青山 貴(バリトン)「ワーグナーの音楽の感動を皆様と分かち合えるよう全力を尽くします」

インタビュー
クラシック
2016.1.21
青山 貴(バリトン) Photo:福里幸夫

青山 貴(バリトン) Photo:福里幸夫

ワーグナーの音楽の感動を皆様と分かち合えるよう全力を尽くします

 バリトン、青山貴の芸術観には、厚くて深い「心の襞」が在る。豊かで滑らかな響きを駆使し、愛嬌あるキャラクターも古代の武将も力強く演じる実力派ながら、その物腰は常に控え目。来る3月に出演するワーグナーの大作《さまよえるオランダ人》についてじっくり語る姿からは、年齢を超える冷静さも見てとれた。
「今回は主役のオランダ人を歌わせていただきます。本当に光栄なことですが、40代に入ったばかりの自分がこの大役を演じるにはプレッシャーも感じています。3年前、指揮の沼尻さんから『《ワルキューレ》のヴォータン役を演りませんか?』とお話をいただいた時も、まさに青天の霹靂でした。その際は、せっかく選んで下さったのだから、出来る出来ないを言うよりも、気づいたら『走り出してしまった』のが正直なところです…。それだけに、今回の《オランダ人》で再び声をかけていただけたことが本当に嬉しく、前回を評価していただけたのだと思うと勇気づけられました」

 いまは、自分を育ててくれているマエストロへの感謝の心と、神奈川とびわ湖での公演を無事に歌い切りたいという思いで胸がいっぱい、だという。
 2012年東京二期会のヴェルディ《ナブッコ》などイタリア・オペラでの成功ぶりも記憶に新しい青山だが、2016年の今、ドイツ・オペラを歌うことへの想いはどのように湧き上がっているのだろうか?
「東京芸大の大学院を出てボローニャとミラノに2年ずつ留学しましたので、イタリアものへの愛着は勿論あります。でも、恩師の鈴木寛一先生が『バリトンなのだからドイツものもやってみるかい?』と導いて下さって、宗教曲を歌う機会も結構あったんですよ。それに、新国立劇場オペラ研修所での3年間は、それはいろんな言語のオペラを勉強しましたから、ドイツ語の演目にも関心を持ち続けていました。前回は高折續(たかおり つづく)先生に発音とイントネーションを磨くディクションのレッスンをお願いし、1日3時間ほど、何日間も、発音記号から音を捉えて母音の広さと長さをより明確にし、語尾の“R”をより鮮明に響かせるなど逐一ご指導いただきました。今回も先生にみっちり教わって歌を磨きたいです」

 さて、演じるオランダ人は欧州の伝説で非常に有名な「呪われた船乗り」だが、彼の内面についてはどのような解釈を?
「自分としては、何よりもまず、オランダ人が何故さまよい続けなければならないのか、そこが気になります。実のところ、彼が“神に赦されない身”になった理由も楽譜には書かれておらず、一体何をやってしまったのかと思わずにはいられません。また、音楽から滲み出るオランダ人の想いが“苦悩”の一言に尽きる点も興味深いものです。彼がずっと抱えてきた苦しみの深さを表すためにも、解釈を練り上げようと考えています。実は自分が一番好きなシーンも登場のアリア〈期限は切れた〉です。この場面で、7年に1回しか陸に上がることを許されないオランダ人の胸の内を全身で表現できればと願っています」

 ところで、オランダ人は後に、自分を愛で救おうとする娘ゼンタと運命的な「出会い」を果たす。
「このオペラで常に問題になるのは、最後にオランダ人がゼンタの愛によって本当に救済されるかどうかという点ですが、実は、演出家のミヒャエル・ハンペさんのコンセプトをまだうかがっていません。でも、2時間半も精一杯歌い続けての幕切れなので、出来れば救われて欲しいです!(笑) 3年前、《ワルキューレ》のヴォータンを全編歌い終えた後の感動は、言葉では言い表せないものでした。そういった達成感をお客様と共有できるのが、長大なワーグナーを歌う喜びでもあるのでしょう。今回の《オランダ人》でもその感動を皆様と分かち合えるよう、全力を尽くします」

取材・文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年2月号から)

 

びわ湖ホール・神奈川県民ホール・iichiko総合文化センター・東京二期会・
神奈川フィルハーモニー管弦楽団・京都市交響楽団・九州交響楽団 共同制作公演
ワーグナー:歌劇《さまよえるオランダ人》(新制作/全3幕・休憩なし)

 
■指揮:沼尻竜典(3/5、3/6、3/19、3/20) 大勝秀也(3/26)
■演出:ミヒャエル・ハンペ 装置・衣裳:ヘニング・フォン・ギールケ
■管弦楽:
・京都市交響楽団(3/5、3/6)
・神奈川フィルハーモニー管弦楽団(3/19、3/20)
・九州交響楽団(3/26)
■合唱:二期会合唱団、新国立劇場合唱団、藤原歌劇団合唱部
■出演
オランダ人:青山貴(3/5,3/20) ロバート・ボーク(3/6,3/19,3/26)
ダーラント:妻屋秀和(3/5,3/20) 斉木健詞(3/6,3/19,3/26)
ゼンタ:橋爪ゆか(3/5,3/20) 横山恵子(3/6,3/19,3/26)
エリック:福井敬(3/5,3/20,3/26) 樋口達哉(3/6,3/19)
マリー:小山由美(3/5,3/20) 竹本節子(3/6,3/19,3/26)
舵手:清水徹太郎(3/5,3/20) 高橋淳(3/6,3/19,3/26)

3/5(土)、3/6(日)各日14:00 びわ湖ホール 
■問合せ:びわ湖ホールチケットセンター077-523-7136 http://www.biwako-hall.or.jp

3/19(土)、3/20(日・祝)各日14:00 神奈川県民ホール 
■問合せ:チケットかながわ0570-015-415 http://www.kanagawa-arts.or.jp

3/26(土)14:00 iichiko総合文化センター iichikoグランシアタ 
■問合せ:iichiko総合文化センター097-533-4006 http://www.emo.or.jp
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