「チバは俺たちの中にいる」ーー2年越しに開催されたRUDE GALLERY PRESENTS 『BLACK RUDE NIGHT』 愛で黒く塗りつぶした夜の記録
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RUDE GALLERY PRESENTS 『BLACK RUDE NIGHT』 撮影=浜村晴奈
RUDE GALLERY PRESENTS 『BLACK RUDE NIGHT』2025.10.26(SUN)@香川・高松festhalle
2023年3月に東京・恵比寿リキッドルームでThe Birthday、SPEEDER-X(中村達也×KenKen)、TRI4THが出演し『BLACK RUDE NIGHT』が開催された折り、次回は2023年11月の開催がアナウンスされていた。その後に2度の延期を経て、2025年10月26日(日)に香川・高松festhalleで『RUDE GALLERY PRESENTS「BLACK RUDE NIGHT」』が開催。出演はThe Birthday(クハラカズユキ, ヒライハルキ, フジイケンジ)とNothing’s Carved In Stone。
両バンドともRUDE GALEERYと縁が深く、アパレルやアクセサリーなど数々のコラボレーションアイテムが作られている。歴史を辿ればチバユウスケとRUDE GALLERYとの出会いは2003年。解散が決まっていたTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTに、自社ライブイベントの出演オファーとステージ衣装の制作を、RUDE GALLERY代表の片柳豊氏が申し出たことに端を発する。
その後、チバユウスケ meets RUDE GALLERYによるコラボレーションブランド、SUNDINISTA EXPERIENCEがスタート。Nothing’s Carved In Stone(以下、ナッシングス)の生形真一(Gt)もRUDE GALLERYとのコラボブランド、THE DISTORTION DISTRICTSをリリースしている。ファンにとっても関係するスタッフにとっても、幾重にも想いが積み重なった特別なライブが2年越しに開催が叶った。この日のドレスコードは黒。黒はチバが好んで身につけていた色でもある。会場の高松festhalle周辺には、黒い服に身を包んだ人たちが大挙。壮観ですらあった。
Nothing’s Carved In Stone
先攻はNothing’s Carved In Stone。生形のギターに日向秀和のベースが獰猛に絡みつく「Milestone」の幕開けから、尋常ではない気迫がみなぎっている。続く「Freedom」も重量級のグルーヴ。村松拓(Vo.Gt)の歌声は、一筋の光が刺すようにきらめいて響き渡り、前方も奥の方もフロア中が体を揺らしてステージに腕を伸ばしている。大喜多崇規(Dr)の刻むビートと日向のベースが容赦なく暴れ回り、重低音が体を突き上げる「Rendaman」は、気持ちよさに天(天井)を仰ぎたくなった。そこから「(as if it’s) A Warning」だ。切り刻むようなギターに変則的なドラム、殺傷力の高いベースが絡むと炎が上がるような歓声が湧く。次々に瞬間最大風速を更新していくような怒涛の勢いで、これぞナッシングスと言いたくなる熱量の高いステージにひとり残らず引き込んでいく。
4曲目を終えたところで、辛抱たまらんというように大喜多が立ち上がり、「高松ー!BLACK RUDE NIGHT行くぜ!」と咆哮。それを受け村松は「(大喜多は)普段こんな叫ばないんだよ?」と驚いたような表情。改めて村松が、2年越しのリベンジである「BLACK RUDE NIGHT」開催にこぎつけたRUDE GALLERY、AUDIO高松、そしてThe Birthdayに感謝を伝え、「ここにいれて光栄です」と言葉を重ねたあとこんなふうに語った。
「いろんな思いがここに、特別にある夜になると思ってる。そういうものに応えながら、大きな流れが音楽で浄化されて、たぶんどこかで見てる(今夜の)半分主役みたいな人に届いて、笑顔になってくれたらいいなと思ってます」と。そのまま、間をおかず「思いっきり音楽やって、笑って帰ろう」と「Isolation」へ。彼らの数あるキラーチューンの中でも上位に位置するこの曲を、フロアは声を合わせて歌った。
強靭というか屈強というか、それらを足すのではなく掛け算し続けた胸のすくようなバンドアンサンブルは彼らの強力な武器だ。その武器で聴き手をねじ伏せるのではなく、思いきり揺らし、踊らせ、解き放ってゆく。その威力は、内省的な一面を覗かせる曲であっても同様で、「俺の後に続いて歌ってみて」(村松)とフロアのシンガロングを誘った「Dear Future」に、最後に聴かせた「Beautiful Life」によく現れている。
心の奥の方でくすぶるモヤモヤや孤独に足を掬われるんじゃなく、そいつらを抱えてもがきながらも夢を描くこと希望を抱くことから目を逸らさず、自分の足で自分のステージに立ち続ける。曲の端々に込められたメッセージに、4人の音が合わさって発する熱気に、顔を上げずにいられない。「Dear Future」の歌詞にある<愛で埋め尽くして>のフレーズに、The Birthdayの「愛でぬりつぶせ」がよぎった。終わってみれば、最初のMCで村松が言った「音楽で浄化されて」の言葉をグッと感じ入るステージだった。
The Birthday
The Birthdayの登場曲である「Sixteen Candles」が場内に鳴り響き、拍手と歓声の大きさが3人を待ちわびていたことを伝えている。最初に登場したフジイケンジ(Gt)が長い腕を掲げ人差し指で天をさす。私は3人のThe Birthdayのライブはこの日が初めてで、手の中に緊張をぎゅっと握りしめているような心持ち。そういう人は自分以外にもいたと思う。ヒライハルキのベースがエンジンがかかると同時に低く疾走し、クハラカズユキのドラムがイン。フロアにクラップが駆けめぐり、フジイのギターがうねる。
1曲目の「LOVE ROCKETS」、続く「JOIN」はフジイがボーカルをとる。3人でやれることをすべてやるという凄まじい気迫を感じる。4人から3人へ。これまでコーラスはすれどメインを張ることはなかった3人が、曲によりボーカルを務める。文字にすると100字にも満たないが、すでにキャリアのある3人にとっても相当タフな事態だ。「JOIN」で突き抜けた歌声を聴かせるフジイの、カッティングのキレ。その凄まじさよ。自分はさっきまでの緊張は完全に雲散霧消していて、3人のタイトだが重量感のあるグルーヴにもう首まで浸かっている。
「お久しぶりです、The Birthdayです」と短い言葉の中に愛と敬意を感じる挨拶をクハラが。その後にフロアを見渡して一言、「真っ黒(笑)」。フロアはもちろん、スタッフも黒装束。さらにナッシングスもThe Birthdayも、RUDE GALLERYが今日のために仕立てたとびきりの黒い衣装を身に纏っている。ヒライの軽やかで抜けのいい声が乗った「愛でぬりつぶせ」と、クハラがありったけの思いを歌に吹き込む「青空」。初めてライブで聴く「サイダー」(Vo=ヒライ)は、ゆらめくギター音とも相まってガラスのように澄んだ情景を見せてくれる。3人それぞれの歌声、その発色の違いがバンドにも楽曲にも新たな奥行きを生み出していることを知る。この3人が歌い、The Birthdayが在り続けていることが素晴らしい。
一転、赤い照明が目を刺す「Red Eye」は間奏のジャジーなアプローチも冴えていて、ボーカルのフジイは後半ブルースハープもかっ飛ばした。クハラが歌う「誰かが」は、先ほどの「青空」とは歌声のトーンや印象が違って、それも良い。テンションの高い「Nude Ryder」に続き、本編最後はヒライが歌う「COME TOGETHER」。跳ねた曲調に、今夜一番かと思われるところまで沸点が上がり続けた「Nude Ryder」。イントロのギターに歓声が上がり、無数の腕がステージに向かって伸びる「COME TOGETHER」は、一度聴けばすぐに口ずさめるような気さくな曲だ。タイムマシンも占いもいらないし、未来と自分の行く先は自分で決める。だってそこには最高な音楽があるから。「想像することって大事だよ」とチバがインタビューで曲について訊かれた時に答えていたのを思い出す。指先で涙を拭いながら、まっすぐにステージを見つめて歌う人が何人もいるのが、フロアの後ろから見ていてもわかった。
アンコールではクハラが今日ここに集まってくれたことに感謝の思いを伝え、「『BLACK RUDE NIGHT」っぽいスペシャルな感じにしたいと思います」と、村松と生形を呼び込む。フジイが両手をあげて迎える。「涙がこぼれそう」のギターに歓声が飛び交い、最初のフレーズを歌った村松がフロアに向かってこう言った。「チバは今どこにいると思う? 俺たちの中にいるんだぜ」と。村松→クハラ→ヒライと歌いつぎ、村松は「涙がこぼれそう」と歌いながら眩しいぐらいの笑顔を見せる。その横でフジイと生形のギターが火花を散らしている。なんて美しい光景。2年越しの『BLACK RUDE NIGHT』を締めくくったのは「ローリン」。飛び跳ね手を叩くフロアに、「もっとこい!」というように両手を広げる村松。ヒライはベースに注力して曲を支え、ギターの2人はソロを分け合い最後は高々とギターを掲げる。この面々が奏でるThe Birthdayを体感できるとは、なんという特別な黒い夜か。会場が明るくなってからもずっと<〜It’s alright♩>が頭の中で鳴っていた。
個人的な話を少し。
THEE MICHELLE GUN ELEPHANTに2度ほど取材する機会があった。覚えているのはチバを筆頭にあまり多くを語らないメンバーの中で、クハラが控えめに場の空気を和らげる発言をしていたことと、眼光鋭く二言三言話すだけのチバが、くしゃっと顔をほころばせた時の表情の柔らかさ。それから数年後、自身の転居や出産等でしばらく音楽に触れていなかったある日、現在の顔ぶれのThe Birthdayを知った。びっくりした。バンドの音はやはりというかソリッドだけれど、チバの歌声にも歌詞の言葉にもミッシェルの気配がない。何より「涙がこぼれそう」「誰かが」という曲名に、「ゲット・アップ・ルーシー」や「シトロエンの孤独」といった影を感じない。それどころか、The Birthdayの曲からは眩しすぎない明るさや光が降り注いでいる。その曲を家事の合間に突っ立ったまま聴いていた。思えば、かつて取材で垣間見た柔らかな表情は、今聴いているこの歌を書き、歌う人の顔だったんじゃないだろうか。あの頃から変わったんじゃなく、チバユウスケが本来持っていたものが今現在もっともしっくりくる形で音楽として表出しているのではないか、と。
The Birthdayの歌はチバユウスケ以外に誰も歌えないと思い込んでいた。この日『BLACK RUDE NIGHT』で3人のThe Birthday(クハラカズユキ, ヒライハルキ, フジイケンジ)を見るまでは。クハラ、ヒライ、フジイの3人が歌い、The Birthdayが在り続けること。その選択をした事実を、1人の音楽ファンとして心から支持している。この先2年、3年、10年と年月が重なっていくにつれて、今ある曲たちがさらに強く深く3人の歌声に染まっていく。新曲も聴けるのかもしれない。その過程を味わいたい。村松がアンコールで放った言葉の通り、チバユウスケは聴く人の心の中にいて、曲の中にいて、彼という不世出のロックンローラーで詩人が紡いだ歌はいつまでも在り続ける。今日のステージを見ていたであろうチバはきっと、「お前ら、俺のいないところでめちゃくちゃいいステージやりやがって!」と悔しがって目を細めていたんじゃないだろうか。
取材・文=梶原有紀子 撮影=浜村晴奈
セットリスト
RUDE GALLERY PRESENTS
2025年10月26日(日)香川・高松festhalle