坂東龍汰と岩松了が、松雪泰子を巡る三角関係の行方など最新作『危険なワルツ』のヒントを語る
(左から)坂東龍汰、岩松了 撮影:渡部孝弘
戯曲の完成度はもちろんのこと、出演する俳優の顔合わせの妙と充実の演技バトルも楽しめる、M&OPlaysと岩松了がタッグを組んで定期的に行っているプロデュース公演、その最新作にして注目作『危険なワルツ』が2026年3月6日(金)に幕を開ける。
かつて若い頃に犯罪まがいのことを繰り返し、世間からドロップアウトした夫婦。時を経て、ある若い男を引き入れて新たな仕事を始めようとするが、この若い男が一癖も二癖もある男だったことから、三者三様のエゴがぶつかり出し、妻と男の関係が接近するにつれ初老の夫の嫉妬心に火がついて、徐々に三人の関係は歪んだものになっていく……。
嫉妬深い夫に愛想をつかし、歳の差も忘れて若い男にときめきを感じるようになる美しい妻に松雪泰子、一見すると穏やかそうなのに裏の顔がある様子の、したたかでニヒルな男に坂東龍汰、若い頃は悪の限りを尽くしていたはずが今ではすっかり普通の一般人のようになってしまった夫に岩松了が扮する。
まさにこれから台本を書き始めるところだという岩松と、映画にドラマに舞台にと次々と話題作への出演が続いている坂東に、この作品についてのヒントや、演劇に対して抱いている想いなどを語ってもらった。
ーー岩松さんは、この新作『危険なワルツ』を書くにあたって、構想のきっかけとしてはたとえばどういうものから着想を得たのでしょうか。
岩松:たとえば“ボニーとクライド”(1930年代のアメリカで銀行強盗や殺人を繰り返していた男女二人組の犯罪者)、あの二人のなれの果てみたいな話を書きたいなと思ったのが、元々のアイデアだった気がします。あとは、ウィリアム・フォークナーの初期の短編小説で『嫉妬』という作品があるんですが、それは若く美しい妻を巡る男の嫉妬が描かれていて。結局、その嫉妬の原因になっていた若い男が引っ越していくから、そこで解決したという流れになるかと思いきや、夫はその若い男を殺してしまう。今回の物語が、そういう展開になるかどうかはこれから書くのでわからないですけど、そういう印象のものができないかな、と思っているんですよね。不条理というか、ちょっと理屈に合わないことがまかり通るようなお話にしたくて。
ーー今回の物語では、その妻の立場が松雪さんで若い男が坂東さんになるということですね。
岩松:そうです。松雪さんは年齢的に、ちょうど若者と年寄りの中間くらいになるじゃないですか。それでどちらかと考えたら、どうしたって坂東くん演じる若い男のほうに行きたくなりますよね。逆に、僕が演じる夫はその反対で年寄りだから行きたくないほうの男で(笑)。その男二人の間に挟まる松雪さんみたいな、そういう人間関係になるといいかなと思ったんです。そもそも松雪さんって、あまり生活臭がないじゃないですか。でも僕が演じる夫は、平穏な生活を求めている。若い頃は無軌道なことをやりまくって悪の限りを尽くした旦那だったのに、年をとったら平和に収まりたいという願望が出て来て。一応、妻もそれに合わせてみたりもしたんだけどどうしても自分の性分としては収まることができない。そんな時に目の前に現れたのが、坂東くん演じる若い男だったという構造にしたいなと思っています。しかもその若い男も、簡単に本心が読み取れるような人間ではないほうがいいと思っていて。その妻のことを本当に好きで近寄ってきているのか、何を考えているのかがよくわからない。その点、坂東くんってわりと何を考えてるかわからない顔をしているじゃないですか(笑)。
坂東:えー、僕は全部、顔に出ちゃうほうですけどね。
岩松:そう? でも今回のビジュアル写真の表情とか、ちょっと何考えてるかわからないよ?
坂東:ああ、造形的には確かにそうかもしれないです。
岩松:そうそう、造形でいいんだよ。
坂東:造形でいいのか(笑)。
岩松:簡単に言うと今回の物語はそういう図式になるわけですが、さらにもう少しいろいろな要素にまぶされている話がいいなとも思っていて。そういった部分に関しては何がベースになっているかというと、エミール・クストリッツァという旧ユーゴスラビア出身の映画監督の作品で『ライフ・イズ・ミラクル』という映画があって、それはあらすじで言うと戦争時に人質を交換しようとする話なんですね。だけど、人質以外の話もいろいろ絡んで来てものすごくごちゃごちゃしてくるものだから、何の話がメインだったかだんだんわからなくなるんです。そういうのも面白いなと思っていて。だから今回の舞台は簡単に言うと三角関係の話のはずなんだけど、でも三角関係に見えなくなってくるといいな、ということですね。
(左から)坂東龍汰、岩松了 撮影:渡部孝弘
ーー坂東さんは8年前、岩松さんが作・演出したプロデュース公演(『三人姉妹はホントにモスクワに行きたがっているのか?』(2018))に出られています。振り返ってみると、当時はどんなお気持ちでしたか?
坂東:プロデュース公演だったので、いろいろな事務所の若手俳優の方々が大勢参加されていたんですが、僕は本当に事務所に入ってまだ数ヶ月の段階で急遽参加させてもらえることになったので、右も左もわからない状態でした。演劇自体、東京ではまだ観たことがなかったし、岩松さんのこともまだよく知らなかったという(笑)。みんな、実名で役をいただいていたので僕も坂東という役だったんですが、劇中では“ジャガイモ野郎”と呼ばれていました。
岩松:坂東くんが北海道出身だったからね。
坂東:もちろん岩松さんの作・演出作品ですから、同じセリフを繰り返し、何度も同じシーンをやる過酷な稽古場でもありましたが、それと同時に、いかに人間がそこに立っていることが大事かということや、その姿が人間に見えなかったとしたらそのシーンは成立しないんだということを、直球で教えてもらえました。でもホント、みんな悩んでいましたよ。「人間っぽく見えない」とか「猿じゃないんだから」って言われたことは、いまだに脳裏にこびりついています。あと「人間は、いろいろな感情でできているから一つではないんだ」という言葉もすごく覚えています。
岩松:プロデュース公演という形だと、若くて無名な人がより効果を発揮するんです。まさに“わからないもの”だらけで、どんな人物かもわからないし、そういう人間がうろうろしている面白さって絶対あると思うんですね。だから人数もわりと多く出すんです。坂東くんもその中にいた一人なわけだけど、僕が「坂東くんって、どういう人か」を聞かれる時によく言っているエピソードがあるんですが。
坂東:えーっ、なんですか、教えてください(笑)。
岩松:最近の若い人って、眉毛を隠すようにして前髪を下ろしているじゃないですか。坂東くんもそういう髪型だったから「なんだ、その髪型は?」って言ったら、「うーん、ま、流行りですね」って言ったんですよ。
坂東:アハハハ! 言ったかも。
岩松:それがもう、坂東くんのすべてだよ。
ーーどういうことですか?(笑)
岩松:そう言う風に、当たり前なことを「自分には何の責任もないみたいに言える人。
ーー表情を見せるために前髪を上げなさい、ということですか。
坂東:そうです、そうです。それで本番までに髪は短く切って、前髪を全部上げるヘアスタイル、全デコ出しでやっていました。8年前ですけど、覚えてるもんですねえ。
ーーそして今回8年ぶりに岩松さんから声をかけていただいて、どう思われましたか。
坂東:岩松さんの舞台は、どの世代の仲間も出たいと思っている人が多い中、こうしてお声掛けいただけたことはめちゃくちゃ嬉しかったと同時に、本当に背筋が伸びる気持ちです。しかもこのメンバーですから、かなり濃い芝居になりそうだ、覚悟を決めて出ます! とマネージャーさんと話したのを覚えています。
ーー岩松さんから先ほど、坂東さんが演じることになる若い男の役について説明がありましたが、どう思われましたか。
坂東:そうですね、若さという点では合っていると思うんですが、僕自身としてはこれまでやったことのない役になるな、と思いました。自分に近い役や、寄せていけるような役、たとえば溌溂として天真爛漫な役とかは演じたことがありますが、今回のような危険な色気であるとか、何が嘘で何が本当なのかわからない、本音が見えないような人、しかも相手を翻弄していかなければいけない、というのは初めてで。とてもチャレンジングな作業になりそうで、楽しみです。
ーー岩松さんとしては、坂東さんにそのニヒルな若い男をどう演じてほしいと思われていますか。
岩松:平気で悪いことができるような、そういうキャラクターもできるんじゃないかなと僕は思ったんですよね。普通だったら、悪いことをすると悩むものじゃないですか。
ーー悩まない人、ということですか?
岩松:悩まないことはないんだろうけど、それがなんかカッコ良く見えるヤツになるといいなと思って。だからこの前、坂東くんに会った時に「今度の芝居ではカッコイイ役やってもらうから」って言ったんです。
坂東:そうでした。
岩松:悪いことをしたあと、雨が降ってきて、髪の毛の先から水が滴り落ちながら部屋に入ってきたらカッコ良くない? みたいな(笑)。昔の二枚目みたいなのも、ちょっと似合いそうじゃないですか。だからふだんだったらあまり見られない坂東くんの姿、あまり見たことのない松雪さんの姿が、この舞台では目撃できると思います。僕も、隣の面白いオジサンみたいな役ではなくて、ちゃんとキャラクターがある人間を演じたいなと思っていますよ(笑)。
坂東:僕としては、二度目の岩松さんの舞台ということで緊張と喜びが同時に来ていますが、とにかく全身全霊で取り組んでいけたらと思っています。新しい僕をみなさんに見せられるよう、必死で食らいついていくので大勢の方に劇場に来ていただけたら嬉しいです。そういえば岩松さんとこの間、話した時は「僕の中ではわかりやすい作品になると思う」とおっしゃっていましたけれども。
岩松:そうですね。だってさっき言ったように、あらすじだけで言えばただの三角関係の話ですから(笑)。
ーーそういう意味ではわかりやすいけれど、その周りでさまざまなことが発生していくところに面白さがある、と。
岩松:そう、周りではなんだか解決できない問題がうようよしているような……そんな感じの作品にしたいです。
ーー坂東さんはここのところ、映像作品も舞台のお仕事でもさまざまな話題作に出られていますが。今回はまたこうして、再び岩松さんの演出を受けるにあたり、改めて感じる岩松さんの演出の面白さや大変さなどに関してはどんな想いがありますか。
坂東:前回は自分があまりにも何者でもなさすぎて、面白さに気づくというよりは、僕自身もまずは早く何者かにならなければという焦りが先に立っていて、ただただ必死でした。でもこの間やられていた岩松さんのお芝居『私を探さないで』を観に行った時に思ったのは、自分がその場の状況やセリフを理解しようと思っていると、もう次の出来事が起きていて、ずっと追っかけっこをしているようで。追いついて、抜かす瞬間がないんです。そういう経験って、普段はしないじゃないですか。何も考えなくてもポンって入ってきやすい、すぐに感じ取れるものではなくて、自分で考えて考えて、その次を考えようとしていたらさらにその次の展開に入っている。そうやってずっと追っかけっこしているうち、急に訪れる感情があるんですけど、それがすごく心地いいんですよ。そういうイメージが、岩松さんの作品にはあります。でも、いざ舞台に立つ側でそれをやるとなると、相当大変なことだというのは客席から見ていてもわかったので、改めてその点では覚悟をしています。
(左から)坂東龍汰、岩松了 撮影:渡部孝弘
ーーお二人とも映像の作品もたくさんやられていますが、演劇であるから伝えられることとか、演劇ならではの魅力というとどういうところだと思われていますか。
岩松:映像と舞台では、いろいろと違いがあると思いますね。たとえば今、この時間の面白さというものに焦点を当てることは、映像だとなかなかできにくいけど、演劇だとトライできたりする。そういう、映像が見落としがちなものを、こういう瞬間もドラマじゃない? と提示できるものが、舞台にはあるような気がします。
ーー違うところからの視点や、ちょっとしたきっかけが活かせる。
岩松:そうです。それに舞台だと、ここで起きていることと少し離れた場所で起きていることを、同時多発的に表現することができるけれど。映像だと逆に、ちょっと手が震えていたらその手をアップにできる、ということもあるからね。
ーーそこがまた、違う魅力ですね。坂東さんはどう思われますか。
坂東:緊張感というものは変わらないんですけど、舞台の緊張は度が過ぎますね。内臓が飛び出てくるんじゃないかってくらい、毎回緊張しています。だけど、その緊張って、すごく大事なことだと思うんですよ。つまり、自分が楽に思う場所でばかりやらないために。というのは、やはり舞台は修行だと思っているので。だからこそ、年一本は絶対に舞台に立つという志を持ってやっています。舞台の上でしか経験できないこともたくさんあるので、言葉にするのは難しいですが。たとえば映像では同じシーンを何度もやることってなくて、もう一度やりたいと思ってもOKが出たらもうできないけれど、舞台だと稽古期間が長いし、本番になってもいろいろなことが起こるし。偶然起きることもあれば、みんなの思っていることがそれぞれ積み重なっていって、どんどん変化していくのを見ているのも面白いし。今日はこうだけど、昨日はこうだったと考えるのも楽しいし、明日はどう変わるのかと予想するのも面白い。ナマものだからこそ、確実にそこでしか生まれないものもあるので、それを思うと僕はなんだかものすごくワクワクするんです。
ーーだから年1回はやっていきたい、と?
坂東:トラウマになるくらい、緊張はするんですけどね(笑)。
ーーでも修行のためには、必要な緊張でもある。
坂東:そうですね。今後も役者として生きていきたいのなら、絶対に舞台はやり続けていかなきゃいけないものだと考えているので。今回も覚悟を決めて、がんばりたいと思っています!
取材・文=田中里津子
公演情報
出演:松雪泰子、坂東龍汰、谷川昭一朗、中村加弥乃、但馬智、岩松了
<東京公演>
日程・会場:2026年3月6日(金)~22日(日) 新国立劇場小劇場
日程・会場:2026年3月28日(土)・29日(日)梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
日程・会場:2026年4月1日(水)富山県民会館ホール
日程・会場:2026年4月5日(日)仙台銀行ホールイズミティ21 小ホール
主催・製作:(株)M&Oplays