ammo、自身初のホールワンマンで叩きつけたオーバーグラウンドへの宣戦布告「ライブハウスでしかやってこれなかった俺らをぶん殴ってください」
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ammo『インマイライブ・クォーターライフ』2025.6.21(SAT)東京・Kanadevia Hall
「オーバーグラウンドを知らない、アンダーグラウンドにはなりたくない」「ライブハウスでしか輝けない、ライブバンドではいたくない」。2024年1月のメジャーデビュー以降、ammoの中心を貫いていたこんな思いをステートメントに掲げ、2025年6月21日(土)、彼らは自身初のホールワンマン『インマイライブ・クォーターライフ』を東京・Kanadevia Hallにて開催した。
暗転と同時に、3つの楽器が緑色を纏って浮かび上がる。いつもとは違うホールのステージに緊張感も漂う中、岡本優星(Vo,Gt)が鼻歌混じりにギターを鳴らし始め、張り詰めた空気を溶かしていく。ゆっくりと歌い出したオープニングナンバーは「箱の中から」だ。この開幕で思い出されるのは、4カ月前の自身最長ワンマンのこと。そう言えば、あの日もこの曲から始まった。しかし、その冬の日とは打って変わって、今宵はライブハウスのぎゅうぎゅうでパンパンな密度はない。だからこそ、浮かんだ月のように3人とフロアを照らすライティングが、人々の行きかう月下の街を出現させながら、ammoの音楽を独り占めしているみたいな感覚に浸らせていく。
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座席の隙間をすり抜けて、重厚感を保ったアンサンブルを容赦なく飛ばせば、「『インマイライブ・クォーターライフ』。人生の4分の1を終えてしまった男たちの挑戦の日。人生が100年だなんて分かんないでしょ。だから、明日死んだって良いって、そんなライブをしなきゃ駄目だと思っている。そんな3人」と「紫春」へ。<鮮血の赤も青春の青も似合わなくなってしまったな 気が付けば秋 木が痩せれば冬>のリリックに呼応して、赤から青、オレンジ、白へと移ろっていく照明も、大阪・心斎橋BRONZEや東京・高田馬場CLUB PHASEと根っこは変わらない。汗だくのライブハウスで目撃した演出が、特大の「ワン、ツー」を叫びまくったこの曲が、何倍も大きく、美しく進化している。それは「初めてのホールワンマン、目撃して帰れ」と披露した「ハート・フル」や「今日がバンドの最終回でも良いライブして帰ります」とプレイした「最後は繋がるわかれ道」も同じこと。メロディアスでありながら攻撃的な川原創馬(Ba,Cho)の演奏や、ガツンと耳を貫く硬質な北出大洋(Dr)のビートが研ぎ澄まされているゆえに、岡本の歌声も気持ち良さそうに泳いでいた。
川原創馬(Ba/Cho)
川原創馬(Ba/Cho)
「今日のために、たくさんの準備をしてきたんですけども、練習してきた期間の発表会をしにきたんじゃなくて、ライブをしにきたんで。一瞬も見逃さないでください!」と、フロアとステージのボーダーラインを打ち砕き、共に混ざり合っていくことを「馬鹿な人」で宣言すると、「Chill散る満ちる」からミドルスローの楽曲たちが名を連ねたブロックへ転がり込む。川原のコーラスワークを織り交ぜた軽妙な掛け合いがシンボリックな「意解けない」や「ナイタールーム」を経て、余白たっぷりに数音を鳴らした「コピーアンドテイスト」では、<鍵閉めて抱き締めて湿った手暗い部屋で 不快と臭いを少し紛らす苦いコーヒー>なんて6畳一間をしたためた一節が、会場に負けじとスケールアップを果たして手元に送られていく。丸みを帯びたサウンドスケープが大きな会場を一瞬でアパートの一室に変えてしまうから、お風呂あがりのシャンプーの匂いと溶けかけたアイスの甘い香り、隅に置かれたギター、そして火照った体温が容易に想像できるほど、岡本の歌声は隣から聴こえてきた。
岡本優星(Vo/Gt)
岡本優星(Vo/Gt)
「これからも挑戦は続けるし、伝説の始まりかは分からないけれど、“ammoの初ホールを見たんだぜ”って一生自慢してもらえるような120分をやりにきました」と「わかってる」でここまでの感傷的な時間をぶった切れば、「何がホールだよ。負けるかよ。ボーっと突っ立ってろよ。こっちが暴れてやるよ!」と「突風」から「包まれる」「星とオレンジ」で加速していく。と同時に、「ここで生きてる、君と生きてる」と叫んだ「わかってる」で、彼らが歌う恋はそのまま生へ転化しうるのだとハッとさせられた。考えてみると「愛魔性の女」を筆頭に、騙されて傷つけあった日々において、隠しきった純真な恋心を遊び混じりに吐き出すammoの楽曲は、膿んだ傷の匂いがする。たっぷりと時間をかけた中盤ブロックで、そんな生々しいラブソングを束ねてきたからこそ、「突風」で歌われる<僕は今 恋をしているんだ 生きてるんだ>の一行が重みを持って身体を打つ。不器用でも恋をして、ドキドキして、悔しくて泣いて、汗をかく。言葉にしてしまえばシンプルなそんな行為を全力で描き、そしてステージ上で体現しているから、ammoへ掲げられる拳は私と俺が生きているいつものハコと変わらない。
北出大洋(Dr)
北出大洋(Dr)
改めて放たれた「大阪、Orange Owl Records所属、ammoだ。よろしく!」の口上に導かれ、巨大なバックドロップが3人の背後に掲げられる。ここにきて、完全体のammoへと脱皮したところで岡本はこう言葉を吐く。「モッシュが、ダイブが無かったら、格好付かないようなバンド、やってきてないんだわ。“ammo頑張って、応援してるよ”なんて拳だったら、要らねぇんだよ。その拳で、ライブハウスでしかやってこれなかった俺らをぶん殴ってください。負けねぇよ。負けねぇよ。その拳でぶっ壊してくれ。積み上げてきたもん、全部ぶっ壊してくれ!」。このタイミングで彼らがホールワンマンに挑戦した意味を濃縮した一滴から、ドロップされたのは「フロントライン」だった。ライブハウスで戦うために彼らが初めて産み落としたナンバーで、<今日ここで 朽ち果ててしまっても 最後の姿を見ててくれないか 前線の風速を超える夜に>の数行と共に、オーバーグラウンドという前線へ向けた戦線布告を真っ向から叩きつけたのである。
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随分前から知っていたかのような、運命とも言い換えたくなる人との出会いを綴った新曲を経て、「本来は地元の歌ですけど、今日はこの場所への約束の歌にしようかなと思ってます」と投下された楽曲は「終わらないプレリュード」だ。<涙は今は見せないから 必ずここにまた帰るから 忘れないように なくさないように 歌っている 終わらない始まりの唄>という歌詞が、まさに今夜にふさわしくフロアを舞う。悔しさをバネにして、きちんと自分の足で立って、この舞台へと帰還すること。今夜が新たな始まりであり、ここからammoの冒険はまた始まっていくと前を向き直すこと。時に敗北を味わいながら次なるフェーズへと手をかけてきた彼らが、このナンバーを通して、ホールワンマンを経験値に変えていく。ともすれば、続けざまに「身体一つ、恐怖断つ。」をアクトした意味とは、3人にパワーを与えてくれたオーディエンスへの感謝を伝えるためだろう。前回のワンマンライブで、ロックバンドは音を鳴らすだけでは格好良くなれないと気づいたと叫んでいた彼らは、素直に感謝と愛を告げられるバンドに生まれ変わっていた。「今日はあなたの笑顔を見つけにきたよ」「愛してるよと歌いに来たんだぜ」と投げかけた言葉たちは、そんなammoの変化をありありと証明していたのだ。
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「優しい歌で終わります」と母への愛を綴った「ハニートースト」でゴールテープを切ると、アンコールでは「あの月にかかる雲のような」と「何℃でも」を披露。「また、会う日まで頑張るよ」と「歌種」「後日談」を置き土産に追加し、初めてのホールワンマンを終えた。幾度も岡本が語っていた通り、ammoにとって大きな挑戦となった『インマイライブ・クォーターライフ』東京公演。その挑戦にかけた思いとは、メジャーデビュー曲である「何℃でも」をライブのクライマックスに据えたことからも明らかなはず。カオスめいた客席を創造するのが難しい舞台で、熱量を損なうことなく、いかに音楽を聴かせることができるのか。そして、より多くの人の心を射抜くバンドになっていけるのか。そんな課題を自らに課し、現在地と相対した3人が向かう先は、大阪での野外ワンマン。ライブハウスであって、ライブハウスでないステージで、彼らは理想をリアルにしてくれることだろう。
取材・文=横堀つばさ 撮影=toya