アフロの『逢いたい、相対。』南海キャンディーズ山里亮太と語る、人生を「転職」する覚悟と「努力賞で生き残る」哲学「面白ければ絶対に売れる」
アフロ、山里亮太 撮影=大橋祐希
アフロの『逢いたい、相対。』第四十八回目のゲストは、南海キャンディーズの山里亮太。6月12日に実業之日本社より刊行された、アフロの最新エッセイ本『東京失格』の帯文を山里が担当したことから、今回の対談が実現した。アフロは、山里の芸人としての生き様や物事を見る視点に影響を受けているという。一方、山里もアフロの感情や思いを、言葉で表現する力を高く評価。そんな相思相愛の2人は、この対談で結婚観・仕事観・人生観などお互いの考えを語り合った。対談後、7月23、30日に放送された山里のラジオ番組『山里亮太の不毛な議論』でも今回の企画について触れており「(アフロと話す時間は)今の自分に必要だったんだな」と話していた──。
アフロ、山里亮太
「あ……俺、結婚してもいいのかな」と思った
アフロ:今回は『東京失格』の帯を書いていただいて、ありがとうございました。
山里亮太(以下、山里):こちらこそ参加させていただけて、ありがとう! 本の内容もすごく面白かった! やっぱり言葉のプロはすげえなと思った。
アフロ:俺と山里さんのプライベートでの交流は、いつかの一晩だけじゃないですか。にもかかわらず「帯を書いてください」とお願いしたら、快く受けてくださって。
山里:声をかけてもらえて嬉しかったし、帯の文章をお願いされるのはすごく光栄でさ。一生懸命作った大切な本に「いいの、俺で?」という感じだった。帯を書くことって、その本が面白いければ面白いほどプレッシャーなんだよ。実際、アフロくんの本は本当に面白かった。
アフロ:俺は山里さんの『天才はあきらめた』(※2006年に朝日新聞出版から発売された山里の著書『天才になりたい』を本人が全ページにわたり徹底的に大改稿と追記をして、文庫化した1冊)がすごく好きで。自己評価を下げながらカウンター打っていく構図は、山里さんの影響をすごく受けてるんですよね。
山里:オードリーの若ちゃん(若林正恭)には「マウントを取らせて下から関節を決める」と言われたね。
アフロ:俺も友達から「下からマウントを取るな」って言われました。
山里:不思議な言葉だよね。
アフロ:自分はどこでそれを勉強したんだろうと考えたら、山里さんの本とか生き様から学ばせてもらっていて。
山里:生き様と言ってくれたけど、アフロくんは「生きること」に対しての言葉をたくさん持ってるじゃん。「何をもって生きたらいいのか」「こんなことで挫けたらどうだ」とか、感情を言葉にする力がすごい。そんな人間がさ、俺みたいな奴の生き様が参考になるってどういうこと?
アフロ:まず、芸人さんの本懐である「人を笑わせる」ことって一番素敵な感情じゃないですか。そこに一直線で走っていく職業を選んだ人のことを、俺は聖職者だと思ってるんですよね。
山里:ハハハ、そうなの?
アフロ:音楽のライブはお客と一緒に歌ったり、泣いたり、踊ったり、笑ったり、いろんな感情の発露があるんです。場が静かになっても「俺が圧倒させちゃったな」みたいに勝手な解釈ができる。だけど実際は、ただただつまらないなと思って、突っ立ってるだけかもしれない。要は、自分の評価はこっちで決めていいんです。でも芸人さんは笑い声が聞こえるか否かという、0か100の価値観の中で戦っている。その逃げ場のない感じが潔いし、大きなリスペクトがあるんですよね。それと、俺は「持たざる者が手にしていく物語」が好きなんですよ。山里さんが今、『DayDay.』(※山里がMCを務めている日本テレビ系の情報番組)のMCをされている姿を見ると「手にしたんだな」と思って、ブルっとするんですよね。
山里:そっか。妬み嫉みの恨みつらみでずっと戦ってきて、何もないところから始まった人間が「朝のあんなところにいるなんて」というね。
アフロ:そう。2004年に初めて『M-1』の決勝に出た山里さんからは、今の仕事ぶりは想像できなかったっすね。
山里:うんうん、そうだよね。
アフロ
アフロ:その話から繋げると、俺は自分がちょっとずつ転職していってる感覚があるんです。まずは、何も持ってない人間から始まった。そして先輩のことを悪く言ってでも、誰かを蹴落としてでも、自分が座る椅子を最初に作らなきゃいけなかった。そこから、ちょっとずつみんなに「いいぞいいぞ」と言ってもらえるようになり、それに対しての感謝を歌っていくようになった。これって、俺の中では気持ちが変わったというよりも、転職してる感覚なんです。その旅の距離が長ければ長いほど、俺はすごく魅力的だなと思う。最初にやっていたことから離れれば離れるほど、旅の距離が伸びていき、いろんな景色を見て、そのたびに自分を変えてチューニングしていった。一方で、昔から好きだと言ってくれていた人は「前の方がよかった」と言う。それを乗り越えていって、少しずついろんなことが分かるようになりました。
山里:転職という言葉は、俺にもすごく当てはまると思っていて。最初は人に悪態をつく・嫌なことを言う「嫉妬芸」でずっとやってきて。そんな人間が結婚する時、マジで大きな転職だったと思うんだよね。『ドラクエ』(『ドラゴンクエスト』)と一緒で、全パラメータが1回ゼロになるのがあの瞬間、目の前に現れた選択肢の分かれ道だったからさ。
アフロ:俺、周りの人から「子供ができたら曲が書けるよ」と言われることがあるんですよ。「曲が書けるなら、じゃあ……」という考えが一瞬チラついたけど、それって人生の大イベントが芸に飲み込まれてるよな、と思うんです。
山里:芸のために、ってことね。
アフロ:それと同時に、もし結婚して父親になり、幸せな過程を築いたら俺の職業は成り立たなくなるんじゃないか、という考えがよぎったこともあるんです。
山里:俺もめちゃくちゃよぎった。家庭を築いたら「自分が持っている1番の武器の効果がなくなって、ウケなくなるんじゃないか」と悩んだことがあって。そんな時に背中を押してくれたのが、ラジオ(『水曜JUNK 山里亮太の不毛な議論』)のリスナーさん。その子は下積みをずっと頑張ってきて「ようやく自分のお店を持てることになったんですよ」と連絡をくれたんだよね。その子のお店に行った時、「リスナーは山里さんの不幸だけを笑ってるわけじゃないですよ。幸せになってもいいんですよ」と言ってくれて。それで、「あ……俺、結婚してもいいのかな」と思った。自分は仕事重視で生きていくとずっと決めていたから、そんな考えが芽生えるとは思ってなかったけど。それこそ『ドラクエ』と一緒で、戦士から魔法使いになったら体力が無くなるかもしれないけど、魔法とかできる引き出しを増やして、この新しい人生を活かしていけるだろうと。「無くなるんじゃないか?」じゃなくて「どう進化させようか」と考えられてる 。
アフロ:お子さんが産まれてからはどうですか?
山里:俺は「自分のことが大好き」でずっと生きてきて。子供がいる今も、自分のことが好きなんだよね。ただ、自分以上に子供が好き。月並みだけど、子供がいるとできることが増えるんだよ。やらないと言ったことを「子供のため」というブーストで超えられることがいっぱいあってさ。とにかくすごい存在だと思うね。
アフロ:家に帰ってから、山里さんもお子さんの面倒を見ます?
山里:見れる時はもちろん見る。完全に子供のファンだからさ。
アフロ:それはいいっすね!
山里:俺も奥さんもウチの子のガチオタ。ずっと笑ってるよ。
「この武器を使えるのは今日で最後か……さよなら!」
山里亮太
アフロ:そんな山里さんとは、深夜の音楽番組(『プレミアムMelodiX!』)で初めて会ったんですよね。我々はブサイク軍として「俺たちみたいなモテない奴はさ!」と、相方のUKにあーだこーだ言いながら「俺は今、山里さんと同盟を組んでるぞ!」と嬉しかったんですよ。
山里:(苦笑いをしながら)いやいや、申し訳ないよ。覚えてるよ。
アフロ:その翌日ですよ!
山里:そうなのよ!
アフロ:山里亮太の結婚報道が出てさ。俺、ビックリしたんだから。
山里:アレは人として酷いよね。
アフロ:でも、貴重な瞬間に立ち会えたと思って、めっちゃ嬉しかったです。
山里:あの日、『プレミアムMelodiX!』でアフロくんと会ったのが……。
アフロ;山里さんと会ったのが……。
アフロ・山里:(独身)最後の日!
アフロ:それはめっちゃ嬉しい。
山里:あ、思い出した! その収録が終わった日に、アレを出しに行ってるんだよ。
アフロ:婚姻届?
山里:そう!
アフロ:これは泣けるよ!
山里:「俺たちブサイク同盟として頑張ろうぜ」と言った日の夜に婚姻届を出してる。タチが悪いよね、そう考えると(笑)。収録終わりにさ、奥さんが当時住んでいた家にマネージャーを含めて全員で集合して、みんなで区役所に向かったんだ。
アフロ:結婚を知った後、SNSで「おいおいおい!」と投稿したら、山里さんが「いいね」をしてくれて。これ、お詫びの「いいね」だなと思いました。
山里:あの時は「ごめん、俺は結婚するんだ」というアフロくんに対しての申し訳ない気持ちと、自分が振った剣の立ち筋の綺麗さ見て「この武器を使えるのは今日で最後か……さよなら!」と思ったんだよね。
「凡人」の自分をずっと無視していた
アフロ、山里亮太
アフロ:そもそも山里さんは、自分は天才だと思って、お笑いの世界に入ったわけじゃないですか。そこから「天才じゃないんだ」と気づくところが最初の転職ですよね? 『天才はあきらめた』の中で千鳥さんや笑い飯さんにボロクソ言われて、山里さんが「俺はどうしたら、ああいうネタができるんですか?」と聞きに行くエピソード(※『バッファロー吾郎・笑い飯・千鳥との出会い』より)がありますけど、どうしてボロクソ言われてるにもかかわらず、素直に聞きに行くことができたんですか?
山里:自分は天才だと思ってお笑いの世界に飛び込んだけど、昔から持っていた「何者かになりたいと思ってる自分って、結局は凡人なんだよな」という気持ちや、心の奥底で「自分は天才じゃないんだ」と気づいてる小さいシコりがあった。それを見ないようにするために、人から「こいつ面白いな」と思ってもらえるための変わった行動をすることで、奥底に眠る「何者かになりたい」と思った「凡人の自分」を無視していた。ただ、そんなことを思わずとも、息をするように面白いことができる人たちを目の前にしたら、隠していた自分がどんどん育っていって。俺は対等じゃないんだ、と気づいたんですよ。こんな化け物だらけの世界で生きてるのに、なぜ自分も化け物だと思っていたんだろうと。そこから自分の中でずっと無視していた「凡人くん」が完全に育ち上がった。じゃあ、どうしようと思ったら「天才のやってることを学ぶしかない」と。なぜなら、この人たちのやってることが凡人の引き出しにはないから。天才が呼吸するように普通にやってることを必死で真似して、天才を気取ろうと思ったの。そのためには本人に聞くしかない。あと、その前から2組がライブで俺のことを「つまらない」と言っていたのは知っていたんだよね。
アフロ:それは本心で言ってるんですか?
山里:多少、ネタでもあったとは思う。面白くないものの象徴として「それ、足軽エンペラー(※NSC時代に山里が組んでいたコンビ)やん」と言うノリを、チームみんなでやっていたんだよね。スベッてつまらない人がいたら「そんなことを言ってたら、足軽エンペラーに追いつかれるぞ」みたいな。それを言うと、ライブのお客さんが笑う。その光景を袖から見た時に「こりゃあひでえ!」と震えたよね。養成所にも面白い人はいっぱいいるし、とにかく自分は「変わってる」と思われたい一心だった。一本歯の下駄を履いて大学に行ってさ、別に履きたいわけでもないけど、面白くない自分の補填の仕方が分からなくて無理してやっていたね。とうとう、どうするべきか分からなくなり「天才に直接聞こう」と思った。「どうしたらそんな面白いことできるんですか? 僕は皆さんの言う通り、面白いことがやりたくてもできないです。だから教えてください」と言ってね。
アフロ:その後はどうなったんですか?
山里:そこから酒を飲みに行くようになった。あの人たちがすごいのは、凡人の面白い部分を見つけるのが早いんですよ。特に、俺が言うことを笑ってくれたのが笑い飯の哲夫さん。「どこを笑ってくれたのかな?」と思い出してみたら「あ……言葉だ!」と気づいた。「お前、辞書が歩いてるみたいやのう!」とゲラゲラ笑ってくれたから、俺がこの天才たちに面白いと思ってもらうためには、言葉数を増やせばもう少し認められるはずだと。何か言い返す時には「なんでですか?」じゃなくて、「なんで?」というセンテンスを2回展開させた言葉を、次回の「なんで?」と思った時に言おうと決めて。それをずっと繰り返していたら「おい、辞書!」と呼ばれるようになった。哲夫さんは俺が言った返しを、すごく楽しそうに大悟さんに説明してくれてね。「こいつ、この前こんなことがあってな。その時に言ったのは、何やったっけ?」と。
アフロ:パスをしてくれるようになったんですね。
山里:特に嬉しかったのは、哲夫さんとケンコバさん(ケンドーコバヤシ)とバッファロー吾郎A先生とくっきー!さんの4人が、何年間も褒めてくれた言葉があって。大喜利が全然ダメだった時に、A先生が「どうした!?」と声をかけてくれ。「いやぁ、紐解いたら今日一つも面白いことを言ってないんですよ」と普通に思ったことを言ったら、袖で哲夫さんが「なんやねん! 紐解いたら1つも面白くないって!」とゲラゲラ笑ってくれて。そしたらケンコバさんとかくっきー!さんが、それを真似しながらずっと笑っていて。「お前、オモロいなあ!」となったんだよね。「副詞とか形容詞をちょっと足しただけで、この天才たちが笑ってくれるんだ」と感動した日のことは今もハッキリと覚えてる。
“毎朝本番がある生放送”に身を置くことが、天才たちと同じ世界で生きていく術だと思った
山里亮太
アフロ:『DayDay.』は芸人さんのスイッチとは、またちょっと違いますよね。
山里:そうだね。「これもできなかった」「あれもダメだったな」と小さい絶望の繰り返しで、芸人の時よりもデカいダメージを受けながら日々過ごしてる。考えてもしょうがないんだけど「加藤(浩次)さんだったら、もっと切り込んでいたな」とか「自分の大好きな伊集院(光)さんだったら、この尺でハッとするようなことを2つくらい言ってるだろうな」と思っちゃう。
アフロ:俺から見たら、山里さんも凄まじいですよ。芸人さんの一番羨ましいところですけど、すべっても次の日にはそれが武器になるじゃないですか? それが芸人さんの代々受け継がれたお宝なのに、朝の情報番組はそれを封印するってことですよね。そこでのミスは笑いにはならないから。
山里:人の命が関わってることもあるし、傷ついた人がいるような話題を扱う場合もあるから、それを笑いにしちゃいけなくて。あとは、「情報番組のMCをやってる人間」という1つの側がつくことによって、ほかのバラエティで使えない武器もたくさん出てくるね。
アフロ:『DayDay.』のMCを受けたのは、どうしてだったんですか?
山里:2012年からオードリーの若ちゃんと『たりないふたり』(※山里と若林のユニット名であり、ライブと番組連動の先駆け)をやっていて。回を重ねるうちに「ボケでこの男には敵わない」と思う瞬間がどんどん出てくるようなった。例えば、漫才のネタを出し合いながら「ここで俺がバーってボケて、若ちゃんはここでボケてもらって……」と細かく構成を練って台本を書き上げてる途中で、若ちゃんが宙を見て「俺がトラックになるから、山ちゃんのことを轢いていい?」と急に言うわけよ。「え、何それ? まあ……わかった」「あとさ、その後にモンゴルに行って2人で馬に乗りながら、山ちゃんが隣の馬に飛び乗って、そのまま転がり落ちるのはどう?」みたいなことを急に言うの。「何言ってんだろう? ワケが分からない」と思ったんだけど、それを舞台でやると、どっかんどっかん笑いが起きてさ。発想とかボケで圧倒的に敵わない人間を真横で見て、上にもそういう人はいっぱいいるし「これはいかんな」となって自信が全部なくなった。そんな時に考えたんだよね──世の中にはゲラゲラ笑わせる面白いもあるけど、人の興味を誘ってワクワクさせる面白いもあるよなと。その最高峰に古舘伊知郎さんがいて、優劣じゃないけど俺は若ちゃんとか大悟さんとか、もっと言えば松本(人志)さんとか、ああいうド天才のように自分を作り上げていくことができないと分かった今、「伝えるという面白いだったら、努力次第で行けるぞ」と。自分が伝えることの最高峰へ行くには、「毎朝本番がある生放送」という伝える上で第1位の場所に身を置くことが、きっとこの人たちと同じ世界で生きていく術なんだと。自分にはそっちの道しかないなと。それで若ちゃんに「あなたのおかげで、オモシロ一本を諦めることができました。俺は生放送の情報番組に行きます」と言ったんだよね。
「MOROHAの活動を止めたい」と言われて、どこかで安心した自分がいた
アフロ
アフロ:情報番組をやる上で、朝起きて新聞をくまなく読んで……とかをするわけじゃないですか。もともと興味があるかどうか分からないですけど、俺だったら苦痛なんですね。新聞を読む習慣もないし、書かれている言葉も分からないから、いちいち単語の意味を調べるのはしんどいと思うんですよ。何を一番の目標地点にしていて、それができるんですか?
山里:矛盾するかもしれないけど、やっぱりみんなから面白いと思われたい。「面白い」と言ってくれる人がいる場所に、ずっといたいだけなんだよね。だから伝える技術を磨くとか、ライブをずっとやることもできてる。そうやって80歳ぐらいまでは、笑い声の先にいたい。
アフロ:そっか、一番の根元に帰るんですね。
山里:そう。天才になることは諦めてるけど、「面白くなりたい」でずっとこの世界にいる。
アフロ:俺はこれまでMOROHAとして音楽をやってきて、2024年末に活動休止したんですね。それから半年が経ち、いろんな状況が変わる中、俺の根元がなんだったのか分からなくなっていて。これまでは怒りとか、自分を認めてくれない状況に対しての憤りを曲にしていった。そしたら少しずつ「いい」と言ってくれる人が増えて、自分の中にあった怒りが徐々にとけていった。でも怒りがとけちゃったら、俺は次の曲が作れなくなっちゃうと思って、次の怒りを探しに行く。必死に怒りを探し、なんとか新しい曲を書いていたものの「生き方としては変だよな」とうっすら思っていたんですよ。でも、これで飯が食えてるし、みんなに喜んでもらえてるから、自分も達成感を感じながらやっていた。そんな中、UKから「引き出しを出し尽くしちゃったから、MOROHAの活動を止めたい」と言われて。俺は「飯も食えるし必要とされてるし、なんでだよ」という気持ちがありつつ、「やっと、この変な生き方から解放されるのか……」と安心した自分もいたんですよ。じゃあ1人になって何をやろうかなと考えて、今は怒りじゃないところ──自分の人生ではないことを歌ったり、人の人生のことを歌ったりとか、いろいろ曲を作っているんですけど「果たして、これでよかったんだっけな」と迷いは今もある。「もうちょっと、怒りを歌った方がいいんじゃない?」みたいに後ろ髪を引くもう1人の俺がいて。それはやりたいこととして、後ろ髪を引っ張られてるのか、それともそっちの方がみんなに喜んでもらえると思うから引っ張られてるのか? それがよく分からないんですよね。
山里:自分の話になるけど、時には昔の武器で戦いたくなることがあるんだよね。それで、奇跡的に昔の武器を今のアレンジとして昇華できた時に、これが次のバージョンなのかもと思うことがある。ふわっと急に復活するから、全部なくなったわけじゃないんだなと。思うのが、アフロくんは自分の想いに温度を乗せて人に届ける能力がすごいじゃない? 怒り以外の紡がれた言葉も面白いから、俺はもっといろんな曲を聴きたいし、それを出せる人じゃないかと思うけど……そうじゃないのかな?
アフロ:自分に自信がないんでしょうね。
山里:俺も「自分に自信がない」と強く思っているんだけど、でも自信がない人って世の中には山ほどいて。これほど言語能力が高いアフロくんだったら、今持っている感情を出すだけで、それがすごい作品になるはずだよ。出すものが全て作品になる人間だと、俺は思ってるから。そんな人が「怒り以外が」と言ってることに、「そうなんだ!」とビックリしてる。
アフロ:その言葉に癒されてます、今。
俺は「凡人が勝てる時代で良かった」と思う
アフロ、山里亮太
アフロ:もしも、高校を卒業したばかりの18歳の芸人さんが現れて、「売れたいんですけど、どうしたらいいですか?」と言ってきたらなんて答えます?
山里:「努力賞である程度までは行けるぞ」と言うかな。
アフロ:ああ、めっちゃ芯を食った言葉ですね……。俺はね、恵まれた時代に音楽をやってると思うんですよ。きっと、昔の音楽業界は天才しか売れなかった。一般社会では生きていけないけど、歌だけはとてつもなく素晴らしいから、その人を周りがどうにか盛り立ててスターにしていったと思うんです。でも、今はマジでやばい奴って世に出られない。それは文化・芸術の分野において「大きな損失だ」と言う人たちがいるんですけど、俺は「凡人が勝てる時代で良かった」と思うんですよ。俺が「アート」という言葉をなるべく使いたくないのは、俺自身がアートをダメにする1人だと思っているからなんです。それはなぜかと言うと、宣伝を一生懸命やるとか、上手く立ち回ってどうにか自分が輝く場所に立ちたいと考えてるから。きっと、尾崎豊はフライヤーを配ってなかったはず。でも、俺はフライヤーを配るとか、音楽以外のところでどうにかしようというバイタリティでやってきた。そんな自分が、音楽業界の椅子の一つを取ってる。これはアート・芸術の話で言ったら、損失になってる気がするんです。山里さんの言った「努力賞」は、「俺がやってきたことと同じ意味なのかな」と思って嬉しくなりました。
山里:本当にそれだね。努力賞である程度までは行けるから、その後も努力賞を取り続けられれば、それだけこの世界にいられる。「努力賞だけは才能に関係なく、ずっと狙っていけるから」というのは、ずっと言ってる。
アフロ:「努力賞」という言葉が、今キラキラして見えました。正直、一番ダサい賞ではあるじゃないですか。
山里:一番ダサいし、本当は一番悲しい賞なんだよね。そりゃあさ、最優秀なんとか賞を獲ってる人たちの方がカッコいいけど、努力賞だけは誰でも狙っていい賞だから。ついに凡人に優しい時代が来たよね。
アフロ:あと、才能の種類も増えましたよね。
山里:そうだろうね。教科書もたくさん増えて、どの教科書を選ぶかという繊細な心も育っていってる。賞レースを見ていても「マジでこの世代じゃなくて良かった」と思うことばっかりだもん。
アフロ:それこそ『ABCお笑いグランプリ』のMCは、すごく緊張するんじゃないですか?
山里:うん、人生が変わる瞬間の進行役だからね。
アフロ:今年の『ABCお笑いグランプリ』はエバースが優勝して、ワーっと盛り上がっている時に、周りの芸人さんが最後の歓喜の瞬間すらも、自分の爪跡を残そうとされていましたよね。そこにすごく感動したんですよ。エバースに対して「おめでとう」でいいのに、それでも必死に何かを残しにいく姿を見て「俺もそうするだろうな」という気持ちと、「ここはエバースの時間にしてあげてもいいのにな」って思いがガッチャンコした。その光景を一番近くで見てる時って、どんな気持ちでした?
山里:それで言うと、金魚番長の古市(勇介)が最後に何か言う顔をしていたんだよね。アフロくんと同じく「俺でもそうするだろうな」と思うのと、「いや、ここはエバースの顔を立ててあげてよ」という気持ちもあった。ただ「ここは立ててあげてよ」って、ものすごく正当な理由じゃない? 確かに、エバースの時間なんだから。でも、それってエバース以外には何も生まれないと考えたら、やっぱり古市の行動は正解だったと思う。で、俺はMCとして古市を止めるんじゃなくて、最後のエバースの時間を作れば彼らも良しとするだろうなって考えたの。それで1回ひとくだりをやってから「今はエバースのために時間をちょうだいね」と選択肢を選んだ。
アフロ:それを即座に計算したのか。いや、改めてすごい仕事ですね。
山里:賞レースのMCとして、若手と絡ませてもらえるのは光栄なことだからね。
アフロ:俺も「ここは立たせてあげてよ」の気持ちが出たんですけど、そう思う自分が嫌でした。
山里:あぁ、それはあるね。
アフロ:そっちの大人な目線が年々強くなっている気がしてて。そんな自分がちょっとな、と。
山里:俺もそう。真っ当な理由がたくさん出るようになってきたんだよね。年齢を重ねるたびに、それに従う確率がどんどん上がってきてると思う。
アフロ:「正義の言い訳」って言うんですよね、それ。
山里:それだね! 今と違って、昔の自分はちゃんと怒られていたもんな。『にじいろジーン』という番組があって。総合司会には、ぐっさん(山口智充)やベッキーがいて、俺はワンコーナーを持たせてもらっていた。番組中はベッキーが何か喋る度に、例えツッコミをバンバン入れていったの。でも、みんなが全然笑わなくて。「ベッキーが立ってる時に、山ちゃんが立っちゃダメだよ」と怒られても「いや、テレビを観てる人は俺のワードで笑うでしょ」と思っていた時期があってさ。今は注意してくれた人の気持ちも分かる。でも、それってどうなんだろうな、と思う自分もいるんだよね。『M-1』でよゐこの有野(晋也)さんの仰ったことが忘れられなくてさ。「売れたいの?」と聞かれて「それはそうですよ!」「だったら、ネタの前後が大事だよ。ネタで成功したからオッケーだと思って、その後は普通に受け答えをするんだったら、結局そこまでの芸人。ウケようがスベろうが、ネタの前後で爪跡を残してやろうと思って、その爪を準備して本番でちゃんと引っ掻くことできる人が、このテレビの世界でずっと残ってる人間だよ」と。そう思うと、古市の言動はダメじゃないんだよね。
アフロ:俺はMOROHAの活動休止を機に、「またゼロから始めるんだ」と思ったんですけど、ありがたいことにこの連載も続いていて、助けようとしてくれる人もいて。どうしたってゼロになれないことが、半年経ってようやく思い知り始めた。でも、やっぱりもがいてみたいと思うんですよ。だからね「金魚番長のハートは俺にもあるぞ」というか、山里さんに今日は一発かまさなきゃいけないと思いまして。スピーカーを持ってきたんですけど、1曲だけ山里さんに聴いてもらいたいんです。芸人さんのことを歌った曲なんですけど、歌ってもいいですか?
山里:うん、聴かせて!
アフロ:(準備して)じゃあ、いきます! ……「サンパチ」って曲です。
(スピーカーからピアノの音を流して、アフロは山里の目の前で歌った)
アフロ
アフロ:……ありがとうございます。はあ、緊張した!
山里:めっちゃくっちゃいいよ!
アフロ:めっちゃいいでしょ!
山里:すげえの出るじゃん! なんかさ、南海キャンディーズでもがいていた頃とか、前のコンビでもがいてた頃とか、その場のシチュエーションによって聴こえ方が違うのかなって思いつつ、同じところがずっとざわざわしてた。すげえよ! これさ、刺さりすぎて生き絶える芸人がでると思う。この歌を聴いて「前に進める!」という芸人もいれば、この歌を聴いて泣きながら去って行く奴もいるかもしれない。それぐらい、力のある歌だったわ。
アフロ:照れで「いいでしょ!」と言いましたけど、内心はめちゃくちゃ不安で。芸人さんはすごい職業だと思っているから、「分かったようなことを書くのもな」と思ったりもしたし、「外堀のドラマチックな部分を描こうとしている」と怒られる覚悟もありました。
山里:全然そんなことないよ。今の歌を聴いて、芸人として過ごした全シーンが蘇った。大阪時代に全然お金がないからダンボールを机の代わりしてた時、大悟さんが買ってくれたぬるいチューハイを置いてみんなで飲んで。その時に俺らは「大悟組」と言って、ダイアンの津田(篤宏)もいたし、とろサーモンの久保田(かずのぶ)とか、みんながいて。全員でオーディションの帰りに俺の家で飲んでさ、「大悟さんが天下を取ったら、俺たちが支えますから!」と言っていた。途中で芸人を辞めていった奴もいた。それこそ結婚して辞めた人、「家業を継ぐわ」と言った奴もいたし……これまでの画が頭の中で綺麗にバンバン入ってきたから、この歌はすげえと思った。
アフロ:その感想を聞くために、俺はこの曲を作ったかもしれない。
山里:何かで聴けるの?
アフロ:まだ配信してなくて。大事に作った曲なので、ちゃんといい形で公開したいんです。(※7月31日放送のラジオ『山里亮太の不毛な議論』で「サンパチ」が流れた)。
面白ければ絶対に売れる
アフロ、山里亮太
アフロ:今や、売れていない時代に掲げていた大悟組の夢が叶ったわけじゃないですか。それを最初に思った瞬間は、いつだったんですか?
山里:大悟さんがど真ん中でゴールデン番組をやって、その右腕左腕を俺たちで固める夢があるんだけど、まだそれは形になってないんだよ。確かに千鳥さんは天下を取ってる感じだけど、あの頃に喋っていた天下ではまだなくて。
アフロ:それだけ当時に描いていたものは、バカデカかったということなんですね。
山里:バカデカかったし、あの頃は若くて「この夢は叶うだろう」と思いながらずっといたから、結構無茶なイメージでもあった。当時はみんなで「結局この世界は面白い奴が売れるから」と代々受け継がれてる言葉を言って慰め合っていたね。
アフロ:やっぱり面白ければ売れますか?
山里:面白ければ絶対に売れる。これは本当。よく松本さんも仰っていたな。「面白ければ売れる。人によって時間がかかるとか、いろいろあるけど。でも、必ず面白い奴は売れる」と。俺は面白くなるために、とにかく頑張るしかない。
アフロ:努力するしかないんだと。
山里:努力で勝ち取った、面白いで売れる。
アフロ:すごい世界ですね。
山里:いや、アフロくんこそすごいよ。俺の中にも劣等感があるものの、アフロくんとは言葉の重みが違うよ。感情の乗り方とか文字の一言一言もそう。俺はどこかペラいの。それは、自分の悔しいところでもある。今日も喋りながら思うもん。なんて(アフロくんは)熱量を込めて喋る人なんだろうって。本当に心から出て言葉を言う人って、こんなに素敵なんだ、と何回も打ちのめされながら、今この時間を過ごしている。アフロくんはそのつもりはないと思うけど、その差を散々見せつけられた。「文字に炎を灯せていいな」と思っていたら、後半の「サンパチ」で一番熱いものを見てもう完敗よ! これが表現するってことか、と。こういうシチュエーションのおかげで「自分は情報番組とか伝えることのプロになる」と再確認する機会になってる。
アフロ:確かに、音楽ライブを見た時の瞬間の衝撃ってすごいと思います。だけどお笑いには晩御飯を食べながらのバラエティとか、仕事中にかかっているラジオとか、音楽よりも広く長く日常に恩恵を与えてくれている気がするんです。
右足は情報番組で、左足は深夜ラジオとライブ
山里亮太
アフロ:『不毛な議論』と『DayDay.』は完全に分けられたチャンネルですよね。別の人格をセットする感覚でやっているんですか?
山里:情報番組のMCをするのとは別で、「お笑い芸人です、と分かってもらえるようなことがしたい」と思いながらやっているのがラジオ。芸人としての最後の鎧というか、盾な感じがする。「守りに入ってつまらなくなった」「加藤浩次だったら、もっと戦ってくれていた」という言葉たちを跳ね返してくれるのは、ラジオとライブしかない。そのレベルがまだまだ足りないから、グラついてる。
アフロ:その立ち方がすごいですけどね。右足は情報番組で、左足は深夜ラジオとライブって。これができてること自体が奇跡。
山里:それをやれてることを、いつの間にか合格点にしてる。そんな自分に、最近よく気づくんだよね。
アフロ:めちゃくちゃ自分に厳しいですね。「よっしゃー!」って時はないですか?
山里:時々あるよ。でも……少ないかな?
アフロ:最近の「よっしゃー!」を教えてくださいよ。
山里:うーん……なんだろう? ライブの新ネタがハマったのが最近の「よっしゃー!」。だけど、テレビとかラジオではないかな。
アフロ:それにしたってライブの新ネタを書いて、朝の番組をやって、夜はラジオで喋ってるんですよね?
山里:ライブは十数年間ずっとやっていて、それが芸人としての生命維持装置になってる。毎回お客さんには「今日、僕の芸人免許の更新をさせてくれてありがとうございます」と言ってるね。
アフロ:いい言葉ですね。
山里:お客さんが笑ってくれて「楽しかった!」と言ってくれることで、「明日の朝も元気よく『DayDay.』の司会を全うできます」と話してる。
アフロ:いや、すごいっすよ! そうやって怪物が出来上がるんでしょうね。
山里:いやいや、全然だよ。
アフロ:いないんじゃないですか? その道を行ってる人は。
山里:なれたらいいんだけどね、怪物に。一生懸命にペタペタ作ってるんだよ、外側の怪物っぽいやつを。
アフロ、山里亮太
取材・文=真貝聡 撮影=大橋祐希