『ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢』レポート 展覧会サポーター・松下洸平の鑑賞後コメントも

レポート
アート
18:00
フィンセント・ファン・ゴッホ《画家としての自画像》1887年12月-1888年2月 油彩、カンヴァス

フィンセント・ファン・ゴッホ《画家としての自画像》1887年12月-1888年2月 油彩、カンヴァス

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東京都美術館にて、2025年12月21日(日)まで『ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢』が開催中だ。日本において、西洋美術史中で最も親しまれていると言っても過言ではない巨匠、フィンセント・ファン・ゴッホ。本展はファン・ゴッホ家のコレクションに焦点を当てた日本初の試みであり、30点以上のファン・ゴッホ作品で画家の初期から晩年までの画業をたどる展覧会となっている。

開幕に先駆けて開催されたメディア向け内覧会には、展覧会サポーターの俳優・アーティストの松下洸平が登場。まずは松下の語った、本展への想いや感想コメントからお伝えしていこう。

※以下、特に記載の無い場合いずれもファン・ゴッホ美術館、アムステルダム (フィンセント・ファン・ゴッホ財団)所蔵作品

松下洸平が語る本展の魅力

展覧会サポーター・音声ガイドナビゲーターを務める松下洸平

展覧会サポーター・音声ガイドナビゲーターを務める松下洸平

ーー東京展をご覧になった感想はいかがですか?

なかなか見る機会のない貴重な作品がたくさん展示されていますし、何度でも足を運びたくなるような空間になってるなと思いました。会場が変わるとまた作品から得るイメージも少し変わって感じられましたね。僕個人としては《オリーブ園》がすごく好きなんですけど、その作品と再会できたのがとても嬉しかったです。

フィンセント・ファン・ゴッホ  《オリーブ園》  1889年11月 油彩、カンヴァス

フィンセント・ファン・ゴッホ 《オリーブ園》 1889年11月 油彩、カンヴァス

あの作品はゴッホの生涯の中でも後期の作品になっていて。浮き沈みの激しい生涯だったと思うんですが、《オリーブ園》を描いている頃って、少しゴッホの心が穏やかな頃だったと思うんです。いろんなことを経て、サン=レミという場所で心を落ち着かせて描いている作品ということもあって、色使いとかタッチとかに優しさや温かみを感じられるので、僕はそこがすごく好きなんですよね。大阪展以来2回目の鑑賞となりましたけど、やっぱりいい作品だなと思いました。芸術というのはその人を映す鏡のような存在だと思います。その時々によって、ゴッホの心情の変化が作品に現れているのを時系列で見ていけるところが、この展覧会の素晴らしいところだなと感じました。

ーー本展は、ゴッホの弟テオや義妹ヨー、甥のフィンセントにも焦点を当てた展示となっていますが、ゴッホと家族の関係についてはどのように感じましたか?

僕自身もそうですけど、一人では何もできないですし、作品を残すうえでも周りのサポートは重要ですよね。特に若かりし頃はお金がなかったりとかしますし……。アーティストや画家って、経済や暮らしの面まで気を配ってる余裕はなかったと思うんです。そんなことよりもまずは作品を残すんだ、1枚でも多く描きたいんだって気持ちが大きかったと多います。経済的なところをテオやヨーが支えていたというのは、僕もこの展覧会を通して知ったことです。その家族がいたからこそ、今日こうして僕らはゴッホの作品を見られるってことですし、ゴッホにとって周りの家族の支えは大きかったんじゃないでしょうか。そしてそれが今でも代々引き継がれているということが、本当にすごいなと思います。改めて、自分自身も周りの人に感謝しなきゃなって思いますね。

展覧会サポーター・音声ガイドナビゲーターを務める松下洸平

展覧会サポーター・音声ガイドナビゲーターを務める松下洸平

ーー絵画に没入できる、イマーシブ・コーナーを体感した感想は?

最新の技術を使ってゴッホの作品の中に迷い込むような体験ができるコーナーになってると思いました。色々と仕組みを説明していただいたんですけど、すごすぎてよくわからなくて(笑)。《ひまわり》を3Dスキャンして、100枚以上の写真を撮ってそれを組み合わせているそうで、なかなか見ることのできない角度から《ひまわり》の絵を見ることができるんです。普通は正面からしか見れないものを真横からの角度で見ることで、いかにゴッホの絵の具の塗りが分厚いかがよく分かりました。皆さんにもぜひご覧になっていただきたいですね。

ーー東京展を楽しみにしている方々へメッセージをお願いします。

『ゴッホ展』がついに東京にやって参りました。僕は今回2度目の鑑賞だったんですけれども、何度見ても本当に新鮮に感じられますし、新しい発見がありました。ゴッホの生涯に触れていただいて、そしてそれを支えた家族の物語も一緒に体感していただける、そんな展覧会になっていますので、ぜひご家族でも足を運んでいただきたいなと思います。それから、今回音声ガイドも担当させていただいて、当時のゴッホの思いを想像しながら手紙の朗読もやらせていただきました。是非そちらも合わせて楽しんでいただけると嬉しいです。

ゴッホ兄弟はどんな絵を集めていた?

本展は全5章で構成される。第1章「ファン・ゴッホ家のコレクションからファン・ゴッホ美術館へ」はいわば登場人物紹介で、画家フィンセント・ファン・ゴッホ、その弟のテオ、そしてその妻のヨー、その息子のフィンセント・ウィレム(伯父と甥で同名)らが紹介される。テオは兄の死後半年で後を追うように亡くなってしまったので、フィンセントの生前はテオが、没後は義妹ヨーが、やがては甥のフィンセント・ウィレムが、それぞれリレー形式でフィンセント・ファン・ゴッホの芸術を守ってきたと言えるだろう。

会場風景

会場風景

第2章は「フィンセントとテオ、ファン・ゴッホ兄弟のコレクション」だ。ひとの本棚を眺めるのは頭の中を覗いているようで面白いが、そんなノリでファン・ゴッホ兄弟が身銭を切って収集した絵画・版画コレクションを鑑賞することができる。

ジョン・ピーター・ラッセル  《フィンセント・ファン・ゴッホの肖像》  1886年 油彩、カンヴァス

ジョン・ピーター・ラッセル 《フィンセント・ファン・ゴッホの肖像》 1886年 油彩、カンヴァス

例えばこちらは、ファン・ゴッホが気に入っていたというジョン・ピーター・ラッセルによる肖像画だ。ジョン・ピーター・ラッセルはファン・ゴッホがパリで親しく付き合っていた画家仲間のひとりで、現在は退色して見えなくなっているが、キャンバス上部には「フィンセント、画家、友情を込めて」というメッセージが書き込まれていたのだという。お気に入りの自分の肖像画は、“こうでありたい、なりたい自分”に近いと言えるかもしれない。ここに描かれている人物は眼光鋭く、才気溢れるアーティストといった印象である。本展では後ほどファン・ゴッホ自身が描いた自画像も登場するので、ぜひ比較を楽しみたい。

ポール・ゴーガン  《雪のパリ》  1894年 油彩、カンヴァス

ポール・ゴーガン 《雪のパリ》 1894年 油彩、カンヴァス

こちらはポール・ゴーガンの《雪のパリ》。といってもこの作品はファン・ゴッホ兄弟が購入したものではなく、後にコレクションに加えられたものだ。ファン・ゴッホとのアルルの共同生活が破綻した後、ゴーガンは自身の所有であるファン・ゴッホ作品3点について、オランダのヨーに連絡をとって返却を受けた。本作はその感謝の印としてヨーに贈られた作品のひとつだという。太陽のきらめく南仏アルルでの思い出を引き取ったゴーガンが、お返しに贈ったのが雪のパリの景色、という対比が切ない。

アンリ・ファンタン=ラトゥール《花》1877年 油彩、カンヴァス

アンリ・ファンタン=ラトゥール《花》1877年 油彩、カンヴァス

ちなみに全ての展示作品中で1枚だけ、ファン・ゴッホ兄弟でなくヨーが自分のために購入した絵画作品が含まれている。それがアンリ・ファンタン=ラトゥールの《花》だ。ヨーはこの絵を自分のデスクの上に飾っていたのだそう。テオと結婚するまでは、特に美術に関心が高かったわけではない普通の中流階級女性だったというヨー。図らずも西洋美術史上に輝く巨匠の義妹となり、未亡人となったのちはファン・ゴッホ作品の保護や評価の確立のため尽力したけれど、彼女個人の絵画の趣味は、王道の“見ていて心地いい、美しい絵画”なのかもしれない。

ファン・ゴッホ作品のルーツを知る

会場風景

会場風景

第2章はまだまだ続く。ゴッホの心の師匠としても知られるモンティセリの静物画なども見応えがあるが、特筆したいのは挿絵入り新聞の版画を集めたコーナーである。ファン・ゴッホはオランダ時代から海外(イギリスやフランス)の挿絵入り新聞を買い集め、人物表現や構図などの参考にしていたという。

マシュー・ホワイト・リドリー《坑夫、「民衆の顔Ⅵ」『グラフィック』紙より》1876年4月 木口木版・活版印刷、紙

マシュー・ホワイト・リドリー《坑夫、「民衆の顔Ⅵ」『グラフィック』紙より》1876年4月 木口木版・活版印刷、紙

こちらはイギリスの『グラフィック』紙に掲載されていた「民衆の顔」という版画シリーズの1枚。同シリーズはファン・ゴッホの特にお気に入りだったという。ごつごつした顔や手のリアルな表現には、誰もがファン・ゴッホの初期作品に通ずるものを感じるのではないだろうか。

フィンセント・ファン・ゴッホ《防水帽を被った漁師の顔》1883年1月 鉛筆・リトクレヨン・チョーク・筆とインク・水彩、紙

フィンセント・ファン・ゴッホ《防水帽を被った漁師の顔》1883年1月 鉛筆・リトクレヨン・チョーク・筆とインク・水彩、紙

影響がわかりやすいように、すぐ横にはファン・ゴッホ作品が並べて展示されている。この《防水帽を被った漁師の顔》はいわば画家の素描特訓時代のもので、画業の超初期に描かれたものだ。何気なく通過してしまいそうだが、この白黒の小さな作品には鉛筆・リトクレヨン・チョーク・筆・インク・水彩という6種類もの画材が使われている。新聞の挿絵版画で白と黒のコントラストを学んだファン・ゴッホが、白い紙にあらゆる種類の黒い画材を試し、見え方を研究している様子がうかがえる。

フィンセント・ファン・ゴッホ  《種まく人》  1888年11月 油彩、カンヴァス

フィンセント・ファン・ゴッホ 《種まく人》 1888年11月 油彩、カンヴァス

版画収集は、やがて日本の艶やかな浮世絵にも及ぶ。会場ではフィンセントとテオがコレクションした浮世絵の数々と併せて、その影響が特に明らかなファン・ゴッホ《種まく人》が展示されている。画面をダイナミックに横切る木や、広く鮮やかな色面は、改めて比較して見ると浮世絵そのままである。会場のパネルにはファン・ゴッホが熱く日本愛を語る手紙の文面が引用されており、この人は本当に日本や浮世絵の世界が好きだったんだなぁ……と日本が誇らしくもなった。

全時代を豪華総まくり! 前半戦

さて、第3章「フィンセント・ファン・ゴッホの絵画と素描」では、彼の故郷オランダ時代〜パリ時代〜南仏アルルでの2ヶ月〜療養時代の作品を一気に総覧する。さすが世界最大のファン・ゴッホコレクションを誇るファン・ゴッホ美術館、正直いってこの第3章だけでスタンダードな『ゴッホ展』が成立すると言っていいくらいである。

手前:フィンセント・ファン・ゴッホ  《女性の顔》  1885年4月 油彩、カンヴァス 

手前:フィンセント・ファン・ゴッホ 《女性の顔》 1885年4月 油彩、カンヴァス 

オランダ・ハーグ時代のファン・ゴッホ作品たちは、画面がとにかく暗い。描かれているテーマも農村の労働者だったり、鳥の巣や藁葺き屋根の小屋だったりと、田舎らしさを思わせるものが多い。

フィンセント・ファン・ゴッホ  《グラジオラスとエゾギクを生けた花瓶》  1886年8-9月 油彩、カンヴァス

フィンセント・ファン・ゴッホ 《グラジオラスとエゾギクを生けた花瓶》 1886年8-9月 油彩、カンヴァス

それがパリ時代になると、印象派の影響のもとで別人のように色彩を迸らせるようになる。地元での自分の画風を時代遅れのものとして一旦措き、グイグイと画風をアップデートさせていくさまは、真面目さと強かさを感じさせる。

フィンセント・ファン・ゴッホ 《画家としての自画像》 1887年12月-1888年2月 油彩、カンヴァス

フィンセント・ファン・ゴッホ 《画家としての自画像》 1887年12月-1888年2月 油彩、カンヴァス

そんなファン・ゴッホがアルルへ旅立つ直前、パリ時代の最後に完成させたのが、この《画家としての自画像》である。画面全体が光に包まれているかのように明るく、画家が手にしたパレットにはこれ見よがしにカラフルな絵の具が配置されている。自分は時流に乗った最先端のアートを生み出している、との自負に満ちているようである。この自画像についてはとても興味深い解説が添えられており、それによると、後にヨーは「数ある自画像の中でも、義兄フィンセントの生前の姿に最も近いのはこの自画像だ」と回想しているらしい。ところが一方で、ファン・ゴッホ自身はこの自画像を「死神の顔のよう」で、「自分自身を描くのは簡単じゃない」……と明確に自分に似ていないとコメントしているのである。本作をメインビジュアルとしたゴッホ展が開催されていると知ったら彼はどう思うのだろうか。もしかしたら「ジョン・ピーター・ラッセルの描いた肖像画(例のお気に入りの1枚)を使ってくれ」と言うのかもしれない。

全時代を豪華総まくり! 後半戦

会場風景

会場風景

第3章後半では、ゴーガンと共同生活を送ったアルル時代から、サン=レミでの療養時代、そして最後の時を迎えることになるオーヴェール=シュル=オワーズ時代それぞれの時期に制作された作品を見ることができる。

フィンセント・ファン・ゴッホ  《浜辺の漁船、サント=マリー=ド=ラ=メールにて》  1888年6月 油彩、カンヴァス

フィンセント・ファン・ゴッホ 《浜辺の漁船、サント=マリー=ド=ラ=メールにて》 1888年6月 油彩、カンヴァス

《浜辺の漁船、サント=マリー=ド=ラ=メールにて》には、アルルに着いたばかりの頃、ゴーガンら画家仲間の到着を待つファン・ゴッホの思いが滲み出ているようだ。手前の船の複雑なフォルムを鮮やかに描き出している画家の手腕は、まさに“筆がのっている”といった印象を受ける。ちなみにファン・ゴッホ自身もうまく描けたと思っていたようで、テオに対して「船の素描が、短時間でペンだけで描けた」と得意げに語る手紙が残っている。

同、部分

同、部分

画面中央の船体には、目立つところに「AMITIE (友情)」の文字が。

フィンセント・ファン・ゴッホ《夜(ミレーによる)》1889年10月-11月 油彩、カンヴァス

フィンセント・ファン・ゴッホ《夜(ミレーによる)》1889年10月-11月 油彩、カンヴァス

サン=レミ時代の作品の中では、ファン・ゴッホが心の平穏を取り戻すために取り組んでいたというミレー作品の模写に注目したい。一日の終わりの「夜」の光景を描いた1枚だ。傍の暖炉の火を差し置いて、室内を照らすランプが太陽のように明るい。ランプの灯りで手を動かす農民というのは全時代を通じてファン・ゴッホが好んで描いたテーマだが、本作は異常なほどのランプの光量が印象的な一作となっている。画家の昂った神経がそう描かせたのか、それとも小さなランプに希望や神の臨在といった意味を持たせているのか。じっと見つめていたくなる作品だ。

手前:フィンセント・ファン・ゴッホ  《麦の穂》  1890年6月 油彩、カンヴァス

手前:フィンセント・ファン・ゴッホ 《麦の穂》 1890年6月 油彩、カンヴァス

やがてオーヴェール=シュル=オワーズに移り住んだファン・ゴッホは、現地の広大な麦畑に魅了され、「麦の声」が聞こえるようになったという。麦畑にグッとクローズアップし、一本一本の麦を入念に観察して描いた《麦の穂》は目を奪う一作だ。

この第3章というひとつのセクションに、ぎゅぎゅっとファン・ゴッホの10年間にわたる画業の変遷・進化が凝集されている。展示数こそさほど多くないが、そのぶんブレも中弛みもない、骨太の展示である。ぜひともじっくりと時間をとって堪能したい。

心震わす資料の数々

会場風景

会場風景

いよいよ展示は終盤、第4章「ヨー・ファン・ゴッホ=ボンゲルが売却した絵画」〜第5章「コレクションの充実 作品収集」へ。第4章はとても短いが、『ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢』という展覧会のテーマを最も明確に表現した部分である。ここではファン・ゴッホ兄弟が没したあと、ヨーがどのように心を砕いて作品管理をしていたか、そして売却を戦略的に行ったかを知ることができる。

テオ・ファン・ゴッホ、ヨー・ファン・ゴッホ=ボンゲル  『テオ・ファン・ゴッホとヨー・ファン・ゴッホ=ボンゲルの会計簿』  1889-1925年

テオ・ファン・ゴッホ、ヨー・ファン・ゴッホ=ボンゲル 『テオ・ファン・ゴッホとヨー・ファン・ゴッホ=ボンゲルの会計簿』 1889-1925年

注目はヨーの会計簿の実物展示だ。ヨーがファン・ゴッホ作品の売却を細かく記録したもので、ファン・ゴッホ研究にとって非常に貴重な資料である。

残された家族として、作品が市場に多く出回りすぎないように……かつ知名度を上げるため、出来るだけ多くの国に作品が届くように……と細やかな調整をしてきたヨー。解説パネルによると、ロンドンのナショナル・ギャラリーに傑作《ヒマワリ》を売却した際にヨーは、「フィンセントの栄光のための犠牲」という言葉を記していたという。その《ヒマワリ》は30年以上手元に残してきた傑作のひとつだったが、家族のものにしておくよりも、世界的に有名な美術館の収蔵品となった方が画家の名誉となるとヨーは判断したのだ。そういった葛藤や決断の末に、フィンセント・ファン・ゴッホは世界中の誰もが知る巨匠となり、自身が望んだ通りその作品は“100年後の人々にも届く”こととなった。まさに、家族が繋いだ画家の夢である。

フィンセント・ファン・ゴッホ  「ふたりの掘る女性が描かれたアントン・ファン・ラッパルト宛ての手紙(3枚目)」  1885年8月18日頃 ペン・インク、紙

フィンセント・ファン・ゴッホ 「ふたりの掘る女性が描かれたアントン・ファン・ラッパルト宛ての手紙(3枚目)」 1885年8月18日頃 ペン・インク、紙

さらに第5章では、日本初公開となるファン・ゴッホの手紙の実物が4通展示されている。手紙魔だったという筆まめのファン・ゴッホだが、使用されている紙やインクの質が低く長期保存に向かないため、実物が展覧会に出品されることは非常にまれなのだという。この機会を逃さず、画家の筆跡に想いを馳せてみてほしい。

満ちてゆくコレクション

最後の5章では、ヨーの没後、息子(画家にとっては甥っ子)のフィンセントが設立したフィンセント・ファン・ゴッホ財団が、コレクションを充実させるべく新たに手に入れた収蔵品が展示されている。ファン・ゴッホが影響を受けた画家から、ファン・ゴッホが影響を与えたと思われる画家まで、その内容は様々だ。

ポール・シニャック  《フェリシテ号の浮桟橋、アニエール(作品143)》  1886年 油彩、カンヴァス ファンゴッホ美術館、アムステルダム

ポール・シニャック 《フェリシテ号の浮桟橋、アニエール(作品143)》 1886年 油彩、カンヴァス ファンゴッホ美術館、アムステルダム

新印象派の代表的画家、シニャックの美しい作品《フェリシテ号の浮桟橋、アニエール(作品143)》も。ファン・ゴッホとシニャックはセーヌ川沿いの町でよく一緒に絵を描き、質素なレストランで昼食をともにしたのだとか。キャプションの解説によると、シニャックはマイペースな性格だったためファン・ゴッホと一緒でも制作ができたのだそう。彼からの影響を受けて、ファン・ゴッホも細かいタッチで画面を覆うように描いていた時期が見られる。

モーリス・ド・ヴラマンク《ナンテールのセーヌ川》1906-07年 油彩、カンヴァス ファンゴッホ美術館、アムステルダム

モーリス・ド・ヴラマンク《ナンテールのセーヌ川》1906-07年 油彩、カンヴァス ファンゴッホ美術館、アムステルダム

一方、こちらはフォーヴィスムの画家モーリス・ド・ヴラマンクの《ナンテールのセーヌ川》。ヴラマンクは1901年にパリの画廊でファン・ゴッホの作品を見て打ちのめされるほどの衝撃を受けたと語っており、赤・水色・黄色の強烈な色彩や力強い筆づかいには明らかにファン・ゴッホからの影響が見て取れる。

動く作品、ありえない角度からの鑑賞

イマーシブ・コーナー

イマーシブ・コーナー

展覧会の最後には、幅14mを超える空間で体感するイマーシブ・コーナーが用意されている。大画面にファン・ゴッホ作品をモチーフにした映像が映し出され、絵画世界に入り込んだような体験ができるのだ。中でも《花咲くアーモンドの木の枝》は、ファン・ゴッホが甥っ子のフィンセント・ウィレムの誕生を祝って描いた、家族の絆を象徴するような作品。残念ながらその絵画作品そのものは展示されていないが、同作をモチーフにした映像は必見だ。舞い散る花びらに包まれる感覚は、ぜひ会場で体感を。

イマーシブ・コーナー

イマーシブ・コーナー

《ひまわり》(こちらはSOMPO美術館所蔵のもの)を3Dスキャンして作成した映像も興味深い。真横からドアップで眺めることで、ファン・ゴッホの超厚塗りの筆づかいがまるで外惑星の地表かのように見えるのだ。写真や正面からの鑑賞だけでは気付きづらい立体感をしかと体感させてくれる、面白い企画だった。

今度のゴッホ展はグッズも可愛い!

特設ショップ

特設ショップ

鑑賞後のお楽しみ、特設ショップにも見どころがいっぱいだ。広々としたショップスペースに、王道グッズからキャラクターコラボグッズまで、あらゆる種類の商品が揃っている。

※一部商品は購入個数制限を設けることがございます。商品は一部欠品、完売となる場合がございます。

Handmade Crochet Vincent doll new design(税込9,350円)

Handmade Crochet Vincent doll new design(税込9,350円)

ハンドメイドの編みぐるみになった、ゆる〜いヴァン・ゴッホ。胸にひまわりを飾っているのが可愛い。

第1章より ファン・ゴッホと家族の年表

第1章より ファン・ゴッホと家族の年表

本展はなかなかありそうで無い、「巨匠のファミリーと、その活動」に主軸を置いた展覧会である。孤独感の中で芸術への執念を燃やし、燃え尽きた“炎の人”ゴッホ。そんなイメージを抱いている人ほど、この展覧会に足を運んでみてほしい。フィンセントを支えた弟テオ、そして義妹ヨー、甥っ子フィンセント……知られざるファミリーの活躍に触れることで、ファン・ゴッホ作品をまた新たな角度から見つめることができるだろう。

『ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢』は東京都美術館にて、12月21日(日)まで開催中。その後、 2026年1月3日(土)から3月23日(月)まで、愛知県美術館へと巡回。

 

文・写真=小杉 美香

イベント情報

『ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢』
会期:2025年9月12日(金)~12月21日(日)
※土日、祝日および12月16日(火)以降は日時指定予約制
会場:東京都美術館
開室時間:9:30~17:30、金曜日は20:00まで(入室は閉室の30分前まで)
休室日:月曜日、10月14日(火)、11月4日(火)、11月25日(火)
※10月13日(月・祝)、11月3日(月・祝)、11月24日(月・休)は開室
観覧料(税込):一般 2,300円、大学生・専門学校生 1,300円、65歳以上 1,600円、18歳以下・高校生以下無料
お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
公式サイト:https://gogh2025-26.jp
※東京展の後、名古屋へ巡回いたします。
[名古屋展] 2026年1月3日(土)~3月23日(月) 愛知県美術館
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