心躍る、技術者たちの秘密の夜会に潜入『魔改造の夜 THE MUSEUM』初日レポート

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16:30
『魔改造の夜 THE MUSEUM』会場の様子

『魔改造の夜 THE MUSEUM』会場の様子

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『魔改造の夜』というTV番組をご存知だろうか。2020年のNHKの特番からスタートして以来、好評に応える形でシリーズ化したモノづくり系エンタメ番組である。毎回、大手企業から気鋭の町工場、理系の大学や高専生がチームで参戦し、誰にとっても身近な家電やおもちゃに“魔改造”を施し、その性能を競うという趣向だ。番組の定義によれば“魔改造”とは「おもちゃや家電のリミッターを外し、えげつないモンスターに改造する行為」だという。例を挙げるなら、記念すべき第一回のお題は「ポップアップトースターで食パンをどこまで天高く上空に飛ばせるか」と「おもちゃのワンちゃんを凄まじい速さに改造しての25m疾走レース」だった。

より速く、より高く……。目的のために技術者たちが知恵を絞り、全力で改造に取り組む姿はそれだけで感動的だし、「夜会(お披露目となる収録日)」に解き放たれる魔改造作品たちは我々の想像力の限界を超えていく。気づけば誰もがテレビの前でガッツポーズを決めたり涙したりしてしまう、実に心揺さぶる番組なのだ。

会場エントランス

会場エントランス

このたび東京・ベルサール秋葉原にて、これまで5年間の『魔改造の夜』で生み出されたモンスター80作品が一堂に会し、動く実演イベント『魔改造の夜 THE MUSEUM』が開催されている。会期は2025年8月25日(月)から9月2日(火)まで。会場では実際に魔改造されたモンスターを間近で見て、その動きを観察したり、作品によっては製作者による解説を聞くこともできる。さらに日本のモノづくりを担う未来の人材を生み出すべく、親子で楽しめるようなワークショップも開催されるという。さっそく熱気あふれる開幕初日のベルサール秋葉原に潜入し、その見どころをご紹介していこう。

心震わす、2階会場のモンスターたち

2階会場風景

2階会場風景

展示は広大なベルサール秋葉原の2階・1階にまたがっている。会場内には、競技ごとにまとめて各社のモンスターが陳列されており、顔ぶれを見ているだけで競技時の興奮がありありと蘇ってくる。

T社「魔獣キングスパニエル」

T社「魔獣キングスパニエル」

まずは「ワンちゃん25m走」に登場した名作、『魔改造の夜』を象徴するマスコット(?)とも言えるT社の「魔獣キングスパニエル」とご対面。試作機となったぬいぐるみも皆一緒に走らせたいとの優しい思いから、4つの頭を持つ姿へと魔改造された俊足ワンちゃんである。実際に見ると、一体化したぬいぐるみ部分の禍々しさがすごい。スタジオがどよめいたのも納得である。

Nットー「ブーブー旋風鬼」

Nットー「ブーブー旋風鬼」

「扇風機50m走」に登場したNットーの「ブーブー旋風鬼」は、扇風機にエンジンを取り付けて走らせるというロマンの塊のような逸品だ。他のモンスターと違い、モーター(電気エネルギー)ではなくエンジン(燃焼エネルギー)で走る特性のためか、ほんのり煤けているように感じた。それぞれのモンスターを鑑賞する際には、数々の実践そして実戦を経てきた傷・磨耗も見どころの一つである。

H技研「RC90V」

H技研「RC90V」

会場内でも存在感を放つのは「クマちゃん瓦割り」の覇者、H技研の「RC90V(アールシークマブイ)」だ。テレビ画面からでは伝わりきらない大きさ、そしてぬいぐるみ部分の仕上がりの綺麗さに驚嘆である。手刀に取り付けられたごつい刃パーツはまるでギロチンで、技術者というものは目的のためなら文字通りの“化け物”を生み出してしまうものなのだな……としみじみ実感した。

Y精密「森の格闘家 クマごろう」(部分)

Y精密「森の格闘家 クマごろう」(部分)

ちなみに隣のY精密「森の格闘家 クマごろう」の巨大右手部分を見ると、叩き割った瓦の破片で腕がボロボロになっているのを確認できる。戦いの壮絶さを実感できるポイントである。

2階会場風景

2階会場風景

「ビニール傘 滞空時間マッチ」の展示コーナーでは、激戦とチームのドラマを思い返してつい胸が熱くなった。数ある「イケニエ(魔改造の対象物)」の中でも、最も身近なアイテムであるビニール傘。骨とビニールというシンプルな構成要素ゆえに、各社ごとのフォルムの違いが分かりやすく、見事に滞空した時の感動もひとしおである。

Tレ「うきうきアンブレラ」

Tレ「うきうきアンブレラ」

個人的な最推しモンスターであるTレの「うきうきアンブレラ」。間近で眺めても、フォルムがもう鳥そのものである。自慢の軽量素材の端をよくよく見ると、マジックで形を描いて切り出した工作的な手作業の跡が残っていた。モンスター鑑賞の際のもう一つの見どころは、こういった「手づくり感」だろう。想像を超えるとんでもない成果を上げるモンスターたちも、人の手による地道な努力の結晶なのだ。ルールで改造費の上限が設定されていることもあって、意外とただのセロテープで留められていたり、素材をプリントしたハリボテだったりと、見れば見るほど親しみを感じるのである。

企業ブースで、感動を伝えたい

Tレ 企業ブース風景

Tレ 企業ブース風景

会場の壁沿いには参戦している協賛各社がブースを開設していた。パネル解説や展示品で、それぞれの企業の理念や活動、『魔改造の夜』にどのように取り組んだのかなどが披露されていて見応えがある。会場で実感したのは、これは「企業が来場者に対してアピールするための場所」であると同時に「来場者が企業に声を届けるための場所」なのではないか、ということだ。各ブースにはもちろん企業スタッフやエンジニアが常駐している。運よく推しのTレのブースではリーダーエンジニアさんに遭遇できたので、「うきうきアンブレラ」への感動を直接伝えることができた。

Yマハ発動機 企業ブースにて

Yマハ発動機 企業ブースにて

Yマハ発動機のブースでは、燦然と輝く『魔改造の夜』優勝トロフィー実物も見ることができる。じっと見ていたらエンジニアさんが「これ、本物です!」と嬉しそうに声をかけてくださり、こちらまでニヤニヤしてしまった。

Sライズ 企業ブースにて

Sライズ 企業ブースにて

企業ブースの中には、『魔改造の夜』本番には採用されなかった試作機やボツ案、ところによっては本番後にさらにチューンアップした改造機などを展示するところも。「扇風機50m走」「赤ちゃん人形綱登り」で華麗な勝利を決めたSライズのブースでは、番組中にも登場した、若手社員たちによる別スタイルの「走る扇風機」を見ることができて感無量である。

なお会期中、1階・2階の協賛ブースにあるスタンプを集めるスタンプラリーも開催される。全てを集めると交換窓口で『魔改造の夜』の名言を集めた「魔言ステッカー」がもらえるそうだ。

1階会場ではワークショップも!

1階会場風景

1階会場風景

1階会場では、比較的最近の放送で登場した大型のモンスターたちが勢揃い。やはり実際に見上げると迫力がすごい。「脚立25m走」や「シャボン玉ロープ シャボン玉伸ばし走」など、時間を忘れて見つめてしまう作品ばかりである。

ワークショップエリア

ワークショップエリア

そして1階会場の一角では、企業・学校による60分程度のワークショップが開催されている。参加費はなんと無料! 公式HPなどにタイムスケジュールが出ているので、お目当てのワークショップを見つけたらぜひ参加してみてほしい。各回、開始60分前に整理券が配布されるスタイルとのことなのでアラームの設定をお忘れなく。筆者はT・DKによる「T・DKのトラとウサギの足の仕組みを作ってみよう!」に参加してみた。ちなみに難易度は「全年齢対象(小学生以上推奨/低学年は保護者のお手伝いが必要」だ。

ワークショップ「T・DKのトラとウサギの足の仕組みを作ってみよう!」

ワークショップ「T・DKのトラとウサギの足の仕組みを作ってみよう!」

解説を聞きながら、配布されたキットの部品を慎重に組み上げていく。キットはこのワークショップのために3Dプリンターで特製したもので、T・DKによる「トラちゃんウサちゃん50mリレー」のモンスター、「トランチャー&グラビット」の足の機構をそのまま小型化したものなのだそう。プラモデルも作ったことのない初心者ですと申告したら、講師のエンジニアさんも周囲のスタッフさんも全力でサポートをしてくれて感動した。カチリと歯車が固定されて連動しはじめる姿はとても美しく、これをひとつのきっかけにして、機械に魅せられ未来のエンジニアを志す少年少女が増えるのでは……と本気で思う。

T・DK「トランチャー&グラビット」

T・DK「トランチャー&グラビット」

「トランチャー&グラビット」の実機はこちら。ひとつ前の写真は、ウサギの後足部分に相当する。T・DKでこんなふうに動くモノを作ったのは初めてだったそうで、挑戦にあたってはSニーが以前ネコちゃんに施していた魔改造を参考にしたという。講師のエンジニアさんは「走る機構の開発・実践がすごく楽しかったので、ぜひそれを皆さんに味わってもらいたいと思って、こういうワークショップを用意しました」と笑顔で語ってくれた。ありがとうございました!

他言無用(?)の夜会がついに始まる……

左:Mブチモーター、右:Sズキ(各チーム、魔の技術者たちの登場ポーズもしっかりやってくれて嬉しい)

左:Mブチモーター、右:Sズキ(各チーム、魔の技術者たちの登場ポーズもしっかりやってくれて嬉しい)

さて、この『魔改造の夜 THE MUSEUM』にはもうひとつの顔がある。会場地下1階の特設ステージにて開催される、モンスター実演&解説講座である。こちらは展覧会の入場券のほかに座席指定が必要になる特別なイベントだが、番組で見たモンスターたちが実際に目の前でその能力(チカラ)を解き放ち、暴れる現場に立ち会うことができる。取材時はチームMブチモーター/Sズキによる「電動マッサージ機25mドラッグレース」の実演が行われた。

モンスター実演&解説講座

モンスター実演&解説講座

実演実況と解説は『魔改造の夜』でおなじみのアナウンサー・矢野武。熱いワードチョイスとテンションで、特設ステージを盛り上げる。まさに、自分も「魔改造倶楽部」の秘密の夜会に潜入したような気分である。

Sズキ「DEN-RACE Solo」

Sズキ「DEN-RACE Solo」

夜会本番で見事優勝を飾った、Sズキの「DEN-RACE Solo」の実機はこちら。極限までムダを切り詰めたミニマルな車体は、同企業のモノづくり理念である「小少軽短美」という考え方に基づいているそうな。コントローラーのツマミ部分をよく見ると、おそらく狙い所の出力値? にマジックでぐりぐりっと目印がつけられていて、勝負の現場の緊張感が伝わってくる。

モンスター実演&解説講座

モンスター実演&解説講座

エンジニアたちによるモンスター解説もじっくり行われる。写真は、Sズキチームが電動マッサージ機の内部機構を強い金属製へと丸ごと改造したという解説の様子だ。「使用しているモーターは、もちろんそこにいらっしゃるMブチモーターさんの製品です」の決め台詞には、ステージ上も観客席もどっと笑いに包まれる。さらに各チームから夜会本番までの裏話なども飛び出し、常に熱気と拍手に満ちた時間が過ぎていった。

駆け抜けるMブチモーターの「駆けろ‼︎ 電馬号」

駆け抜けるMブチモーターの「駆けろ‼︎ 電馬号」

モンスター実演&解説講座は撮影NGだが、特別に許可を得てその勇姿をカメラに収めることができた。両チームとも迫力たっぷりの走りで会場を沸かせた中、Mブチモーターの「駆けろ‼︎ 電馬号」は、なんと夜会本番からさらに回路・モーターをチューンアップさせ、パワーアップさせたバージョンも披露された。爆音とともに駆け抜ける電馬号、もはや速すぎてシャッターが追いつかない。

なお好評を受けて、『魔改造の夜 THE MUSEUM』の会期中、このモンスター実演と解説講座のLIVE&アーカイブ配信が決定したそうだ。配信日時や料金などは公式HPをご参照あれ。

「愉快な夜だった……礼を言う」

ミュージアムショップ風景

ミュージアムショップ風景

会場にはもちろんミュージアムショップも。展覧会開催記念のオリジナルTシャツや公式ファンブックなどに混じって、「スパニエル フェイスマスコット」(税込2,200円)や、イケニエとなった元のおもちゃたちがしれっと販売されているのが可笑しい。

会場風景

会場風景

『魔改造の夜』は改造に飢えたイケナイ技術者たちの極秘の会合、という設定もあって、魔改造されたモンスターたちは公式サイトの記録写真以外ではほぼ見ることができない。番組ファンにとって本展は、モンスターをあらゆる角度から近距離で眺めまわし、動く姿まで見られるまたとない機会だ。そして『魔改造の夜』を知らないという人にとっても、エンジニアたちのプライドと遊び心がグツグツ煮えたぎるこの場所は、最高に熱いお出かけ先になることだろう。会期は短めなので、の購入はどうぞお早めに。

『魔改造の夜 THE MUSEUM』はベルサール秋葉原にて、2025年8月25日(月)から9月2日(火)までの開催。


文・写真=小杉 美香

イベント情報

『魔改造の夜 THE MUSEUM』
会期:2025年8月25日(月)~9月2日(火)
開館時間:10:00~18:00
※初日8月25日(月)は11:30開館、最終日9月2日(火)は16:00閉館となります
※入場は閉館の30分前までになります ※開館時間等は変更になる場合がございます 
会場:ベルサール秋葉原
(東京都千代田区外神田3-12-8 住友不動産秋葉原ビルB1・1F・2F)
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