伊藤裕一×内藤大希「この役を生き生きと演じたら、どうなっちゃうんだろう」~舞台『TRIANGLE』インタビュー
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舞台『TRIANGLE』が2026年2月20日(金)~2月23日(祝・月)、東京・新宿村LIVEにて上演される。新人ライターによる売れっ子作家へのリモートインタビューを通じ、未解決のとある事件が暴き出されていく新感覚サスペンスだ。脚本・演出の伊藤裕一と主演の内藤大希は、これまで何度も共演してきた間柄。対談からは、互いへの信頼と作品への熱い思いが垣間見えた。
――おふたりの初共演は『忠臣蔵 討入・る祭』(2020年)ですね。
伊藤:作品としてはそうですね。ただ、内藤さんはゲスト出演だったからほんの少ししかお会いできなくて。
内藤:感覚としては、次のシンる・ひま オリジナ・る ミュージカ・る『明治座で逆風に帆を張る!!』(2021年)ですかね? ただ、そこでも舞台上ではあまり絡みがなかったんですよ。
伊藤:そう。だから今回、じっくり話ができることがまず嬉しい。ある意味、内藤大希という俳優を独り占めできる貴重な機会。まさか自分の演出作に出てくれるとは……という気持ちです。
――俳優と作・演出としてタッグを組むのは今回が初めて。どんな心境で臨まれますか?
内藤:僕にとって伊藤さんは、その場にいるだけで「伊藤さんがいるから大丈夫だ」と思える存在。これまで、る・ひまわりさんの公演で見てきた第二部での場の回し方もすごいですし、言葉選びのセンスが秀逸で。絶対的な安心感がありますし、全部をさらけ出せる相手でもあるので。
伊藤:僕も、どんな形でも成功するだろうという安心感がすでにあります。絶対うまくいく確信があるけど、この作品がどんな形で出来上がるかというのはわからない。わからないからこそワクワクするし、嬉しさもある。今からすごく楽しみですね。
内藤:はい! 役者として、また新たな節目を迎えられる作品になると確信しています。
――『TRIANGLE』は、伊藤さんが所属する劇団お座敷コブラが2022年に初演した作品。今回は2026年版が上演されるとのことですが、どのような経緯が?
伊藤:る・ひまわりさんから「ぜひ『TRIANGLE』を上演しましょう」とお話をいただきました。人数を増やす案や新作のお話もありましたが、最終的には初演から少し書き直す形となりましたね。稽古していくなかで、さらに出来上がりも変わっていくと思います。もともとはミュージカルに挑戦したくて書いていた作品なのですが、書いていくうちに歌を活かしきれないなと思ったんです。得意な言葉で作ったほうが良いなと、戦略的撤退をしました。
内藤:戦略的撤退(笑)。
伊藤:そのほうが俳優さんも安心できるだろうし(笑)。でも、今作の俳優さんは歌える面々が揃っているんですよ。ミュージカルとして書いていたストレートプレイで、歌える人たちが歌わない……なんか、嬉しいな(笑)。
――内藤さんは今作の脚本を読まれた際、どのような感想をお持ちになられましたか?
内藤:心理戦、ですね。サスペンス作品は小説で読むのは好きなんですけど、舞台としては個人的にあまり触れてこなかったジャンルなので新鮮でした。僕は字で追いながら楽しんでしまうので先読みができないタイプなんですが、きっとお客様は観劇しながら考察してくださるじゃないですか。これ……ミスはしたくないなと思いました。
伊藤:なるほどね。
内藤:例えば、セリフをパッと思い出せなくなったとして、そのわずかな時間も「何か意味があるのかな?」と深読みさせてしまうのかもしれないじゃないですか。お客様に余計な情報を与えずに、意図的に情報を与え続ける。僕にとって挑戦ですね。ミスはしたくないけど、役者としては攻めて行きたい。守りに入りたくはないです。
伊藤:うんうん、何をもってミスとするかという議論もあるけど。
内藤:そうなんですよ。「セリフを噛むのってミスじゃないのでは?」って思う気持ちもあるんですよね。
伊藤:普通に喋っていても噛むことがあるからね。
内藤:もちろんお客様の集中が切れてしまうから、なるべくなくしたいとは思ってセリフは回すタイプなんですけど……それにしても、この『TRIANGLE』はセリフが多すぎて! 3回くらい嚙んだら、心が折れちゃいそう。気持ちを凛としたまま、ミスをせず、攻め続けることが僕の課題になりそうですよね。
伊藤:私が本や演出で大事にしているのは“負荷”。まずは台本を覚えていただいて、言葉の意図を考えてもらう。そうすると、セリフとして言わなきゃいけないんだけど、感情がそれを許してくれないという感覚が結構出てくるはず。この力感すら、芝居を深めるものだと思っています。荷物はたくさん背負えば背負うほど良い。僕の考え方としては、間違ってもらっても全然構わないんです。間違えてしまったストレスも、こういう作品の場合はむしろプラスに働いていくから。
内藤:たしかに、セリフは稽古が始まる前に全部覚えておかないといけないなって思った記憶はあります。他のスタッフさんとの打ち合わせでその話をしたら、「伊藤さんからもそういうお話がありました」っておっしゃっていて。
伊藤:そうなんだよね。たとえセリフが入っていなくても、入っているって意気込みでいてくれれば大丈夫だから(笑)。
内藤:いや~……それ、怖いです(笑)!
伊藤:人間って、無意識にいろんなことを考えて喋っているから。常に言葉を選びながら、「どっちだっけ」って探りながら。その状況を意図的に作り出すためには膨大な量のセリフや、さっき言ってくれた攻める姿勢が必要なんです。一字一句覚えてくださいと(キャストに)伝えはしますが、本番で絶対間違えないでくださいというわけではない。お芝居の深みを増すために緊張感はもってもらいますが、皆さんがのびのびできるように場を整えたいとは思っています。ギリギリのチキンレースをやりたいのではなくて、「お客さんに絶対見えないようにマットは置いておくから飛び出してくださいね」って環境にしたい。そのなかで、俳優の3人が目指すものにジャンプできるようにしてもらえたら。
――内藤さん演じる上川の人物像について、現時点ではどのように捉えられていますか?
内藤:僕、今までサブテキストがいっぱい詰まっている役の経験があまりないんです。台本の表に書かれていることでその人を表していったり、心情は歌で表現したりすることが多かったので、表のセリフでの探り合いがどうなるのかというところですね。要素としては創作意欲やその根源、隠していること、犯している罪といったものがありますが……でも、ふと僕自身の危機的状況に陥った経験が重なる瞬間があったんです。頭の中では「やばい、やばい」って上の空なのに口が勝手に動いて言葉だけは流ちょうに出てくる、みたいな。自分の感覚を思い出しながら、舞台上に表現できたらとは考えています。あと、単純に上川の職業に憧れます。作家って、いいですよね!
伊藤:そう。しかも作家と呼ばれる人のなかでも、かなりかっこいい部類の人物になっています。執筆する作品ごとに家を変えるという設定もありますし。
内藤:いいなぁ、印税生活……。
――伊藤さんが作・演出として内藤さんに期待することは?
伊藤:内藤さんは人から愛される性格であり、雰囲気のすべてが明るい方。そういう人がじつは何かを抱えているっていう落差が、まず見ていて面白いだろうなと思います。内藤さんは、人間を作るのがすごく上手。いつも生き生きと演じているところを見てきたからこそ、上川というこの役を生き生きと演じたら、どうなっちゃうんだろうと。内藤大希という俳優を通したときに「こうなるんだ!」っていう発見ができることが楽しみです。作品を引っ張っていく、三角形の頂点に位置する人でもある。彼がどういう道を辿り、立ち止まるのか、それとも突き進んでいくのか……そういう選択も、稽古をしながら決めていきたいですね。
――最後に、読者の方へメッセージをお願いします。
内藤:作品を上演するまでの間、目に見えない部分でもたくさんの人が動いてくださっているんだということを改めて実感した2025年でした。僕は今、自分は何を還元できるんだろうと考えていて。やっぱり、役を深めて表現していくことだと思うんです。ストレートプレイは自分にとっても挑戦になりますが、限界を突破して表現できることをもっと見つけたい。その姿を、ぜひ目撃していただきたいです。
伊藤:私はまったく心配していません。このキャスト、スタッフが揃えば必ずいいものができるだろうと思っています。今の段階で100%の状態ではありますが、あとはどれだけお客様に「すごい体験をした」と思っていただけるか。全7公演のうち、同じ公演は一つもありません。心理的にも装置的にも、そう感じていただける仕掛けを作っています。日によって顔色をまったく変えていく作品になるはずなので、ぜひ何度か見ていただきたいなと思いますし、見れば見るほど俳優さんたちも人間を作りこんでくれる。見終わった後に、上川たちが皆さんと同じ世界に存在していることを強く感じてくれたら嬉しいです。
ヘアメイク=武井優子
スタイリスト=中村剛(ハレテル)
取材・文=潮田茗、撮影=奥野倫
公演情報
【日程】 2026年2月20日(金)~2月23日(祝・月)
【会場】 新宿村LIVE
【脚本・演出】 伊藤裕一
【出演】内藤大希、前島亜美、陣慶昭
【料金】 全席指定10,000円(税込)
【一般発売】2026年1月17日(土)12:00~
【企画・製作】る・ひまわり