煌めく響き、ロマンティックな色香、脈打つビート感――4人のピアニストが魅せた『ガーシュウィンの世界』【レポート】
-
ポスト -
シェア - 送る
2025年11月1日(土)ミューザ川崎シンフォニーホールにて、『ガーシュウィンの世界~4人のソリストたちによるオールガーシュウィンピアノコンチェルト~』が開催された。このコンサートで、ジョージ・ガーシュウィンが作曲を手がけたピアノと管弦楽のための4つの作品を、4人のピアニストが指揮の和田一樹&東京交響楽団と共演。本公演を企画したのは、ピアニスト、作曲家、そしてYouTubeクリエーターと、マルチな活動を展開している菊池亮太だ。彼自身、2024年にガーシュウィンのコンチェルト4曲をひと晩に演奏している。
最初に登場した久保壮希は2011年生まれで、現在14歳。4歳からピアノを始め、12歳で初リサイタルを開催。テレビにも出演するなど幅広く活躍する中学生だ。久保が演奏したのは、「アイ・ガット・リズム変奏曲」。
オーケストラが紡ぎ出す音楽の流れにのって、主題の音の一つひとつを絶妙なタイミングで生き生きと鳴り響かせる。その主題をもとに変奏が繰り広げられるなか、久保は多彩な音色によってそれぞれの変奏を表情豊かに描き上げていく。そして、スタインウェイの高音を活かした煌めくような響きを生み出した。作品に対する丁寧なアプローチ、そして、聴く者の心の鼓動に共鳴するようなパフォーマンスは見事であった。
田所光之マルセルは、国際的に評価されているピアニストだ。フランス国立高等音楽院大学院課程を修了し、エコール・ノルマルでは名教師シェレシェフスカヤのもとで学んだ。2022年のヴァン・クライバーン国際コンクールでは審査員長賞を受賞。その時のライヴ配信を通して、彼の演奏は広く知られるようになった。演奏した「セカンド・ラプソディ」は、演奏機会の少ない作品。
田所の充実したサウンドは、重みを帯びたオーケストラの響きを凌駕する。彼は、ピアノを巧みに鳴り響かせ、むしろオーケストラを牽引するようなスケールの大きな演奏を披瀝した。その場で生み出される空気の流れに身を任せるような、鮮やかなノリの演奏!エッジの効いたタッチを通して、作品のもつさまざまなキャラクターに鋭く迫っていく。圧倒的なヴィルトゥオジティによって不協和音もすっきりと表わし、作品に潜むロマンティックな色香を美しく引き出していた。
前半の最後は、石井琢磨。彼のYouTubeチャンネル「TAKU-音 TV たくおん」は世界中で視聴されている。ウィーン国立音楽大学修士課程とポストグラデュアーレコースを修了、ジョルジュ・エネスク国際コンクール第2位を受賞するなど実力派だ。石井が演奏したのは、ガーシュウィン作品のなかでも広く愛奏されている「ラプソディ・イン・ブルー」。
オーケストラとの緊密な対話が心に残る。石井は、脈打つようなビート感を保ちながら、こまやかな息遣いを通してメロディを表情豊かに歌い上げていく。そして、囁くようなサウンドからラプソディックな奔放さにいたるまで、多彩な表現が可能なのは、安定した演奏テクニックがあってこそ。生気あふれる明るい表情の中に佇む翳りも丁寧に引き出した。透き通るような美しい音ときめ細やかな表現の端々に、石井ならではの気品が感じられる。
休憩をはさんで、菊池亮太が舞台に現われると、ホールの雰囲気が一変した。日本大学芸術学部在学中から幅広いジャンルでプロフェッショナルな活動を展開。東京オリンピックのWeb CMも担当するなど、注目されてきた逸材である。プログラム後半は、3つの楽章からなる「ピアノ協奏曲 へ調」。
ジャズのエッセンスを存分に盛り込み、弾力に富んだ切れ味鋭いタッチとともに、拍を自在に表出することによってヴィヴィッドな音楽を繰り広げていた。メロディを彩る音の要素を多様に表わし、陰影豊かな響きを生み出していく。また、オーケストラのスコアの隅々にいたるまで煌めくようなサウンドを注ぎ込む。巧みな音楽の呼吸を活かした即興的なカデンツァは圧巻だ。20世紀前期のガーシュウィンの生きた時代と私たちの感性を結びつけてくれるような、聴く者の胸に迫るパフォーマンスであった。
4人のピアニストそれぞれのガーシュウィンの世界を堪能することができた。プログラムを弾き終えた後、4人のピアニストが登場し、それぞれの感想を語った。そして、アンコールとして、一台のピアノでリレーのように4人それぞれがガーシュウィンの音楽を弾いたのち、全員一緒に「ラプソディ・イン・ブルー」のメロディを演奏。大歓声のなかでコンサートは結ばれた。
取材・文=道下京子
今後の公演予定
日程:2026/3/14(土)開演13:00 (開場 12:15~)
会場:浜離宮朝日ホール 音楽ホール (東京都)
https://eplus.jp/sf/detail/4429440001
『田所光之マルセル ピアノ・リサイタル Nocturne&Etude』
日程:2025/12/20(土)開演17:30~ (開場 17:00~)
https://eplus.jp/sf/detail/3696210001-P0030003P021001?P1=0175
日程:2026/2/21(土)開演14:00~ (開場 13:30~)
https://eplus.jp/sf/detail/3696320001-P0030066P021001?P1=0175
日程:2025/12/31(水)開演16:00~ (開場 15:00~)
指揮者 / 共演者
指揮 / 現田 茂夫
ヴァイオリン / NAOTO(*)
ピアノ / 菊池亮太(#)
ソプラノ / 髙橋茉椰(+)
曲目:
NAOTO Tree of Honor(*)
ガーシュウィン ラプソディー・イン・ブルー(#)
J.シュトラウスⅡ ワルツ「春の声」op.410(+)ほか
https://eplus.jp/sf/detail/4378970001-P0030001P021001?P1=0175