「歌い継いでいきたい」Ms.OOJA、東京・明治座で昭和/平成の名曲をカバー『流しのOOJA総集編TOUR』ファイナル公演レポート
Ms.OOJA『流しのOOJA総集編 TOUR』2025.6.22(SUN)東京・明治座
今回、ツアータイトルに冠している『流しのOOJA』は、シンガーソングライターのMs.OOJAがライフワークとして取り組んでいる昭和および平成の歌謡曲、ポップス、シティポップのカバーアルバムのシリーズだ。これまで3枚のアルバムがリリースされている同シリーズからのベストセレクションをライブで届ける。そんなコンセプトで全国各地を回ってきた『流しのOOJA総集編TOUR』が6月22日(日)、5公演目となる東京・明治座でツアーファイナルを迎えた。
ファイナルの舞台が芝居や歌謡ショーが主に行われる老舗の劇場だなんて、会場選びにもこだわりが窺えるが、元々、『流しのOOJA』は2019年頃から、バーをはじめ、観客と近い距離でパフォーマンスを行ってきた“流し”と呼ぶライブから生まれたシリーズだったという。それが6年掛けて、1,300人キャパの大劇場での公演に繋がったのだから、「まさか明治座で歌わせてもらえる日が来るなんて思っていませんでした」と語ったMs.OOJAの感激は推して知るべし。
「ポップスの歌手としては初めてだという噂を聞いております。とても光栄です!」(Ms.OOJA)
ステージにはバーカウンターのセットが作られ、店の掃除を終えたバーのマスターが『流しのOOJA』と書かれた看板に明かりを灯すと、バンドメンバーとMs.OOJAがオンステージする。この日、Ms.OOJAを支えるのは田中義人(Gt)、大神田智彦(Ba)、木村創生(Dr)、呉服隆一(Key)、そしてバーのマスターも務める高嶋剛(Manipulator)の5人。ライブはエキゾチックなストリングスの旋律を同期で豪奢に鳴らして、「異邦人」(久保田早紀)でスタート(以下、曲名の括弧内はオリジナルアーティスト)。そこから名曲の数々を歌い継いでいく。コーナーごとにテーマを決めたセットリストが楽しい。
「ルビーの指環」(寺尾聰)、「ワインレッドの心」(安全地帯)、「恋人も濡れる街角」(中村雅俊)の3曲は男性シンガーによる、昭和の時代ならではの大人のラブソングと言えるだろう。サザンオールスターズの桑田佳祐が作詞・作曲を担当したことでも知られる「恋人も濡れる街角」では左右にステージを動きながら、Ms.OOJAは桑田らしいきわどい歌詞を歌声に込めたメランコリーで包んでみせる。
曲間を空けず、たたみかけるように繋げていった「真夜中のドア〜stay with me」(松原みき)、「プラスティック・ラブ」(竹内まりあ)、「みずいろの雨」(八神純子)の3曲は、昨今のシティポップ・ブームとともに再評価された女性シンガーによるヒットナンバーだ。『流しのOOJA』を作るキッカケになったという「真夜中のドア〜stay with me」はサビでカウンターメロディーを奏でるベースアレンジも含め、グルービーなベースプレイも聴きどころだった。サンバ×ディスコな曲調をDance Classic(ダンクラ)として再解釈したという「みずいろの雨」は前ノリの演奏を繰り広げるバンドと豊かな声量を見せつけるMs.OOJAのエネルギッシュなパフォーマンスに観客が拍手喝采。
その盛り上がりのまま、「そろそろ踊りたくなって来たんじゃないですか!? 明治座!」と「勝手にしやがれ」(沢田研二)に繋げ、ダンス&シンガロングコーナーに突入する。その「勝手にしやがれ」は音色を歪ませ、ブリジットミュートでソリッドに奏でたギターリフにびっくりさせられたが、確認したところ、原曲に忠実なアレンジだった。子供の頃から何度も耳にしながら、バックのアレンジまで意識したことはなかった。そんなちょっとした気づきの瞬間が幾度となくあったところも『流しのOOJA総集編TOUR』の聴きどころだったと思う。
そして、「六本木純情派」(荻野目洋子)から、「まだまだ行くよ!」と「飾りじゃないのよ涙は」(中森明菜)に繋げ、ホーンとともにスウィンギーなアレンジで、観客をまだまだ踊らせると、「真夜中のドア〜stay with me」同様に昨今のシティポップ・ブームの中で再評価された「フライディ・チャイナタウン」(泰葉)で第1部の最後を締めくくったのだが、演奏前にレッスンした振付を観客とともに楽しんだことで、劇場内には大きな一体感が生まれていた。
10分間の休憩を挟んで、幕が上がると、第1部のパンツルックからドレスに衣装替えしたMs.OOJAがすでにオンステージしているというオープニングに意表を突かれるように第2部がスタート。その1曲目に独特の浮遊感を持つメロディーを歌うのは難しいと言われている「Woman “Wの悲劇”より」(薬師丸ひろ子)を選んだのは、シンガーとしての矜持の表れか。しっとりと歌い上げるMs.OOJAのハイトーンボイスに観客がじっと耳を傾けている。そこから彼女が歌い継いでいったのは、第1部の後半の盛り上がりから一転、昭和のバラードの数々だった。
「恋におちて -Fall in love」(小林明子)、「駅」(中森明菜)、「メモリーグラス」(堀江淳)、「恋」(松山千春)。どれもが名曲ばかりだが、アコースティックギターとウッドベースのアンサンブルがそう思わせるのか、どことなくタンゴのようにも聴こえた「つぐない」(テレサ・テン)、ギターの裏打ちのカッティングをはじめ、大胆にレゲエにアレンジした「ダンシング・オールナイト」(もんた&ブラザーズ)、凛々しさを湛えた歌声に胸が熱くなった「青春の影」(チューリップ)など、より聴き応えがあったのはやはりMs.OOJA流を印象づけたカバーだった。因みにアイリッシュフォーキーな魅力もある「木枯らしに抱かれて」(小泉今日子)は、Ms.OOJAが子供の頃、歌好きの母親が車の中で掛けていたカセットテープのヒット曲集の中でも、特に好きな曲だったそうだ。
「1階席と3階席には立見のお客さんまでいらっしゃるという満員御礼で、この日を迎えられたことをうれしく思います。これからもたくさんご縁を繋いで歩んでいきたいです。日本には名曲がたくさんあります。まだまだ歌いたい曲があります。1人の歌い手として、名曲の一ファンとして、歌い継いでいきたいと思います」
感謝と今後の抱負を語ると、最後は「瑠璃色の地球」(松田聖子)と「さよならの向う側」(山口百恵)の2曲で包み込むような愛を謳いあげる。前者は真っ直ぐな歌唱で美しい歌声の魅力を印象づける。声量をめいっぱい使い、歌いあげた後者は絶唱という言葉がふさわしかった。そして、1980年10月5日のファイナルコンサートで「さよならの向う側」を歌い終えた山口百恵がそうしたようにMs.OOJAもマイクをステージ(この場合はバーカウンター)に置いたままステージを去っていった……と思わせ、観客の拍手に迎えられながら、再びオンステージ。
「以上で終わりになるんですけど、カバーを聴いていると、オリジナルも聴きたくなりませんか? これがいい曲なんですよ」と照れ笑いしながら、もう1曲、今年3月26日にリリースした10thアルバム『最終回』からアルバム表題曲を披露した。バラードと言える曲調ながら、高揚していくメロディーとともに言葉をたたみかけるように歌うサビが胸を打つ。『流しのOOJA総集編TOUR』なのだからカバー曲だけでまとめるという選択もあったと思うが、自身のオリジナル曲を1曲加えたことで、今日、歌い継いできた昭和の名曲の数々が、シンガーソングライターとしてのMs.OOJAの血となり肉となっていることを印象づけることができたのだから、「最終回」を加えた意味は大きい。
いつまでも鳴りやまない観客の拍手喝采はやがてスタンディングオベーションに変わった。
「うわー、ありがとう!」
ツアーファイナルの大団円を飾ったのは、満面の笑みを浮かべながら、Ms.OOJAが叫んだ快哉だった。
取材・文=山口智男 写真=オフィシャル提供(撮影:平野タカシ)
セットリスト
『流しのOOJA総集編 TOUR』
2025.6.22(SUN)東京・明治座
M1 異邦人
M2 ルビーの指環
M3 ワインレッドの心
M4 恋人も濡れる街角
M5 真夜中のドア
M6 プラスティック・ラブ
M7 みずいろの雨
M8 勝手にしやがれ
M9 六本木純情派
M10 飾りじゃないのよ涙は
M11 フライディ・チャイナタウン
M12 Woman
M13 恋におちて
M14 つぐない
M15 駅
M16 木枯しに抱かれて
M17 メモリーグラス
M18 ダンシング・オールナイト
M19 青春の影
M20 恋
M21 瑠璃色の地球
M22 さよならの向こ側
M23 最終回