくて。明日にでも「ドッキリでした! やっぱり他の人にボーカル変わりました!」って言われてもおかしくないんじゃないかって思っていて。
加東:あまりにも壮大なドッキリですね、それ(笑)。
ReoNa:だからすごくドキドキしながら毎日生きていたんです。私が初めてギターでワンコーラス弾けるようになったのも「Rea(s)oN」だし、一緒に歩んできた時間の長さと濃さから、どうしても「Rea(s)oN」という楽曲は忘れられない曲というか、大切な一曲です。
加東:じゃあ、一人の音楽リスナーとして好きな曲は?
ReoNa:私「ALONE」好きなんです。「ALONE」を作っていた時って、結構追い詰められていたというか、ちょっと現実味がないぐらい大変な時期だったんです。ボーカルのレコーディングも何回もやり直させてもらったし、結構エルザの楽曲を作る時って、なぜだか一筋縄ではいかないことが多くて(笑)。「ALONE」が最初できた時も、苦しんで向き合いながらやっていたという印象があるんですけど、出来上がっていろんなライブでお届けする中で、最初は見えてなかった曲の良さに気づけたというか。
加東:この日新曲として披露した「Girls Don't Cry」も新しい流れを作った楽曲だと思っていて。今までになかった女の子に向けての目線がある曲。これはReoNa軸の考え方だと、実は出てきづらいアプローチの楽曲だと思っているんです。神崎エルザだから出せた曲というか。
ReoNa:そうですね。あの日は「Game of Love」は配信リリースしていましたが、完全新曲があるのっていう驚きと、それが女の子達に向けた応援歌だっていう二重の驚きが、あの日あった気がします。
加東:『AVATAR』は神崎エルザのライブだから、ペンライトもオールスタンディングもOK、むしろエルザが「立って!」と煽ってくるのは面白かったですね。でも『AVATAR』があったからこそ、『ReoNa ONE-MAN Live Tour 2025 “SQUAD JAM”』(以後『SQUAD JAM』)があの形でできたというのがあると思いますし。
ReoNa:そうですね、『AVATAR』が『SQUAD JAM』ツアーに及ぼした影響はかなりあると思います。
加東:どちらかというとこれまでは着席推奨、でもご自由にというスタイルのライブが多かったですが、『AVATAR』や『SQUAD JAM』の自由なステージに立ったReoNaさんの感覚ってどうだったのか聞きたいと思っていて。ちょっと脱線になるんですけど。
ReoNa:一言で言い表せないかも。『SQUAD JAM』はすごくポジティブな気持ちも、ちょっと複雑な迷いのある気持ちも、どっちも抱えながらのツアーだったんですけど、一言でまとめると「自由って難しいな」と感じたツアーだったと思っています。孤独と自由を両方抱えている感覚というか。自由でいられないからこそ「私は自由なんだ」と言い切れるエルザから貰った「自由に向き合う難しさ」を毎公演悩みながらステージに立っていました。
加東:『AVATAR』から『SQUAD JAM』への流れってReoNaさんとしてはすごく実験的だったと思うんです。チームが「ReoNaは停滞してはいけない」というのをすごく意識したんだろうなって。ライブのフォーマットはある程度できているわけじゃないですか。
ReoNa:ただ開催する、という意味ではそうかもしれない。
加東:でもただそれを続けていくのではなくて、もっと面白いことをやっていかないといけない、という意識を『AVATAR』の制作現場で感じたんです。だから個人的に一番感慨深かったのは「ANIMA」だったんです。
ReoNa:えっ?「ANIMA」なんですか。
加東:「ANIMA」って2020年にできた曲で、当時はコロナ禍真っ最中だったじゃないですか。ReoNaさんも当時のインタビューで「フルスペックのANIMAをまだやれていない」って言っていたんです。それこそ『Animelo Summer Live』とか外のイベントとかでも歌われて、お客さんが盛り上がっているのを見てきましたが、ワンマンの大きいライブで、フルスペックの「ANIMA」って初めてだった気がしているんです。武道館のワンマンの時もコロナの影響はあったし。
ReoNa:そうですね、できてないですね。私達もお客さんも思いっきり制限なく、という意味では、確かにそうかもしれない。リリースしてからもう4年たっているのに。
加東:なので、あれは今映像で見てもちょっとグッとくるものはありますね。
ReoNa:私、結構『AVATAR』のReoNaパートの記憶ってかなりおぼろげなんです。エルザに負けたくないって逸っている気持ちと、東京ガーデンシアターという場所で歌を受け取りに来てくれた一人一人に今日この日を楽しんで、来てよかったなって思ってもらいたいという気持ちと、いろんな高揚感が入り混じっていて。映像を見て「私こんな顔していたんだな……」と思うくらい挑発的になっていて。
加東:映像を見ると、すごい汗をかいているのも分かりますもんね。
ReoNa:本当に、あんなに汗かいたライブこれまでにないかもしれないです。
■日笠陽子の存在と、脚本・演出へのこだわり
加東:改めて『AVATAR』での神崎エルザのMCは、日笠陽子さんに現場で生アフレコしていただきました。リハーサルでも日笠さんとは合わせましたが、エルザのMCで歌の温度感も変わっていく感じはあったのでしょうか?
ReoNa:ありました。絶対にそこは相互作用があると思っていたんですけれども、実際現場では、日笠さんも私の歌を神崎エルザとして届けていると思ってくれた気がしていますし、私もエルザのMCを受けて、神崎エルザとして歌を歌わないといけないと思えましたし。お客さんから見て、完璧な神崎エルザのライブ空間だと感じてほしかったんです。
加東:歌い出しの柔らかさとかが普段と違う気はしたんです。
ReoNa:これはオーディオコメンタリーでも日笠さんと話したんですが、ライブってすごい言葉だと思うんです。直訳で「生きる」。あの日はまさにライブだったというか、日笠さんから、ステージ上から、そしてあの空間にいた人たちの熱が確実にそこにあって、それを受け取り合って影響され合ったという感じはします。
加東:正直、本番では僕は日笠さんの横できっかけを出したりしていたので、とにかく緊張していて(笑)。映像でやっと全体像が見られた感じはあります。
ReoNa:加東さん、今回の脚本書くのにあたって、原作何回読みました?
加東:元々『ガンゲイル・オンライン』は全部チェックしていたんですけど、小説はきっちり全部頭から読み返して、アニメも全部見返して、あとは必要になりそうな所をピックアップして何回も読んで……という感じでした。神崎エルザの言葉を紡ぐので、勿論なんですけど、チェックが入るわけですよ。まずライブチームと、セットリストに合わせてどんなMCが欲しいか、という話から始まって、尺もあるじゃないですか。
ReoNa:長すぎるとライブとしてのテンポが悪くなることもありますし。
加東:そこも精査して書き上げて、原作者の時雨沢恵一先生、さらにアニメ『ガンゲイル・オンライン』製作委員会のチェックも入るわけです。
ReoNa:そう、時雨沢先生の中でエルザはこうあるべきというものを絶対に持ってらっしゃると思いますし。間違ったことは言わせられないですからね。
加東:これは流石に戦々恐々としていました(笑)。
ReoNa:私も、解釈違いがあったら絶対に言ってやろうって思っていました(笑)。
加東:あはは! だからOK貰った時はものすごくホッとしましたね。
ReoNa:台詞や構成でこだわりはあったんですか?
加東:どうしても言わせたかったのは、ReoNaさんがレンの言葉を引用する部分「絶対に、殺す」というところですね。ReoNaがエルザに宣戦布告するならこれしか無いだろうと。あとはずっとReoNaさんが言い続けている、「私にとってのあなた、それはお歌でした」という言葉。ReoNaがお歌なら、エルザにとってのあなたって何なのだろう? というのはやりたかった部分です。あと原作を追っている人には、MCの端々にレンやフカ次郎を感じられるものにしたかったというのはあります。
ReoNa:まさにあの時、リアルタイムで『ガンゲイル・オンライン』を観ている人なら楽しめる言葉も入っていましたし。
加東:演出部分でいうと、ちょっとだけエルザがピトフーイっぽさを出すところがあるんですが、そこだけはどうしても赤いレーザーを客席に向かって投げてくれってお願いしていたんです。
ReoNa:バレットラインの表現ですよね。
加東:そうです。バレットラインだけはどうしてもやりたいって言って、感想としてSNSでお客さんも気づいてくれていて嬉しかったんですけれども、『Birth』でも『ガンゲイル・オンライン』が絡む楽曲の演出として、赤いレーザーを効果的に使ってくれていて。すごく嬉しかったです。
ReoNa:照明、演出効果、音響、どのセクションも2日間本当に細かいところまで気を配ってくれて、感謝しかないです。
加東:あと僕が今回映像作品として感動したのは、映像の最後にスタッフロールが流れるんですけど、あそこはたまらないですよね。
ReoNa:あれはたまらないですね。ぜひ、最後までちゃんと見てほしいです。ここで言いたいことがいっぱいあるんですけれども、言っちゃうと多分つまんないから。見てくださいとしか。
加東:あの日はみんな本気だったんですよ。ちゃんと神崎エルザの楽屋も用意されていたし、これはエルザのライブ、というのを全員共通で持っていた。あのこだわりがお客さんにも伝わった気はします。
ReoNa:あれだけの人数が集まって思いや意識を重ねると、これだけのエネルギーでキャラクターを顕現させられるんだ、という実証が出来たと思っています。
■「絶望年表」に込めた思いとリスペクト
加東:そして『Birth』の話もしましょう。ReoNaさんがやってきたスペシャルライブが久々に開催されたというものですが、これは『AVATAR』と違って完全にReoNaの世界じゃないですか、一曲目から前日とは空気が違った。
ReoNa:『AVATAR』があったから『Birth』が出来たと思っていて、2つが相互関係で作用しあえたと思うんです。『Birth』を開催するのも久々でしたし、今までの“絶望系アニソンシンガー”として紡いできたお歌を辿るようなライブになったと思っています。
加東:『Birth』は今まで大事に歌い紡いできた曲を、改めて今のReoNaが表現していくものでした。「いかり」もとかもちょっと久々の披露だった気がします。
ReoNa:本当にそうですね、すごく久しぶりでした。
加東:『Birth』では単純に前日と温度感を変えなきゃいけないわけじゃないですか。
ReoNa:2日間全く違うライブができることに対して、もちろん物理的に大変な部分もありましたけど、2日間これだけのことをやらせてもらえることに対して、ある意味信頼してくれているのかなと思えたんです。チーム全員の力強さも感じましたし。
加東:『AVATAR』は演出に僕が外部から入ったことで、仕掛けている部分も多かったと思うんです。でも『Birth』は根本としてReoNaさんがあの場所で歌うことが全てだったから、そこに集まった皆さんはお客さんも含めて、確実にReoNaさんを信頼していたと思います。
ReoNa:そうか、責任重大ですね。
加東:『AVATAR』と比べて『Birth』はReoNaさんを集中して観る構成と作りになっているから、結構観終わった後の疲労感はありました。開放と収束というか、2つのライブの構成の軸が違うというか。
ReoNa:私も改めて映像を観てる時、息止まっている瞬間がありました。
加東:個人的に思い入れ深いパートや曲はありますか?
ReoNa:やっぱり「絶望年表」はどうしたって入ってくるかな。記憶に深く刻まれていますね。
加東:「絶望年表」から「決意の朝に」という流れは印象的でした。この日の「絶望年表」はすごく軽やかな印象で。
ReoNa:本当ですか。
加東:この曲はある部分ReoNaさんが自分のことを吐露している内容じゃないですか。聴いている僕らはどこまでがフィクションで、どこまでが本当のReoNaのことなのかが混ざっている。自分の過去を歌に落とし込むというのは重くしんどいと思うんですが、『Birth』の「絶望年表」はすごくポップネスだった。何かご自身の中で消化できたのかなと思ったんです。
ReoNa:それはあるかもしれないです。色々なところで「絶望年表」を歌ってきましたけど、2024年10月20日に歌った「絶望年表」はなんかちょっと違ったかもしれない。
加東:だから映像を見る時も「絶望年表」はかなり意識して見たんですけど、この日のReoNaさんは少しだけ微笑みながら「絶望年表」を歌えている。あれはずっとReoNaさんを見てきた身からすると、泣けちゃうんですよね。音楽が共にあるって、こういうことか、と。
ReoNa:今まで歩んできた人生が、あの日、あの瞬間、あの場所でステージ上に結実して、あの日の絶望が軽やかに感じられたのかもしれない。
加東:それはもうセットリストの妙でもあると思うんですよね。後、あの日あのタイミングで、ReoNaさんが胡座をかいてアコギをかき鳴らして歌ったということには意思があったと思っています。
ReoNa:具体的に言葉にせずとも、伝わる人にはきっと伝わるし、ライブって思いが頭のどこかにあるだけで、一言の言葉や、一粒の涙みたいな小さいことで全然変わっていくから。
加東:オブラートに包んだ言い方になってしまうけど、あのステージであのパフォーマンスを選ぶということが、本当に針の穴を通すくらい繊細なReoNaさんなりのリスペクトがあったと思ったんです。ReoNaさんのお歌を通じて、その向こう側を感じられるから、僕は感動したんです。
ReoNa:「絶望年表」みたいな曲を作って歌うということは、本来なら自分の心の誰にも触れさせたくない部分を、受け取ってほしい“お歌”として消化することだと思っていて。正直、私はデビューした当初は、クリエイティブに対するネガティブな側面を全然気にしていなかったんです。
加東:ネガティブな側面?
ReoNa:ずっと憧れていたお歌を歌えること、ずっと憧れていたアニメに携われる喜びが大きすぎて、その奥にある「感じてきたこと、過ごしてきた時間を言葉や歌にする」という、自分と向き合う苦しい瞬間があることに目を向けていなかった。
加東:いい部分だけ見ていたと言うか。
ReoNa:そうですね。何故この職業が“アーティスト”と呼ばれるのか。“シンガー”と何が違うのかとか、そういうのを19歳の私は一切気にしていなかったし、考えようともしていなかった。そこから色々な人から価値観を手渡されながら歩んできて、自分の思った感情を世界中に向けて吐露する苦しみも、それが素晴らしいものになった時の喜びも、誰かが共感してくれた時の安心も……そういうものを少しずつ知ってきたこの6年間でした。
加東:『Birth』のパフォーマンスはとても繊細で特別だった気がしていて。多分、今同じ場所で、同じお客さんが来て、同じセットリストを組んでも、多分あの空気は出ない。
ReoNa:出ないですよね。あれはあの日だけのなにか特別なものでした。それがパッケージングされていると思います。
■演者みんなが出し尽くした「私たちの讃歌」
加東:『Birth』って伝えたいメッセージがすごくあるライブでしたよね、行間を感じるライブと言うか。
ReoNa:そうですね。ライブ映像としてのリリースは3本目になるんですけど、これまでMCパートは結構削りぎみだったんです。MCは会場にいた人のための言葉だと思っていたので。だけどあの『AVATAR』と『Birth』は特別で。MCで紡がれた言葉も、ライブの音楽の一つだから残そうって言ってもらえて。
加東:そしてこの日のライブは「Till the End」から「私たちの讃歌」で幕を閉じます。もうこの流れしかない、というラストでした。
ReoNa:「私たちの讃歌」は、もう頭か最後か、いっそやらないか。「出会ってくれてありがとう」で終えたあの日から、それがお歌になったよと。
加東:ライブが終わった後、演者皆さんの出し尽くした感じがすごかったですね。
ReoNa:この二曲を続けて歌うというのは、物理的にはすごく大変で。「私たちの讃歌」って曲中で歌われる「ありがとう」の思いがいろんな方向に変わっていくんです。言葉をなぞるだけじゃなくて、ちゃんと気持ちごと切り替えて歌おうとすると、すごく頭も使うし、ライブだから余計集中力もいるんです。
加東:色々なシーンや思いがそのまま映像化されていますから、見て確かめてもらいたいですよね。
ReoNa:答え合わせじゃないですけど、『AVATAR』の方は日笠さんとオーディオコメンタリーをやらせて頂きましたし、そちらも是非チェックしてもらいたいです。
加東:最高のオーディオコメンタリーだと思いました。
ReoNa:本当に日笠さんと二人っきりで2時間おしゃべりしたんですけど、このオーディオコメンタリーも含めて3本入りみたいな感覚です。
加東:お二人のエンターテインメント、ものづくりの姿勢を聞けて、僕も勉強になりました。あと単純な見どころとして、2つのライブの「GG」は見比べてもらいたいと思いますね、本当に全然印象が違う。
ReoNa:『AVATAR』は日笠さんがいらっしゃいましたから、隣に並ばれたら……どうしても日笠さんを見ちゃいましたね(笑)。
加東:改めて今回の『AVATAR』と『Birth』は、ReoNaのアーティストとしての一つのポイントだと思うんです、武道館もそうでしたが、これが映像化されることで、今後進化していくReoNaさんも、なにかあったとしてもここに立ち戻れるというか。
ReoNa:そうですね。『SQUAD JAM』もかなり実験的でしたが、それは『AVATAR』があったからだし、『AVATAR』であれだけ色々仕掛けられたのも、『Birth』があるからだったし。本当に2つで一つの2日間だったと振り返っても思います。私の中ではなんだろうな……“全体攻撃の赤い炎”と“熱い単体攻撃の青い炎”みたいなライブだったんです。その違いも含めて、ReoNaとして紡いだ歌、神崎エルザ starring ReoNaとして、日笠さんと紡いだ時間を、あなたなりの受け取り方で楽しんでいただけたら嬉しいです。
インタビュー・文:加東岳史 構成:林信行
リリース情報
LIVE Blu-ray&DVD
『ReoNa ONE-MAN Concert "Birth 2024"』
『神崎エルザ starring ReoNa ✕ ReoNa Special Live "AVATAR 2024"』
https://reona.lnk.to/BirthAVATAR
▼完全生産限定盤
『Birth / AVATAR 2024 Complete Box』
【2BD+CD】¥15,400(税込) VVXL-240~243
※Birth2024のライブCD、フォトブック、豪華Box仕様、抽選プレゼント応募はがき封入
【2DVD+CD】¥15,400(税込) VVBL-214~217
※Birth2024のライブCD、フォトブック、豪華Box仕様、抽選プレゼント応募はがき封入
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『ReoNa ONE-MAN Concert "Birth 2024"』
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『神崎エルザ starring ReoNa ✕ ReoNa Special Live "AVATAR 2024"』
【BD】 ¥5,500(税込) VVXL-245 【DVD】 ¥5,500(税込) VVBL-219